Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2024.05.16 UP

もはやAIのない制作はあり得ない状況に〜NAB Show 2024現地視察レポートから

境 治 Inter BEE 編集部

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画像は塚本幹夫氏講演スライドより

Inter BEEが恒例のNAB Show 現地視察レポートセミナーのライブ配信を5月10日に今年も実施した。その中で、メディアストラテジスト・塚本幹夫氏が行った講演をこの記事で紹介する。今年はAIに関する展示が非常に目立ったという。メディア制作のあらゆる現場でAIの活用が進んでおり、もはやAIのない制作は考えられない状況になっているようだ。ここでは、塚本氏の講演の概要を紹介する。アーカイブ映像も配信中なので、併せて見てもらうといいと思う。

ほぼ全ての制作プロセスにAIが関与

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塚本幹夫氏講演スライドより

塚本氏がNAB Showで驚嘆したのは、撮影から編集、効果、配信に至るまで、ほぼ全ての制作プロセスにAIが関与していたことだ。さらに今年は、マーケティングや収益化、分析の分野にもAIの技術が積極的に展示されていた。
クラウドサービス大手のAWSは、NABショーで最大規模の展示を行った。AWSは、メディア&エンターテイメントのソリューションを6工程に分けてデモ。コンテンツ制作から、メディアサプライチェーンとアーカイブ、収益化、放送とライブ制作、データサイエンスと分析、D2Cまで、あらゆる制作プロセスをカバーしていた。例えば、Amazon Bedrockは、生成AIを用いて背景を作成するサービス。距離ごとにレイヤーを分割し、それを組み合わせることで立体的な背景表現を可能にする。

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塚本幹夫氏講演スライドより

ソニーは、「クリエイティビティ・コネクテッド」をテーマに、コンテンツ制作におけるAIの可能性を追求。AIを活用した映像・音声解析サービス「A2プロダクション」では、映像と音声のシンクや話者認識、フィラーワードの除去などの機能を提供する。
アドビは、「Adobe Firefly」と呼ばれる生成AIをクリエイティブクラウドに統合。ブラックマジックデザインは、ビデオ編集ソフト「DaVinci Resolve Replay」にAIを活用したリプレイ機能を搭載し、スポーツ中継などでのリアルタイム編集作業を効率化する。
ENCOは、AIによる自動字幕生成サービスを展示。60以上の言語に対応し、高い翻訳精度に加え、2〜4秒の低遅延を実現したという。

NAB会長も生成AIに言及

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塚本幹夫氏講演スライドより

NAB Showの基調講演に登壇したNAB会長のカーティス・ルジェット氏は、まず例年通りローカル局の信頼性の高さを主張。その上で、議会に対してローカル局への支援を求めた。所有権規制の緩和による資本の流入や、GAFAに対する公正な報酬の補償などを訴えた。
さらに今年は、生成AIについて前向きな発言をした。ルジェット氏は、生成AIにはリスクがあることは認識しつつも、ローカル局にとってはチャンスでもあると述べた。
ルジェット氏は、視聴者が膨大な情報の中から真偽を見極めることは難しいが、放送局ならAIを活用して正しい情報とそうでない情報を選別できると主張。また、AIを効率的に活用することで、リソース不足を解消し、より効率的なサービス提供が可能になるという。

脚本家・俳優のストライキとAI

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塚本氏講演スライドより(撮影:猿渡由紀氏)

塚本氏は講演で、脚本家組合と俳優組合が長期ストライキを行ったことも、重要なアジェンダとして触れた。ストライキの最大の争点は、生成AIの使用制限だったという。
脚本家組合は、AIが作品を書くことや、制作側がAIの使用を強要することを禁止。AIで生成された素材がある場合の開示義務や、脚本家の作品がAIの訓練に使われた場合の補償も勝ち取った。
俳優組合も、俳優の同意と補償なしに本人の映像をAIで複製・改変することや、デジタル複製のためのエキストラ起用を禁止させた。
このストライキが実際にどんな影響を与えたか、塚本氏はハリウッドに詳しい専門家に取材した。
彼が言うには、ストライキ以前からハリウッドの衰退は始まっていたという。制作コストの高騰から、他の州や国に撮影拠点が移る「ランナウェイ・プロダクション」が進行。一方、ソニーやスカイダンス・メディアによるパラマウント買収の動きなど、スタジオの再編も予想されている。
ちなみに、専門家に地上波テレビについて聞いて見たところ、「衰退は自然な進化」と言っていたそうだ。

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NAB Showを振り返って塚本氏は、「AIがすべての制作プロセスに組み込まれており、放送制作や配信ビジネスにおいては、すべての関係者がいかに早く正しく取り入れるのかの競争になっている」と指摘。一方で、「著作権や肖像権に関わる脚本や出演とAIの関係については、日本ではまだ何の取り組みもない」と警鐘を鳴らした。
ハリウッドの人件費高騰を受け、イギリスやカナダが税制優遇でスタジオを誘致しているように、日本でも同様の施策が有効ではないか。韓国のように、国家戦略としてコンテンツ産業を支援することも検討すべきだろう。
放送制作の現場では、AI活用がもはや避けられない潮流となっている。クリエイターの権利を守りつつ、いかにAIと向き合っていくのか。放送業界には、スピード感を持った議論と行動が求められている。
塚本氏は最後に、この先の議論はぜひ、11月のInter BEEに集まって進めましょうと呼びかけ、講演を締めくくった。最前線の情報が集約された、中身の濃い講演だった。

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