Inter BEE 2020 Online 11.18(Wed.)-20(Fri.)

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Special 2019.12.24 UP

【INTER BEE CONNECTED 2019 基調講演レポート】「スポーツ中継のフィロソフィー」〜90分間の熱いプログラム〜

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11月14日13時からのINTER BEE CONNECTED 基調講演。今年はWOWOW社長・田中晃氏による講演、というより田中氏コーディネートによる90分のプログラムが展開された。田中氏はもともとは日本テレビで箱根駅伝を今の形に整え巨人戦を新しい手法で再興させた、スポーツ中継のレジェンドだ。その田中氏による2部構成のプログラムは前半が日本テレビのラグビーワールドカップ中継がどんな戦略で放送されたかを解き明かす。後半では2020パラリンピックに込められたメッセージを伝えた。いずれも登壇した人びとの、そして誰よりも田中氏の、スポーツに賭ける熱い想いがほとばしる内容だった。その熱を少しでも感じてもらえるようレポートしたい。
(コピーライター/メディアコンサルタント 境 治)

「にわかファン」を生み出した日本テレビのラグビー中継戦略

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前半に登壇したのは読売巨人軍の社長・今村司氏。実は今村氏は日本テレビのスポーツ局出身で、田中氏がプロデューサーだった「劇空間プロ野球」で新しい中継手法を定着させたスポーツディレクターだった。
加えて登壇したのは日本テレビの編成局長・岡部智洋氏とスポーツ局ディレクター・望月浩平氏。岡部氏も元はスポーツ局で、今村氏を含めて「田中組」のメンバーが揃った形だ。
日本テレビは2007年にラグビーワールドカップの放送権を獲得。当時、スポーツ局でチーフプロデューサーだったのが今村氏で、当時から2019年を見据えていたのだ。ラグビーはきっと日本人のメンタリティに合うはずだ。そんな発想で未来に向けてラグビーワールドカップに取り組み始めた。


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それが実った今年、日本テレビは全社横断的にワールドカップに取り組んだわけだが、そのための戦略を岡部氏が説明した。
1.「がんばれニッポン」で盛り上げる。
2.「世界の超一流チーム・超一流アスリート」を楽しむ。
3.ラグビーの「競技としての面白さ」を伝えていく。
4.「日本開催」ゆえの舞台裏に光をあてる。
その上でターゲットを「明確層」「顕在層」「準顕在層」「潜在層」に分類してとくに「準顕在層」はにわかファン層と規定してスポーツバラエティ/情報番組の集中露出で一時的にスポーツファンに育てることにした。また日本戦だけでなく19試合を全国生中継を編成すると決めた。全国の総視聴者数を8000万人にすることを目標に据えたが、結果この目標は達成できている。あらかじめ綿密な戦略を立て、それを局全体で共有し実行したことが、本当に「にわかファン」を熱くしたのだから素晴らしい成果だ。

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岡部氏の戦略を、実際の試合で具体化したのがラグビーワールドカップの中継を担当した望月氏だ。中継スタッフたちと「制作・コメンタリーの3か条」を共有したという。
1.我々の最大の目標は「ラグビーの素晴らしさを伝える」ことである。
2.入り口は「人」。
3.プレーを最優先に、用語やルールはわかりやすく。
望月氏はさらにそれぞれの中身を詳細に説明してくれた。例えば3か条の1に添って各国の国家・ウォークライは必ず見せることにした。また3に添って特殊なラグビー用語は最初は一度は説明すると決めた。
言われてみると私たちはニュージーランドの「ハカ」にすっかり馴染んだし、「ジャッカル」も知ってしまった。望月氏の3か条があったおかげだったのだ。
こうして解説されると、ラグビーワールドカップに日本中が熱狂したのは、日本テレビの岡部氏や望月氏らの戦略があったからだとよくわかる。そしてそこには、彼らのスポーツへの深い愛と熱い情熱があったからだ。スポーツに限らず、人に何かを伝えるために大切なことを教わった気がした。

パラリンピックを通じて共有したい「共生社会」

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ラグビーワールドカップの話だけで十分お腹いっぱいになったところへ、後半も充実した内容のセッションとなった。長野パラリンピック金メダリストでIPC&IOC教育委員会委員でもあるマセソン美季氏が登壇。田中氏との対談の形でパラリンピックから読み取るべきメッセージを教えてくれた。
パラリンピックとは障害が障害でなくなる場だ、とマセソン氏は言う。可能性に挑戦し、限界を更新する舞台だからだ。そんな競技を通じて、偏見を打ちこわし、思い込みを書き換える力が見る人に伝わるはずだと言うのだ。
それはさらに、社会の不公正を是正するためのアイデアにもつながる。つまりパラリンピックはスポーツ大会であるだけでなく、私たちが新しい認識を持つ機会になり、ひいては社会を変えるスタート地点になるかもしれない。マセソン氏はそのことを「インクルーシブな社会」と表現した。様々な要素を包み込むような社会、ということだろうか。
田中氏はそれを「共有社会」と意訳できると解説。パラアスリートたちの力強く美しい姿を目で感じることで、我々の心にある思い込みを書き換えることができる。そのことを、パラリンピックをテレビを通して見ることでわかってほしいと訴えた。
最後にWOWOWのプロデューサー口垣内徹氏が、「社長が喋るので自分の時間がなくなるかと心配したが」と言いつつ、田中氏に負けず劣らずの情熱的な語り口でパラアスリートを追ったドキュメンタリー番組「Who I Am」を紹介。番組を超えた様々な展開でパラスポーツの素晴らしさを多角的に感じてもらう取り組みを解説した。

2部構成の基調講演は90分間あっという間で、中身の濃いものになった。事後のアンケートでもかなり満足度の高い結果だったようだ。田中氏はまるで90分番組を構成するように綿密に企画を立てたのだと思う。現場を離れてもなお熱い作り手の志を持ち続ける田中氏と、登壇者の皆様にあらためて拍手を送りたい。

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