【INTER BEE CONNECTED 2018 セッションレポート】「2030年 テレビは何ができるのか?〜Society5.0時代のメディアの役割」~ローカルメディア連携で地域はもっとつながる~
2018.12.24 UP
村上氏が示したSociety5.0での放送局のミッション
MBCでは今年「かごしまじかん」のキャッチコピーで新聞広告を出した
まさに地元に密着したとなみ衛星通信の事例
「ディレクソン」は視聴者自身が企画する番組づくりだ
INTER BEE CONNECTED 三日間のセッション、最後を飾ったのは「2030年 テレビは何ができるのか?」と題し、2018年に放送業界のテーマとして浮上したSociety5.0を見据えた議論が行われた。鹿児島の南日本放送(MBC)の編成局長兼編成部長 切通啓一郎氏、となみ衛星通信テレビ常務取締役 宅見公志氏、NHK報道局社会番組部チーフ・プロデューサー 花輪裕久氏という地上波ローカル、CATVそしてNHKそれぞれからパネリストに迎え、京都大学教授 曽我部真裕氏にもコメンテーター的に登壇してもらう独特のキャスティング。NHK放送文化研究所 村上圭子氏がモデレーターとして立ち、人口減少時代が迫る我が国の各地域でメディアが果たすべき役割を議論した。放送業界がいよいよ直面する課題に切り込む意義深いセッションとなった。
(コピーライター/メディアコンサルタント 境 治)
最初に村上氏が、セッションの前提となるSociety5.0を解説し、その中で「テレビに出番はあるのか」と問題提起をした。村上氏はこれから「メディアの身体感覚」が活かせるはずであり、課題解決のコーディネーター、暮らしを豊かにするプロデューサーの役割が求められるとの考えを述べた。
これを受けてまず切通氏から、地域密着の取り組みで群を抜くMBCの様々な事例が紹介された。MBCは「ふるさとたっぷり」をスローガンに掲げ長年地域との関係づくりに邁進してきた。「ネットワークを作り、ネットワークで作る」を合言葉に県内のCATV・コミュニティFM・ネットメディアなどと連携し番組づくりに生かしている。また圏内のドローン関係の団体とのネットワークで「かごしまドローンTRIP」を放送したり、「ふるさとウィーク」と称して県内の市町村から一週間番組を届ける取り組みも数年かけて行なっている。他にも地域に根ざした活動が次々に紹介され、曽我部氏も「ローカル局には地域を深掘りする余地があることがよくわかった。地域に根ざすとはこういうことをやるべきだ」と感心していた。
宅見氏からはとなみ衛星通信の取り組みが紹介された。メディアとしての面では、「地域の昔ばなしの映像化・書籍化」の事例と「地域の消防団番組」の事例。いずれも地域の文化や活動を広めることで、人びとの心を結びつける効果がある。一方ネット関連の事例としては「農業IoT」「小売店IoT」の試みが紹介された。CATVはメディアであるだけでなく、最近はインターネット企業として地域のインフラを強化する役割も担っている。となみ衛星通信がその分野で先進的な取り組みを行っていることがよくわかった。曽我部氏は「CATVはバラバラになっていく地域をつくっていく役割を果たしている。県単位の民放ではやりきれないところをやっている」とこれも感心していた。
次に、花輪氏がNHKで地域局ごとに取り組む「ディレクソン」についてプレゼンした。視聴者がディレクターになって、地域を元気にする番組企画を考えるのが「ディレクソン」だ。地域局が参加者を募集し、視聴者がチーム制で企画を競い、優勝企画はNHKが全力で番組化し放送する。すでに全国で十数もの企画が実現し、放送された。さらに視聴者とともに見る機会やフェスを開催するなど、放送後も地域の盛り上げを続けているという。視聴者参加の究極の形として新鮮だが、曽我部氏は「地域の課題を解決していく目標にはまだ距離がある。一過性のイベントに終わらずどう継続していくのかに興味がある」と、やや辛口にコメントした。
後半では村上氏の進行でディスカッションが行われた。「人口減少社会におけるマネタイズ」というテーマではそれぞれ、ローカルメディアのビジネスの難しさがにじみ出た。一方で「地域のメディア同士の連携とすみわけ」というテーマでは、とくに災害時における連携、そして役割分担が現時点でも起きていることがわかった。地上波テレビとCATV、そしてNHKが地域でどう連携していくかは今後リアルなテーマとなりそうだ。その意味でも、このセッションでこの3つのメディアを代表する三者が登壇したことには大きな意義が感じられた。最後に村上氏が、明治大学の小田切徳美教授の言葉から「人の空洞化>土地の空洞化>村の空洞化>誇りの空洞化」の考え方を引用し、その中でのメディアの役割を考えるべきではないかと投げかけてセッションは終わった。
これまでもローカル局の取り組みはINTER BEE CONNECTEDでも様々に紹介されたが、Society5.0を意識し社会的課題の解決を主眼に置いたセッションは初めてだった。その議論に地上波民放、NHKとCATVが並んだこともエポックメイキングだっただろう。今後の放送業界の議論を先取りした形のセッションとして2018年を締めくくるにふさわしい内容となった。この議論は来年にどう引き継がれるのかも期待したいところだ。
村上氏が示したSociety5.0での放送局のミッション
MBCでは今年「かごしまじかん」のキャッチコピーで新聞広告を出した
まさに地元に密着したとなみ衛星通信の事例
「ディレクソン」は視聴者自身が企画する番組づくりだ