Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

キャプション
Special 2022.01.12 UP

【Inter BEE CURATION】MIPCOM 2021で感じた、産業の変化と新たな制作トレンド

稲木せつ子 GALAC

IMG

※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年2月号からの転載で、ウィーン在住の稲木せつ子氏がMIPCOM2021で実感した海外の映像制作トレンドとインクルージョンについて書いております。ぜひお読みください。

2年ぶりのリアル+オンライン開催

 再びコロナが猛威をふるっている欧州だが、初夏から秋までは感染が下火になり、世界最大級のコンテンツ見本市「MIPCOM」が2021年10月、フランスのカンヌで2年ぶりに開催された。もっとも、参加者の大半は欧州からで、日本のメディアはオンライン参加となった。欧州最大の放送機器展「IBC」が11月末に直前キャンセルになったことを考えると、MIPCOMで業界関係者が対面で商談+ネットワーキングできたのは、幸運であった。注目コンテンツ紹介や基調講演を、現地で他のバイヤーや記者らとすぐ意見交換ができるからだ。

 他方、コロナ禍をきっかけに欧米の大手メディア会社が単独あるいはグループ別の宣伝イベントを行うようになっている。2022年もこの傾向が続くようだ。MIPCOMのような大イベントの必要性が失われているのだろうか?

 講演などから多少、一連の動きの背景が掴めた。パンデミック以前からの傾向だが、屋外娯楽の機会が減っている今、NetflixをはじめとするSVOD市場が急速に拡大し、競争が激化している。よりスケールの大きい作品が求められ、座談会で大手放送局は「ものすごい圧力を感じている」と語った。

 アメリカ大手に対抗するため、欧州の放送メディアは制作部門を分社化してハリウッド式の「スタジオ」作りを目指し、国内外の制作会社を次々に買収している。同じ傾向が大手制作会社にも見られ、優秀な人材を囲い込むために、業界では前例のない水平統合が進行している。

 番組の新規プロジェクトや共同制作で他局と組まず、傘下に抱える制作会社の間でブレインストーミングし、グループ内で共同制作する事例が増えている。商談が「インハウス」に移れば、国際的な交渉のニーズが減るのは自明で、米英大手の「MIPCOM離れ」にはコロナとは別の力学が働いているようだ。日本のメディアは、この潮流を理解して海外進出を進める必要があるだろう。

 加えて、米英に偏っていたコンテンツ生産はSVOD市場のグローバル化で国際化とローカル化が同時進行している。韓国の「イカゲーム」の大ヒットが顕著な例だが、フランスのメディア調査会社によると、19年から20年までの1年間で、非英語のドラマシリーズが72作リリースされており、前年を55%上回った。

 Netflixなどが契約者を獲得するために各地でローカルコンテンツを拡充しているが、視聴者も国際化して非英語圏からヒットが生まれ、相乗効果を生んでいる。並行して、欧州の放送では米作品が減り、6割のローカル番組が7割の視聴を稼いでいるそうだ。某講演者は「作り手はまず地元の市場でヒット作品を作り、フォーマット販売する必要がある」と語った。

 今後のMIPCOMは欧米大手が展示の主役とならないかもしれないが、非英語圏の放送局や制作会社は、コンテンツ生産の新しいトレンドに沿った戦略をたてれば、ビジネスチャンスが十分あると感じた。

欧米中心に広がるサステナビリティ思考

IMG
MIPCOM 2021 ダイバーシファイTV優秀賞の授賞式(筆者撮影)

 今回のMIPCOMでは、さまざまなトレンド番組も紹介された。引き続き人気があるのはお見合い番組や、覆面シンガーに続くような歌番組で、参加者のアバターが歌を競う新技術の導入例もあった。  

 新しい視点も生まれている。スウェーデンの公共放送STVが制作したお見合い番組「セクシーハンド」は、聴覚障害者がカーテン越しにお見合い相手と手話で会話をし、理想の相手を見つける番組だ。司会者は健常者で、手話の内容は字幕を付けるので一般人も理解ができる。表情豊かな聴覚障害者の反応が面白い。世界でも初めての試みということだが、欧米では差別をしないだけでなく、相手を仲間に入れる「インクルージョン」がキーワードになっている。

 国連が2015年に持続的成長目標(SDGs)を掲げて以来、多くの欧米メディアが環境保護や多様性をテーマにした番組を作っているが、コロナ禍で孤立や階層格差などの社会問題が顕在化し、弱者やマイノリティを取り残さない配慮が重要視されているためだ。

 メディア調査会社によると、この1年で増えた番組はドキュメンタリーで、環境や社会の変革を扱う作品が目立つという。人種問題も注目されるテーマとなっており、「作り手や業界指導者が社会の変革を推進し、より公平に社会を描くことを求めている」との分析だ。同様の視点で、ドラマと実話が入り混じった番組も多く作られているとのことで、実話をベースにしたドラマも最近のトレンドとなっている。

 インクルージョンを意識した好事例はフランスTF1のドラマ「特別賞」だ。障害を持つ少女が普通学校を卒業するまでの成長物語で、コメディタッチで主演を演じるのは、ダウン症の女優。実話をベースにしており、制作側は40人近いダウン症の女性をオーディションしている。初回放送は17年で、26%の高視聴率を獲得。続編が21年に放送され、MIPCOM 2021のダイバーシファイ(多様化)TV優秀賞(障害者ドラマ部門)を受賞している(写真)。

 授賞式で流れたドラマの宣伝ビデオを見て感心したのは、ダウン症の女性の演技力だ。また、主人公の障害を描くのではなく、一人の女性の成長ドラマになっていた点に、インクルージョンを重要視する制作者の意識の高さを感じた。

■ライター紹介
いなき・せつこ 元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情等について発信している。

* Diversify TV Excellence Awards: 2017年からMIPCOMで発表されている賞で、過去1年間に放送(配信)されたドラマとノンスクリプト番組から、障害やマイノリティ、性的指向を扱う優秀作品が部門別に表彰されている。

GALACとは
放送批評の専門誌。テレビやラジオに関わるジャーナルな特集を組み、優秀番組を顕彰するギャラクシー賞の動向を伝え、多彩な連載で放送メディアと放送批評の今を伝えます。発行日:毎月6日、発売:KADOKAWA、プリント版、電子版

IMG

【表紙・旬の顔】南 沙良
【巻頭】石山アンジュ

【特集1】「東京2020」が遺したもの
東京2020とは何だったのか/編集部
〈インタビュー〉オリンピックレガシーの歴史と変質/山本 浩
パラリンピックの現場から/後藤佑季

【特集2】衆院選報道ウォッチング
テレビ選挙報道の課題/山田健太
政党・候補者のSNS広報戦略/国枝智樹

【連載】
21世紀の断片~テレビドラマの世界/藤田真文
番組制作基礎講座/渡邊 悟
テレビ・ラジオ お助け法律相談所/梅田康宏
今月のダラクシー賞/桧山珠美
BOOK REVIEW『人権と文化コモンズ 著作権は文化を発展させるのか』『2050年のジャーナリスト』
報道番組に喝! NEWS WATCHING/水島宏明
海外メディア最新事情[ウィーン]/稲木せつ子
GALAC NEWS/砂川浩慶
GALAXY CREATORS[桑山知之]/風間恵美子
TV/RADIO/CM BEST&WORST

【ギャラクシー賞】
テレビ部門
ラジオ部門
CM部門
報道活動部門
マイベストTV賞

  1. 記事一覧へ