映像制作/放送関連機材
2019.04.27 UP
本年の来場事前登録のアンケート回答が済んでいません。アンケートのご回答をお願いします。
一方破壊的イノベーションとして鳥肌が立ったものに、ソニーモバイルの「XPERIA 1」がある。名前からわかる通り、スマホだ。NAB会場ではかなり異質であり、これを報じたメディアは少ない。HDR対応有機ELを採用し、画面アスペクト比は21:9で、これはシネスコサイズの2.35:1とかなり近い。
ソニーモバイルでは、VENICEで撮影した映像をWi-Fi経由でリアルタイムにXPERIA 1に飛ばし、スマホ側でLUTを当ててマスターモニタと限りなく近い色表現で表示させることに成功した。
VENICEコーナーに置かれたXPERIA 1(上写真)に意味が分からず、首をかしげる人もいた。これによって何が起こるか。今撮影現場では、監督、カメラマン以下照明さん、ヘアメイクさん、衣装さん、大道具さんらがスタッフのリーダが1つのマスモニの前でぎゅうぎゅうになって絵を見て、それぞれの担当の状況をチェックしている。それが、各個人で持っているスマホで確認できるようになるのだ。
もちろん、監督とカメラマンは存分にマスモニで見て貰うわけだが、それ以外のスタッフは絵の中で見ているポイントがそれぞれ違う。ヘアメイクさんは、いつも演者の顔と頭を拡大して見たいわけだ。それがスマホなら、画面をクイッとピンチインすれば、どんなカットを撮っていても、自分の見たいところが見られる。
コンシューマ機器メーカーであるソニーモバイルとしては、映画業界のセオリーがわからないので、果たしてそういうことをやって怒られないかとおっかなびっくりの展示だったが、それは違う。
破壊的イノベーションは、最初の一歩は大きな抵抗があるものだ。ソニー全社的には「いやいやすべてのお客様にメリットがあるように」と絶対言わされると思うが、気にするな、ソニーモバイル。「いやー僕らソニーじゃないんでー」って顔して、どんどん行け。
日本では今年4月から働き方改革関連法案の一部が施行され、時間外労働の上限が守れない経営者には罰則が科せられる事となった。もちろん、映像業界も例外ではない。体壊すまで働かせるなどナンセンスな時代にありながら、24時間分のテレビ番組は用意しなければならないという矛楯を抱えている。
そんな中、スタジオワークの省力化・自動化は、世界的には別の理由で進められようとしている。スタジオ用ロボットカメラは、今となっては中国のお家芸になりつつあるが、彼らがそこに向かうのは、複雑な撮影がこなせる熟練したカメラマンがいないからである。
一方アメリカのニーズは、ニュースやスポーツなどライブ番組の増加に伴い、1つの現場はなるべく人を減らして、その余力でより多くの番組を作る、ということにフォーカスし始めた。
パナソニックは、8Kの固定カメラを使い、HD映像を切り出すスタジオソリューションを、「Innovator in Live」と題して出展した。そんなの前からやってるじゃん知らないのか? と言われるかもしれないが、今回の展示はちょっと主旨が違う。
これまでの切り出しは、スタジアムの広い絵を8Kで撮影しておき、切り出しで選手を追いかけるといった使い方を想定していた。だが今回の目的は、スタジオワークの自動化である。
演者に赤外線ビーコンを取り付け、壁に取り付けたセンサーで位置情報を取る。切り出し枠は、その位置情報を元に自動追尾する。あらかじめ切り出しサイズを指定しておけば、形状認識により切り出しサイズも自動で変わる。つまり、演者がカメラに近づいても離れても、常に同じバストショットで切り出すなど、本来カメラマンが手動で行なう演者フォローとズームを自動でやろうというものだ。
デモでは同時に4人を切り出していたが、スタジオワークなら十分だろう。カメラマンゼロの生放送まで、あと少しのところまで来ている。
アメリカのニーズを受け止めるNABの展示は、シネマ系のじっくり撮るタイプもあるが、主戦場はライブ中継ソリューションが中心だ。これまでは人数集めてエイヤッとやっていた現場を自動化して2、3人で回そう、というのがトレンドである。
同時にネット放送がビジネスになり始め、テレビ局でさえもネットでいかに収益を上げるかというフェーズに入ってきた。そのためには、躊躇なくローバジェットの機材を投入する覚悟がある。放送の技術を持ちながら、「放送とは違う」と割り切って進めているあたりが、実にアメリカっぽいわけである。
(小寺信良)