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Special 2026.05.28 UP

【Inter BEE CURATION】第1回|実写1割の現実と、国際共同制作という一手

テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子

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連続ドラマW 『BLOOD & SWEAT』(写真:WOWOW)

国際共同制作に向けた、国の支援が動き出した。
総務省令和8年度事業を受託したVIPO(映像産業振興機構)は5月21日、海外ピッチング支援プログラム「Japan Drama First Look: Co-Pro Pitch」の公募を開始した。完パケを売り込むわけではない。企画段階から海外の資金と市場を引き込み、制作そのものを国際的な枠組みで成立させることを目指す。新しい一手が、打たれた。

アニメ9割、実写1割という現状

今回の公募の正式な位置づけは、総務省令和8年度事業「実写コンテンツの資金調達多様化に関する調査」の一環だ。VIPOが受託し、日本のシリーズドラマ企画を公募・選定した後、BCWW(韓国・ソウル/9月)、TCCF(台湾・台北/11月)、シリーズマニア(フランス・リール/3月)のアジアと欧州を代表する3つの国際コンテンツマーケットでピッチングの機会を提供する。

これまで海外の国際コンテンツマーケットで存在感を示してきたのは、作品の権利を持つNHK、民放キー・準キー局が中心だったが、今回の支援は開発段階の企画を対象としていることもあり、中小の番組制作会社にも参加の間口が広がった。日本発シリーズドラマの海外展開を担うプレイヤーの裾野を広げる狙いがある。ピッチングに向けた事前トレーニングも実施され、国際舞台で勝負できる人材育成も視野に入れている。

背景にある数字を見ると、この事業が進められる文脈が見えてくる。総務省が2026年4月に公表した「実写コンテンツ展開力強化アクションプラン」では、2033年までに実写コンテンツの海外輸出額を2,500億円以上に引き上げる目標を掲げた。現在の実績は約94億円。7年で約26倍という高い目標だ。日本の放送コンテンツ輸出の大半を占めるアニメは、動画配信時代の追い風を受けてさらなる拡大が見込まれる。一方、実写は全体の1割程度にとどまっており、この底上げをどう図るかが問われている。

その突破口として浮上しているのが、国際共同制作だ。完成品を売り込む従来モデルの限界を超えるために、制作の起点から海外にも市場を開く。プログラム名に「資金調達の多様化」と明記されているのは、そういう意味だ。

企画段階から始まる、対話と摩擦

一言で言えば、国際共同制作とは複数の国の放送局や配信事業者、制作会社が、企画段階から資金・権利・クリエイティブを持ち寄り、一本の作品をつくるモデルだ。完成品のライセンス販売やリメイク、海外ロケの協力とは、根本から異なる。輸出モデルでは、つくり手はあくまで日本の文法で物語を完成させ、海外市場との対話は、完成後にしか始まらない。

共同制作では、企画の最初から複数の視点と複数の市場が混ざり合う。どの国の物語か、誰が主人公か、何が普遍的なテーマかを、交渉と対話のなかで決めていく。制作費を複数国で分担することで、一国だけでは難しい予算規模や品質を実現しやすくなる側面もある。その半面、契約交渉、文化・言語の違い、権利分配の複雑さといった障壁も伴う。それでもこのモデルが世界標準になりつつあるのは、摩擦の先に、一国だけでは届かなかった市場と物語が待っているからだ。

その具体例の一つが、WOWOWと日テレアックスオン、フィンランドのICS Nordicが共同制作したドラマ『BLOOD & SWEAT』だ。杏とフィンランド俳優ヤスペル・ペーコネンが主演し、約3年の開発・制作期間を経て、WOWOWでこの4月から放送開始、フィンランドの民放局Nelonen(ネロネン)でも年内に展開が予定されている。

ICS Nordic創業者のイルッカ・ヒンニネン氏が成功要因として挙げたのが「50/50」の関係性だ。「フィンランドのプロジェクトでもなく、日本のプロジェクトでもなかった。共通のプロジェクトとして互いに認識できた」と話す。どちらかが主導するのではなく、双方が同じ熱量で関わる体制が、長期にわたる共同制作を可能にした。作品のトーンを統一するため、日本とフィンランド・タンペレ双方の撮影で同じ撮影監督・照明スタッフを編成したことも、その姿勢を象徴している。ただ、こうした出会いは偶然に頼るばかりではない。

シリーズマニアが映した現在地

そもそも、国際共同制作はどこから始まるのか。企画段階からパートナーと資金を引き寄せる場として機能しているのが、国際コンテンツマーケットでのピッチングだ。どの市場で、誰の前で企画を披露するか。それ自体が、共同制作への入り口になる。その意味で、フランス・リールで毎年開かれる「シリーズマニア」は、国際共同制作のピッチングの本場といえる場だ。75カ国から5,200人のプロフェッショナルが集まり、500人のバイヤーが商談に臨む欧州最大級のドラマ見本市である。

シリーズマニアで行われるビジネスフォーラムの核心は「Co-Pro Pitching Sessions」にある。開発段階の企画を国際共同制作へとつなぐ場として10年以上の実績を持ち、今年は65カ国から約400件の応募を経て選ばれた15企画が公開プレゼンテーションを行った。審査員にはMovistar Plus+、ARTE、ZDF、SVTといった欧米の主要バイヤーが名を連ねた。開始以来40以上のプロジェクトが実際に制作・放送に至っており、日本のHuluも参画したスペイン発『The Head』もその一つだ。

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フランス・リールで毎年開かれる「シリーズマニア」ビジネスフォーラム会場(筆者撮影)

このシリーズマニアの場で今年、日本は初めて総務省事業として公式セッション「Coming Next from Japan」を開いた。国際共同制作に取り組む日本のプロジェクトを世界の業界関係者に向けて紹介する場だった。足場を固めた一年、と言っていい。その手応えを受けて動き出したのが、冒頭で触れた海外ピッチング支援プログラムになる。日本のシリーズドラマ企画を国際マーケットでピッチングする機会を枠組みとして設けた。紹介から実戦へと移る。現場の一歩と政策の一手が、ようやく連動し始めている。

次回は、シリーズマニア2026のピッチング現場から。企画はいかにして国際共同制作へと動き出すのか。

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