Inter BEE 2026 幕張メッセ:11月18日(水)~20日(金) Inter BEE 2026 幕張メッセ:11月18日(水)~20日(金)

本年の来場事前登録が完了していないか、
ログイン有効期限が切れています。

2026年来場事前登録はこちら

本年の来場事前登録のアンケート回答が済んでいません。アンケートのご回答をお願いします。

アンケートに回答する
キャプション
Special 2026.10.27 UP

【INTER BEE MoIP】放送局のエンジニアがIP環境を体験できる IP PAVILIONから進化した特別企画MoIP 事前レポート

IMG
左から、濵田氏、長谷川氏、中尾氏、佐久間氏

同軸ケーブルとSDIで組み上げてきた放送の制作現場が、IPに置き換わったら何が変わるのか。2018年からInter BEEの特別企画として続いてきた「IP PAVILION」が、今年から「INTER BEE MoIP」として生まれ変わる。企画・運営を担うのは、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)が事務局を務めるMedia over IPコンソーシアムだ。
今年は東京・名古屋・大阪の拠点とパブリッククラウドをネットワークで結び、幕張メッセから遠隔地の機材を操作して制作する。11月2日から2週間、東京拠点となるTBSで構築と動作確認を重ね、会期を迎える。
企画の中心を担う4人、JEITAの佐久間遂也氏、Zabbix Japan LLCの長谷川幹人氏、ソニーマーケティングの中尾誉氏、エイチ・シー・ネットワークスの濵田悟史氏に話を聞いた。(メディアコンサルタント 境 治)

「3日間では足りない」から生まれたコンソーシアム

IMG

JEITAでコンソーシアムの事務局を務める佐久間氏によれば、Media over IPコンソーシアムは2025年3月に発足し、会員は発足時43社から約70社に増え、うち放送事業者は23社を数える。今年は同コンソーシアムが企画・運営を担う特別企画として名称をINTER BEE MoIPに改め、企画冊子も作っている。
2018年にIP Pavillionを企画したZabbix Japan LLCの長谷川幹人氏は、続けるうちに限界も感じていたという。「年1回のイベントなので、動態展示も技術の啓蒙も、結局3日間しかできない」。こうした関係者の要望から、JEITAが事務局を担い、放送事業者・メーカー・ベンダーなどの関係者が協力して活動内容や運営体制の検討を進め、約2年の準備を経てコンソーシアムの設立に至った。
コンソーシアムが取り組むテーマの一つは、IP化を進める際の指針となるリファレンスモデルやガイドラインの整備だ。放送事業者によってIP化を推進する際の標準的なひな型を作ること。そうすれば、局とベンダーが設計・構築に関する考え方を共有することで、導入に向けた検討を円滑にする。さらに、企業の枠を越えたやり取りは格段に早くなる。またコンソーシアムによって会社を横断して学べる場を設け、知見の共有と人材育成を進めている。
現在は4つのワーキンググループ(WG)で、通年の活動を進めそれぞれ月1回の定例を重ねている。長谷川氏は「MoIPに関連する情報は、この中にいれば全部取れる場にしたい」と話す。年1回の単発だった展示が、通年の業界活動の成果を示す場へと位置づけを変えたと言える。

目玉は新設の「企画2」 放送局のエンジニアが制作を担う

IMG

今年の動態展示は、大きく3つの企画で構成される。
企画1は、ST 2110・PTP・NMOSによる機器の基礎的な相互接続検証だ。新規参入メーカーや各社の新製品を主な対象とし、導入初期の選択肢を増やすことを目指す。接続実績のある機器をリファレンスとして用意して準備期間の2週間でしっかり動作確認を行う。幕張メッセでは、事前検証を経た機器を展示する。
最も大きな変化が、新設された企画2だ。これまでのIP Pavillionは、メーカーやベンダーが主導して放送局にアピールする場だった。今年は放送事業者もメンバーとして加わり、制作経験のあるエンジニア自身がMoIP製作システムを利用したデモンストレーションを行う。機器の接続に加えて、制作・運用する側の視点からIP化の使い勝手を確かめる企画だ。

IMG

舞台はエリア内の技術セミナー会場だ。会場に数台のカメラを置き、40分のセミナー枠のうち10分ほどを使い、メンバーが生放送さながらに映像制作を行う。事前に申し込んだ来場者の放送局エンジニアは、レクチャーを受けながら実際に操作もできるという。
「普段のベースバンドシステムでやっている制作が、IPになったときにどう変わるのか、体験してもらえます」と長谷川氏。登壇者を複数人立てた掛け合いのあるセミナーを素材に、リアルな疑似制作を体験できるのが企画2のポイントだ。
企画3はメーカーやベンダーが主導し、ソニーマーケティングの中尾誉氏が取りまとめを務める。東京・名古屋・大阪の3拠点にオンプレミスの機材を置き、それぞれに役割を持たせた。東京はメイン拠点、大阪は災害時にも規模を縮小して制作を続けるための拠点、名古屋は遠隔地から映像や音声を送り出すリモートプロダクションの拠点だ。名古屋では地元の複数の民放から実際の映像と音声を受けられるようにする。企画2のデモも、この企画3で構築した東京と大阪の設備を使って行う。

IMG

クラウド側では、AWSの基盤上でMXL(Media eXchange Layer)の実証に取り組む。MXLは、映像・音声などのデータを共有メモリ上で受け渡し、異なるベンダーのソフトウェアを連携させるための共通の仕組みだ。IBCやNABで「ソフトウェア化」がキーワードとなる中、対応するソフトウェアの開発・実証が進んでいる。長谷川氏は「今使えるIP設備と、これからのIP技術が両方見られる」点を見どころに挙げる。
これらの拠点と幕張を結ぶネットワークを設計するのが、エイチ・シー・ネットワークスの濵田悟史氏だ。映像と音声を流すネットワーク、機器を制御するネットワーク、そしてPTPによる時刻同期まで、インフラ全体を取りまとめる。放送用システムとしては、IPならではの遅延にも対処しなければならない。
濵田氏によれば、相互接続や同期、遅延といった技術的な課題はすでにかなりクリアされている。議論は一歩先に進み、データセンターに設備を集約し、複数の局で設備を共有して野球中継などに活用できないかという検討も始まっている。

そもそもMoIPで何が変わるのか

Media over IP(MoIP)は、映像・音声などのメディア信号をIPネットワークで伝送する技術の総称だ。伝送方式の置き換えに加え、制作設備の構成や運用方法を見直すことにもつながる。SDIの同軸ケーブルでつないできた機器が、光ファイバーやLANケーブルを使い、IPのプロトコルでつながるようになる。
長谷川氏は「やれることは単純に増える」と言う。まず1本のケーブルで流せる帯域が圧倒的に違う。SDIの12Gに対し、光ではテラ級の帯域も可能になってきた。同軸はカメラからスイッチャーに映像を送り、何かを戻すにはもう1本必要になる。IPなら1本のファイバーなどを使って大容量の伝送路を確保すれば、配線の集約や設備構成の柔軟化につながる。
太い同軸が細いファイバーに置き換われば、搭載重量に制約のある中継車ではその分を機材に回せる。車をワンサイズ小さくできるかもしれない。遠距離の伝送も可能になり、野球場にはカメラマンだけを送り、制作は局側で行うといった実証も、放送局の間で何度も重ねられてきた。
こうした活用が期待されるのが、生放送やライブの制作だ。野球中継や、地方局が手がける祭りの中継などが挙げられる。人手不足に悩む局からは、手間を減らしたい、新入社員がなかなか入らない中で技術を伝承したい、という声もあるという。

見るだけでなく、触って、相談する

今年はもう一つ、「よろず相談コーナー」を新たに設ける。IP化を検討している放送事業者に対し、メーカーやベンダーなど知見のあるメンバーが、特定の製品に偏らない立場で相談に乗る。
セミナーも刷新した。昨年までは20分枠を数多く用意していたが、今年は40分枠に広げ、複数のパネリストが一つのテーマをじっくり議論する形式にする。基調講演「メディアオーバーIPの最前線 国内外の先行事例から見えてくる将来像」では、この分野のオピニオンリーダーたちが、今後2、3年の展望を語り合う。ネットワーク構築を担った濵田氏も登壇する予定だ。

IMG

最後に、それぞれに来場者へのメッセージを聞いた。
長谷川氏が一番に挙げるのは「体験できること」だ。「普段ベースバンドシステムを使っている放送エンジニアに体験していただく。そこが一番アピールしたいところです」。
濵田氏は、ネットワークは放送のエンジニアにとって「本来は畑違い」の領域だと認める。「展示会でも表に出てきづらい、ある意味で裏方の土管を作るような仕事です。でも今後は必ず関わってくる。見るだけでなく、聞いて、相談してほしいです」。
中尾氏は、地域の共通基盤やクラウドといった局外の環境も活用して設備を作る方法論を、会場で示すと話す。「ユーザーごとに何が最適かを考えるいい機会にしてほしい。MXLは海外では進んでいますが、国内はこれから。数年先よりもう少し先の、5年、10年先の未来を早いうちに体感してほしい」。
佐久間氏は「普段お会いできないような局の皆さんにも来ていただき、手で触って、次の設備更新をみんなで考える機会にしてほしい」と呼びかける。
次の設備更新や制作環境の見直しを考える際に、実際の機器や運用に触れ、関係者と意見を交わせる。INTER BEE MoIPは、IP化の可能性と導入に向けた課題を具体的に確かめる機会になりそうだ。

  1. 記事一覧へ