Inter BEE 2026 幕張メッセ:11月18日(水)~20日(金) Inter BEE 2026 幕張メッセ:11月18日(水)~20日(金)

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Industry Curation 2026.04.21 UP

【Inter BEE CURATION】映画製作者たちの矜持は健在 アカデミー賞授賞式

津山 恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2026年5月号からの転載です。

「表現の自由」を評価したアカデミー賞

2026年アカデミー賞授賞式が3月15日、アメリカ・ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われた。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』(ポール・トーマス・アンダーソン監督)が作品賞と監督賞など6部門で受賞。『罪人たち』(ライアン・クーグラー監督)が主演男優賞や脚本賞など4部門を獲得した。
2作品はともに、架空の政情批判や人種差別などをテーマに扱っている。

トランプ米政権が「多様性・公平性・包摂性(DEI)」を撤廃し、主要メディアへの圧力を強めているなか、賞を選ぶ米映画芸術科学アカデミー(AMPAS)は、「表現の自由」とその威力を評価した。
司会者や受賞スピーチをした登壇者からも、現在の政治・国際情勢を懸念した発言が飛び出した。
ただ、イランに対する武力攻撃が始まった直後だったが、それにはほとんど触れられていなかった。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、アメリカの作家トマス・ピンチョンの小説『ヴァインランド』が原作。

独裁的な米政権と戦うカリフォルニア州の移民収容所から移民を救済する元革命家・ボブ(レオナルド・ディカプリオ)が主人公。アンダーソン監督は今回を含め、過去に14回もアカデミー賞候補になっていたが、この作品でついに脚色賞、監督賞、作品賞を受賞し、感動を呼んだ。

アンダーソン監督はステージ上で、オスカー像を眺めながら、「これを手に入れるため、本当に根を詰めた」「でもこの素晴らしい、素晴らしい旅路に参加して、とても幸せです」と話した。
同作品は、助演男優賞、編集賞、キャスティング賞も得ている。

助演男優賞に選ばれたショーン・ペン氏は、支援し続けているウクライナを訪れるため式を欠席した。ペン氏は3回目のアカデミー賞受賞。ペン氏はかねてから、世界の被災地や戦地での救助活動に参加しており、ハリウッド俳優がこうした活動をすることも米国では広く支持されている。
主演男優賞を得たアフリカ系のマイケル・B・ジョーダン氏は、『罪人たち』で双子の兄弟二役を演じ分けた。
テレビドラマ出身の珍しい経歴を持つが、感極まったスピーチで「先人たち」に感謝を伝えた。

1932年の南部ミシシッピ州における黒人の歴史や人種差別、黒人音楽の力などを描いた作品で、まさに多様性への賛歌だ。
ジョーダン氏はスピーチで、過去にアカデミー賞を獲得してきたアフリカ系俳優らの名前をあげ、「偉大な先人たち」や「先祖たち」のおかげ、と感謝した。
「家族や皆が僕に成功してほしいと思ってくれているので、自分はこれからも頑張り続けて、自分がなれる最高の自分になり続ける」と述べた。

『罪人たち』では、撮影監督を務めたオータム・デュラルド・アーカポー氏が、女性として初めて撮影賞を受賞。
彼女は、「この部屋にいる女性全員に、本当に立ち上がってもらいたい。
みんながいなかったら、私はここに来られなかったと思う」と語った。これには、客席の女性らがスタンディング・オベーションで応じた。

また、『罪人たち』で作曲賞を受賞したのはスウェーデン出身のルドウィグ・ゴランソン氏。
自らの父親がブルースに大きな影響を受け、7歳くらいの頃に父親からギターを渡されたのが自分の音楽の出発点だったと紹介した。「音楽のおかげで、時代の最も偉大なストーリーテラーの一人、ライアン・クーグラー監督にたどりつくことができた。ライアン、あなたのそのビジョン、世界全体に共鳴した映画を作ってくれてありがとう」と感謝した。

リベラルなハリウッドにも変化が

受賞作は、明るくエンターテインメント性が高い作品ではなく、重いテーマを扱ったものが主流だった。
しかし、その一方で、ハリウッドにしては、トランプ政権や武力行使に対して問題を提起する場面が少なかったのではないか、という批評も目立つ。
スペイン人俳優のハビエル・バルデム氏だけが、2003年のイラク戦争開戦の際に広まった「戦争反対」のピンバッジを着用。ステージでもイランと米国の武力衝突を「トランプとネタニヤフ(イスラエル首相)による違法な戦争」と批判した。

一方、トランプ氏は米映画産業を守ることを理由に、外国製作の映画作品に100%の関税を課すことを表明。俳優らが「国際映画が米国で発表されなければ、市場が崩壊する」「ハリウッドにも悪影響」と批判している。
ハリウッドは、歴史的にもリベラルな民主党支持者が根強い。黎明期の創業者や主要人物にユダヤ系や移民が多く、権威や抑圧、差別に対する彼らの抵抗が市民に支持されてきた。

しかし、近年は映画スタジオなどの統合が進み、商業主義も表立ってきたのは否めない。17年からの第一次トランプ政権時に比べると、ハリウッドが政権と対立する目立った構図は薄れてきた。政権批判をするのも、俳優ロバート・デ・ニーロ氏など年配者が中心となっている。
それでも、今年の授賞式を見ると、アカデミーの矜持はいまだに健在、といった結果だった。

【ジャーナリストプロフィール】
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著に『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、共著)がある。

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