Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2024.01.10 UP

【Inter BEE CURATION】ドラマの未来を変える、広告とデータアナリティクス【InterBEE2023レポート】

Screens編集部 Screens

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左から長谷川朋子氏、カンテレ竹内伸幸氏、LIXIL五十嵐千賀氏、REVISIO河村嘉樹氏

※Inter BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2023年12月18日に掲載された記事を転載しています。是非お読みください。

一般団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2023」を2023年11月15~17日にかけて開催。今回も幕張メッセ会場とオンライン会場のハイブリッド形式で行われ、幕張メッセ会場には昨年より約5,000名多い31,702名が訪れる盛況となった。

様々なセッションが行われたが、今回は、その中から放送と通信の融合を前提としたうえで、その“先”にあるビジネスの形をさまざまな切り口で取り上げたプログラム「INTER BEE BORDERLESS」をレポート。本記事では11月15日に行われた『ドラマの未来を変える、広告とデータアナリティクス』の模様をお伝えする。

関西広域圏での放送に加え、フジテレビ系準キー局として全国ネットのドラマを多数制作するカンテレ(関西テレビ)では、地上波とキャッチアップ、OTTを合わせた総視聴者数(トータルリーチ)を価値指標とし、収益の最大化を図る「トータルリーチ戦略」を取り入れており、本セッションでは同局で2022年7月クールに制作・放送されたドラマ『魔法のリノベ』の事例をもとに、カンテレと広告主である株式会社LIXILの担当者、視聴データ解析を行ったREVISIO株式会社の担当者を交えてその広告効果を検証。ドラマコンテンツの未来像を考える。

パネリストは関西テレビ放送株式会社 コンテンツ統括本部コンテンツビジネス局 局長の竹内伸幸氏、株式会社LIXIL ブランド&マーケティングストラテジー統括部 マーケティングコミュニケーション部 リーダーの五十嵐千賀氏、REVISIO株式会社 取締役 共同創業者の河村嘉樹氏。モデレーターをコンテンツビジネス・ジャーナリストの長谷川朋子氏が務めた。

■他系列のOTTにも積極的に配信。出面を増やす「トータルリーチ戦略」で番組の商品価値を最大化

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カンテレ 竹内伸幸氏

最初に竹内氏が、カンテレのトータルリーチ戦略について紹介。自社メディアとしてのSVODを持たない同局では、あらゆるOTTサービスへ番組を供給するスタンスをとっており、フジテレビのFOD、日本テレビ系のHuluなど、その先は系列を超えて多岐におよぶ。

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「TVerなどキャッチアップでの視聴を人気のバロメーターとしつつ、他系列も含めたあらゆるSVODプラットフォームに出すことでトータルリーチを稼ぐ」と竹内氏。「出面を増やすことはトータルリーチ=トータルセールスの拡大につながる」と語る。

「現状、ドラマの制作費は地上波の提供料金だけではまかないきれない。放送収入に加えて、キャッチアップ配信でのCM収入やSVOD配信におけるライセンス契約料などのコンテンツビジネス収入を上乗せし、利益につなげている」(竹内氏)

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「これまでは番組はCM枠を売るための“棚”だったが、いまはその棚そのものが高値で取引され、とりわけドラマの価値が高い」と竹内氏。「コンテンツビジネスは放送前、放送後の両方で価値が決まるが、高評価コンテンツは評価にあわせた金額でプリセールスでき、高視聴率やPV数増でその後の販売料金に好影響を与える」と、トータルリーチ戦略による相乗効果を語る。

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■世界観に寄り添うインフォマーシャルで購入意向が2倍に。ドラマそのものが広告主のブランドメッセージ強化に貢献

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今回事例に挙げた『魔法のリノベ』では、ドラマ出演者を起用したLIXIL提供による60秒のインフォマーシャルを制作したほか、ドラマの本題であるリノベーションのシーンではLIXILが全面協力し、実際に販売している製品を提供。文字通り“リアルなリノベ”を表現した。

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劇中の「リノベーション」シーンのセットにLIXIL製品を起用

「『リノベーションは住む家だけでなく、人生をも幸せにする』というドラマのテーマはLIXILのブランドメッセージと通じる。インフォマーシャルやドラマ内での商品露出を通じて、リフォーム検討層に親和性の高いコミュニケーションを実現したいと考えた」(五十嵐氏)

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LIXIL 五十嵐千賀氏

ドラマの世界観と深くシンクロする取り組みが行われた結果、「通常は40%程度」というインフォマーシャルの認知率は約50%と大幅に伸び、全10回の放送を通じた好意度、購入意向ともに他番組の2倍以上を記録。

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「“楽しみに見ている”ドラマの中で展開されるインフォマーシャルは、アテンションそのものが底上げされる。ドラマの世界観を大切に受け継いで作られたインフォマーシャルは『きちんと見られる』ために好意が増し、ドラマへの共感とともに高い認知につながることがデータの面でも証明されている」(河村氏)

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REVISIO 河村嘉樹氏

「SNSでは、『LIXIL』『リフォーム』といったキーワードも頻繁にあがり、なかでもインフォマーシャルに出演いただいた近藤芳正さん、本多力さんの名前がよく上がっており、ドラマでの役どころとインフォマーシャルがつながっているのを実感できた。同時期に放映された他社のドラマ×インフォマーシャルと比較し、リーチ比で約2倍の高いエンゲージメントを獲得するなどポジティブな反響を得ることができた」(五十嵐氏)

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放映と並行し、LIXILではインフォマーシャルの動画やセットの画像を販促資料として二次利用。さらにプレスリリースや公式SNSアカウント、フランチャイズ販売店のWEBサイトやリテール店舗の店頭でも放映するなど、ドラマの世界観を自社のブランドメッセージ強化に活かす取り組みが行われ、前年度の約10倍にのぼる利用数を記録したという。

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■“ステマ”ではなく、ドラマを共に作り上げる関係に――カンテレ竹内氏が語る「“三方良し”のプロダクトプレイスメント」

ドラマなどのシーン中にスポンサー企業の商品を入れ込む「プロダクトプレイスメント」は従来も行われてきた手法だが、それが演出の範疇であるか、広告であるかという議論もたびたび起こされてきた。2023年10月1日より施行された改正景品表示法では広告であることを明示せずに広告を表示する「ステルスマーケティング(ステマ)」が規制されるなど、コンテンツにおける広告・宣伝的な表現の取り扱いに対する目が厳しくなっている。

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カンテレ 竹内伸幸氏

放送法12条では「番組と広告の識別義務」として「放送事業者は、対価を得て広告放送を行う場合には、その放送を受信する者がその放送が広告放送であることを明らかに識別することができるようにしなければならない」と定めているが、「カンテレではこれを踏まえ、広告としてのプロダクトプレイスメントは行わない方針である」と竹内氏。番組と広告の棲み分けについて、次のように語る。

「テレビの場合、本編での商品露出は演出上の必然性がある場合に限って広告的な表現を伴わない形で行い、『制作協力』のクレジットを掲出する。スポンサーの商品を露出する必要がある場合はクレジットを表示せず、提供クレジットの掲出をもって担保し、広告と本編を分離して認知できるよう配慮している。配信の場合は、プロダクトプレイスメントが表現として認められる国に配信先を絞ることで対策している」(竹内氏)

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「『魔法のリノベ』はリノベーションそのものを題材としたドラマであり、その成果が『張りぼて』になってしまっては説得力を持たないと考えた」と竹内氏。ドラマをはじめ番組セットの設営は専門の美術スタッフが行うのが一般的だが、今回は設営面においてLIXILの技術者が協力し、「カメラに写り込まない部分の作り込みもふくめ、実際の施工に忠実な、説得力あふれるシーンを作ることができた」という。

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「LIXIL様はドラマを盛り上げるために協力いただいたのであり、ともすればタイアップととられかねない『協力表示』でその善意を台無しにしまうことは避けたかった」と竹内氏。結果として今回は「作り手とLIXIL様、視聴者の方向性が三方良しのかたちで調和できた」と語った。

■地上波+CTVなら「5年、10年見られ続ける」。データで立証された「トータルリーチ戦略」のメリット

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REVISIO 河村嘉樹氏

続いてREVISIO・河村氏が『魔法のリノベ』本編と、連動インフォマーシャルの見られ方をデータの面から分析した結果を紹介。

同社のサービスでは関東2,000世帯約5,000人、関西600世帯約1,500人の地上波・CTV視聴を対象に、人体認識センサーによる1秒単位の「視聴質」を記録。“ながら視聴”も含めて「テレビの前にいる」度合いを示す「滞在」、画面を明確に見ている「専念視聴」の度合いを計測する「注視」の主に2軸で計測している。

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調査の結果、『魔法のリノベ』内で放送された連動インフォマーシャルは、同ドラマ内で放送されたすべてのCMの平均よりも視聴質が12%高く、放送枠内のすべてのFIB(First In Break:各CMチャンスの先頭に流れるCM)の平均よりも3%高いという結果に。

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比較のため挙げられた別のインフォマーシャル案件における調査でも、視聴質が番組内の全CM平均より30%高く、番組内で放送された60秒CMの平均よりも15%高いという結果が出ており、世界観に沿ったインフォマーシャルの高い認知性が示された。

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「自社のSVODを持たず、各社のOTTにコンテンツを供給している関係上、取得できる視聴データの粒度にはばらつきがあり、サービスを横断する共通のリーチ指標が取りづらいという悩みがあった」と竹内氏。「いま増えつつある宅内でのCTV(コネクテッドTV)視聴を計測し、トータルリーチのデータを取りたい」と語る。

このコメントを受け、河村氏は「地上波+CTV」という形態における接触量の変化を調査したデータも紹介された。

このデータでは、同じくカンテレが制作したドラマ『エルピス』を題材に、地上波のリアルタイム視聴とCTVでの視聴を比較。「地上波+CTV」での接触者は約2倍、ユニークなリーチは約1.5倍高く、そのうち約30%がCTVのみで接触していることがわかったという。

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「OTTメインで視聴していても最終話はテレビで見る『視聴回帰』が起きるという仮説を立てていたが、データの面でもそれが実際に起きていることがわかった」と竹内氏。今回の『魔法のリノベ』での事例をふまえながら、「素敵な形でプロダクトプレイスメントされれば、5年、10年後も見続けられ、メッセージが繰り返し記憶に残るドラマになる」と強調した。

■ブランドメッセージの場として注目されるドラマコンテンツ「世界配信で『海外向けアピール』も期待できる」

セッションの内容を振り返り、五十嵐氏は「自分たちのデータでもCMを通じて好意が上がっているのがわかったが、河村氏のデータを見て、それが間違いないことが裏付けられた」とコメント。今回の『魔法のリノベ』の事例について「私たちが伝えたいブランドメッセージとドラマの内容がぴったりシンクロし、ドラマの視聴者層=メッセージを伝えたい方々の層となった」と、成功の背景を語る。

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「トータルリーチという面で見れば、国内のみならず世界に向けたブランドプロモーションにも大きな効果が期待できる。社内でもっと多く活用の輪が広まれば、よりドラマの価値が広告主にとっても高まるのではないか」(五十嵐氏)

一方、河村氏は調査の結果を踏まえ、「CTVのデータを無視したリーチは考えられない世界になってきている」とコメント。「『すばらしいコンテンツはずっと見られる』というドラマの価値をご理解いただける広告主のみなさまに適正な価格でセールスできる、確固としたデータになったのではないか」といい、「これからもテレビドラマの潜在的な価値を可視化し、もっと盛り上げていきたい」と語る。

続いて竹内氏はプロダクトプレイスメントに焦点をあて、「ドラマのテーマに端を発し、リアルな商品がドラマにおいても大きな役割を持つように考える必要がある」とコメント。「スポンサーのみなさまと良い関係を築くことで、視聴者のみなさまにとってもより楽しめる作品がつくれるのではないか」と期待をのぞかせる。

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「かつて韓流ドラマが世界的な人気となったが、ここでも多くの企業の商品が劇中に登場し、知られるきっかけとなった。海外でも視聴されるドラマを作ることで、日本の優れた製品が海外に広まるきっかけにつながる」(竹内氏)

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長谷川朋子氏

長谷川氏は全体を振り返り、「今回取り上げたような枠組みを最大に活かすには法律や放送基準を現代の環境に整備する必要もあるが、少なくともブランドの価値向上に大きく貢献することは間違いない」とコメント。「具体的にどのような価値を提供できるか、これからデータが果たしていく役割は大きい」と語った。

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