【マイクロソフト リサーチ アジア インタビュー 後編】1 グラフィックス・グループの活躍の原点

2012.10.30 UP

図(A) (c)オーム社
図(B) (c)オーム社

図(B) (c)オーム社

図(C)  (c)ACM 

図(C)  (c)ACM 

図(D)  (c)ACM

図(D)  (c)ACM

 昨年末に2011年新設ビルに移ったマイクロソフト・リサーチ・アジア(MSRA)を訪問し、そこで見られたMSRAの新たな展望を紹介した。 今回は、MSRAの中でも特に映像関係の人々にとって関心の高いグラフィックス・グループの活動とその最新情報を、同グループを率いるBaining Guo氏およびXin Tong氏とのインタビューを通して4回にわたり、紹介する。(倉地紀子)

■グラフィックス・グループの活躍の原点
 前回のMSRA訪問レポートでも紹介したように、MSRAグラフィックス・グループは、1999年にMSRAに加わったBaining Guo氏のもとで、コンピューター・グラフィックスの分野において世界的にその名を知られる研究組織へと成長してゆくのだが、Guo氏がまず目をつけたのはAppearance Modeling とよばれるカテゴリーだった。
 Appearance Modelingという言葉はコンピューター・ビジョンの分野などでは以前からよく用いられてきたようだが、CGの分野でメジャーとなってきたのはつい最近のことだ。そしてMSRAグラフィックス・グループは、CGにおけるこのカテゴリーの研究の草分け的な存在といえるのだ。Appearance Modeling元来の意味は、物体の色や質感を生成する手段のことを指している。したがって広義の意味ではCGレンダリングそのものもAppearance Modelingに含まれてしまうことになるの。しかし、CGの分野では、レンダリングに先立つ前処理などに工夫を凝らして、本来非常に計算負荷の重いレンダリングをおこなわなければ得られなかったような物体の色や質感をより効率的に算出することを可能するような技法を指して、Appearance Modelingという言葉が用いられるようになっていった。Guo氏はバークレイ大学で開催された同名のシンポジウムに参加したことをきっかけにして、この分野の研究に強い関心を抱くようになったという。

■BTFの研究成果で一躍注目
 具体的にMSRAグラフィックス・グループの名を世に出すことになったのは、BTF(Bidirectional Texture Function)と呼ばれる技法に関する一連の研究成果だった。BTFとは実質的には、視点方向とライト方向を密にサンプリングして撮影した物体表面上の小領域の画像(テクスチャ)の集合を指している。
 これらのテクスチャの集合を用いて物体表面のメソ・スケール(meso-scale)の構造と光との干渉を定義しようというのが、BTFを用いたレンダリング技法の基本的な考え方だ。メソ・スケールの構造とは、ミクロ・スケール(micro-scale)とマクロ・スケール(macro-scale)とミクロ・スケール(micro-scale)のちょうど中間にあたるスケールにあたる構造を指す。ミクロ・スケールの構造とは、実質的には人間の目には“点”としか認識できないような微小な構造で、CGレンダリングではBRDFに代表されるリフレクタンス関数を用いてこの構造が定義されてきた。
 そして、このような一点の周辺のミクロな構造と光との干渉を、物理的な法則に基づいて物体表面全体のマクロな構造に割り当てるのが、グローバルイルミネーション(GI)に代表されるようなレンダリング技法だ。したがって、物理的に正確なリフレクタンス関数を用いて、物体表面上の点と点との間を埋め尽くすほど密にGIの計算をおこなえば、CGレンダリングが理想とするフォトリアルな画像を生成することができるのだが、その計算負荷は非常に重くなる。

 この問題を解決するために考え出されたのが、マクロ・スケールとミクロ・スケールの中間にあたるメソ・スケール(meso-scale)というもので、このような構造を導入すれば、レンダリングにおいて各点の周りのミクロな構造同士の間を埋め尽くすほど密な計算を行わずとも、それに近いフォトリアルなレンダリング結果を得ることができるのだ。
 CGの分野で古くから用いられてきたテクスチャ・マッピングやバンプ・マッピングもメソ・スケールの構造を表すものといえるのだが、メソ・スケールの構造と光との干渉をより物理的に正確に復元すること目的に登場したのがBTFを活用したレンダリング技法だったのだ。
 BTFそのものは1990年代後半にコンピューター・サイエンスの分野で考案されたものだが (文献1)、これをCGレンダリングの一技法として生まれ変わらせたのはMSRAグラフィックス・グループの偉業といえる(文献2, 文献3)。
(次号に続く)

文献1) “Reflectance and Texture of Real-World Surfaces”
(Kristin Dana, Bram Ginneken, Shree Nayar, Jan Koenderink, ACM Trans. Graphics 1999)

文献2)”Synthesizing Bidirectional Texture Functions for Real-World Surfaces”
(Xinguo Liu, Yizhou Yu, Heung-Yeung Shum, SIGGRAPH2001)

文献3 )
(Xin Tong, Jingdan Zhang, Ligang Liu, Xi Wang, Baining Guo, Heung-Yeung Shum, SIGGRAPH2002)

(写真キャプション)図(A)(B)(C)(D)
 BTFとは物体表面上の小領域の見え方をあらわすもので、理論的には図(A)のようにライト方向(θi, φi)・視点方向(θr, φr)・小領域上の位置(x, y)を引数とする6次元の関数によって定義されているが、実質的には図(B)(C)のように視点方向とライト方向を密に変化させて物体表面上のフラットな小領域を撮影した画像(テクスチャ)の集合となっている。BTFを有効に活用して物体のリアルな見え方をつくりだすためには、板状の小さなテクスチャの集合であるBTFを、物体表面の起伏に合わせて物体表面全体に張り巡らせる必要があり、BTFレンダリングとはこの作業を指している。MSRAグラフィックス・グループは2001年および2002年に発表したSIGGRAPH論文によってBTFレンダリングという概念をCGの分野にはじめてつくりだした。図(D)右はBTFレンダリングの結果で、従来のテクスチャ・マッピング(図D左)と比較すると、遥かにリアリズムが向上していることがわかる。

※(D)の出典は”Synthesis of Bidirectional Texture Functions on Arbitrary Surfaces”です。

図(B) (c)オーム社

図(B) (c)オーム社

図(C)  (c)ACM 

図(C)  (c)ACM 

図(D)  (c)ACM

図(D)  (c)ACM

#interbee2019

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