Inter BEE 2022

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Special 2021.11.25 UP

【Inter BEE CURATION】アメリカ同時多発テロ20年、取材能力と映像で防ぐ「風化」

津山恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2021年12月号からの転載で、NY在住のジャーナリスト・津山恵子氏のリポート。9.11から20年、悲惨な出来事を風化させないだけでなく新たな視点を加えるメディアの存在意義についてです。ぜひお読みください。

様変わりした取材体制

米国は今年9月11日、2001年米同時多発テロから20年を迎えた。筆者が03年から毎年取材してきた限り、年々追悼式典に参加する犠牲者の遺族も、それを見守る市民の数も激減していた。しかし今年は、数千人が思いを新たに集った。また、テレビや新聞各社、さらにNetflixなどのストリーミング配信サービス各社まで、大型で質の高い特集を公開した。それを見て、メディアが優れた取材能力と映像で残す特集が、「風化」させないという役割を果たすため、いかに重要か痛感させられた。

 筆者は、共同通信社ニューヨーク支局の特派員として赴任した2003年から、20年の今年までほぼ毎年9月11日朝、崩壊した世界貿易センターの瓦礫だけだったグラウンドゼロ、そして現在は生まれ変わって再建された世界貿易センターに通い続けている。

 その結果、9月11日に当地に訪れる遺族や市民が年々激減していくのを目撃した。2003、04年は前の晩から数千人が訪れた。しかし、19年は追悼式典に出る犠牲者遺族もまばらで、式典会場の外は、ほとんど通りかかった観光客だけという具合だった。戦後76年を経ても、広島・長崎の原爆祈念式典、終戦記念日などに多くの市民が集う日本とは、かなり異なる。しかし、今年は満20年とあって、午前中の追悼式典会場に約2000人の遺族が集まった。南棟、北棟のツインタワーが立っていた場所に池を作り、それを囲む石に犠牲者の名を刻んだ会場の周りには、午後になって一般に開放された途端、待ち構えていた数千人の市民がなだれ込んだ。

 米メディアの取材ぶりも、例年とはかなり異なっていた。2019年時点では、追悼式典会場外で遺族らしき人物を見つけてコメントを取っていたのは、実は日本メディアだけだった。ネットワークテレビ局などは、追悼式典会場内のひな壇にテレビカメラを並べてはいたものの、会場外で人々のコメントを取る姿は長らく見なかった。しかし今年は、NBCが会場外にブースを設け、「NBCナイトリー・ニューズ」の名アンカー、レスター・ホルトが前日から中継していた。

 式典会場内のメディアパスをもらい、メディアプールに入った報道陣も、筆者を含め150人に上った。日本メディアとニューヨークのニュース専門ケーブル局のNY1や通信社、ネットワークテレビ局など数十人にとどまっていた例年とは様変わりだ。

20年後ならではの視点

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NBC取材班の今年の特設中継の様子(筆者撮影)

取材体制ばかりではなく、「911」の特集やドキュメンタリー番組は、9月下旬になっても相次いだ。20年とあって、Netflix、AppleTV+、Discovery+などのストリーミング配信サービスも、長尺で質の高い作品を出している。

 筆者が最も注目したのは、Netflixの5話シリーズ「ターニング・ポイント:911と対テロ戦争」(9月1日公開)だ。911テロがなぜ起きたのかという問題を探るため、1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻にさかのぼる。当時であれば取材が難しかった情報機関の元最高幹部らのインタビューを積み重ねた真相に迫る内容。さらに、911を引き起こした国際テロ組織のアルカイダによるテロが散発していた90年代後半は、メディアがモニカ・ルインスキーとクリントン元大統領のスキャンダルなどに気を取られていたと指摘。911テロへの「点と線」について、米国内での警戒が不十分だったとするのは、20年後の今ならではの視点だ。アルカイダやタリバンを育むきっかけとなった1979年こそが、2001年同時多発テロに至る「転換点(ターニング・ポイント)」だったという解釈で、構成されている。

 Discovery+は、実話に基づいた番組専門ケーブル局のディスカバリーチャンネルが展開するストリーミング・サービス。同サービスの「ノー・レスポンダーズ・レフト・ビハインド(消防士などのレスポンダー=緊急対応者を一人も置き去りにしない)」も見応えがあった。911で負傷、あるいは心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患う消防士、緊急救命士、警察官らの医療費支援法案を成立させるために立ち上がった一人の負傷者ジョン・フィールの20年続く闘いを追った。法案は2010年にやっと連邦議会を通過したが、必要な改正を加えるため、フィールが19年まで奮闘した。

 ネットワークテレビ局の特集番組で目立ったのは、最大手CBSの「CIA(米中央情報局) 時間との戦い CIAと911」だった。アルカイダによる破壊的な攻撃の可能性を政府に伝えようとしたCIA幹部らの証言ドキュメンタリー。これも困難な取材だ。NBC、ABCなども過去の映像や、名キャスターによるインタビューによる構成の特集番組を放送した。

 こうした番組は、記憶の「風化」を防ぐだけではない。歴史的に重要な出来事が、どんな意味があったのか視聴者が理解することで、今後の社会、外交のあり方を考えるきっかけになるだろう。テレビ、新聞やストリーミング・サービスが高品質な映像で残す特集は、きわめて重要だ。G


■ライター紹介
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には、共著『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)がある。

GALACとは
放送批評の専門誌。テレビやラジオに関わるジャーナルな特集を組み、優秀番組を顕彰するギャラクシー賞の動向を伝え、多彩な連載で放送メディアと放送批評の今を伝えます。発行日:毎月6日、発売:KADOKAWA、プリント版、電子版

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