Inter BEE 2022

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Special 2022.01.20 UP

【Inter BEE CURATION】放送同時配信はテレビを救うか〜「INTER BEE CONNECTED」のセッションレポート

編集部 Screens

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2022年1月14日に掲載された「放送同時配信はテレビを救うか〜「INTER BEE CONNECTED」のセッションレポート」記事です。お読みください。

放送同時配信はテレビを救うか〜「INTER BEE CONNECTED」のセッションレポート

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が日本随一の音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE」を、2021年11月17~19日にかけて開催。今回は幕張メッセでのリアルイベントとオンラインイベントを並行しての開催となり、495の企業・団体から749ブースが出展。幕張メッセ会場には18,308名、オンライン会場にも累計1万名以上(2021年11月22日時点)が来訪した。

本記事では、オンライン開催された「INTER BEE CONNECTED」の基調講演「放送同時配信はテレビを救うか」の模様をレポートする。

NHKの放送同時配信サービス「NHKプラス」が開始から1年半を迎えた一方、民放でも一部のキー局が今秋より民放公式テレビポータル「TVer(ティーバー)で放送同時配信(民放ではリアルタイム配信と呼称、以下 リアルタイム配信)をスタート。日本でもいよいよ、放送のリアルタイム配信が本格化しつつある。

今回は、モデレーターの株式会社ワイズ・メディア取締役/メディアストラテジストの塚本幹夫氏が、先行者であるNHKに知見や課題を尋ねつつ、昨年のトライアルをふまえて今秋にリアルタイム配信を本格スタートさせた日本テレビにビジネス上の狙いをインタビュー。パネリストの日本放送協会 デジタルセンター専任局長・西村規子氏、日本テレビ放送網株式会社 営業局総合営業センター部長・佐藤貴博氏、株式会社TVer 取締役事業本部長 蜷川新治郎氏と、全局にとって共通の課題である権利処理問題との向き合い方をディスカッションしながら、リアルタイム配信時代の番組視聴のありかたについて、サービス運営のキーパーソンがリアルな意見を述べあった。

NHK「リアルタイム配信は“放送の補完”」

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NHK 西村氏

まずは西村氏が、NHKの放送同時配信サービス「NHKプラス」についてプレゼン。地上波同時配信では総合テレビ・Eテレの南関東(東京・神奈川・千葉・埼玉)向け放送を全国に向けて提供するほか、キャッチアップでは放送から7日間(地域向けは14日間)配信。「放送の補完」という位置づけで、IDによる認証制でサービスを提供している。

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キャッチアップについては、2021年3月から全国各地の拠点放送局が制作するローカル番組も配信。全国の放送ブロックごとに用意されたプレイリストから、最大14日間視聴することができる。

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視聴データにおいては、UB(Unique Browser:ブラウザ数)、視聴分数ともにゆるやかに上昇傾向。2021年夏に開催された東京2020オリンピックでも配信を実施し、7月23日の開会式では、サービス開始以来最多のUBを記録した。

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さらにNHKではオリンピック期間中の深夜帯に、過去の人気番組を集中して再放送する「深夜のイッキ見」枠を編成。地上波とリアルタイム配信・キャッチアップとの連携を狙ったことで、通常時の2〜3倍にのぼるID申請数を記録したという。

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NHKで放送される全番組のうち、「NHKプラス」にて配信している番組の割合は「総合テレビが91%、Eテレが83%」と西村氏。

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受信契約が確認できないユーザーに対しては登録を促すメッセージを表示する他、権利上配信できない番組においては「フタ処理」が行われているが、「地震や緊急ニュースなど、国民の生命財産に関わる報道に関しては、フタやメッセージを外して、IDの有無にかかわらず視聴できるようにしている」という。

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日本テレビ「リアルタイム配信は“ショーケース”」

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日テレ 佐藤氏

続いて佐藤氏が、日本テレビにおいて実施している「日テレ系ライブ配信」についてプレゼン。「重要なのはテレビの『持続』と『未来』、ひいては安心安全かつ優良な広告媒体の拡大にある」といい、「インターネット上においてテレビのタッチポイントを増やし、地上波テレビへの回帰を図ることがサービスの趣旨である」と語る。

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佐藤氏は、地上波による「放送」とインターネットによる「配信」それぞれのメリットを解説。「配信においては、ユーザーごとに異なるタイミングでの要求にあわせた的確・均等な広告配信が行える」とそのメリットを述べつつ、「あくまでテレビの価値向上と回帰が目的である」とし、「放送でテレビを見られる環境の人には地上波で見てほしいので、テレビデバイス向けの同時配信は行っていない」と強調した。

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「日テレ系ライブ配信」の対象は、関東ローカル向けの番組を除く「日本テレビ系のGP帯全国ネット放送番組のうち配信権利処理可能な番組」。番組中のCMについて、昨年のトライアル時は番宣PRのみであったが、今秋の本格スタート後は地上波のレギュラー提供社のCMを配信。実際に広告を配信してからも、ユーザーの完視聴率は高水準をキープし続けている。また、現状は広告枠を無料提供しているが、11月よりテストセールスを開始する予定だという。

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「日テレ系ライブ配信」のユーザー層は「TVerとほぼ同じく、F1(女性20〜34歳)、F2(女性35〜49歳)層が厚い」。去年のトライアルに比べ、現在はさらにF2層が5%、F3(50〜64歳)層も4%上昇しているといい、「ドラマの視聴ユーザーが多いことが要因ではないか」と佐藤氏は推測する。

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そして、都道府県別のユーザー分布については首都圏以外の地域が上昇し、特に日テレ系放送局のない沖縄県や宮崎県などでも、昨年に引き続き、高い水準を保っているという。

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また、「同時配信は、テレビのショーケースである」と佐藤氏。「同時配信そのものを楽しんでいただくというよりも、インターネットを通じていろんな番組を見ていただき、知っていただきたい」といい、「配信上の“ザッピング”をできるようになってこそ、ショーケースとしての意味がある」と、リアルタイム配信時代の到来を歓迎した。

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TVer「リアルタイム配信は“視聴体験を拡張するユーティリティ”」

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TVer 蜷川氏

続いて蜷川氏が、民放公式テレビポータル「TVer」についてプレゼン。アプリの利用者数は右肩上がりで好調な成長を続けており、2021年10月には再生数が初の月間2億回を突破。15〜69歳における認知率も62.4%と浸透が進んでいると解説。

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「1人当たりの視聴時間が増えてきている。エントリーユーザーのロイヤル化が進んでおり、ユーザーの伸びはもちろん、視聴時間の伸びがかなり顕著となってきた。『今クールのドラマを全部TVerで見る』というような方が増えてきている」と印象を語った。

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ジャンル別の再生割合では、ドラマとバラエティが約90%を占めており、「興味深いいことに、2ジャンル以上を見ているユーザーがあまりいない」と注目点を提示。

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「ドラマを見る人はドラマ、バラエティを見る人はバラエティの軸から出ない。ひとりあたりの平均視聴ジャンル数を見ても、1.3程度となっており、ジャンルをほとんどまたがない」と語り、これを活かした新たな広告商品の開発につなげられれば「テレビ局にとってチャンス」だと語った。

そして、デバイス別の割合では、2020年から2021年にかけ、テレビデバイス経由での視聴が6%から20%へと大幅に増進しており、「いよいよ、テレビデバイスで、テレビ番組を放送ではなく、ネット経由で見る時代が現実になってきた」と変化を実感している様子。

「最適なタイミングに、最適なコンテンツを見ていただくことが第一。ライブで見ていただいても、見逃しで見ていただいてもいい」と蜷川氏。今後実装予定であるリアルタイム配信の「追いかけ再生」に触れ、「パーソナルタイムシフトを我々が称する、見たいときに、見たいところで、見たいデバイスで見るという視聴体験を、リアルタイム配信はさらに拡張していくユーティリティとなるだろう」と期待を語った。

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「地上波ともキャッチアップとも違うリーチ」に期待

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セッション後半は、リアルタイム配信をめぐる課題についてディスカッション。塚本氏は最初のテーマとして「そもそも視聴需要はあるのか」と、根源的な問いを投げかけた。

すると「リアルタイム配信とキャッチアップ、それぞれ別々の需要があると考えている」と西村氏。「ドラマやドキュメンタリーは1週間のあいだに長く見られる一方、オリンピックを始めとしたスポーツ中継や災害時のニュースにはライブのニーズが大きい」と語る。

それに対して佐藤氏は、「先述の通り、リアルタイム配信そのものはショーケースだと思っている」と述べ、「ザッピングもされうるため、広告事業としてはリアルタイム配信と地上波の広告在庫とではそれぞれ別の考え方をする必要がある」と提言。「リアルタイム配信がさらに進化することで、ライトユーザーに対してもリーチの幅が広がる」とし、「地上波ともキャッチアップとも違う、リーチ獲得としての広告需要が増えてくるのではないか」と期待を語った。

「ローカル対応」はいまだ議論途上

続いての議題は、「ローカル局、地方放送局への対応」について。

「リアルタイム配信が自局の視聴機会の毀損につながるのではないか、という声がローカル局から挙がっているのは事実」と佐藤氏。そのうえで、「リアルタイム配信は『地上波からの移行』ではなく、『インターネットしか見ていない人々にテレビを届かせるためのもの』」といい、「ネット局のみなさまもTVerなどでリアルタイム配信を活用できる環境を作っていかなければならない」と語る。

一方で、「地域制御を行い、各局がリアルタイム配信においてローカル枠を差し替えるというアプローチは可能なのか」という塚本氏に対し、「地域制御は、あくまでユーザーやスポンサーの判断で行うべきこと」と佐藤氏。「われわれが送り出すコンテンツ自体は、エリアに関係なく、あまねくどこでも見られるようにするべき」と持論を展開。

すると塚本氏は、「ラジオの世界では、radikoが各地のローカル局向け放送を月額有料サービス『radikoプレミアム』にて全国配信しているが、テレビにおいても同様のアプローチができるのではないか」と提案。

佐藤氏は「radikoの場合は、いわばAVOD(広告型無料配信)とSVOD(定額課金制有料配信)の混ざったビジネスモデル。配信事業の動画広告においては、有料のサービスを混ぜるのはクライアントにとっても良いことではない」と指摘。「無料を突き詰めていくためには、エリア制限をせず、クライアント、ユーザー双方がコンテンツを自由に選べる状況を作っていかなければいけない」とした。

一方、全国各地に拠点放送局があり、地域ブロックごとにローカル放送を行っているNHK。現在「NHKプラス」で配信されているのは南関東の1都3県向けの放送だが、キャッチアップについては、放送ブロックを統括する拠点局を中心に、ブロック配下の各地方局に関しても対象を広げていく考えという。

全国をサービスエリアとするNHKでは、災害時における地域ごとのきめ細やかな速報体制も大きな特徴だが、これについて西村氏は、「NEWS WEB、ニュース防災アプリや、地域局ごとのホームページ・SNSを通じて対応していきたい」と語った。

放送・配信の権利処理 “簡略化”の肝は「正当な利益配分の浸透」

続いての議題は、「リアルタイム配信における著作権処理の課題」について。

2021年5月26日に可決成立した改正著作権法では、権利者の別段の意思表示がないかぎり、放送時になされた許諾がそのまま同時配信でも有効とされる「許諾推定規定」のほか、一般社団法人 日本音楽事業者協会(音事協)などの権利者団体に所属しない権利者においても報酬請求権を認め、後から報酬が正しく分配される仕組みづくりが盛り込まれた。

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これにより、放送の同時配信における権利処理が簡略化される一方、文化庁が制定した「放送同時配信等の許諾の推定規定の解釈・運用に関するガイドライン」には、「権利者による放送同時配信の拒否が考えられる場合、あらかじめ放送番組の契約時に配信での使用可否を明確に確認する」「放送などを行う予定日時を提示可能な場合は、明確に権利者に提示する」との項目が存在。塚本氏は「これらの対応は現実的ではないのではないか」と指摘する。

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これに対して佐藤氏は「正直なところ、今回の法改正で現場の著作権担当者の業務が楽になるということはない」としつつ、「権利者に確認を取るのは当たり前であり、報酬配分についてもかねてより権利団体への所属有無を問わずに実施している説明。手続きの簡素化の必要性については感じながらも、「なにより、しっかりと権利者に配分するという安心感がなければ、良いものは作れない。それを差し置いてまで、権利処理の部分で楽をしたいわけではない」と説明した。

「テレビのコンテンツは、いわば大量消費材」と語ったのは蜷川氏。「多くの人に使っていただいて、初めて価値が出るもの。(権利上の都合によって)特定の流通ルートにしか乗らないということは、これから成り立っていかなくなるだろう」と分析。

また、権利処理が煩雑なことで、コンテンツが違法に、UGC(ユーザー生成コンテンツ)として大量に消費され、機会損失となっていることについて「プロモーションにはなるが、権利者に利益が還元されていかないモデルがまだまだ世の中にはいっぱい残っている。こうした問題に業界全体として取り組んでいくことで、ゴールが見えてくるのではないか」と話した。

これを聞いて塚本氏「著作権処理の簡略化によって、『メディアが権利者にお金を払わなくなる』ということではない」と納得。「正当な著作権処理そのものが普及することによって、権利者のみなさんにも配慮が行き届くという考え方で、関係各所には柔軟に臨んで欲しい」と語った。

リアルタイム配信=放送になる?」意見は三者三様

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ワイズメディア 塚本氏

「究極の話、リアルタイム配信は“放送”になるのではないか」と塚本氏。アメリカ・ヨーロッパ・韓国と日本における放送と配信の法的な位置づけと、権利上のスタンスを図表にまとめて説明。コンテンツ単位の契約が先に立つため、明確な定義がなくアメリカを除き、イギリス・フランス・ドイツなどのヨーロッパ各国では、地上波と同時(リアルタイム)配信は同じ「放送」とみなされており、権利においても同様の見方が多いと示唆した。

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すると西村氏は「いまは放送の補完業務として配信を行っているが、NHKの放送そのものが受信料をいただいてお届けしている形なので、できるだけ多くの方にあまねく届けたいという気持ちはもちろんある」と語った。

一方、佐藤氏は「放送と配信では広告の出し方も見られ方も違う」とし、放送と配信はあくまで「別サービスであるべき」と強調。「現在も、番組内の提供クレジットは『地上波放送の付帯サービス』というスタンスであり、配信では行っていない。配信に広告を出稿しているスポンサーのみなさんも、地上波と配信ではそれぞれ別々の素材を出稿するケースが多い」と話した。

ここで蜷川氏が、複数人で同じコンテンツを視聴する「共視聴」に触れる。

「『共視聴』というように、テレビは『何人かで見ている』という場合が多い。その大まかな属性から『ファミリー向けコンテンツ』などとターゲティングして広告を配信する方法もあるが、個人の属性だけではなく、やはりコンテンツにマッチした広告というものがもう一度見直されてくるのではないか――」

これまでのインターネット広告は、特定のアクションを起こした人をとにかく追いかけていくことで効率化してきたが、「そこではとらえきれないテレビ広告の価値がある」と蜷川氏。リアルタイム配信は「テレビコンテンツの価値をもう1回見いだせるチャンス」と語った。

テレビの地上波は「ひとつの大きなプラットフォームでもある」と塚本氏。

登録制であり受信料モデルであるNHKと、一般開放型であり広告モデルである民放のリアルタイム配信では構造的な違いがあるとしながらも、「民放の電波を使って送出されるEPG(電子番組表)にNHKも参加している事例がある」とし、「ゆくゆくは民放とNHKの統一プラットフォーム化によって、全国津々浦々の放送を見られる仕組みができると、ユーザーにとっても非常に有益なのではないか」と語った。

「選んで見に来る」から「番組に気づく」へ。リアルタイム配信で期待する“変化”

最後にセッションを振り返り、パネリスト陣がコメント。

「放送、配信、さらにお客様とのコミュニケーションを拡充し、ひとりでも多くの方に『NHKプラス』を使っていただきたい」と西村氏。「ID登録のプロセスが煩雑であるという声も多くいただいているので、できるだけ簡単にできるよう頑張っていきたい」と語った。

佐藤氏は、「これまでのテレビは巨大な組織ゆえ、いろいろなものをガチガチに固めて決めてからでなければ進めなかった部分があるが、リアルタイム配信においては、さまざまなアプローチを試しつつ『変えながら進んでいく』ということができるようになってきているように思う。ネット局やスポンサーのみなさまのご意見をお聞きしながら、一緒進んでいけたら」とメッセージ。

最後に蜷川氏が「現在のTVerは、ドラマを見るためのプラットフォームというイメージがあると思う。気合いを入れて、番組を選んで見に来ていただいているアプリになっているが、そうした流れがリアルタイム配信によって変わっていき、TVerが新たな角度から番組と出会える『気付きのメディア』になれるのではないか」と期待を語った。

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