Inter BEE 2022

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Special 2021.12.08 UP

【Inter BEE CURATION】USAメディアレポート:2021年米アップフロント結果 プライムタイムに変化がみえたアップフロント

谷口 悦一 VRダイジェスト+

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、ビデオリサーチ社の協力により「VRダイジェストプラス」から転載しています。米国のCMセールス状況について今年のアップフロントの様子をもとに最新動向を伝えています。日本との違いに驚く記事です。

【USAメディアレポート】2021年米アップフロント結果 プライムタイムに変化がみえたアップフロント

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新型コロナ感染症拡大による経済活動の低迷により、対前年比で微増にとどまった2020年。そのリバウンド効果もあり、今年のアップフロントは各テレビメディアが過去にないほどの収益増を確信しているようです。今回は2021年のアップフロント最新情報と今後予測される業界の展望を、ビデオリサーチUSAの谷口社長がレポートします。

アップフロントとは、その年のテレビの新編成(9月から向こう一年)のテレビCM枠売買を前倒しで行う取引のこと。プライムタイムを中心に大体7~8割の在庫がここでさばかれると言われている。

交渉の早期終了は、人気コンテンツの広告枠を売り切れ前に確保するため

 例年春先に華やかなイベントと共にキックオフするアップフロントですが、コロナ禍に見舞われた昨年同様、今年も全てのプレゼンテーションがオンラインで開催されました。新型コロナ感染症拡大防止の観点からの措置ではあるものの、局側にとってはコスト削減、各オペレーションのスリム化といったメリットがあったようです。
 今年の取引交渉は、7月初旬、独立記念日の連休明けには大方終了しました。通常、アップフロントは8月中旬くらいまでは落ち着かないものですが、5大ネットワーク(ABC、CBS、FOX、NBC、CW)はもちろん、大半のケーブル局も、独立記念日を祝う盛大な花火と共に取引きが終幕しました。
 今年の取引きが比較的早期に終わった背景には、「コロナ禍の混乱が落ち着いてきた」という状況があります。極端な自粛モードや不安感が収まり、スポーツやライブイベントが徐々に復活し始めたことにより、買い手側(広告主を代表するエージェンシー)が、先を争うように人気のある番組のCM枠を購入したことが大きな要因と考えられます。
 昨年、CMの出稿を途中から見合わせた老舗の大手広告主は、彼らがターゲットとするデモグラフィックのGRPを確保するため、また新興の広告主は幅広くリーチを目指して、早めに買い付けしたようです。

過去にないほど記録的な価格アップの要因とは?

 数字の方もパンデミックの影響を払拭するような結果でした。例年通り、どの局も詳細な公表はしませんが、業界内で飛び交う情報や公開されているインタビューなどでは、過去に類を見ないほどの大盛況と誰もが口を揃えています。CPM※1の価格も、業界全体で5%だった昨年実績を大幅に超える20%以上の増加を達成したようです。
 こうした結果の主な要因を以下に挙げます。

(1)AVOD※2の著しい台頭
 既に存在するプラットフォームに加え、ここ数年で各局が系列会社の巨大な資産やネットワークをフル活用して、独自の広告付きストリーミングサービスの提供を開始。
 これは、コンテンツ提供側から視聴者側へのパワーシフト、つまり視聴者が従来のリニア視聴を離れ、「自分の観たい番組を、観たいときに、好きなデバイスで観る」流れに、各局が対応した結果といえる。
 この現象は広告主の出稿にも影響を与え、リニアよりも様ざまなデータ分析ができるデジタル配信に広告費が積み増しされたようだ。

(2)ライブスポーツの復活
 昨年はスポーツイベントの大半がキャンセルされたが、今年はほぼ例年並みに行われる見込み。東京2020オリンピック・パラリンピックもあり、リニアに限らずデジタル領域でも、スポーツ関連枠で多くの取引きがなされた模様。

(3)経済に復活の兆し
 昨年、出稿のキャンセルや変更を余儀なくされた大手の顧客が広告取引きに戻ってきたことも、大きな要因のひとつ。業種としては、主に金融やリテール(小売り)、旅行・観光、そして映画エンタメなど。
 さらに、ストリーマーやストリーミング系のエンタメ(NetflixやHuluなど)、消費者直販(EC)系の比較的新しいブランドであるWayfair(家具・雑貨)、Warby Parker(眼鏡)なども取引きに参入し、市場を潤す一助となった。

(4)アドバタイジング・テクノロジーの進化
 NBCU の "OnePlatform"、ViacomCBS の"EyeQ"、WarnerMediaの"Xandr"など、より詳細な視聴者データやインサイトを分析し、ターゲットに確実に広告を届けるためのテクノロジーが年々進化。広告主にこうしたツールやサービスを局側が提供することもプラス要因となった。

※ 1: CPM/Cost Per Mille(コスト・パー・ミル)」の略。1000人当たりの到達コスト。
※ 2: AVOD/Advertising Video On Demand(アドバタイジング・ビデオ・オン・デマンド)の略。広告を視聴することで動画コンテンツを視聴できるビデオ・オン・デマンドサービスのこと。YouTubeやTVerがこれにあたる。

減少したプライムタイム枠の予算はどこに流れたのか?

 各局ともCM枠の販売総額は好調でしたが、プライムタイム枠はあまり良い数字ではありませんでした。
 今年のプライムタイム枠の販売総額は、コロナ禍で混迷した2020年シーズンと同等か、せいぜい3%程度のアップに留まり、コロナ禍以前の2019年シーズンに対してはおおよそ6.5%~14%ほどダウンしてます。
 アップフロント交渉においては、通常、プライムタイム枠がもっとも高値で取引きされるため、この状況はある意味で各局のボトムライン(純利益)に影響を与えるでしょう。
 メディアバイヤーはこのように話しています。
 「ここ数年、プライムタイムは以前ほど広告主にとって重要ではなくなってきており、ストリーミングや他のデジタル領域に広告を出す方がメリットがあると感じ始めている。今後、他へ流れていった広告費が大きくプライムタイムに戻ることはないだろうし、来年はさらに減少するだろう」
 プライムタイム枠の予算はどこに流れたのか、そしてプライムタイムの売上減少にも関わらず、アップフロント全体の取引きが「過去に類を見ないほど盛況」だった要因は何かを考察してみます。

(1)放映枠が移動したアメフトと復活した各種ライブスポーツ
 アメリカンフットボールのメジャーな試合のほとんどが、今年から平日のプライムタイムから日曜日の日中に変更となった。
 また、前述したように今季はその他のスポーツも復活し、夏季・冬季オリンピックの開催もあるため、これだけでも大きな金額がプライムタイム枠以外でも動いたと考えられる。

(2)自局のポートフォリオにあるストリーミング
 ABC・Disney 系の ESPN+ や、NBCU 系の NBC Sportsといったスポーツ系をはじめ、ABC・Disney系 の Disney + や Hulu、NBCU 系 の Peacock、ViacomCBS系のPluto TVやParamount+、HBO系のHBO Maxなど、今や全ての主要ネットワーク局やケーブル局が、自局のポートフォリオの中にストリーミングチャンネルやアプリを持っている。
 もちろん、放送局はこうしたデジタル領域では新参者。競争は激しく、CM枠の単価的にもリニアのテレビと比べればまだまだ安価ではあるが、在庫は多いので、この領域にも少なからず広告費が流れていったようだ。

(3)変化に対応するためのフレキシビリティコスト
 今年の取引きには、従来にはなかった「柔軟税」的コストが盛り込まれた模様。昨年はコロナ禍によるCM出稿のキャンセルや枠替え、延期等の予期できない変化が多発。こうした変化に柔軟に対応するためのコストが予め上乗せされたことも取引総額のアップに繋がったようだ。

今後、ストリーミングは継続的に増加する

 今年のアップフロントは、予想以上の成果があったことは事実です。新番組制作の中止やライブスポーツのキャンセルが相次いだ昨年はもちろん、一昨年と比べても非常に活況でした。
 しかしNielsen 社の調査では、テレビのプライムタイム視聴率は18歳~49歳世代で20%~30%も低下したと発表しています。それでもテレビという媒体に一定の価値を認め、CM枠のサプライには限りがあることを考えれば、視聴率が下がると、エージェンシー側は広告主と決めたメディアの数値目標を達成するために、より多くの在庫を購入せざるを得ません。これが各局のCPMを引き上げた大きな要因です。
 元大手エージェンシーのCOOは以下のように語っています。「アップフロントは良かったし、テレビというメディアにまだまだ価値があることは引き続き証明されている。しかしCMの出稿額は、各局のストリーミング配信、SNSやサーチを含む3rd party的デジタルプラットフォームに確実に流れていっている。
 今後の数年は、デジタル領域は2桁以上の増加が期待される。対してプライムタイムを含めたリニアのテレビの伸び率は今後、横ばい、あるいは下降気味。テレビ局は時代に歩調を合わせたデジタル領域に投資をせざるを得ない」。
 業界内では一昨年ほど前から「アップフロントは時代に合わない」「取引きは暦通り(1月スタート)に合わせるべきだ」といったアップフロント不要論が出ていますが、蓋を開けてみれば、今回レポートしたとおり今年のアップフロントは大盛況。今後もこの商習慣がなくなることはないでしょうが、取引きの形態や内容、方向性は変わっていくでしょう。これからも動向を注視、レポートしていきます。

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