Inter BEE 2025 幕張メッセ:11月19日(水)~21日(金)

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Industry Curation 2025.09.19 UP

【Inter BEE CURATION】欧州の女子パワーがテレビを救う

稲木 せつ子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2025年10月号からの転載です。

年間視聴率トップを飾る女子サッカー

テレビ視聴は夏に減るのだが、欧州の放送局は7月に「大入り」を記録した。年間で最高視聴記録を打ち立てたお宝コンテンツは、女子サッカーの欧州選手権「UEFA Women's EURO 2025」(以下、WEURO 2025)だ。とりわけ、イングランドの2連覇で優勝国となったイギリスでは、放映権をシェアしたBBCとITVのいずれもが、試合ごとに年間の視聴最高記録を塗り替えていった。両局が同時放送した決勝戦では、最高1620万人がテレビ観戦(BBC1の占拠率59%)した。

この熱気は欧州全般にみられ、予選落ちしたオーストリアにおいても決勝戦の視聴シェアは12歳以上が31%と盛り上がった。全試合を中継したORFによると、女性の46%が少なくとも1回はテレビ観戦をした(男性は55%)。同局は、「劇的な試合と高視聴率(特に若者層)に報われた。次回はオーストリアも出場して、さらに盛り上がってほしい」と大喜びだ。
日本では放送されなかったのだが、WEURO 2025は世界165地域で中継され、ライブ視聴者の累計数で、同大会過去最多の4億人を達成し、世界的な盛り上がりを見せた。

特にコアのファン層(若い女性)は、より積極的に関わっている。身近な話だが、友人の娘たち(20代)は、これまでサッカーに興味を示したことはなかったのだが、今年、生まれて初めてスタジアムに出かけ、オーストリアの女子チームを応援した。
きっかけを尋ねると、「選手のプレーが上手で、試合そのものが面白い」「男子と比べても、女性が素晴らしいプレーをしているのがすごい」との反応が返ってきた。大声で応援するとスカッとするという彼女たちの心向きは、女性パワーへの賞賛と意識向上だ。

女子サッカーの社会的地位は、近年高まっている。2年前に、FIFA(国際サッカー連盟)が国連女性機関と組んで女子サッカーのW杯で、ジェンダー平等キャンペーンを展開。賞金総額を前回の2・6倍に増額し、実質的な格差の改善に取り組んでいる。

だが、皮肉にもこのW杯の最終日に、女性蔑視を象徴するような事件が起きた。優勝したスペインの表彰式で同国のサッカー連盟会長がいきなり女性選手の唇にキスをし、その異様な光景が世界に中継されたのだ――。 
唖然と憤懣!! 「無理キス」をしたルイス・ルビアレス氏への批判が巻き起こり、女性選手は告訴を決意(*1 事件直後、会長や男性コーチらが「同意の上の行為」と説明するよう女性選手に強要していた)。同氏はFIFAから仮処分を受け辞任したが、裁判でも実刑を受けている。

男社会に「ノー」を突きつけた女性の行動と、責任ある人々の対応に、多くの女性が勇気づけられた。この時代の波に乗った女子選手たちはよりオープンにジェンダー格差やLGBTQ+の権利を自己発信するようになっており、SNSを中心に若者層をファンに取り込んでいる。

たおやかな主張

その代表格は、スイス代表のアリーシャ・レーマン選手だ。フルメイクで試合に出場する彼女は、Instagramで約1670万人のフォロワーを持つ「インフルエンサー」だ。
水着ブランドなどとの提携もしており、仲間とのオフタイムも公開している。メディア取材で、「同じクラブ(ユベントス)所属のプロなのに男性パートナーの所得が10万倍も上なのは不公平だ」と語り、社会的な注目を集めた。ネット中傷も受けたが、女子サッカー選手の待遇についての発言は続けている。

改善はWEURO 2025でも行われた。賞金総額は2・5倍に増え、その7割が参加国に分配された。
各サッカー連盟には受け取り金の最低3割を選手に支払うことが義務づけられ、初めて全選手への報酬が確保された。
ほかにも目に見える変化があった。それはスタジアムの雰囲気だ。主催者は、選手権を「多様性を祝う女子サッカーのイベント」と位置づけ、「すべての人を歓迎する」とアピールした。

欧州では乱暴な観客やファン、いわゆるフーリガン対策が進んできたものの、今も暴徒化することがある。
若い女性だけのグループが気持ちよく観戦できる、「安心感」が足りなかった。

WEURO 2025が明示したのは、これまでとは異なる、「新しいスポーツ観戦体験」だ。
チケットは、開幕前にほぼ全試合が完売。女性だけの観戦客や、LGBTQ+や家族連れの応援で、会場のスタンドがより明るく、カラフルになった。
このビジュアルな変化は画期的で、大会が進むにつれて視聴者数が膨らみ、テレビ視聴率だけでなく、ネットでも記録的な伸びを示した。

サッカー欧州選手権での賞金総額の男女差は、8対1とまだ大きな隔たりがある。しかし女子サッカーが提唱するメッセージやイベントは、今後大きく成長する可能性を秘めている(*2 ニールセン・スポーツがペプシコの共同リポートで、女子サッカーは2030年までにファン数が8億人を超え、世界トップ5の競技に成長すると予測している)。

スポンサーも増えており、WEURO 2025では女子大会としては過去最大の数を獲得し、スポンサー収入も前回の倍以上に増えた。
実績を積み重ねながら、たおやかな主張を続ける女子トッププレイヤーたちの姿が、スポーツの枠を超えた共感を呼んでいる。これからもテレビとの共存共栄に期待したい。

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「GALAC」2025年10月号

【表紙/旬の顔】石丸 幹二
【THE PERSON】中村 耕治

【特集】テレビを彩る音楽コンテンツ

「MUSIC AWARDS JAPAN」が示唆する音楽番組の未来/柴 那典

〈音楽番組PickUp〉
TBSテレビ「CDTV ライブ!ライブ!」
フジテレビ「ミュージックジェネレーション」
テレビ朝日「題名のない音楽会」
BS11「Anison Days」
BS12 トゥエルビ「ザ・カセットテープ・ミュージック」
テレビ神奈川「billboard Top40」ほか

[放談]今こそ「紅白」の存在意義を問う/滝野 俊一×宮崎 美紀子
COLUMN 埼玉の奇祭「埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」

「カラオケ」とテレビの親和性/鈴木 健司

【連載】
番組制作基礎講座/渡邊 悟
テレビ・ラジオ お助け法律相談所/梅田 康宏
ダラクシーの秘密基地/ダラクシー賞選考委員会
イチオシ!配信コンテンツ/岩根 彰子
報道番組に喝! NEWS WATCHING/平岩 潤
国際報道CLOSE-UP!/伊藤 友治
海外メディア最新事情[ウィーン]/ 稲木 せつ子
GALAC NEWS/長井 展光
GALAXY CREATORS[高山 秀毅]/仲宇佐 ゆり
TV/RADIO/CM BEST&WORST
BOOK REVIEW『転がる石のように-揺れるジャーナリズムと軋む表現の自由-』『漫画 いしぶみ-原爆が落ちてくるとき、ぼくらは空を見ていた-』

【ギャラクシー賞】
テレビ部門
ラジオ部門
CM部門
報道活動部門
マイベストTV賞

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