Event Report
2025.10.03 UP
【Hollywood Report】Sound For Film & TVレポート

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鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター
9月27日(土)、ロサンゼルスのカルバーシティにあるソニー・ピクチャーズ・スタジオ(SONY PICTURES STUDIOS)において、映画&テレビのサウンドミキシングに従事するプロフェッショナル向けのイベント Sound For Film & TVが開催された。今回は、その模様をレポートさせて頂く事にしよう。
正直なところ、筆者はVFX専門の映像ジャーナリストであり、サウンドミキシング分野に関してはどうしても知識が薄い。そこで、先だって本欄でもご登場頂いた音響の専門家、陳 明範氏をアドバイザーにお迎えし、今回の取材にご同行頂いた。陳氏にアドバイスを頂く事により、専門家の視点も交えた、より充実した内容の記事をお届け出来ればと思う。
今回の会場となったのはカルバーシティにあるソニー・ピクチャーズ・スタジオであった。ここはハリウッドのメジャースタジオの1つであり、実際にハリウッド映画やテレビ番組の制作及び収録などが行われている。
こういうスタジオを実際に訪問出来るのも、LAに住んでいる大きな利点と言えるだろう。
この日は、さまざまなイベントが開催された。
・VIPツアー
ソニー・ピクチャーズ・スタジオのポストプロダクション施設にあるクラスのミックス スイートやリ・レコーディング ステージのバックステージなどを視察出来る。このツアーは事前申し込み制だったが、人気のためSOLD OUTとなっていた。
・エンジニアツアー&パネル
普段はあまり見る機会の無い、ポストプロダクションのサウンドを支えるインフラを視察。その後、パネル「Inside the Machine Room: Engineering Sound for Film & TV」で、トップスタジオのチーフ・エンジニアから、制作舞台裏のエピソードなどを直接聞く事ができる。
・学生向けパネル
将来、映画・テレビの音響業界でキャリアをスタートさせたい学生の方へ向けて、業界の第一線で活躍するプロフェッショナルたちが、実践的な洞察、キャリアアドバイス、そして業界への参入に必要なことなどが共有される。
※著者注:この日、会場には学生の方も多数来場していた。ハリウッドの各業界では次世代の人員育成や後進指導に力を注いでおり、こういった姿勢には感銘を受ける。
・最先端のコンテンツに関するパネル
ハリウッドの大ヒット映画に携わった、受賞歴のある音響プロフェッショナルによるパネル。
・最新機器のショーケース
最先端のオーディオ機器の展示やデモを通じて、オーディオ・プロダクションの未来を探求出来る。
・Sony 360VME(バーチャルミキシング環境)体感コーナー
敷地内のシアターにて、ソニーの360バーチャルミキシング環境のデモンストレーションの実施。
参加者は、Sony 360VMEでヘッドホンを通してリスニング環境を好みの位置に設定することができる。
これにより、イマーシブスタジオの音響空間を忠実に再現する様子を体験出来る。
さて、おそらく多くの読者の方が、各パネルで披露されたトークやエピソードについて、ご興味をお持ちの事と思う。
このパネルは、敷地内の複数のシアターで同時進行で開催されるため、全てを網羅する事は難しい。参加者は、それぞれ興味のある分野や作品を選び、自分が好きなパネルを聴講するスタイルである。
ここでは、筆者が聴講した3つのパネルから、上記でご紹介した陳 明範氏のご協力とアドバイスによってサウンドミキサーとしての視点を含めつつ、その内容を要約してご紹介する。
The Sonic Intensity of F1:
パネラーの顔ぶれ:
Jeff Komar - Avid
Gary Rizzo - Skywalker Sound
Alan Meyerson - Alan Meyerson Music
・映画『F1/エフワン』は、複数のレーシング・シークエンスが含まれるため、各レースごとにストーリーの進行に合わせて[効果音だけを流すレース]、[主に音楽だけを流すレース]、[音楽と効果音の両方を効果的に組み合わせる]など、各レースごとに音作りを工夫し、バリュエーションを演出した。
・パネルの中で上映されたクリップの例では、主人公ソニー(ブラッド・ピット)の焦りと怒りの心情を、サントラや効果音そしてダイアログ(チームメンバーのインカムの音声や、会場内で流れるアナウンサーの実況スピーカー音)を通して、如何に観客が同じ焦りや不安を効果的に共有できるか、という点に配慮して音づくりが行われた。
・特にアナウンサーの実況スピーカー音の演出では、[最初はかなりエコーが効いた会場スピーカー音を左右に振り] ⇒ [シーンが近づくにつれ徐々にエコーを抑え] ⇒ [ドライな実況音声がセンタースピーカーに振られていく]、というミキシング手法を採用し、音楽や効果音と共に臨場感を引き立てるのに役立っている。
・Dolby Atmosミックス技術の発展により、音楽のミキシングもスピーカーごとの表現幅が拡張され、左右で違った楽器を割り振ったり、音場ごとの配置を細かく分けて調整する事が可能になった。
・サントラを手掛けた作曲家のハンス・ジマーによる、デジタル(打ち込み)作曲の利点に関して。古き良きジョン・ウィリアムズのフル・オーケストラの録音の場合、パーカッションやフレンチ・ホルンなどインパクトが大きい楽器を含めた同時録音/一発録りは、後のミックスによる調整などを含め予算や時間が掛かるプロセスとなる。その為、パーカッションやフレンチ・ホルンは他楽器と分けてセクションごとに別録りを行ったり、現場でオーケストレーションを収録する場合でも、パーカッションやフレンチ・ホルンパートはデジタル打ち込みで収録するケースもある。
Inside the Juke Joint: Building the Sonic World of SINNERS
パネラーの顔ぶれ:
Brandon Proctor - Warner Brothers
Benjamin A. (Benny) Burtt - Skywalker Sound
Felipe Pacheco – Music Editor
Chris Welcker – Production Sound Mixer
Ludwig Göransson – Musician and Composer
・映画『罪人たち』(原題:SINNERS)の音作りで、特筆すべきは監督が求めた「現場での楽器演奏や、演者の歌唱」のシークエンス。ここではテンポトラックまたは収録音源プレイバックを使わない形で収録を行う必要があった。また演出上、アンプやステージマイクを一切使わず、アコースティックギターによるブルース演奏の収録を行う必要があった。
この収録にあたり、通常であれば撮影現場に赴く必要性が少ない作曲家とミュージック・エディターが敢えて現場に立ち合い、各演奏シーンの収録ごとに(70mm15PのIMAXフィルムマグの交換休憩の合間)音源と映像をチェックし、演奏と歌唱パートのSyncに関して微調整をしながら、ミュージカルパートの収録を行った。
・沢山のショットから成る演奏シークエンスでは、「生演奏の臨場感を如何に引き出すか」がチャレンジだった。この長回しの演奏シーンは、アコースティックギターから始まり、短時間の間に色々な楽器を登場していくため、撮影の際にはエキストラ俳優がディスク・ジョッキーが載った卓を運んで配置したりと、カメラの動きがある中でメイン男優の歌唱&ギターと全ての楽器の音源収録を完遂した。
・上記の非常に難しい収録工程を要する現場に加え、70mm15PのIMAXフィルムカメラから出る駆動音のノイズは予想外に大きく、そこにも配慮する必要があった。例えばクローズアップのショットでは、マイクがカメラのノイズを拾ってしまうなどの苦労があった。
・ワイドの画でアコースティックギターの音を効果的に拾うため、衣装さんと相談し、袖口にマイクを仕込んで収録した。また、ギターの裏側にマイクを仕込む案も出たが、メインの俳優が置いてあるギターを回転して持つなどの演出がある可能性を考慮し、このアイデアは不採用となった。
The Sound of High-Octane Action: The Audio Legacy of Mission: Impossible, Jason Bourne and John Wick
パネラーの顔ぶれ:
Karen Baker Landers - Formosa Group
Mark Stoeckinger - Formosa Group
Mandell Winter - Sony
Tom Kenny - Mix Magazine
・アクション映画の音作りにおいては、映像のエディターと密にコミュニケーションを取りながら作業を進めていく事が大切。
・音声/効果音/サントラのバランスは重要。ストーリー展開上、画面の中で「何が最も重要なのか」を見極めながらバランスを調整していく。
・アクションシーンの効果音はどれも派手でダイナミックなイメージがあるが、一番大事なのは「強弱の使い分け」である。一定以上の音量は割れてしまうため、激しいアクションの中で、いかにリミット手前の強い部分を大切な場面で使い、他の音が静かなパートとのバランス配分が重要である。
・バランスを調整していき、もし様々な要素を詰め込み過ぎて煮詰まったら、積み上げた音源を少しづつ崩していく作業に移る。
・効果音が使う音場はレンジが広いため、サントラとの相性がどうしても悪く、最終的な調整がかなりシビアである。
以上、Sound For Film & TVのレポートをお届けしたが、会場の雰囲気などが読者の皆様にお伝え出来れば幸いである。
このイベントは毎年開催されているそうなので、もし来年の視察にご興味をお持ちの読者の方は、是非とも下記サイトをチェックされてみると良いだろう。
Sound For Film & TV 公式サイト
https://www.mixsoundforfilm.com/