Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2019.12.16 UP

【INTER BEE CONNECTED 2019セッションレポート】「ローカル局の放送外ビジネス2.0 」~放送×ネット×地域のトライアングル~

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少子高齢化、人口流出、災害…地域に課題が山積する中、地域メディアの役割はさらに重要になっている。しかし、ローカル局の広告収入は落ち込み、新たな収入を得ることが喫緊の課題になっている。このセッションでは、先進的な取り組みによって新たなビジネスを開発した3局の事例から学んでいく。
(関根禎嘉)

地域に根ざした三者三様のビジネスを紹介

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ビープラストはテレビとは違うアプローチを重視

モデレーターはNHK放送文化研究所 メディア研究部 研究主幹の村上圭子氏。タイトルに掲げた「放送外ビジネス2.0」のキーワードを解説する。1つ目は「トライアングル」。自社番組(放送)・ネット展開・地域のリアルな繋がりを組み合わせたビジネスを行うべきということだ。2つ目は「パートナーシップ」。伝統的な系列と地域に加え、異業種も含めた「斜め」のパートナーシップを、志や共感によって構築することで新しいビジネスが生まれていくという。
 サガテレビ(フジテレビ系)のグループ企業であるビープラスト コンテンツメディアグループの伴俊満氏は、放送収入がここ3年の間35億円で横ばいで推移する中、グループ全体で放送外収入を獲得してきたという。ビープラスト社はテレビ局の傘下にありつつ、テレビとは違うアプローチで地域と関わっているという。「相談にのったらなにかやってくれそうと思わせることが大事」と伴氏。地域のクリエイター30名が記事更新をするWebメディア「エディターズサガ」では、「テレビ局はダサいと若者に思われているので、極力テレビ色をなくす」方針で運営しているという。本社社屋1階のリニューアルも注目すべき試みだ。カフェ・ギャラリーを設置し、番組で紹介した料理や伝統工芸品を提供している。イベントスペースにはライブ配信ができる環境も。この試みの末、佐賀県とともに日本酒のイベントが実現したという。県とは、農家のブランディングでも協働している。ユニークなのが太陽光発電の屋根貸し事業だ。使われていない工場などの天井に無償でパネルを設置し家賃を払い、売上を途上国に寄付するこの事業は、「九州未来アワード」の最優秀賞をもらったことがきっかけとなり一般社団法人化を果たした。このような取り組みにより、ビープラスト社の売り上げは初年度の3000万円から昨年度は1億3000万に成長している。

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南海放送のコンテンツを収入に結びつけるスキーム

愛媛県の日本テレビ系列局・南海放送の技術局技術戦略部 部長 兼 メディア統括局メディア広報部の二宮以紀氏は、売上の柱としてコンテンツ製作に期待しているという。綿々と続いているラジオドラマからは今年『ソローキンの見た桜』が映画化し、日本国内に留まらずロシアでも高い評価を受けた。ただし、製作委員会方式はローリスクだがローリターンであり、かつ継続的な展開は難しいのが課題だという。そのほかにも、地域の学校、歴史、人物を取り上げて製作したコンテンツも、民放連でなどから多数の賞を受賞している。愛媛のおもしろい人や事業を記者が自分の責任感で拾い上げコンテンツ化することが、コンテンツ制作が収入に結びつくスキームだというが、「ただマネタイズや地域貢献ありきでは始められない」と二宮氏は述べる。コンテンツ制作を地域番組制作や各種イベントの請け負いに繋げることで、このスキームが回っていく。放送外収入の柱のもうひとつが南海放送アプリ。7万3000ダウンロードされ視聴者・リスナーとの接点となっているばかりではなく、現在10局にライセンス提供することでも収入を得ている。ただし、二宮氏は「アプリ=マネタイズではない」と言う。アプリはあくまで地域から必要とされるためのツールであり、結果としてマネタイズになると強調する。

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在名局共通プラットフォームが動き出している

名古屋の日本テレビ系列局・中京テレビのビジネス推進局インターネット事業部・北折政樹氏は、まずデータ放送でのアプローチを紹介。結線率と視聴時間を上げ、視聴データのオプトインをしてもらえるようなコンテンツを流しているという。中京テレビは大蔦(おおつた)エル、キミノミヤという2人のVTuberを擁するなどVTuber事業に積極敵に取り組んでいるが、これはYouTubeを利用した国外展開やグッズ販売、イベント開催にも結びついている。デジタルトランスフォーメーションへ挑戦という観点では、データ放送コンテンツ「チュウキョーくんランド」で視聴者にゲームで遊んでもらうことにより視聴時間が伸びたという実績がある。2016年に配信プラットフォーム「CHUUN」ほ開始したが、この仕組みは「キー局でありコンテンツ量も増えず、次に続かない」(北折氏)という。そこで現在、在名民放4局が共通の共同配信プラットフォームのサービス提供に向けて取り組みを本格化させている。系列を超えたこの取り組みを村上氏は「英断」と評しながら北折氏にその苦労を尋ねたが「名古屋は横は仲が良い」と苦労した様子を見せない。「ネットにテレビ画面を作るときにケンカしてもしょうがない」というひと言からは、強いパートナーシップを感じさせる。

自立した意識でチャレンジする姿勢が重要

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ローカル局が新たなチャレンジをしようとするときに、既存のステイクホルダーや上層部が障害になることがある。福岡という大都市に近接する佐賀には電通も博報堂も支社がない。だからこそ「自分たちでやらないといけない」という姿勢になったのがサガテレビの取り組みのきっかけとなったと伴氏が語ったのは興味深い。中京テレビは2017年に新社屋に移転したが、そのときに「新しいことをやらなきゃいけいないというDNAが再燃した」と北折氏は言う。中京テレビは開局当時UHFのチューナーを配り歩いたのだという。そうした社風をチャレンジに生かせることは貴重だ。南海放送も、かつて経済誌で民放局の経営苦境度ランキングで1位にされてしまったときに、情報番組はやめてしまえばいいという周囲の声を跳ね除けて存続させたのが当時のトップだ。会社には「一番苦しいときにできたんだから、できるという意識」があると二宮氏は語る。
 議論の最後に、村上氏がこうしたチャレンジを持続するための決意表明を求めた。伴氏は「目先のお金に囚われずに地域にどのような価値を提供できるか」、二宮氏は南海放送が10月に第2ワンセグを始めたことに触れ「放送インフラは強い。価値を再認識する必要があるのでは」、北折氏は「わからないなりに足を一歩踏み出す必要がある」とそれぞれ力強く宣言した。三者の言葉がローカル局関係者に勇気を与えたセッションだった。それは終了後の名刺交換に長蛇の列ができていたことからも明らかだった。

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