私が見た"NAB SHOW 2016"における技術動向(その4)符号化技術(続)、Future Park編

2016.5.27 UP

写0:タイトルバック(NHKの8K中継車)
写1:Tico アライアンスを提唱していたintoPixブース情景、

写1:Tico アライアンスを提唱していたintoPixブース情景、

写2:最近のメディア環境に応えるソリューションを公開したDalet

写2:最近のメディア環境に応えるソリューションを公開したDalet

写3:4K、IP時代を支える測定器類を公開したリーダー電子

写3:4K、IP時代を支える測定器類を公開したリーダー電子

写4:Future ParkでNHKは8Kシステムを公開

写4:Future ParkでNHKは8Kシステムを公開

 3回にわたり全体概要、高性能化目覚ましいカメラ、ファイルベース・IP化が進む制作系、配信・伝送技術について見てきた。最終回の(その4)では符号化技術(続き)、次世代技術を公開するFuture ParkでのNHKの8Kシステムについて紹介したい。

 これまでInterBEEにも継続して出展しているintoPIX(ベルギー)は、JPEG2000をベースにする視覚的に劣化が小さく、遅延も小さい大変軽い圧縮符号化技術”Tico”を出展していた。昨今の超高精細度映像、IP化時代に有効な技術との評価が高く、最近Ticoアライアンスが構築され多くの企業が参加している(写1)。同社は今年設立10周年を迎えるということで、会期中の中日の夕刻、ブースに多くの人達を迎えアニバーサリー懇親会を開き、ベルギービールを交わしつつ活発な技術交流を交わしていた。
 デジタル放送関連ソフトウェアや機器開発・輸入販売を主業務にグローバルな事業展開をしているヴィレッジアイランドは、パートナー関係を持つ多くの企業がNABに出展していた。DekTec Digital Video(オランダ)は、ISDB-T、DVB-S2XやATSC3.0などの世界のデジタル放送方式に同時対応するユニバーサルRF 変調PCIeボードやコンパクトサイズながら地上波、CATV、衛星波と世界の主要な放送方式信号に対応するペンライトのようなUSB3.0モジュレータなど多彩な製品を展示していた。Dalet Digital Media(フランス)は、独自画像処理エンジンによりHEVCに対応する高品質のトランスコーダ”AmbeFin”とハイブリッドIPおよびオールIP環境へ移行の際に柔軟に対応できる低コストのIT機器用マルチチャンネルプラットフォームの”Brio”などを展示していた(写1)。Quales TV(フランス)は、4K XAVC、クラウド対応可能となり、ファイルのビデオ画質の自動品質検査(QC)プロセスを公開していた。Barnfind Technology(ノルウエイ)は12G-SDI、4Kまで対応可能な小型コンバーターと12G-SDI対応でCWDM光多重伝送装置を展示していた。Axon Digital Design(フランス)は、4Kアップ・ダウンコンバーターとIPソリューションの実演をしていた。

 符号化技術、データ圧縮関係のソフト、ハードウェアの開発を手がけ、ポートランドにベースを置く日系企業Zaxelは、例年Future Parkに出展していたが今回は自前ブースにて、特徴ある最新技術を出展していた。”zFocus”は人工知能とビッグデータ技術を使った独自アルゴリズムを適用し、映像のピンボケを補正し焦点深度を拡大する技術で、デモを見たがその効果は大きかった。また超解像アップコンバートソフトSuperscalerで処理した動画像も見せていた。ノイズ除去ソフト”Denoiser 8K”はAffine変換アルゴリズムを搭載し映画フィルムの粒状生ノイズを自然感あるように改善する技術である。 
 テクノマセマティカルは超高精細映像やIP時代に有効な独特の技術を公開していた。H.265/HEVCリアルタイムソフトウェアデコーダは、8K および4K 60Pに対応し、独自開発DMNA( Digital Media New Algorithm)を駆使し高画質で高速、小型で低消費電力化を実現した。また独自開発の小型IPエンコーダ/デコーダは、フルHDで伝送レートは158Kbps~3Mbpsと低く遅延量は100msと小さい。有線/無線LAN、3G/4G、B-GAN(通信衛星用)に対応し、ライブ中継などの折り返し映像用にも利用できる。

 測定機器関係メーカーも4K/8KやIP時代に対応する各種機器を出展していた。テクトロニクスは、放送局やケーブルなどの配信事業者がIPベースのインフラへの移行をサポートするツールとして、ハイブリッドSDI/IPメディア解析ソリューション"Prism"を出展していた。SDIとIP両方の信号タイプを診断し、相関付けすることでエラーの原因がIP層か、コンテンツ層かをすばやく判定できる。また4Kへシームレスに移行しやすくするテストソリューションのHEVC解析ツールも提案していた。またテレビ、PC、スマフォヤタブレットなどマルチスクリーン向けに配信する場合、ABRストリーミングが重要だが、配信、サービス事業者が検証、モニタリングするソリューションが提案されていた。さらにコンテンツ検査を高速に効率的に行う検証ソフト”Aurola/Hydra”も出展していた。
 リーダー電子も4K、IP時代を支える様々な測定器類を展示していた。4K対応波形モニター”LV 5490”は、4K、QFHDおよびHD/SDに対応し、新たにHDR、12G-SDI、IP伝送にも対応するように機能アップされた(写2)。HDRについては、波形表示と共に高い輝度レベル部分を確認できる表示機能を強化した。12G-SDIは4入力を持ち最大4系統の4K信号の波形やピクチャーなどを1台で観察できる。さらにIPに関してはソニーのNMIを搭載し一台でSDIとIP伝送を両方観測できる。また4Kラスタライザー”LV7390”は最大4系統のSDI信号を大きな画面で同時観察でき、自由にレイアウト変更もできる。
 日本コントロールシステムは進展する8K放送状況を踏まえ、独自開発した8K対応の解析装置”DAB8000 mini”を出展していた。15.6型WXGAタッチパネルによる操作と波形モニター、プロトコル解析、信号発生機能を有しており、昨年InterBEEに出展した時より大幅に小型軽量化し運用性を改善した。また非圧縮データレコーダー”DRB8000”も出展していたが、フルスペック8K、RGB444 、120p、BT.2020を記録・再生でき、ARIB規格準拠の24芯光ファイバインターフェースU-SDIを搭載しており、記録容量は最大で46TB(8K 120Hz 4:4:4で30分の非圧縮記録)が可能である。

 NAB主催の特別コーナーFuture Parkでは、NHKやKBS、EBUなどの放送局やATSC 3.0 Broadcasting Pavilion(米)やUltra HD Forum、DVB(欧)などの研究機関などが、近未来の多種多彩な最先端技術を公開していた。その中で韓国のKBSやSBS、LG電子などが広めのブースで、ATSC3.0に添い進めている地上波U HD放送の準備状況などのプレゼンテーションをし注目されていた。
 NHKは8月から始まるBSによる8K試験放送とリオオリンピック中継に向け、準備を進めている最新の8K機器、およびその先を見据えた8K実用化を世界に向けてPRする展示を行っていた。350”大画面による 8Kシアターでは、光源に半導体レーザーを用いBT.2020対応の広色域と120P、3300万画素の8Kフルスペックのディスプレイ DILA(JVC製)を使い、「青森ねぶた祭り」や「スーパーボール」などを上映していた。見学者はまるでその場で見るような迫力と臨場感に堪能していた。シアター横には、85”型8K LCDモニター(シャープ製)と共に、8K作品制作に使われた3300万画素3板式フルスペックカメラ(日立国際電気)と1億3300万画素単板カメラ(アストロデザイン製)も展示されていた。さらに、8K受像機に実装するLSI化された8K HEVCデコーダボード(Socionext製)と上述の小型軽量の8K信号解析装置(日本コントロールシステム製)も展示されていた。NHKがBBCと連携し開発を進めている従来のテレビ方式と互換性のあるHLG(Hybrid Log-Gamma)方式HDRとSDR映像の比較表示と、60pと120pのHFRの動画像画質の比較も有機ELを使い見せていた。
 リオオリンピックでも使う8K中継車(SHC-2)も展示されていた。海外での運用も考慮した電源系や、輸送に対応しやすい車両の構造など、これまでのノウハウを蓄積して製作した世界初の8K中継車である。8K機器アッセンブルはソニーが担当し、映像系インターフェースは周辺機器に合わせDG方式になっているが、スイッチャーは将来のフルスペック化、IP化に備え、前述のNMI系も装備しているそうだ。車両前方の制作室にはスイッチャー、55”型8Kモニター、マルチビュア、ラインモニター類が並び、後方の機器室にはVE席が設けられ、4Kモニターによりカメラのフォーカス合わせなどの調整ができるようになっている。その周囲には狭い通路を挟み壁面いっぱいに様々な機器が所狭しと実装されていた。本中継車は同時期に製作された1号車”SHC-1”(池上通信機担当) 、音声中継車と共にブラジルに送られリオ五輪で活躍される。
映像技術ジャーナリストPh.D.石田武久

写1:Tico アライアンスを提唱していたintoPixブース情景、

写1:Tico アライアンスを提唱していたintoPixブース情景、

写2:最近のメディア環境に応えるソリューションを公開したDalet

写2:最近のメディア環境に応えるソリューションを公開したDalet

写3:4K、IP時代を支える測定器類を公開したリーダー電子

写3:4K、IP時代を支える測定器類を公開したリーダー電子

写4:Future ParkでNHKは8Kシステムを公開

写4:Future ParkでNHKは8Kシステムを公開

#interbee2019

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