【コラム】上り下り10Gbps対応で一気にIPビデオ化が進む米国のケーブルテレビ業界 米SCTE 「Cable Tec Expo 2012」でDOCSIS3.1が発表 

2012.12.22 UP

SCTEの会場風景
ケーブル加入者の推移(単位:百万人)

ケーブル加入者の推移(単位:百万人)

ケーブル会社の収入の推移(単位:千ドル)

ケーブル会社の収入の推移(単位:千ドル)

DOCSIS3.1の発展段階

DOCSIS3.1の発展段階

 米国のケーブルテレビ業界はこの数年、通信事業者との間で激しいシェア争いが繰り広げられている。これまで家庭にテレビ番組を送っていたケーブルを活用して、インターネットサービスや電話など、通信事業者のお株を奪うサービス拡大を展開してきたが、通信事業者も通信回線を用いたブロードバンドサービス、さらにはVODなどサービスを拡大。さらにモバイルへのサービス提供、スマートホーム/HEMSへと拡大を続ける熾烈な攻防が展開されている。
 ケーブル事業者の収入は、ブロードバンド事業へとシフトしており、映像配信では、OTTがケーブルのブロードバンド需要を発掘している状況など、状況は激変している。
 そうした中、10月17-19日に米オーランドで開催された米国のケーブルテレビ業界のエンジニアのための団体SCTEのコンベンション「Cable Tec Expo 2012」において、事前の予定になかったセッションが急遽開設され、現状のDOCSIS3.0の次世代バージョンとなる、DOCSIS3.1が発表された。DOCSISとは、同軸ケーブルでの高速なデータ通信を行うための国際規格。3.1によってケーブル業界は、光ファイバー敷設の多額の投資をせずに、現在の設備のままで、上り下りとも10Gbpsが可能になる。
 ケーブルテレビ業界では、この大容量データ伝送路を用いて、ビデオオンデマンド、マルチスクリーンサービスなどのIPビデオを強力に展開していく方針だ。長期的にはリニアテレビも含めてIPビデオに移行し、映像の全IP化が進むと予想されている。DOCSIS3.1は詳細の仕様化作業を経て、2013年中に標準規格化が完了。ケーブルモデムから製品化され、2015年には、センター設備も出荷される予定という。(日本CATV技術協会 審議役 浅見洋)

■ケーブルテレビ産業もブロードバンド事業に重点が移行 OTTも収益源に
 米国のケーブルテレビ加入者数は、2001年をピークに漸減傾向が続き、2011年は5,800万世帯で前年比180万世帯の減であった。一方で、高速データ加入者(インターネット接続サービス)は4,730万世帯で前年比290万世帯の増であった。ケーブル事業者の収入の多くはブロードバンド事業からで、家庭用ブロードバンドに限らず、企業など事業者向けブロードバンド事業も順調に増加している。
 映像サービス加入者数は漸減傾向にあるものの、映像サービスからの収入は依然として増加傾向にある、これは、デジタル化を契機に、HD有料パッケージなど多様なパッケージを提供していることが功を奏している。各社ともデジタルテレビサービス加入者数は順調に増加し、1-2年でアナログサービスを終了させる計画をしている。
 2-3年前までは、Netflix, Huluなどインターネット上での映像配信サービス(Over the Top:OTT)は、有料多チャンネルサービスに影響を与えるとして、ケーブル事業者は危機感をつのらせ、オンデマンド配信など映像系サービスの強化を図ってきた。しかし、OTTは一部の多チャンネル映像配信業者には影響をもたらしたものの全体としてはブロードバンド需要を掘り起こし、Netflixを見るために、ケーブルインターネットに加入する世帯も増加。そうしたことからOTTはケーブルの敵ではなく、ブロードバンド需要を発掘してくれているとの見解が増えている。
 この背景には、通信事業者は依然としてDSLサービス中心で、FTTHは進んでおらず、多くの地域では、10Mbpsを越えるサービスはケーブルテレビしかないという状況がある。通信事業者は、4G・LTEへの投資に集中しており、固定系の強化の余裕はない。このため、ケーブルテレビ事業者はブロードバンド事業者という認識がますます強まっている。

■DOCSIS3.1でHFCでも10Gbpsへ ~上り帯域拡大、OFDM変調方式、新誤り訂正方式等の採用へ~
 今年10月17日から19日まで、米フロリダ州オーランドで開催された「Cable Tec Expo2012」。主催の米国SCTE (Society of Cable Telecommunication Engineer)は、ケーブル事業者、メーカー等の技術者から構成される団体で、セミナーの開催、技術者資格制度の運用などによる人材育成、規格標準化活動、展示会の運営などの活動を行っている。SCTEは米国政府機関(NIST)に登録された標準化機関であり、標準化活動には企業が会員として参加している。技術者資格制度は、ブロードバンド設置技能者など数区分の資格を設け、試験を行い技術者の資格認定をしている。
 DOCSIS 3.0の発表は、このCable Tec Expo2012で開催されたSCTEの標準化セッションで急遽追加されたセッションで行われた。
 タイムワーナー、コムキャスト、コックス、ケーブルラボ、SCTE関係者が出席し、現状のDOCSIS3.0の次世代バージョンとなる、DOCSIS3.1が発表されたのだ。
 実は、「DOCSIS 3.1」という呼称自体、今回が初となる。今年5月のNCTAケーブルショーでは「NG(次世代)DOCSIS」という名称で報告されており、次世代ということで「DOCSIS 4.0」になるだろうとの期待が高かったのだ。しかし、オペレーターから「DOCSIS 3.0」との下位互換性維持の要望が強く、あえて「3.1」というネーミングをすることになったという。
 3.1の特徴は、上り下りとも帯域拡大、1024QAMなど高密度変調方式、LDPC誤り訂正方式、OFDM変調方式などの採用で、段階的に10Gbpsが可能になる。かねてから言われていたケーブルモデムの上りの遅さはこれにより解消するが、上り拡大に使われる85MHzまでは米国のテレビチャンネルプランでは4チャンネルまでのVHFローチャンネルで、ケーブル事業者がアナログテレビサービスの廃止によって得られる部分で、ケーブル事業者は、アナログサービスの廃止を急いでいる。
 現在、米国のケーブルテレビの配線方式は、光ファイバーと銅線による同軸ケーブルの両方を用いた方式を採用している。HFC(Hybrid fiber-coaxial)またはFTTN(Fiber To The Node)と呼ぶもので、ケーブルテレビ局のヘッドエンドからは光ファイバーが敷設してあるが、途中で同軸ケーブルに変換し、家庭へは同軸ケーブルで配線している。
 既存のDOCSIS3.0ケーブルデータ方式でも、このHFC網では1Gbpsが限界といわれていた。しかし、一方でFTTH(Fiber To The Home)への完全移行には時間と多額の投資が必要となる。そのため、急増するデータ需要に、HFCのままでも対応する方策が求められていた。
 こうした課題を解決する新たな方式として開発されたのが10GbpsまでHFCで対応できるDOCSIS3.1である。DOCSIS3.1による大容量データ伝送路の使途は、ビデオオンデマンド、マルチスクリーンサービスなどのIPビデオが主だ。リニアテレビと呼ばれるデジタル映像配信は当面、QAM方式で送られるが、長期的にはリニアテレビも含めてIPビデオに移行し、映像の全IP化が進むと予想されている。
 DOCSIS3.1は、現在も詳細の仕様化作業が続いており、2013年中に標準規格化が完了。まずはケーブルモデムから製品化され、2015年には、センター設備も出荷される予定である。

■FTTHへの移行でさまざまな提案:RFOG、EPOC, DPOE
 米国のFTTH化は進んでいないという印象が強いが、ケーブル事業者は、都市では、小セル化、光区間の拡大(Fiber Deep)、ビルまでの光化(FTTP:Fiber to the Premises)は進めている。企業向けには、データサービスは、RF方式によるデータ伝送のDOCSISに加えて、ベースバンドデータ伝送のEPON (Ethernet Passive Optical Network)によるFTTHも提供している。
 こうした中で、ネットワークの総合的な管理とFTTHへの効率的な移行を進めるためさまざまなシステムの開発も進められている。
 RFoG (RF over Glass)は、FTTH上でDOCSISセンター設備及びモデムを使うことを可能にするシステムで、DOCSIS3.1とRFoGの組み合わせで既存の設備を使いながら家庭までのFTTH化ができるとされている。
 一方、企業向けのEPONとの統合ネットワークとして、DPOE (DOCSIS Provisioning over EPON)が提案されていて、これは、EPONネットワークのセンター設備としてDOCSIS運用サポートシステム(OSS)を活用する方法である。
 EPONは、末端区間はイーサーネットLANであるが、既存の同軸を末端区間に活用するのが、EPOC (Ethernet PON over Coax)である。ベースバンド伝送のPONを末端でRFに変換することで、同軸設備が有効に利用できるとされている。
 RF系のDOCSISとベースバンド系のEPONの組み合わせという相反するアプローチに見えるが、米国のケーブル事業者は、ビジネス向けの事業者サービスにも力を入れ、すでに事業者にはFTTP, FTTHを提供しているため、事業者用ネットワークを家庭用に拡張するのがEPOC, 家庭用のDOCSISを事業者にも拡張するのがRFoGとDOCSIS3.1,これらの総合的な組み合わせがDPOEとも言える。
 また、FTTHを前提とするのがRFoGとDPOE、HFCを前提とするのがDOCSISとEPOCという整理もできる。いずれにせよ、FTTHには時間がかかるという前提で既存設備を活かしての多様なFTTHへの移行手順といえる。
 この他、近年、話題のいつでもどこでもテレビのTV every where を実現するIP伝送サービスやソリューション、WiFiによる無線サービスなど新しい技術、HTML5、ホームゲートウェイとクラウドの活用、HEVCやMPEG-DASHなど高度符号化、スマートエネルギー管理(SEMI)についての展示やセッションが多数開催された。TV every where については、3スクリーン(テレビ、PC、携帯)から4スクリーン(テレビ、PC、タブレット、スマホ)という呼び方も主流になってきている。

■CCAP IPビデオへの柔軟な移行を促進するプラットフォーム
 ケーブルテレビのセンター設備として、MPEG-TSで送られるTV番組伝送装置(EdgeQAM)とケーブルモデム終端装置のCMTSで構成されるが、これを統合し、IP処理を進めるのがCCAP (Converged Cable Access Platform)である。ケーブルを流れる信号には、QAMビデオの多チャンネル放送とDOCSISの高速データがあるが、映像系はビデオオンデマンド、ネットワークDVRなど多様なサービスが出現し、IP系での伝送需要が高まっている。
 CCAPは、QAMビデオとDOCSISデータを一体的に処理するので、省スペース、省電力はもちろんのこと、QAMビデオとDOCSISデータの間の柔軟性に富むので、映像サービスの段階的IP化にも対応しているので、ケーブル事業者にとって次世代のヘッドエンド設備である。展示会では、アリス、シスコ、ハーモニック社などがCCAPを展示していた。

■SCTE CTO「さらなる高速化が必要」
 SCTE CTOのDaniel Howardは、 JCTEA関係者との会合で次のように述べている。
(以下、Howard氏のコメント)
 今回、SCTEの会合の最大のトピックは、DOCSIS3.1の発表だ。HFC網でのデータサービス需要が高まり高速化が求められている。コムキャストは、DTAによりアナログ伝送を停止した。COXは帯域を1GHzまで拡大するなど、伝送帯域を広げているが、なお高能率変調方式などにより高速化が必要だ。欧州では、4096QAMまで使用できるDVB-C2が実用化に段階にあり、米国でも高度化に対応するDOCSISを開発した。
 ITU-TでスマートケーブルWGができ、SCTEのThomas Russelが議長をつとめ、HFCの高度デジタルダウンストリームシステムの標準化勧告案J.atransが作成中である。欧州DVB-C2、DOCSIS3.1の他、中国のHiNOCの提案、韓国も提案する予定。
 関連するSCTEの標準化では、RFoGの標準規格を改訂した。DOCSISとRFoGの組み合わせがFTTHに適している。既存の同軸網の高度化を進めながら、事業者向けや集合住宅向けにFTTHも導入していく。
 従来はケーブルラボが開発したシステムをSCTEが標準規格として策定する手順であるが、このプロセスでは時間がかかり、迅速なサービス提供を求める業界に対応できない。そこでDOCSIS3.1の開発にあたってはSCTEとラボはパートナーシップを提携し、協力して推進している。ラボのボードにHowardが入り、またSCTEのボードにラボから参加することになった。
 DOCSIS3.1に対応した人材育成・技術者資格とするべく、規格作成と並行して作業を進めるため、SCTEで特別作業班を作ることとなった。
 SCTEは、国際的な連携を強化しており、ドイツANGAと協力協定を結んでいる。日本とも同様な取組をすることを検討したい。

■ケーブル会社からブロードバンド事業者へ
 米国のケーブル会社は、ブロードバンド事業者として順調な展開を進めており、ブロードバンド基盤をもとに、マルチスクリーン対応、無線WiFi,映像のIP化、オールIP化に進んでいる。SCTEの機関誌は、ブロードバンドジャーナルであり、技術者資格もブロードバンド技術者である。SCTEが業界の技術指導に果たす役割を感じた。
 米国では、FTTHへの遅れが目立つが、今回のDOCSIS3.1など将来のFTTH、All IPへの移行への道筋が示されている。我が国以上にMSO化が進んでいる米国でも、中小ケーブル事業者も健闘している。サービス開発サイクルを2-3年でなく四半期毎にしなければならないとの意見も多数でており、業界の環境変化は早く、引き続き動向を注視していく必要がある。
 日本と比べてブロードバンドの競争環境が異なるので、単純比較は困難であるが、マルチスクリーン、オールIPは避けて通れない段階にあり、米国の状況を把握することは重要で、我が国のケーブル事業者の発展を期待したい。

 

ケーブル加入者の推移(単位:百万人)

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ケーブル会社の収入の推移(単位:千ドル)

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DOCSIS3.1の発展段階

DOCSIS3.1の発展段階

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