Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2023.03.13 UP

【Inter BEE CURATION】Going digital means going global? ― デジタル化はグローバル化を意味する! ? 【VR FORUM 2022 レポート】

VR Digest編集部 VRダイジェスト+

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[登壇者](左から) Muserk Founder CEO Paul Goldman 氏 Crown Media Family Networks SVP, Revenue & Strategic Research Tom Ziangas 氏 ビデオリサーチUSA President&CEO 谷口 悦一

※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、ビデオリサーチ社の協力により「VRダイジェストプラス」から転載しています。デジタル化によってビジネスはどのように変わるのでしょうか。


このセッションは、元Nielsen社、そして、『ウォーキング・デッド』や『ブレイキング・バッド』を世に送り出したAMC Networks社のリサーチ/インサイツのトップとしてデジタル戦略を実践し、現在はクラウンメディア・ファミリーネットワークス社で、デジタル戦略に携わっているTom Ziangas氏、そして、元総合プロダクション会社EarGoo社を設立しMTV Music Award等音楽番組制作を主に手掛け、現在はデジタル領域におけるコンテンツの権利管理ソリューションを提供するMuserk社のCEOかつFounderのPaul Goldman氏を迎えて「Going digital means going global?」(デジタル化はグローバル化を意味する!?)というテーマのもと、急激に加速するデジタル化は、その先のグローバル化へと繋がっているのか、米国におけるデジタル化の最前線をヒントに、日本においてどのような課題があって、どう議論を深めて対応していくべきかを示唆する内容となりました。

パンデミックによりメディアビジネスのデジタル化が加速

まず米国内におけるパンデミックの影響について、 Ziangas氏は、個人の働き方とビジネス戦略の双方が大きな影響を受けたと言います。リモートで仕事をしたり、ビデオテクノロジーを利用してコミュニケーションをとったりすることはすぐに受け入れられた一方、「映画館で映画が上映されないどころか、外出すらためらう中で、視聴者の自宅にある大画面がエンターテインメントの主要デバイスになった。かつてない状況に直面し、広告主が広告出稿を控えたことに対して、メディア側が試行錯誤を重ねたこと自体、大きな出来事だった。主にリニアテレビの広告収入は打撃を受けたが、新しいプラットフォームとテクノロジーにとってはチャンスであり、実際、FAST※が登場した」と視聴者行動の変化と、広告出稿の減少による影響を振り返りました。

 Goldman氏は、パンデミックが事業予測とデジタルビジネス構築の加速をもたらしたと話します。デジタル化やグローバル化を検討していた企業は軒並み、予測より早く行動を開始したそうです。また、Goldman氏はYouTubeにおける広告収入について「音楽コンテンツをメインに700万件以上の著作権を管理している私たちは、動画と収益に関する強力なデータを持ち、活用できた。パンデミック発生時、企業はYouTubeとの関係を構築するしか選択肢がないことに気づき、権利者への配分増加が広告費増加に繋がった」と米国音楽業界ではすでにデジタル活用が進み、それが映像コンテンツにも波及していることを指摘しました。

 Ziangas氏も、音楽と同様、映像コンテンツもストリーミングファーストになると確信、「変化を恐れてストリーミングビジネスに飲み込まれるか、視聴者の変化を受け入れ最適なコンテンツを届けるのかの選択になる」と予測しました。

※FAST=Free Ad-Supported Streaming TV AVOD、SVOD、vMVPD(virtual Multichannel Video Programming Distributor)のいずれにも当てはまらない新興の動画ストリーミングサービス。

デジタルのエコシステムが拡大する中、グローバルコンテンツが収益をあげる

Goldman氏がCEOをつとめるMuserk社は、当社とのパートナーシップにより、音楽から映像コンテンツのグローバル対応にも取り組んでいます。

 世界中で拡大しているデジタルのエコシステムは、現時点ではアメリカやEU諸国がリードしているものの、アジア太平洋地域やアフリカでも変革が始まっていると話します。そのような状況において「すべては、グローバルコンテンツであるべき。誰もが世界中のコンテンツを楽しみたいと思っている」と、最初からローカル(自国)のみでなくグローバルでヒットさせるという視点で収益を考えていく必要があるといいます。

 このような流れの中、「米国のケーブルテレビ局やネットワーク局ではどんな取り組みがあったのか」という谷口の問いに、Ziangas氏は、「放送局のストリーミングビジネスの推進・実行には時間がかかったが、急速に独自ブランドのストリーミングを開始し、自分たちのコンテンツを配信し始めた。広告を一切表示せず、月に6~15ドルの利用料を設定する」というサブスクリプションモデルを紹介しました。サブスクリプションサービスから始める理由は、加入者の膨大かつ貴重なデータが入手でき、マーケティング戦略を充実させるアプローチであることもつけ加えました。さらに、Ziangas氏は「テレビデバイス上でのストリーミングの共視聴が進んでいる」とし、それゆえに「テレビデバイスは非常に幅広い娯楽だ」との見解を示しました。

 その中で、いくつかのデジタルプラットフォームと比較してYouTubeは「利用者が伸び続けている。AVOD以外にも様々なタイプのビジネス、コンテンツ、利用方法の開発を続けている」(Goldman氏)とYouTubeのコンテンツの多様性と、事業拡大の可能性について説明しました。

スマートテレビベンダーの広告ビジネスが伸長

 ここで谷口は、ストリーミング領域での測定技術について触れました。「スマートテレビによって、従来に比べて視聴の詳細な情報を得ることが可能となったが、米国内におけるスマートテレビベンダーの状況はどうか」と投げかけました。

 Ziangas氏は「米国内のストリーミング領域の測定への理解は進んでいるが、まだ完璧ではない」としながら、「測定領域では、スマートテレビベンダーが次々とデータ測定ビジネスに参入している」と答え、スマートテレビベンダーがテレビ販売からデータ会社、広告会社になりつつあることを指摘しました。

日本のコンテンツをグローバル展開するために

 日本国内に目を向けると、谷口は、制作されるコンテンツのほとんどが日本の視聴者を対象にしたものであることに課題を感じると話します。Goldman氏は「誰もが、世界中のコンテンツに期待している。日本の皆さんは、事業が軌道に乗るのを待つのではなく、先を見越して動き始めることが必要」と見解を述べました。

 「住んでいる国や地域、使っている言語が異なっても、私たちは、共通の感情を持っている。本来、良いコンテンツは、世界のどこへでもいけるはず。例えば、米国内に住む異なる人種や文化、宗教の方々にリーチすべく取り組んでいるが、それは結果としてグローバルリーチと同様の考え方だ」(Ziangas氏)。

 グローバル化に関して、Goldman氏は「最大の成功事例として韓国が挙げられる」とした上で、日本のコンテンツ制作について「世界中の大人も子どもも、すでに日本文化にまつわる動画をたくさん視聴している。新たな手法を開発する必要はない。日本のコンテンツを見たいと思っていることに疑いの余地はない。独自の文化にこだわるべき」と太鼓判を押します。さらに、Ziangas氏は「誰にとっても心に響く"食べ物"や、ドキュメンタリー的に歴史を扱うコンテンツから始めるのはどうか」と付け加えました。

デジタル化に伴うキュレーションの重要性と、マネジメントの必要性

 議論を重ねるにつれて、デジタル化とグローバル化の関連が明らかになってきました。

 メディアのデジタル環境の課題について、Ziangas氏は「たった1本の映画といった動画コンテンツを、膨大な配信サービスやテレビのチャンネルから探し出すのはひと苦労だ」として、音楽のようなキュレーションやレコメンドの機能がより重要になるといいます。

 かつてコンテンツクリエイターとしても活躍していたGoldman氏は「動画においても、見たいものに迅速にたどり着けるソリューションを提供できるサービスが勝ち残っていくだろう」と頷く一方、コンテンツ制作側としては、デジタル領域へ参入する際、まず何よりも所有権の管理を優先すべきと訴えました。「Muserkは世界最大規模の著作権管理サービスのひとつであり、 YouTubeや他のプラットフォームでも同様にサービス提供している」と前置きして「現在のコンテンツは、様々なチャンネルに、言語・広告主・ライセンス契約などが異なる様々なフォーマットで打ち出されている。グローバル市場に参入するにあたっては、管理体系と権利を守る仕組みが必須だと強く感じている」とコンテンツの活用、保護を根底から考え、最大展開するグローバル視点に合わせたデジタルライセンスを含む契約の必要性を強調しました。

 最後にGoldman氏は「権利者が権利を主張し、守り、収益を得るという当然の流れを確立することは、全員が取り組むべき大切なこと。コンテンツの権利は、収益の起点」とデジタル化とグローバル化が起こす変化への理解と、それに対する適切で柔軟な姿勢が求められていることを示唆しました。

POINT

●パンデミックがデジタルビジネスを加速、消費者(視聴者)もデジタルサービスを利用することでデータ流通がさらに加速。それは新しいビジネスチャンスでもある
●映像コンテンツもストリーミングファーストへ
●ストリーミングの領域で測定できれば、広告費についてより大きな変化が起こる
●スマートテレビベンダーはテレビ販売からデータ会社、広告会社になりつつある
●グローバルエコシステム拡大でグローバルコンテンツが収益につながっていく(グローバル向けのコンテンツ制作が必要)
●キュレーションやレコメンドのような新しいコンテンツに出会う仕組みが必要になりつつある
●グローバルでのコンテンツの活用には、配信時の管理体制をつくり、権利を守るデジタルライセンス契約が必要

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