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Special 2026.08.03 UP

第3回|『RED PANTS』Q&Aに学ぶ、ドラマの国際共同制作の条件

テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子

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「Co-Pro Pitching Sessions2026」の審査員。放送局や配信事業者、制作会社の意思決定者が企画の市場性や実現可能性を見極めた。(筆者撮影)

公開ピッチングは、プレゼンテーションとQ&Aの両方で評価される。ドラマの国際共同制作を探る世界最大級の市場、シリーズマニア2026「Co-Pro Pitching Sessions」でも、企画の魅力を伝えるプレゼンと、審査員からの鋭い質問に応じるQ&Aが一体となって審査が進む。前回に引き続き、最優秀プロジェクトに選ばれたキルギス発『RED PANTS』のやり取りから、国際共同制作で企画を成立へ導くポイントを探る。

Netflix成功例を引き合いに出す

シリーズマニアは、総務省による海外ピッチング支援プログラム「Japan Drama First Look: Co-Pro Pitch」が目標の一つに据える国際マーケットでもある。75カ国から5,200人が参加するプロ向けフォーラムで行われる「Co-Pro Pitching Sessions」では、開発段階の企画を国際共同制作へとつなぐ場として10年以上の実績を積み重ねてきた。

2026年3月に開催された際には、審査長をスペイン・Movistar Plus+のフィクション&エンターテインメント責任者、ホルヘ・ペッシ氏が務めた。審査員には、フランス・ARTEドラマ副責任者のアレクサンドル・ピエル氏、ドイツ・ZDFコミッショニングエディターのローラ・メイ・ハーディング氏、アメリカPaper Plane Productionsの創業者アロン・アラニャ氏、スウェーデン・SVTドラマ&映画責任者のヨハンナ・ゴーダレ氏が名を連ねた。

こうした意思決定者たちを前に、プレゼンとQ&Aをどう乗り切るかが、企画の行方を左右する。キルギスの独立系スタジオのStudio Oymoとヒューマン・フィルムズによる『RED PANTS』のピッチングが終わると、間髪入れずに審査員からの質問が始まった。

「主なターゲット層はどのあたりを想定していますか?」

一見シンプルな質問だが、問われているのは企画が誰に向けた作品なのかという根幹である。ターゲットが曖昧では、市場性も共同制作の可能性も判断できない。バイヤーにとっては、投資する理由を見極めるための重要な確認でもある。

『RED PANTS』チームは即座に「17歳から30歳の若い世代」と答えた。世界的に話題を呼んだNetflixシリーズ『アドレセンス』を引き合いに出し、若年層に関心を持たせる犯罪ドラマとしての位置づけを端的に示した。既存の成功作を参照することで、企画のターゲットやトーンを審査員に瞬時にイメージさせる、巧みな答え方だった。加えて、ソビエト連邦末期という時代設定が「世界の一部の地域に未知の美学を与える」と説明し、グローバル市場での差別化もアピールした。

平均を上回る10エピソードの必然性

続く質問は、より核心に迫ったものだった。

「過去から学ぶとおっしゃっていましたが、これは実話ですか、それともフィクションですか?」

実話かフィクションかは、企画の発想や必然性を見極める重要なポイントになる。チームはこう答えた。

「実話です。ただ、70年代に起きた出来事を80年代に移しました。ソ連崩壊の様子を加えたかったからです。国家が崩壊していく過程は、ドラマとして非常に魅力的な舞台になります。その地域では広く知られた実話です」。

単に「実話です」と答えるだけでは終わらない。なぜ時代設定を変更したのか、その創作上の意図まで一貫して説明したことで、企画の核が十分に練られていることを印象づけた。

3つ目の質問は、制作の実現可能性を問うものだった。

「10エピソードと言っていましたが、最近では多い方ですね。物語全体をどう展開するのか、ナラティブ構造について教えてもらえますか?」

昨今の国際ドラマ市場では、6〜8話程度のシリーズが主流になりつつある。話数が増えるほど制作費も回収リスクも高まる。世界的に制作費への投資判断が慎重になる中、10エピソードという構成には、それだけの必然性が求められる。

チームは、物語全体の流れを順を追って説明した。ソビエト将校だった主人公の一人のアイシャの父の失墜から物語が始まり、職業学校でのジャナラと出会い、「RED PANTS」というギャングを結成する。やがて旧ソ連の情報機関KGBの「アップル・ディスコード作戦」が動き出し、アイシャと工作員カヌバグの恋を経て、物語はソ連崩壊へと向かう。

説明を聞いた審査員の一人は、「70年代後半から80年代後半まで、ソ連が崩壊するまで続く。RED PANTSも崩壊するということですね」と確認した。チームが「その通りです」と応じると、審査員は「ありがとう。素晴らしいピッチでした」と締めくくった。

3分で見極められること

わずか3分間のQ&A だったが、3つの質問には審査員が何を見ているかが凝縮されていた。市場適合性、実話としての必然性、そして制作規模を支える物語構造。いずれも「この企画は本当に作れるのか。資金を調達できるのか。そして世界で通用するのか」という問いに集約される。

今年の最優秀プロジェクトに選ばれた『RED PANTS』のチームは、その一つひとつに具体的な根拠を示した。プレゼンテーションで会場の心を動かし、Q&Aでは市場性や制作の実現可能性を論理的に説明する。その両輪がそろって初めて、共同制作のパートナーとしての信頼につながる。審査員が最後に評価の言葉で締めくくったのも、その完成度を物語っていた。

日本の制作者が世界のピッチに立つときも、問われる構造は変わらない。感情を動かす物語だけでなく、それを市場や制作の視点から説明できる論理も必要になる。その準備ができているかどうかが、ピッチングの勝負を分けるのだ。

次回は、シリーズマニア2026で存在感を示したアジア勢の動向を取り上げ、日本が学べるヒントを引き続き探る。

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シリーズマニア2026で最優秀プロジェクトを受賞したキルギスの『RED PANTS』の公開ピッチング。プレゼンテーション後には約3分間のQ&Aが行われた。(筆者撮影)
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