Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2023.02.06 UP

【Inter BEE CURATION】生き残りのヒントは「日本と韓国を繋げるIPエンタメ」にある【InterBEE2022レポート】

編集部 Screens

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2023年2月1日に掲載された「INTER BEE CONNECTED」のセッション「生き残りのヒントは『日本と韓国を繋げるIPエンタメ』にある」をまとめた記事となります。是非お読みください。

一般法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「InterBEE」を、2022年11月16~18日にかけて開催。今回は幕張メッセでのリアルイベントとオンラインイベントを並行しての開催となった。本記事では、2年ぶりにリアルイベントとして開催された「INTER BEE CONNECTED」のセッション「生き残りのヒントは『日本と韓国を繋げるIPエンタメ』にある」の模様をレポートする。

Netflix、Amazon Prime Videoなど動画配信プラットフォームを通じて日本コンテンツのグローバル展開が進む一方、韓国発のドラマや映画は今や破竹の勢いで世界的な人気を得ている。本セッションでは韓国のIP(知的財産)エンターテインメントビジネスにフォーカスをあて、その成功から日本が学べるポイント、ヒントをパネルセッション形式で探る。

パネリストは情報経営イノベーション専門職大学 超客員教授 黄 仙恵氏、株式会社TBSテレビ ウェブトゥーン事業担当/韓国Studio TooN 代表取締役会長 長生 啓氏、株式会社フジテレビジョン 編成制作局 編成ビジネスセンター グローバル事業部 部長職 チーフ 東 康之氏。モデレーターをコンテンツビジネス・ジャーナリスト 長谷川朋子氏が務めた。

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■韓国コンテンツの世界的ブレイクを生んだ「背景」と「構造」

2021年の韓国コンテンツ産業支援政策調査(VIPO)によれば、韓国におけるコンテンツ産業規模は日本円で13兆円相当。その後も年々増加を続けている。なぜここまでの規模に成長することができたのか。「人口規模の小さい韓国では国内のインターネットサービスが『新たなメディア』として非常に発達してきた」と黄氏はその背景を語る。

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情報経営イノベーション専門職大学 超客員教授 黄 仙恵氏

「メディアごとの新規ユーザー獲得が多発的に起こったことで、韓国コンテンツ市場そのものの全体的な拡大につながった」と黄氏。コロナによる行動制限も大きく影響しているという。

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「コロナによる行動制限で対面イベントを打ち出せないなか、映画会社がドラマの制作に乗り出し、K-POPアーティストがデジタルメディア上でのライブやファンコミュニティを構築するなど、エンターテインメント産業が新しい産業と手を組んで次々と新しい事業を行った。コロナでIPビジネス全体の市場は一時縮小を余儀なくされたが、結果としてここからの起死回生策がローカルとグローバルの垣根を取り払うことにもつながった」(黄氏)

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「韓国の人口は5000万人と日本の半分以下であり、もともとどの産業でも初めから輸出が念頭に置かれていた背景がある」と長生氏。「2000年代初頭、日本での『冬のソナタ』ブームは、韓国のメディアにとって『海外でヒットすればこんなにお金が入ってくる』という大きな気づきを与えた」と語る。

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TBS/StudioToon長生 啓氏(写真中央)

これに対して長谷川氏は、「韓国では政府の外郭団体『韓国コンテンツ振興院』によって国内コンテンツ産業への大規模な支援が行われている」と政策的な背景について言及。

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コンテンツビジネス・ジャーナリスト 長谷川朋子氏

2022年には過去最高、日本円で502億円相当の予算が設定されたというが、そこには「新たなオリジナルの『ストーリーIP』開発を産業として盛り上げていこうという戦略がある」という。

ストーリーIPとは、ドラマや映画などのストーリーコンテンツを主体とするIP。韓国のコンテンツ産業がここに注目する理由は何なのか。

黄氏はIPビジネスの特徴として「原型性、拡張性、連携性」の3つを挙げ、「IPコンテンツのなかでも『ストーリーIP』はこれらの要素がすべて凝縮されている」と語る。

「『ストーリーIP』には著作権から保護された原本としての価値があり、さらに多様な形で活用、変形、修正、再加工できる。ジャンルやプラットフォームの壁を乗り越えられる拡張の可能性が無限にあるため、ひとつのコンテンツに完結せず、異業種とのコラボによって大きな相乗効果を得ることができる」(黄氏)

「韓国ではアメリカ同様プラットフォームとプロダクションが構造として分離しており、コンテンツビジネスにおけるプロダクションの利益規模が大きい」と長生氏は語り、とくに「ビジネス面を支える立場のスタッフが明確に存在することでクリエイターがコンテンツ制作に専念できる環境が整っている」とコメント。「IPO(株式上場)をはじめ、プロダクションサイドの経済的な野心が非常に高い点が大きな特徴だ」とした。

■TBSは韓国企業と合弁プロダクションを設立。“日韓IPコラボ”で得られる新たな視座

そんななか、日本のコンテンツ企業が韓国でのストーリービジネスに参入するケースも。TBSはNAVERグループ、SHINE Partnersとの合弁でウェブトゥーンの制作プロダクション「Studio TooN(スタジオ・トゥーン)」を韓国に設立した。

ウェブトゥーンとは、スマートフォンを主な媒体とする電子マンガ。フルカラーのコマを縦スクロールで読み進めるフォーマットが特徴だ。

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黄氏いわく「2020年に韓国でリリースされた作品が4232作品でリリースされ、365日何らかの新しい作品が誕生している」といい、発祥地の韓国をはじめ、日本やアジア欧米でも急速にユーザーを拡大。日本でもヒットした『梨泰院クラス』など、ウェブトゥーンを原作とするドラマも多数制作されている。

M&Aではなく合弁の形で直接参入した経緯について、長生氏は「最先端の場所でのクリエイターの協業を念頭においた」とコメント。日本の「LINEマンガ」もNAVERグループの一員であるという点も背景にあるという。

「NAVERのプラットフォームで韓国から発信すれば、日本の『LINEマンガ』にも掲載され、さらにはサービス提供地域であるアジア各国やアメリカにまで展開できる可能性がある。韓国市場を押さえることは『世界を押さえる』ということとイコールだと考えた」(長生氏)

一方、東氏もフジテレビの動画配信サービス「フジテレビNEXTsmart」における事例を紹介。

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フジテレビ 東 康之氏

サブスクリプションの黎明期、K-POPアイドルを招いてのオリジナル番組を配信したところ、「会員数が2倍になった」といい、そのグローバルな発信力の高さに大きく影響を受けたと語る。

「K-POPアイドルの多くはYouTubeでフルサイズのMVを配信している。一見CDの売上が下がりそうだが、これによってアメリカや南米へも認知を広げ、世界的なブレイクにつなげていた。そんな彼らと一緒にコンテンツを作ると、普段なかなかコミュニケーションできない国から反応があり、とても印象に残っている」(東氏)

■プロダクション主導IP、制作環境の効率化・・・ “制作力”を引き出す韓国のエコシステム

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情報経営イノベーション専門職大学 黄 仙恵氏

コンテンツIPで世界的な成功を収めている韓国のビジネスモデルから、日本のコンテンツ産業が学べるところは何か。黄氏は韓国におけるコンテンツの制作システムとクリエイター教育の2面から語る。

「韓国において、プロダクションは放送局から番組制作を受注するのではなく、自らが企画を立てて持ち込むスタイルが一般的」と黄氏。「放送局からの収益とあわせ、自社のビジネス展開によって二本柱の収益構造を確立している」という。

「発注や納品といった考えではなかなか新しいアイディアが出にくい。制作とセールスが同じ土台にあることで大きな収益が生まれる。『物語作り』の主導権を誰が握っているかということが非常に重要」(黄氏)

「クリエイター側でも日々たくさんのストーリーを形にするため、制作システムが細分化されている」と黄氏。「韓国のコンテンツ業界では、質の良いストーリーを効率よく開発するエコシステムがうまく回っている」と語る。

文化政策にかける国家予算の割合が日本の約10倍に及び、教育現場におけるクリエイター育成の機運も非常に高いという韓国。豊富な産学連携のカリキュラムとともに人材育成のインキュベイティングカリキュラムも充実しており、特定の技能に特化した人材紹介の仕組みも整備されているという。

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「韓国では約30校の大学にウェブトゥーン学科があり、企業への就業を単位として認めるところも多い」と長生氏。学生と企業とのマッチングの機会も豊富であり、デビュー間もない新人作家でも「年収800万円超は珍しくない」という。

■「良い仕組みはどんどん取り入れ、外の世界へ貪欲に」韓国から学ぶ“生き残りのヒント”

これから日本のコンテンツ産業が生き残るため、韓国からどんな姿勢を学ぶべきなのか。最後はパネリストがそれぞれの立場から語った。

「コンテンツ市場において現に成功している韓国には、ベンチャースピリットと圧倒的な数のチャレンジがある。私たち日本も机上でばかり考えず、まずは飛び込むフットワークの軽さが必要だ」(長生氏)

「『夫婦の世界』という韓国ドラマがあるが、実はイギリスのドラマのリメイク。韓国では自国目線にこだわるだけでなく、海外まで視野を広げて面白いIPを積極的に活用している。日本のテレビもかつてはもっと貪欲に海外の流行コンテンツを取り入れ、そこから自分たちのオリジナリティを生み出していたはず。いまいちど目線を開き、『外の世界ではどんなものが“面白い”とされているのか』を1から学び直していく良い時期だと思う」(東氏)

「冒頭の繰り返しになるが、韓国のコンテンツはもともとの市場が非常に小さかったからこそ、外に行かなければならなかった」と黄氏。「日本の3分の1、中国の6分の1、アメリカの12分の1という小さな市場規模でも、IPビジネスで一歩踏み出せば、世界を相手にすることができる」と語り、「新たなことから逃げず、面白くチャレンジする選択肢を選べばもっと大きな世界が広がっていく」と力強く語った。

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