【インタビュー】映画『ジョン・カーター』VFXスーパーバイザー ペーター・チャン氏(3) 表情豊かな群れを生成するためのツールを開発 

2012.4.6 UP

映画『ジョン・カーター』より(画像1)
ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン氏

ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン氏

群れでありながら個々に演技するキャラクター(画像3,4)

群れでありながら個々に演技するキャラクター(画像3,4)

群れのキャラクターでありながら視線が重視された(画像4,5)

群れのキャラクターでありながら視線が重視された(画像4,5)

(2)より
■キャラクターの演技を伴う”群れ”を自動生成

 ダブル・ネガティブ社は、映画『ジョン・カーター』のプロジェクトに携わるにあたり、急遽、同社のキャラクター・パイプラインの全工程を再構築した。
 VFXスーパーバイザーを務めた ダブル・ネガティブ社(Double Negative) のペーター・チャン(Peter Chiang)氏とのインタビューの(1)、(2)では、顔の表情をモーションキャプチャー・データから生成するための新たなシステムについて紹介した。このモーション・キャプチャーのためのシステムとともに、ダブル・ネガティブ社のキャラクター・パイプラインに大きな変革をもたらしたものとして、再構築された“群れ”のシステムが挙げられる。

 同社ではこれまで、群れを表現する場合、個々のキャラクターをパーティクルで近似し、『Houdini』のシミュレーション機能を用いていた。しかし、『ジョン・カーター』で要求された“群れ”では、個々のキャラクターに対して、これまでにないほど複雑な演技が監督から要求されたのだ。ヒーロー・キャラクター以外のサーク族のキャラクターは、ほとんどすべて“群れ”の要素となっていると同時に、個々のキャラクターがカメラからかなり近い距離に位置しており、監督はこれらのキャラクターの演技にもかなり細かい指示を与え、なおかつキャラクターの“視線”を重要視していた。
 そのため、群れとして動くべき各キャラクターに対しても、さまざまなタイプのリグの設定や、細かいアニメーション・コントロール、適切な“視線”の割り当てが必要とされた。
 また、群れの個々のキャラクターが干渉する環境も複雑であったため、キャラクターの動き切り離して、これまでのように群れ全体の動きとして環境との関係を表現することは難しかった。
 そこで、
 (1)「群れ全体の動きをパーティクルを用いてシミュレーション」、
 (2)「群れの各キャラクターへアニメーション・ライブラリ・データを割り当て」、
 (3)「割り当てられたアニメーション・データに対する各種オペレーション」
 ーーーという3つの工程を一つに統合した群れのシステムが新たに構築された。

 上記の(2)にある「アニメーション・ライブラリ・データ」は、役者の演技をモーションキャプチャーして作成したデータを、サーク族の身体の構造(手が4本など)に適するようにしているアニメーション・クリップのデータ・ベースだ。

 (2)では、このアニメーション・ライブラリから選択されたアニメーション・データを群れの中のキャラクターにそれぞれ割り当て、暫定的なアニメーション・クリップを複数作成する。(3)では、これらのアニメーション・クリップをうまくブレンドして、バリエーションを増したり、適切な“視線”を割り当てるなどの処理を自動的に行っている。
 しかし、実際にはアニメーション・ライブラリに登録されているアニメーション・データだけでは監督の要望に応じることができない場合も多く、特定のキャラクターに対してはキーフレーム・アニメーションによって動きが与えられることもあったそうだ。
 キーフレーム・アニメーションでは、(3)のオペレーションの自動化はできないため、作業の工程で、キャラクターのアニメーションがモーションキャプチャー・データであるかキーフレーム・アニメーションであるかを常に意識する必要があった。(倉地紀子)

(続く)

©2011 Disney. JOHN CARTER™ ERB, Inc.
映画「ジョン・カーター」4月13日(金)3D ・2Dロードショー!

【画像説明】
(画像1)
 映画『ジョン・カーター』( 4月13日(金)3D ・2Dロードショー)より
 
(画像2)
 ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン(Peter Chiang)氏。映画「ジョン・カーター」のVFXスーパーバイザーを担当した。

(画像3,4)
 『ジョン・カーター』に登場する群れの特殊性は、群の個々のキャラクターのリグやキャラクター配置するジオメトリーの複雑さだったという。過去の映画プロジェクトでダブル・ネガティブ社が扱ってきた群れは、ほとんどの場合、平面に近いジオメトリーの上に配置されており、(たとえばすべてが“歩行している”といったような)同一のリグのキャラクターで構成されていたという。これに対して今回のプロジェクトでは、起伏の激しい地形の上に群を配置する必要があり、(歩いているもの、動物に乗っているものなど)キャラクターのリグが実にバライエティに豊かなものとなっていた。したがって、これまではHoudiniのパーティクル・シミュレーション機能を用いて群全体の動きをつくりだしていたが、今回は上記のような複雑な設定に対応できるようなシミュレーション・ソフトウエアが新たに作成された。

(画像5,6)
 群の個々のキャラクターに関しても、その“視線”は重要視されていた。セットやロケの撮影ではその視線の目安となるような目印が用いられ、これを参照して群れの生成の最終工程にあたる暫定的なアニメーション・プレートをフレンドする段階で、個々のキャラクターの視線 (eyeline)がコントロールされた。

ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン氏

ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン氏

群れでありながら個々に演技するキャラクター(画像3,4)

群れでありながら個々に演技するキャラクター(画像3,4)

群れのキャラクターでありながら視線が重視された(画像4,5)

群れのキャラクターでありながら視線が重視された(画像4,5)

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