Inter BEE 2026 幕張メッセ:11月18日(水)~20日(金) Inter BEE 2026 幕張メッセ:11月18日(水)~20日(金)

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Special 2026.06.26 UP

【Inter BEE CURATION】第2回|「ピッチング」という名の、国際共同制作企画の戦場

テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子

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「Co-Pro Pitching Sessions」公開ピッチングの様子。企画の必然を語る、国際共同制作の入り口だ。(筆者撮影)

国際共同制作に向けた支援が、次のステップに進む。5月に始動した総務省による海外ピッチング支援プログラム「Japan Drama First Look: Co-Pro Pitch」の第二弾として、TCCF(台湾・台北/11月)向けの公募が始まる。第一弾のBCWW(韓国・ソウル)に続く動きで、3つの国際マーケットを舞台にしたピッチング支援が順を追って回り始めている。では、ピッチングとは何か。ドラマの国際共同制作を探る世界最大級の市場、シリーズマニアの現場から答えを探る。

独立系クリエイターにとって絶好の機会

総務省による海外ピッチング支援プログラム「Japan Drama First Look: Co-Pro Pitch」が対象とするのは、BCWW、TCCF、そしてシリーズマニア(フランス・リール)の3マーケットだ。なかでもシリーズマニアは、ドラマの国際共同制作において最も影響力を持つ市場の一つとされる。今年3月の開催では、75カ国から5,200人のプロフェッショナルが集まり、500人のバイヤーが商談に臨んだ。

シリーズマニアのプロ向けイベント「シリーズマニア・フォーラム」の目玉プログラムが「Co-Pro Pitching Sessions」だ。ピッチングとは、開発段階の企画をバイヤーや放送局の前で直接プレゼンし、共同制作へとつなげるプロセスだ。国際マーケットでは公開で行われることが多く、企画者は限られた時間で作品の世界観と必然性を伝え、相手を動かすチャンスの場になる。なかでも、独立系クリエイターやグローバルネットワークが弱い企業にとって絶好の機会と言える。

シリーズマニア2026では65カ国から約400件の応募が集まり、そこから選ばれた15企画が、会場最大規模のシアタールームでのプレゼンテーションに進んだ。ほぼ満席だった期待と緊張感が漂うなか、今年の最優秀プロジェクトに選ばれたのは、Studio Oymoとヒューマン・フィルムズによるキルギスの独立系スタジオによる『RED PANTS』だった。シリーズマニア初参加国から受賞に至ったのは、彼らのピッチング力の高さが一つの大きな要因だった。

ピッチングに立ったのは3人。プロデューサーのエルケ・ジュマクマトヴァ氏、共同プロデューサーのパヴェル・フェルドマン氏、そして脚本家のティレク・チェリコフ氏だ。それぞれが役割を分担し、世界観とストーリー、物語の必然性、そして国際共同制作に求めるパートナーを示した。その構造自体が、すでに計算されていた。

「赤いパンツ」から、反乱は始まるストーリー

開発中のドラマ『RED PANTS』の舞台は、旧ソ連下の1970年代後半、キルギス。女性主体の犯罪組織と、それを壊滅させようとするKGBの攻防を描くクライムサーガだ。

まず語られたのは、作品の世界観だった。「セルゲイ・パラジャーノフがピーキー・ブラインダーズに出会うような作品です。詩的な映像言語と、反抗する若者ギャングの生々しいエネルギーが衝突する。山岳地帯、ソビエトの残虐さ、10代の怒り、そして叶わない愛がテーマにあります」。

物語の骨格はこうだ。ソビエトの将校だった父を持つアイシャは、システムから弾き出され職業学校へ送られる。そこで出会ったジャナラとともにギャングを結成する。一方、KGBは「アップル・ディスコード作戦」と呼ばれる潜入工作を開始し、アイシャたちを壊滅させるための工作員を送り込む。アイシャと工作員のカヌバグは恋に落ち、やがて体制への反撃が始まる。実話を基にしながら、ソ連崩壊という時代の終わりを背景に重ねた。「ソビエトが崩壊していく様子を見るのは面白い。芸術的にも機能する」とプロデューサー陣が語った。

会場の注目が最も集まった瞬間は、脚本家のチェリコフ氏が自身の言葉で語ったパートだった。静まり返った会場で、彼女はこう語った。

「私は、この物語の舞台となった国から来た女性です。キルギスでは、女性の身体に向けられた『恥』が、女性をコントロールする最も強力な手段になっています。私が育った環境では、コミュニティに関わることはすべて恥とみなされていました。特に月経について。だから、『RED PANTS』のストーリーが生まれたのです。最初は生理の血を隠すために。やがて犯罪の血を隠すために。そしてついには、反乱の象徴、連帯の象徴へと変わっていきます」。

そして彼女はこう締めた。「レッドパンツを履く女性たちのほとんど子供です。それでもソビエトという圧倒的な権力に、真正面から立ち向かった。私たちが語るストーリーは、世界が今こそ本物の『RED PANTS』を見る時だからです」。

彼女は羽織っていた布をさっと取り、赤いパンツを見せた。身をもって物語を語ってみせた瞬間だった。3人のプレゼンテーションは、企画の説明ではなかった。物語が生まれた必然を、自分たちの言葉で、身をもって語ることだった。開発支援金として5万ユーロ(約800万円)を獲得した。

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シリーズマニアで最優秀プロジェクトを受賞したキルギスの『RED PANTS』©Chloé LECLERCQ/Series Mania

今、語るべき日本のストーリー

『RED PANTS』が審査員の心を動かしたのは、完成度の高いプロットではなく、「なぜこの物語を、この人たちが語るのか」という必然性だったと思う。脚本家が舞台となった国の出身であること、実話であること、そして今もその抑圧が続いているという現実。それらが重なって、この企画にしか語れない物語の必然が浮かび上がった。

日本の制作者がこうした公開ピッチングの場に企画を持ち込むとき、問われるのは同じことだろう。今、語るべき日本のストーリーがあること、この制作チームでなければならない理由。それが言語化できているかどうかが、ピッチングの勝負を分ける。時に衒いのないパフォーマンスも、効果的に訴える。

次回は、ピッチング中に行われることが多い審査員との質疑応答の中で見えた国際共同制作の企画成立の鍵を探る。

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