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Special 2023.07.11 UP

【Inter BEE CURATION】新メディア王にイーロン・マスク氏? 2024年大統領選に影響力

津山恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2023年8月号からの転載です。

米国初、出馬表明をSNSで

米メディア界に大きな変化が起きている。SNS大手ツイッター社を買収した実業家イーロン・マスク氏が、存在感を増している。注目の共和党大統領候補を後押しし、2024年大統領選にも影響力を及ぼす可能性が高まっている。かつてメディア王だったルパート・マードック氏に取って代わったともいえる。
 マスク氏は、電気自動車(EV)大手テスラ社の最高経営責任者(CEO)だが、昨年10月ツイッター社を突如買収。さらに、5月24日午後6時、ツイッターを使ってフロリダ州知事のロン・デサンティス氏が2024年大統領選に立候補する発表でホストを務めた。出馬表明は、支持者の集会あるいはオンラインビデオで発表するケースが多いが、ソーシャルメディアのツイッターで発表するのは、米国では初めてだ。
 大手メディアは、ショックを受けた。メディア界とは無縁のマスク氏が出馬表明をサポートし、メディア的にはスクープを得たかたちだが、ツイッターが政治的に共和党候補という保守派を支持する印象を植え付けた。
 デサンティス氏の出馬表明は、ツイッターのラジオのような音声機能「スペース」を利用した。「デサンティス知事を迎えられて光栄です」とマスク氏が切り出したが、何度も中断があり、10分以上の空白もあった。新しい試みでつまずき、ツイッター内の技術的サポートに対する脆弱さを浮き彫りにした。
 しかし、マスク氏は「誰かが国民に語りかけ、世界中の人々が聞ける仕組みは(かつて)なかった。とても画期的だ」と主張。デサンティス氏も「ツイッターは表現の自由の提唱者の手にわたった。これはわが国の将来にとって、とても重要だ」と語った。保守派が表現の自由を主張し、ツイッターをその舞台にしているかのようだ。さらに、それがツイッターというプラットフォームで世界中に伝播する。
 保守派のメディア王といえば、ルパート・マードック氏。オーストラリア生まれで、英米の新聞・テレビを次々に買収し、世界最大のメディア帝国を作り上げた。そのなかに、保守系ケーブルネットワークであるFOX News Channelがある。その影響力は計りしれない。しかし、マードック氏を政界に影響を及ぼすような表舞台で見かけることは、最近はない。代わりに、伝統的なメディアではなく、ソーシャルメディアを手中にしたマスク氏が急浮上している。

伝統的メディアで有名アンカー去る

メディア界をめぐっては、ほかにも大きな変化を見ることができる。テレビで強く保守派を支持し、影響力があるFOXニュースだが、4月下旬、看板番組の論客タッカー・カールソン氏を退局させた。「別々の道を行く」として、降板の理由は明らかにしていない。夜8時からの彼の番組を仕切り、ケーブルテレビニュース番組で最高の視聴者を集めていたドナルド・トランプ前大統領を始め、共和党の大物にも気に入られていたが、突然の退場。このため、FOXコーポレーションの株価は一時5%を超えて下落した。
 カールソン氏の時代が終わり、保守派市民の目は、ツイッターを支配するマスク氏に向かっている。
 視聴者数ではFOXニュースやMSNBCに大きく差を付けられているCNNも4月下旬、有名アンカー、ドン・レモン氏を解雇した。レモン氏は今年2月、共和党から大統領選に出馬を発表したニッキー・ヘイリー元国連大使(51歳)について「全盛期の年齢とは言えない」と番組で発言し批判された。レモン氏はすぐに謝罪している。レモン氏の降板も理由は明らかにされていない。
 レモン氏は黒人で、番組を通じて黒人差別に抵抗する強いメッセージを発信していた。その一方で、社内女性社員に対し、差別的な行動があったことも報道されている。レモン氏はこれを否定している。
 24年大統領選を前に、これまで影響力があった伝統的メディアで、カールソン氏やレモン氏など有名アンカーらが去った。伝統的メディアがその影響力を維持できるのかが問われている、その一方で、ツイッターをうまく利用して、マスク氏という部外者が、保守派のメディア王として台頭してきている。
 また、24年選挙は、ChatGPTなどにみられるAI(人工知能)が初めて利用される選挙となる。すでにさまざまな研究に巨額の投資が行われている。メディアの様変わりやAIで、4年に一度の「お祭り」とされる大統領選も激変しそうだ。
 米国では、メディアは、民主主義を維持できるのかどうかという重要な役割を担っている。この点も試される選挙の年になるに違いない。


【ジャーナリストプロフィール】
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、共著)がある。

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