Inter BEE Online Inter BEE 2020  11.18-20

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Special 2019.11.05 UP

【INTER BEE CONNECTED2019】スポーツ中継のレジェンドがプロデュース!基調講演「スポーツ中継のフィロソフィー〜TOKYO2020に向けて」事前レポート

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WOWOW社長・田中晃氏は日本テレビ時代に箱根駅伝中継を立ち上げたスポーツ中継のレジェンドだ

今年のInterBEEは新たな特別企画としてSPORTSを加えるなど、TOKYO2020を意識した企画が多い。INTER BEE CONNECTEDでも初日はスポーツDAYと設定し、基調講演もふさわしい方にお願いした。WOWOW社長の田中晃氏。放送関係者なら間違いなく知っているスポーツ中継のレジェンドだ。日本テレビ在籍中には箱根駅伝の生中継を立ち上げて正月の風物詩に育て上げ、野球中継を「劇空間プロ野球」として再興させた。そこにはいつも、スポーツを愛する熱いハートと、スポーツの素晴らしさを人びとの胸に刻み込むためのフィロソフィーがある。きっとその志をたっぷり一人でお話いただけると思っていたのだが、準備が進むうちに登壇者が増えている。いったいどんな基調講演になるのか知りたくなり、田中氏に取材にした。お話から伝わったのは、現場を離れても捨てていないプロデューサー魂。90分に入りきれないのではと心配なほど充実した基調講演の中身を、ご紹介しよう。
(コピーライター/メディアコンサルタント 境治)

スポーツ中継は制作者によってまったく違うものになる

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WOWOWの会議室で取材に来た筆者を目にした田中氏は「おや?境くん!」と顔をほころばせた。実は20数年前、田中氏が日本テレビで野球中継を「劇空間プロ野球」のタイトルでリニューアルさせた際、コピーライターとして広告を企画したのが筆者だった。その後も何度かお会いしてはきたが、久しぶりの再会にしばし昔話に花を咲かせた。当時の企画に合わせて作った「一徹さんウチワ」をすぐに出してこられたのは感激だ。
「誰がやっても同じに思いがちなスポーツ中継が、制作者によって全然ちがうものになる。そのことをまずみなさんにわかってもらいたいです。」と現場時代と変わらぬ情熱で今回の基調講演のコンセプトを語る。この熱が周りの人びとをも巻き込んでしまう。
プログラムには田中社長の名前とともに、読売巨人軍の今村司社長、日本テレビの岡部智洋編成局長とスポーツ局の望月浩平ディレクターの名が並んでいる。実は今村氏はもともと日本テレビのスポーツ局に在籍し、プロデューサー田中氏のもとで野球中継のディレクターだった方だ。岡部氏もスポーツ局出身で、いわば現場時代の田中組の面々、田中氏の熱を浴びて育った人びと。お三方を通じて、ラグビーワールドカップの成功の裏にあるフィロソフィーを感じてほしいと田中氏は言う。

ラグビーワールドカップ成功の裏には送り手たちの熱い志があった

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今村氏は、2007年に日本テレビがラグビーワールドカップの放送権を獲得した時の、スポーツ局チーフプロデューサーだった。「この年に獲得に動いたのは、ラグビーは日本人のマインドに合うはずだとの確信があったからです。将来の優先権を得たことが、今年の盛り上がりにつながりました。」
日本のスポーツ中継を切り開いてきた作り手たちだからこそ、ラグビーと日本人の関係がイメージできたのだろう。その延長線上に今年があった。
そして田中氏は2枚の書類を見せてくれた。まず1枚目は、今年のラグビーワールドカップを放送するにあたり、編成としての考え方をまとめたものだ。それを見て筆者は驚いた。目標として「放送の成功」はわかるが「大会の成功」まで日本テレビが掲げているのだ。さらに「ラグビーを財産に、文化に」ということまでテレビ局が目標にするとは。そこまで高い志で放送に臨んだからこそ、いまラグビーを日本人は新しい文化として受け止めているのだと思う。ワールドカップを編成するにあたってのフィロソフィーを、岡部氏が語る。
もう一枚はラグビーワールドカップの中継でチーフディレクターを務めた望月氏が作成したもので、番組制作の方針がこってり書かれている。詳しくは当日の楽しみにしてもらうとして少しだけ書いてしまうと、「人が入り口。相手チームの名前を最低三人は放送後に覚えてもらう」などとある。ラグビーというこれまで日本で縁遠かったスポーツをどう見せれば親しんでもらえるか、徹底的に考え抜いた方針が書き並べてあるのだ。明確な狙いがあったからこそ、私たちはラグビーに馴染んだのだと痛感する。「にわかファン」と前向きに言われたが、「ジャッカル」という言葉をみんなが覚えたのも、印象的な選手を記憶したことも、すべて望月氏の戦術にあったのだ。
これこそが田中氏の言う「スポーツが制作者で違うものになる」の実例。今村氏、岡部氏、望月氏に登壇してもらうことで、スポーツ中継に必要な理念を知ってもらうのが、田中氏の狙いだ。

パラリンピックのゴールは、「共生社会」を感じること

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ここまででお腹いっぱいになりそうだが、基調講演の後半ではパラリンピックの話題に移る。
「パラリンピックの魅力は何か。まず、フェアネスです。スポーツではフェアであることが最上位概念。だけどパラの競技はアンフェアの塊です。同じ競技に出る選手でも、人によって障害がまったく違う。どこまでいってもアンフェア、だからこそフェアネスの大切さが強く感じられます。もうひとつは自分を超えること。パラでは選手が多様だから、ゴールも多様。ある選手にとっては完走さえ難しい。その人にとってはゴールそのものがゴールになる。それぞれが自分を超えるのが目標なのです。」パラリンピックの価値を突き詰めた、結晶のような言葉に惹きこまれる。
「パラの魅力に真正面から向き合って伝えられれば、その後の日本社会にフェアネスや多様性が根づくことになる。それが共生社会への道だと思います。」
こうしたパラリンピックの理念を伝えるために長野パラリンピックのメダリスト・マセソン美季氏が登壇する。

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「パラリンピックは勝った負けたではなく、その先にオリンピック以上に伝えるべきメッセージがある、とマセソンさんは言っています。」
マセソン氏は日本財団のプロジェクトマネージャーで「I’m Possible」という日本の小中高生に向けた教材づくりをしている。この教材で若い人にパラリンピックのスピリットを伝えることで、20年後に共生社会になったのは2020がきっかけだったと言ってもらえればいい、と田中氏は言う。
「大人の思い出作りは何の意味もない。若い人たちをインスパイアして共生社会の理念が植え付けられてこそ、2020日本開催の意義があるのだとあちこちで言っています。」
マセソン氏の教材にはWOWOW製作の「WHO I AM」の素材が使われている。そのプロデューサーとしてWOWOWの口垣内徹氏が登壇する。「WHO I AM」はWOWOWとIPCの共同プロジェクトで世界のトップパラアスリートを紹介するドキュメンタリー・シリーズ。年8人、来年5年目で計40人を取り上げるものだ。
「この映像を放送するだけでは意味がない。パラリンピックに関して何かやりたい企業や自治体、学校に材料にしてもらい、アスリートを呼ぶなどの活動を、WOWOWは会社として始めています。ここはWOWOW社長として言ってるわけです(笑)」
田中氏は基調講演の概要を、まるで90分特番のプロデューサーのように熱く、また楽しげに語ってくれた。本当に充実したプログラムで聴講するのが楽しみだが、90分に入りきれるか心配でもある。
「盛りだくさん過ぎちゃうね」と言いながら笑う田中氏は、現場時代とまったく変わらない。

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