Inter BEE 2022

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Special 2021.07.15 UP

【Inter BEE CURATION】100年前の「タルサ人種虐殺」 米メディアの努力と試み

津山恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2021年8月号からの転載。連載記事「海外メディア最新事情」にNY在住のジャーナリスト・津山恵子氏が寄稿したもの。アメリカでの痛ましい人種差別事件の掘り起こしにメディアが貢献した話です。ぜひお読みください。

ケーブル局、新聞社が役割果たす

1921年5月31日、南部オクラホマ州タルサ市のグリーンウッド地区で、白人暴徒らが最大で300人の黒人を殺害した「タルサ人種虐殺」は、日本ではあまり知られていない。米国でも、100年を迎えた今年になって、多くの人が知る史実となった。そして、その理解を深める役割を果たしたのが、ケーブルテレビ局や新聞社が制作した綿密なドキュメンタリー番組やデジタルアーカイブだった。

 タルサのグリーンウッドは当時35ブロックにわたる繁華街で、「ブラック・ウォール・ストリート」と呼ばれていた。奴隷制度の廃止をめぐる南北戦争(1861〜1865年)の後、自由となった黒人が、北部アメリカ合衆国にも、南部アメリカ連合国にも属さなかったオクラホマ州などに移住した。奴隷ではなくなったものの、白人との共存は難しかったため、グリーンウッドに黒人だけを相手にするビジネスが生まれ、集中した。銀行や保険会社、ホテルまであった。

 しかし、タルサの中心部でエレベーターに乗っていた黒人の若者が、白人女性のエレベーターガールを暴行したという話が広まった。ニューヨーク・タイムズ紙によると、一般的には黒人の若者が転びそうになり、白人女性の腕につかまったというのが真相とされる。ところが、当時は黒人が白人の目を見ることさえ許されなかった時代だ。若者は逮捕され、白人向けのローカル紙が「容疑者、エレベーターガールを襲う」と一面で伝えると、白人が暴徒化した。

 白人らは、グリーンウッドに武器を持って向かい、襲撃し、火をつけ、空爆し、街角で黒人を銃殺。50〜300人が死亡したとされ、遺体は集合墓地の穴と川に投げ込まれた。街は全滅し、損失額は2700万ドル(現在のドル換算、約29億4300万円)に上ったという。

 しかし、暴徒の誰も逮捕されず、生き残った黒人は他州へ逃れ、ブラック・ウォール・ストリートが再生することはなかった。また、黒人に対する米国史上最大のテロであったにもかかわらず、歴史の教科書に記述は一切ない。当然、日本の教科書でも見過ごされたままだ。

 バイデン大統領は、虐殺から100年に当たる今年5月31日、「構造的な人種差別を根絶する」とホワイトハウスで表明した。同大統領は、誰も訴追されず、復興もなかったことから、黒人から機会を奪うことに国家と政府が果たした役割を「重く受け止め、認めなければならない」とまで言及した。

 同大統領は翌6月1日、タルサを訪れ、事件の生存者に会った。歴史から抹殺された同事件の追悼でタルサを訪れた大統領は、バイデン氏が初となる。

 「米国の同胞の皆さん、これは暴動ではなかった。これは虐殺だった」と、バイデン氏は認め、追悼会場で拍手を受けた。

白人主導の悲劇を掘り起こす

ニューヨーク・タイムズ紙は、3Dを使ってグリーンウッドの再現を行い、わずか48時間で焼け落ちた街がいかに繁栄していたかを浮き彫りにした。過去の地図と、犠牲者の子孫や関係者からの証言を付き合わせて、繁盛していたビジネスのオーナーやその家族の写真を3Dマップの上に重ね合わせていった。全米で最高級の黒人向けホテルまであり、劇場、ダンスホール、レストラン、教会、学校など黒人が人間らしい生活をするためのインフラがすべて整っていたことが、よくわかる。

 テレビ番組としては、米公共放送サービス(PBS)が制作し、今年5月31日に放送された「タルサ:その火炎と忘れ去られたもの」がある。タルサの人権運動家や歴史研究家が、虐殺の犠牲者の遺骨を探すとともに、犠牲者家族への補償を求めた裁判の過程を追う。虐殺の真相を知ろうとする近年の地元市民の努力がよくわかる。

 ヒストリー(チャンネル)の「タルサ・バーニング:1921タルサ人種虐殺」は、虐殺が起きる前、奴隷制度から解放された黒人らがいかにブラック・ウォール・ストリートを築いていったのかが、手に取るようにわかる映像に語らせた。番組だけでなく、番組を6つに分けたポッドキャストも情報量が多く、マルチプラットフォーム利用の可能性を感じさせた。 

 「ドリームランド:ブラック・ウォール・ストリートの焼滅」は、CNNが制作・放送し、HBOがストリーミングで流した。過去の繁栄ぶりを、現在の地図と重ね合わせた回顧録だ。

 米メディアがタルサの虐殺に脚光を当てたことで浮き彫りになったのは、虐殺だけでなく、その後の政治や歴史の認識までが、白人主導で行われたゆえの悲劇である。白人支配層だけでなく、白人の新聞などメディアも、白人市民の恐怖を煽り、蜂起を疑問視もせず、白人を英雄的に取り扱った。

 今回、米メディアが虐殺の実態を掘り出そうとした努力と試みは、過去の人種問題についての省察とも言える。100年経ち、生き残った証人は少ないものの、満足のいく内容だった。今後も、こうした作業が続いていくことを期待したい。

※筆者プロフィール
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には、共著『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)がある。

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