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Special 2021.04.19 UP

ハリウッドのシネラマ・ドームが閉鎖

鍋 潤太郎 / Inter BEE ニュースセンター

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閉鎖のニュースが報道された直後の、ハリウッドのシネラマ・ドーム(4月14日筆者撮影)

〇はじめに

ハリウッドに『シネラマ・ドーム』という有名な映画館があるのをご存知だろうか。LAを訪問された事がある方や、映画好きの方、また写真を見た事があるという方も少なくないと思う。最近では、タランティーノ監督の名作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の中にもチラリと登場している。

 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告編の中でも0:38あたりでシネラマ・ドームが一瞬登場する。

4月12日、このシネラマ・ドームが閉鎖されるというニュースが報道された。このニュースはSNSを通じて瞬く間に映像業界に拡散され、まさにハリウッドを震撼させる、大変残念な出来事となった。
今月の本欄では、筆者独自のVFX目線の視点から、シネラマ・ドームについて語ってみる事にしたい。

〇親会社が傘下シネコン・チェーンの再オープンを断念

昨年の3月以降、全米の映画館はコロナの影響により1年間近く閉鎖状態にあった。全米で昨年12月より始まったコロナワクチンの接種が順調に進んだ事もあり、NYでは3月5日から、LAでは3月15日から、収容人員を25%に限定する事を条件に市の公衆衛生局から営業許可が出され、大手シネコンが少しづつ再オープンし始めている。
ハリウッドのシネラマ・ドームは、大手シネコン・チェーンであるパシフィック・シアターズ(Pacific Theatres)とアークライト・シネマズ(ArcLight Cinemas)を傘下に持つ、デキュリオン・コーポレーション(The Decurion Corporation)が所有している。

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パシフィック・シアターズの本社 (筆者撮影)

4月12日、デキュリオン・コーポレーションは、この2つのシネコン・チェーンの営業再開を断念、カリフォルニア州にある約300スクリーンを有する傘下のシネコンを全て閉鎖する方針をアナウンスした。
アークライト・ハリウッドの一部であるシネラマ・ドームもこの影響を受け、再オープンする事なく、このまま閉鎖という運命になってしまった。

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野外型ショッピングモール、ザ・グローブの中にあるパシフィック・シアターズのシネコン。昨年3月で、時間が止まっている事が分かる。当時公開されていた『ソニック・ザ・ムービー』、ピクサーの『2分の1の魔法』の看板がそのままになっている。(2021年4月13日に筆者撮影)

〇シネラマ・ドームはVFX関係者にとって、ゆかりの地

ロサンゼルスに住む映画/VFX関係者にとって、ハリウッドのシネラマ・ドームはゆかりの地である。ここでは数多くの映画のワールドプレミアが開催され、大作映画が公開されれば公開初日には行列が出来、ドームの前で記念撮影をする人も多い。
ハリウッドのエリアで話題作を大画面で映画を観るなら、チャイニーズ・シアターで観るか?シネラマ・ドームで観るか?この2つが究極の選択であった。観たい作品が、配給会社によって、どちらか一方でしか上映していない場合が多く、それを確認するのも楽しみの1つであった。
シネラマ・ドームの”城壁”のドームの高さは約23メートルもあり、316個の5角形&6角形のブロックで構成されている。中のスクリーンも巨大で、スクリーンは横26M X 縦9.8M(2002年のリニューアル当時は世界最大だったという)もあり、ドームに沿って大きく湾曲した、独特の形状をしている。

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シネラマ・ドームの壁面の接写。5角形&6角形のブロックで構成され、独特の形状をしている。(筆者撮影)

観光名所という事も手伝って多くの観光客が押し寄せる事もあり、各映画のプロモーションにも力が入り、さまざまなコラボが行われ公開を盛り上げた。シネラマドームが丸ごとシュレックになったり、ドーム上に巨大なスパイダーマンが這っていたり、頂上ではゴジラが吠えビームが空に向かって伸び、ミニオンが登場した事もある。

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「シュレック2」公開当時のシネラマ・ドーム。(2004年5月22日筆者撮影)

筆者がここで鑑賞した映画は数知れず。
Godzilla (1998)
Antz (1998)
E.T. the Extra-Terrestrial [20周年アニバーサリー特別版] (2002)
The Lord of the Rings: The Return of the King (2003)
Shrek 2 (2004)
Star Wars: Episode III - Revenge of the Sith (2005)
This Is It (2009)
上記以外にも、過去数年に沢山の映画をシネラマドームで鑑賞した。

〇シネラマ・ドームの歴史

シネラマ・ドームは1963年11 月7日にオープン。当時のチケット価格は1ドル49セント〜3ドル50セント。その名の通り、当時話題だったシネラマ・フォーマットの映画を上映出来るようにデザインされたシアターであった。この詳細はさっくりと割愛するが、インターネット上にシネラマ関連記事が出ているので、ご興味のある方は是非チェックしてみると良いだろう。シネラマ・ドームはオープン当時からパシフィック・シアターズが経営しており、現在まで継続されていた事になる。
筆者がシネラマ・ドームを初めて訪問したのは、おそらく98年のメモリアルデーの連休に「Godzilla」(1998)を観た時である。サンセット・ブルバードの通りに面して、巨大なドームが「デ〜ン」と聳える。当時、その裏には広い駐車場があった。2001年頃にこの一帯の大規模なリニューアル工事が行われ、2年間の改修休止を経て2002年3月に再オープン。シネラマ・ドーム裏の駐車場だった広大な土地を利用した、15スクリーンを有する近代型の新しいシネコンを組み合わせる形で「アークライト・ハリウッド」として生まれ変わった。

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「パシフィックのシネラマ・ドーム」というサインの側面に「アークライト」の文字が見える。(筆者撮影)

このアークライト、なんというか、ホテルのような内装+メッチャお洒落+近代的で、カフェやレストランも中にあり、「ちょっと進んだシネコン」的な存在であった。その分、チケットは他のシネコンよりもやや高めの17ドル前後であった。
ここで働くクルー達は映画好き+プロ意識が高く、映画の上映前にはクルーが登場し、ご挨拶+映画の紹介などを行なっていた。故に映画俳優や映像関係者の支持も高かった。また、シネラマ・ドームでは話題作の大規模なワールド・プレミアが開催されたり、アークライト・ハリウッドのシネコンのスクリーンを利用してのVFXクルー向け完成試写会などにも利用された。またハリウッド映画ばかりではなく、海外の話題作も積極的に取り上げて上映していた。筆者自身、ここで北野 武監督の「座頭市」(2003)を英語字幕入りで鑑賞した事がある。
アークライトは、この後パサデナ、エルセグンド、シャーマンオックス、サンタモニカ等にも姉妹店のシネコンがオープンしたが、このハリウッド"本店"は名物シネラマドームがある事もあり、売り上げNO.1を誇っていたという。

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姉妹店、アークライト・シャーマンオックスの廊下には電光ポスターが配置され、ハイセンスな雰囲気を放っていた。(2019年12月筆者撮影)

このようにシネラマ・ドーム、そして隣接するアークライト・ハリウッドは、ハリウッドの映画関係者及びVFX関係者にとっては、まさにゆかりの地なのである。

〇存続の可能性は

米報道によると、今回のシネラマドームを含む2つのシネコン閉鎖は「コロナの影響による営業再開の断念であり、現時点では経営破綻や破産によるものではない」としている。
また、このシネラマ・ドームは、ロサンゼルス歴史文化記念碑 (Los Angeles Historic-Cultural Monument)に認定されており、そう簡単に解体して良いものでもないらしい。←これは良いニュースである。
これらの情報から鑑みると、シネラマ・ドームがまたいつの日か、何等かの形で映画館として復活する可能性は残されているようだ。
ただ、オープン当初から続いていたパシフィック・シアターズによる経営が4月12日を持って終焉を迎えたという事実は変わる事がない。コロナの影響を受け、1つの時代が終わったという事は、大変残念である。

〇おわりに

今回はシネラマ・ドームの残念な話題をお届けしたが、近い将来また復活する日が来る事を期待したい。前回の本欄でお伝えしたシネフェックス誌の廃刊のニュースもコロナの影響であり、ここしばらく悲しいニュースが続く。
筆者はつい先日、コロナ・ワクチン接種の1回目を済ませてきた。アメリカという国は、万事が万事、物事がスムーズに進まない国である。日本だと1時間で済む用事に、1週間を費やさねばらならない事も少なくない。しかし、今回のコロナ・ワクチンの接種に関しては、アメリカにしては驚異的にオーガナイスされており、オンラインですぐに予約が取れて、近場ですぐに接種を受ける事が出来た。筆者の周りでも「ワクチン接種を済ませてきた」という話題でもちきりである。これについては、アメリカで医療に従事する関係者の皆様に感謝感謝である。
今後コロナが1日も早く収束し、また普通の生活に戻れる事を願うばかりである。

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