Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2021.06.02 UP

【Inter BEE CURATION】ネットとリアルの融合が加速。メディアの役割はどう変わる?〜「2020年 日本の広告費」特別対談〜

三友 仁志 × 奥 律哉 WEB電通報

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、WEB電通報に3月25日に掲載された電通・奥律哉氏と早稲田大学教授・三友仁志氏の対談で、2月に発表された「2020年 日本の広告費」を受けての議論をまとめたものです。コロナ禍で人びととメディアの関係がいよいよ変化し、奥氏の持論「一周まわってテレビ論」も加速したことなど学びの多い議論が展開されています。お読みください。

三友 仁志 氏 / 早稲田大学 大学院アジア太平洋研究科 教授

博士(工学)。公益財団法人情報通信学会会長、International Telecommunications Society(ITS)副会長、早稲田大学デジタル・ソサエティ研究所長。総務省情報通信行政・郵政行政審議会委員、情報通信審議会専門委員、総務省地域情報化アドバイザー。専門分野は、デジタル・エコノミー、デジタル・ソサエティ論。コロナ禍においては、ネット社会における「信用(トラスト)」の重要性を再認識し、いわゆる「日本モデル」の形成にメディア情報が果たした役割や、新型コロナウイルス接触確認アプリがなぜ機能しないのかなどについて研究を進めている。

奥 律哉 氏 / 株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 統括責任者/電通総研フェロー

ラジオ・テレビ局、メディアマーケティング局などを経て現職。主に情報通信関連分野について、ビジネス、オーディエンス、テクノロジーの3つの視点から、メディアに関わる企業のコンサルティングに従事。著書に「ネオ・デジタルネイティブの誕生~日本独自の進化を遂げるネット世代~」(共著、ダイヤモンド社)、「『一周まわってテレビ論』と放送サービスの展望」(ニューメディア)、「情報メディア白書2021」(共著、ダイヤモンド社)など。 総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」構成員。放送批評懇談会理事、企画事業委員会副委員長。

「2020年 日本の広告費」特別対談

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2020年日本の広告費は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により大幅に減少しました。

一方で、コロナ禍による外出・移動の自粛によって“巣ごもり需要”が活発化し、ネット通販やデリバリーの利用、オンライン会議やリモートワーク、キャッシュレス決済の活用など、社会におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が一気に加速しました。

本対談では、ICT およびメディア研究、ネットと社会経済を専門とする早稲田大学大学院・三友仁志教授をゲストに招き、電通メディアイノベーションラボの奥律哉と共に、コロナ禍による人々の生活行動の変化、広告やメディアへの影響について考えます。

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リーマン・ショック時との違いは「消費者側」への影響が大きいこと

奥:2020年日本の広告費は、前年比88.8%の6兆1594億円でした。東日本大震災の2011年以来9年ぶりのマイナス成長であり、リーマン・ショックの影響を受けた2009年以来の2桁減少です。1947年の統計開始以来、2番目の下げ幅となりました。この結果を、三友先生はどうご覧になりますか。

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三友:広告費減少という点で見ると、数字上の規模は同じくらいですが、リーマン・ショックとコロナ禍には大きな違いがあります。リーマン・ショックでは、主に広告主に大きなインパクトがあったのですが、このコロナ禍は消費者側にも重大な影響を及ぼしています。それに、ダメージを受けた業種が、リーマン・ショック時と比べて非常に広範にわたります。

一方で増収増益を達成している企業もあるのですが、さすがに広告のように目に見える形でマーケティング戦略を派手に展開することははばかられる。さらに、ゲームやパソコン関連がそうですが、需要増に応えて事業を拡大したくても部品の供給が滞ってしまい、生産をコントロールせざるを得なくなったところもあるでしょう。

奥:成長した業種や企業はあっても、それで必ずしも広告費を増やせたとは限らないということですね。

三友:また、全体的に見て、インターネット広告への流れがますます加速していますが、コロナ禍の収束後、この流れがどうなるのかは興味深いです。それにインターネット広告と一言でくくってしまいますが、実際は多種多様な性質を持っていて、効果や影響もそれぞれ違いますよね。

例えばYouTube広告にはいくつかのフォーマットがあって、スキップできるものとスキップできないものがあります。また、バナー型のディスプレイ広告は能動的にクリックされるので、視聴者へのリーチがほぼ確実に分かりますが、そうではなく「動画を見たいのに、いきなり広告を見せられた」場合、ネット広告はテレビCM以上に「邪魔なモノ」と受け取られかねません。

このように、どういう形の広告が、どういう条件で受け入れられているのか、利用者の評価、受容性は引き続き注視したいです。

奥:確かに、テレビは「CMが入る」という前提で本編がつくられていますが、動画サイトで強制的にCMに入ってしまう場合、利用者の受容する姿勢は同じではありませんよね。それに、テレビ文化で育った比較的年配の視聴者と若年層とでは、動画サイトでのCMへの受容性も違います。その点は広告業界も課題感を持って取り組んでいます。

テレビとネットを分ける意味が薄れ、進むのは「一周まわってテレビ」化

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三友:この調査では総広告費を「マスコミ4媒体」「インターネット」「プロモーションメディア」の三つに分類していますが、こうした切り分けが、今後は徐々にあいまいになっていくのではないでしょうか。YouTubeでNHKのCMを見て驚きましたが、考えてみると、特にテレビとインターネットの間では行き来が増え、マスとネットを分ける意味は徐々に薄くなってきています。

最近「テレビ」という家電の立ち位置、性格が急速に変わっているように感じています。これは私の場合ですが、テレビをつけますと、まず地上波の番組が映ります。一通りザッピングして、見たい番組がなければ衛星放送に変えます。衛星には面白い番組もあるのですが、通販系が多かったりしますと、今度はインターネットに行って、テレビ画面のままネットの動画を見たりするわけです。

若者たちはスマホで動画をよく見ると言われますが、今は在宅の機会も多いですし、Netflixのドラマを見るにしても、自宅の大きなスクリーン、つまりテレビ受像機で見る方が楽しいでしょう。今やネット動画の質もテレビと遜色ありませんから、地上波や衛星放送と区別なく、インターネットの動画もテレビ受像機で見るわけです。

こうした変化の中で、広告については、こちらはテレビ、あちらはネットと分けることに、一体どれだけの意味があるかは考え直す時期に来ていると思います。

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出典:CCI 国内動画配信サービス・プレイブック

奥:そういう生活者の変化について、私は数年前から、「一周まわってテレビ」という言い方をしています(笑)。特に昨年から、巣ごもりで皆が家にいたことが大きく影響して、テレビのスクリーンを動画配信や動画共有のスクリーンとして使うようなスタイルが広まりました。

電通グループ会社のサイバー・コミュニケーションズ(CCI)による調査では、2020年の6月時点でテレビのネット接続率が50%を超えるまでになっています。さらにこの先、大きなスポーツイベントがあったり、4Kテレビの普及が進むと、たいていの家庭でテレビがネットにつながって、テレビのリモコンにYouTubeボタンが付いているのが当然ということになる。同じ番組を見ていても、放送波で届いた映像なのか、ネット経由なのか分からなくなりますから、広告費を集計する側は大変なことになりますね(笑)。

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出典:CCI 国内動画配信サービス・プレイブック

三友:そのように、インターネットの動画はパソコンやタブレット、スマホといったデバイスでの視聴から、テレビ受像機で見る流れができてきた印象があります。しかし、逆の流れ、つまり「テレビ番組をパソコンやスマホで見る」という方向は、まだまだ制約がありますよね。

奥:私と三友先生は、総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」でご一緒していますが、地上波とネットの同時配信についてはこの4~5年議論を重ねてきて、ようやく「NHKプラス」が始まったのが、コロナ自粛期とほぼ同じタイミングでした。

三友:この点、やはり日本は遅れていると感じます。テレビには産業としての伝統や保守性もあり、難しいのは分かるのですが、双方の行き来があまりにも“対称”でありません。放送や通信を巡る政府の会議では「テレビがいかにネットの方に出ていくか」という限定的な議論に終始しています。そうこうしている間に、ネットが「デバイスとしてのテレビ受像機」を乗っ取りつつある、そんな状況になってしまっているようにも思います。

マルチスクリーンの使われ方は「同時視聴」から「シーケンシャル視聴」に

奥:ネット動画サービスでいえば、例えばTVerからは、「TVerの視聴デバイスがPCからテレビにシフトしている」と発表されています(※)。先生のおっしゃる通り、ユーザーは「テレビ受像機でネット動画を見る」方向に進んでいるわけですね。

※【TVer】2020年10-12月期サービス利用状況
https://tver.co.jp/news/-tver-202010-12-14f1f2-1.html

ただ、「では単にテレビのコンテンツをネットに持っていけばいいのか?」という問題もあります。ネット側からいえば、もともとパソコンやタブレット、スマホがあった上でのテレビ受像機ですから、延長線上で考えられるでしょうが、テレビというのは、ひたすら本編を放送してきましたから、他のデバイスに持っていこうとしたときに融通が利かない。

「同時配信」の名の下、NHKプラスや日テレ系ライブ配信の例もありますが、単純に地上波と同じコンテンツをそのまま配信しても、特にカジュアル視聴志向の強い若い人たちにはそれだけではなかなか見ていただけないでしょう。

三友:確かに、若い人は「長いもの」を敬遠する傾向が強く、1話完結的なもの、短いものが受け入れられやすい。ネット動画は短いものが多いですね。テレビ番組というのは、なんていうのか、“次”に引っ張ろうとするじゃないですか(笑)。

奥:動画共有サイトをよく見ているユーザーからは「テレビ番組は、“引っ張る”ところが良くない」と言われることもありますね。特に民放の場合はCMというタイミングもありますので、どうしても、少しだけ先に見せておいて、後でしっかり見ていただこうという、“縦”の視聴導線を重視せざるを得ません。

三友:近年のメディアを語るとき、よく「マルチスクリーン」といいますが、今の若年層は複数のスクリーンをシーケンシャル(連続的)に見ていきます。一つのプログラムを、家ではテレビを見て、外ではスマホやタブレットと、デバイスを変えながら、シーケンシャルに追っていく。

ちょっと前まではマルチスクリーンというと、テレビを見ながらパソコンを見たり、スマホをいじったりという“同時利用”のイメージでしたが、今は「デバイスを変えながらシーケンシャルに見ていく」スタイルが多くなっているので、そうした生活者の視聴スタイルの変化に、テレビが追い付いていない面はあると思います。

奥:アナログ放送の時代には、家庭内にはテレビが複数台あって、お茶の間で家族みんなが見ることもあれば、親と一緒に見たくない、違う番組を見たい場合には個室のテレビで見ることもできたわけです。ところが今どきの家にはテレビは1台しかなくて、あとは各自ネットデバイスを持つ家庭が多くなっている。

昨年の6月、まさに東京アラートで、学校も休校になり、みんなが巣ごもりしていた時期ですが、この6月のMCR(Media Contact Report=メディア環境調査)データを見ると、「自宅でネットを思いっきり使って、寝る直前までネットで遊んでいる高校生」の姿が見えてくるんですね。

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高校生のメディア利用の変化(2019年、2020年比較)。ビデオリサーチ社 MCR2010年(関東地区)、MCR/ex2019年・2020年(上期・東京50km圏)より作成

三友:私も授業で学生に「今朝、起きて最初にしたことは?」と聞くと、皆「スマホを見た」って答えるのですね。そして、「じゃあ昨日寝る前、最後にしたことは?」と尋ねると、「スマホを見た」っていう(笑)。

奥:今や多くの人の目覚ましがまずスマホですし(笑)、スマホに送られてきた定時のニュース配信をきっかけにしてネット側にエントリーしていきますから、もはやネットとは切っても切れない生活です。コロナ禍の影響もあって、若い人だけではなく年配者も含め、「みんな」の生活にネットがしっかりはまった、根付いたと思いますね。

ネット最大の魅力はフルオンデマンド。テレビにもそれが求められる

三友:ネットで最もみんなに見られているのがYouTubeです。視聴者参加型で、幅広いコンテンツで溢れています。一方、テレビのコンテンツは非常によくつくられてはいますが、YouTubeに数多く投稿されているコンテンツの多様性には、テレビにはない魅力があります。

また、YouTuberといわれる人たちの登場で、面白い動画をネットに投稿することが収益につながると分かりました。テレビ局のような大きな事業ではなくとも、メディアという世界、映像の世界において個人事業主による新しいビジネスモデルが出来上がってきたのです。

さらに、ネット最大の魅力はフルオンデマンドであること。つまり、生活者が見たいときに見たいコンテンツを見ることができる。ところがテレビはそうなってはいない。それはまさに、広告との兼ね合いもあるのでしょう。

奥:先ほどのMCRのデータを見ますと、コロナ禍を経て、男女10代の起床時間が1時間くらい遅くなっています。通学の時間がない分、家でゆっくりできて、その分若干“夜ふかし”になっていたりする。

しかし、放送のスケジュールは、相変わらず7時のニュースは7時に始まりますし、8時からの連ドラは8時スタートのままでした。テレビの番組編成はいつも通りで、「生活者の生活行動が大きくズレた」という現実は加味されていなかったわけですね。

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睡眠トレンドの時系列変化(男女10代)を2019年と2020年で比較。ビデオリサーチ社 MCR/ex2019年・2020年(上期・東京50km圏)より作成

昨年の4~6月期には皆さん家にいましたので、いつもよりテレビをたくさん見ていたことが視聴率データからも明らかです。ところが、だんだんワイドショーやバラエティー番組に飽きてきたのか、YouTubeやNetflixなどのオンデマンド系のネット動画視聴が増えていき、10月頃になるとテレビの視聴率も元に戻ってしまいました。

この経緯を見ますと、見たいときに見られるオンデマンドのサービスが高く評価され、もっといえば、従来はあまりネット動画を視聴していなかった人々にまで「オンデマンド視聴」の裾野が広がったのだと思います。

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2019年と2020年のテレビ視聴率推移。出典:ビデオリサーチ テレビ視聴率 関東地区・世帯 6-24時 全局視聴率

これからのメディアが発信すべきは、さまざまなレベルの情報と多様性

三友:ところで最近、ネットで昔のCMをまとめたコンテンツを見る機会がありました。A社のインスタントラーメンのCM、S食品のラーメンのCMとか、古いCMがたくさん登場するのですが、ほとんど全部覚えているのです(笑)。当時の広告はいずれもすごいインパクトで、それぞれのCMがそれぞれの番組と結びついていた、一体化していたように思います。

近年のスポットCMは、単に「商品の何かを、企業の何かを宣伝するための時間」でしかなくなってしまったようにも思えます。生活者が動画広告をスキップするという話もありましたが、広告自体が魅力的なものに変わっていかなければいけない。ただ、テレビとネットがクロスする時代に、どういう広告に効果があるのか、どういう見せ方がよいのかは難しい問題です。

奥:私も小学生、中学生のころからテレビっ子でしたから、当時のアニメ番組の提供社もセットで覚えています(笑)。それがブランドリフトにつながるという、テレビらしい中長期のブランド戦略にマッチしていたわけですね。一方ネットは比較的短期の“刈り取り”を得意としていましたが、ネット動画がテレビスクリーンに出るようになると、ブランドリフトも可能になってくるのではないかと思います。

三友:もう一つテレビの課題として、情報が画一化していることが挙げられます。SNSでの情報取得が増えてきているとはいえ、コロナ禍に関しても、やはりテレビから情報を得ている人が多いと思います。実際に多くの情報バラエティー番組がコロナの話題を取り上げますが、MCと専門家のゲスト、レギュラーのコメンテーターがパネルディスカッションをする番組がほとんどです。

本来、テレビにはさまざまな情報を提供することが期待されているわけですが、ともすればどこも同じになってしまう。一方インターネットの情報は信頼性に欠ける部分もありますが、生活者が本当に欲する情報があったりするわけですね。

奥:テレビとの付き合いの少ない、ネットから情報を得ている若年層を中心に、玉石混交の情報の中からファクトを拾い出し、自分なりに「世の中はこうなんだ」と理解している人も増えているように感じます。「情報の信頼性はネットよりもマスの方が高い」といわれてきましたが、もうそこまで単純化できないのかもしれません。

三友:テレビの性格上、すべての人のニーズに合った情報を出すことはできません。その点で、多様性にも限界があります。例えば大きな地震があったとき、1次的な情報としてテレビは非常に重要ですが、断水したときに水はどこでもらえるかといったニーズには十分に応えられません。そのため、全国ネットにローカル、あるいはケーブルテレビなど、さまざまなレベルの情報があって相互に補完することが重要なのだと思います。

奥:情報の多様性は担保すべきで、ユーザーが選べればいい。そうした多様性をより理解しているのは、やはり若い世代かもしれませんね。お話をしながら、コロナ禍が現代社会とメディア利用の変化をあぶり出しているように感じました。本日はありがとうございました。

※本記事は以下のリンクから、転載元のWEB電通報で直接読むこともできます。また、3月に発行された「情報メディア白書2021」では、広告費だけでなくメディアの最新動向を示すデータが掲載されています。Kindle版もあるので気軽にお求めください。

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