Inter BEE 2025 幕張メッセ:11月19日(水)~21日(金)

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Industry Curation 2025.09.22 UP

【Hollywood Report】『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』が全米公開

鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター

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画像:ハリウッドのチャイニーズ・シアターにて、筆者撮影。ちなみに背後左手の謎の灰色の物体は、映画「Spinal Tap II: The End Continues」の販促用オブジェである。(筆者撮影)

〇はじめに

9月12日(金)~14日(日)の週末、全米の映画館で映画「Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba - Infinity Castle」(邦題:『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』第一章 猗窩座再来』)が公開された。全米3,315スクリーンによる大規模公開である。

映画館には多くのアニメファンが詰めかけ、公開最初の週末ボックスオフィスNO.1、売り上げは$70million(本日の為替レートで約103億円相当)に達し、過去に全米公開された日本アニメの歴代ヒット記録を樹立した。

今回は、その模様を現地から、例によって、筆者ならでは独特の切り口のレポートでお届けする。

〇ハリウッドのチャイニーズ・シアターでも公開

公開最初の週末、筆者はハリウッドのチャイニーズ・シアターに足を運んでみた。

チャイニーズ・シアターのボックス・オフィスには、「Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba - Infinity Castle」(以降、「鬼滅」と表記)の巨大なデジタルサイネージが光っていた。

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画像:公開最初の週末夜、ハリウッドのチャイニーズ・シアターにて。(筆者撮影)

チャイニーズ・シアターはシネコンであり7つのスクリーンを持つが、中でもハリウッド・ブルバードに面したメイン・シアターは客席数932席を誇る巨大なIMAXシアターであり、ここでは話題作やヒット作がこぞって上映される。

このチャイニーズ・シアターのメイン・シアターで、日本のアニメ作品が上映されるだけでも快挙と言えるだろう。

また、センチュリーシティにあるAMCシアターにおいても、メインのIMAXシアターを中心に、複数のスクリーンで「鬼滅」が上映され、人気を呼んでいた。

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画像:センチュリーシティにあるAMCシアターにて。(筆者撮影)

〇日本語版と英語吹替え版による全米公開

今回の「鬼滅」の公開は、[日本語音声+英語字幕]による上映と、[英語吹替え版]という2種類で上映が行われた。

「鬼滅」では難しいセリフが並ぶため、”鬼滅入門者”は英語吹替え版を好むかもしれないが、やっぱりコアなアメリカ人Anime Otakuは、オリジナルの日本語版を好む傾向にあるようだ。

※余談だが、この作品の英語吹替版は、LAにある音響スタジオBang Zoom! Studioが手掛けている。

前述のセンチュリーシティのAMCシアターにおける上映ラインナップを見渡してみると、実際のところ、日本語版の方が上映回数が多い※。つまり、映画館側も「日本語版のニーズ」を察知している事が理解できる。

※もっとも、上映館や地域によって異なる可能性があるが、あくまでも筆者の鑑賞時の印象である。

これは、大変興味深い現象でもある。

なぜならば、かつて映画「Shall we ダンス?」(1996)が1997年にアート系シアターを中心にアメリカで限定公開された際、当時のマーケティング的観点から、配給会社であるMiramaxから「2時間以上の外国語の映画を、英語字幕で見せるのは、観客に”見に来るな”と言うのと同じ事」と要求され、やむを得ずアメリカ上映版では上映時間が2時間以内に収まるようカットしたという有名なエピソードが残されているからだ。

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画像:1997年7月当時、映画『SHALL WE DANCE?』を上映中のLAEMMLES'S ROYALシアターにて。当時"最新"だったカシオQV-100(解像度:640x480)のテストも兼ねて、筆者撮影。
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画像:LAEMMLES'S ROYALシアターをぐるりと取り囲む、映画『SHALL WE DANCE?』の入場を待つ長打の列。1997年7月、当時"最新"だったカシオQV-100(解像度:640x480)のテストも兼ねて、筆者撮影。

今回の「鬼滅」は上映時間が2時間35分もあるにも関わらず、日本語音声版の人気が高いという事例は、上記エピソードとは隔世の感がある。

ある意味、「時代が正しい方向へ向かっている」と言えるのかもしれない。

〇客足が鈍っていた秋の映画館、救世主となるか

…実は、この秋のアメリカの映画館は、客足が鈍り、ややスロー気味であった。

サマーシーズンの目玉だった映画「スーパーマン」などの大作がある程度落ち着き、9月に入ってからは、映画館へ行っても比較的空いている状態が続いていた。下記は、その証拠写真である。

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画像:9月7日(日)午後12:51のAMCシアター。通常であれば行列で埋まるはずの日曜午後のポップコーン売り場は、ガラガラであった。(筆者撮影)

9月ともなれば、ハロウィン・シーズンを意識したホラー映画が上映されるのがハリウッドの季節の風物詩だが、ミステリーホラー映画『Weapons』や『The Conjuring: Last Rites』以外はそれほど人気がなく、この秋の映画館は大変スローだったのである。

これには、2023年のSAG/WGAによるストライキの根強い影響もうかがえ、秋の新作の上映作品が少ないアメリカの映画館では、映画「ジョーズ」50周年記念、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」40周年記念、映画「サウンド・オブ・ミュージック」60周年記念、映画「トイ・ストーリー」30周年記念…などのリバイバル上映イベントを献立に積極的に組み込み、集客を確保する動きが見られている。

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画像:今回の「鬼滅」と、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」40周年記念上映のポスターが並ぶ。このツーショットは、なかなか貴重な1枚である。(筆者撮影)

そこで、ここに来て、この「鬼滅」人気である。全米の映画館関係者は、ホッと胸をなでおろしているかもしれない。

ちなみに、今回の「鬼滅」は、流血などを伴うバイオレンスなシーンが含まれるため、アメリカではR指定(17歳未満の鑑賞には保護者の同伴が必要)の公開作品に指定されている。一般的に、R指定の作品はファミリー層の観客が減ってしまう為、興業収入が影響を受けるケースが少なくない。にもかかわらず公開最初の週末に$70millionを稼ぎ出せたという事は、それだけ多くの大人のファン層に支持されているという事なのだろう。

〇おわりに

以上、映画「Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba - Infinity Castle」の全米公開における公開最初の週末の模様をお届けした。

ロサンゼルスでの公開の様子や、秋のアメリカ映画館事情などを感じて頂ければ幸いである。

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