【インタビュー】映画『SAKI —鮮血のアーティスト―』横山智佐子 監督インタビュー 「ヒッチコックに魅せられて」(石川幸宏)

2012.2.3 UP

映画『SAKI —鮮血のアーティスト―』の横山佐智子監督
『SAKI —鮮血のアーティスト―』のDVDジャケット

『SAKI —鮮血のアーティスト―』のDVDジャケット

■ハリウッドで活躍する映画編集者 横山佐智子さん初の監督作品

 リドリー・スコット(グラディエーター、ブラックホーク・ダウン)、ガス・ヴァン・サント(グッド・ウイル・ハンティング)など、名だたるハリウッドの名監督の作品に参加し、日本人のハリウッド映画編集者として第一線で活躍を続けている横山智佐子さん。2006年からはロサンゼルス/トーランスで、ISMP(International School of Motion Picture)という日本人向けの本格的な映画学校を開校、ハリウッド式の映画制作を生の現場で教えながら世界で通用する映画人の育成に務めるなど、様々な形で日本映画人の活躍の場を拡げる活動を続けている。
 今回、自身初の監督作品『SAKI —鮮血のアーティスト―』というサスペンス・スリラー作品を制作、2011年12月には日本でもDVDが発売(レンタル)された。主演には昨年、噺家の二代目林家三平と結婚して日本の芸能界でも注目される女優の国分佐智子を起用。テレビから見せるその素顔からは全く想像できない鮮烈な役柄が話題となった。
 ロサンゼルスのISMP校舎で、横山監督に本作やご自身の映画思想についてお話を伺った。(聞き手:DVJ BUZZ TV 石川幸宏)


■日本人向け映画学校ISMPを立ち上げ

—本作「SAKI—鮮血のアーティスト―」を制作した経緯について

 「SAKI」の制作経緯は、2006年に日本人向け映画学校のISMPを立ち上げ、生徒に映画製作を生で体験をして欲しかったことから、その現場として提供したかったことが一つです。そして学校を卒業した生徒がハリウッド式の映画作りを学び、実際にハリウッド式で映画制作をするようになってきましたが、こちら(米国)で制作した作品を逆に日本へコンテンツを販売・配信できないだろうか? ということを以前から考えていました。
 そんな時、卒業生の一人に映画監督を父に持つ生徒さんがいて、その映画監督のご縁で、今回2本の作品の制作費等の援助をして頂きました。『SAKI』はその中の1本として制作しました。


—配役に日本の有名女優を起用するなど制作費も掛かっているのでは?

 当初はもっとローバジェットでLA在住の俳優とクルーだけを使って撮るつもりでした。作品ももっとアマチュア的なものを想定していたのですが、その監督さんの映画をロサンゼルスで撮影することになり、私もその編集を担当することがきっかけで、そこに出演されていた国分佐智子さんに『SAKI』への出演依頼をしてみたところ、彼女もその当時は女優としてハリウッド進出も考えていた時期だったようなので快諾して出演して頂きました。彼女の出演で映画自体のクオリティも大きくアップしたと思います。


—監督を手がけた経緯と、監督を実際にやってみての感想は?

 もともと企画として私か、卒業生が監督をやるべきだと考えていましたが、ハリウッド式ということになると、私が一番その方法は理解しているので、良いチャンスだと思ってやらせて頂きました。
 しかし監督業を実際にやってみての感想は、性格的には自分には向いていないのかなと思っています(笑)。私はやはり編集者なんだなと改めて思いました。監督と編集者ではメンタリティーが大きく違います。
 編集者はものすごくロジカルで、ストーリーが解りやすいようにとか、観客が解りやすいようにとか、常にそういうことを考えてディレクションしています。今回、監督をやってみて思ったのは、やはりそれではダメなのでは?と。
 私も有名なハリウッドの監督さんと仕事をしてきましたが、そう言う方でもロジカルな面が抜けている方が多いのです。そこで編集者が色々と忠告をしたりするのですが、監督はそういうロジカルなことよりももっと大事な事、つまり感性であったり表現力といった部分を意識して演出されているのだな、と改めて感じました。さらにそういうものを求められた役者が、それを表現することがどれほど難しいかを改めて理解した気がします。


—ハリウッド制作とはいえ、日本人スタッフがほとんどですが…

 『SAKI』は日本に向けて発売する作品として作りましたし、それをハリウッドで撮っているというところを売りにしたかったのです。
 日本語/英語両方が入っていることも最初から意図していたことですし、75〜80%は日本語で行きましょうということでした。もちろんキャストも日本人を中心に起用して、そこに何人かアメリカ人も入れることを考えていました。
 最初から販売を目的とした作品であり、我々はこのバジェットでもここまで出来ますよという証明をしたかったのです。そして何よりこの次に繋げたいと思っています。


■ヒッチコック作品が映画への興味の始まり

—なぜサスペンス・スリラー作品を手がけたのでしょうか?

 もともと私の映画への興味は、ヒッチコックの作品から始まっています。普通のドラマなども編集者としては好きですが、(自分で監督するならば)実は私はこういうモノしかやりたくないという人なんです(笑)。
 ヒッチコックの作品というのは、今見るとトリックなどもチープですが、どうやって観客を怖がらせるかというのはそういうギミックだけではない、ということを教えてくれます。学校での私の授業では必ずヒッチコックの作品は取り上げますが、いつ見てもヒッチコックは凄いなと思いますね。


—ヒッチコック作品は、編集者のロジカルな面と繋がる部分はありますか?

 それはあるかもしれません。ヒッチコックはストーリーボード通りに撮って、毎日撮影が終わると編集室に来て、自分でつなげてしまうというほどの人で、撮影が終わったと同時に映画がほとんどでき上がってしまう、という監督さんです。だから撮影するときには次のどんなものを撮るかがいつも頭にあって撮影していた方のようです。そう言う面ではロジカルという共通点はあるかもしれませんね。
 そうは言っても日本の映像の作り方はそもそもロジカルですよね? ハリウッドはガサッと大雑把に撮って、後で良い所を選んで繋げるというやり方なので、日本の方法とは全く違うと思います。なので、日本の方にこういう話をしてもどこまで理解して頂けるか解りませんが…。


■映画の80%は演技で決まる

—制作に関して苦労した点は?

 私自身、Team Jという映画制作会社を立ち上げたので、制作を続けていかないとならないというのがありました。この作品はローバジェットかつ10日間で撮影しています。全く時間の余裕が無かったので、役者さんの演技を修正して再撮する、ということも全く出来ず、後は編集で何とかするしかない部分も多かったので、かなり編集は頑張りました(笑)。


—国分佐智子さんが出演されたことで感じたことは?

 日本でも第一線で活躍されている役者さんですから、やはりアクティング(演技)が素晴らしく、非常にプロフェッショナルでやり方もハリウッドとは全く違いますね。私の指示をすぐに理解してくれて、的確に役に反映してくれるのには非常に驚きました。そこで映画の質も上がりました。
 映画の80%ぐらいは演技で決まってしまうと思うので、アクティングはとても大事です。編集者視点から言えばアクティングが良いと非常に編集しやすいのです。編集者はマズい所を隠すなどの回避作業が非常に多いので、下手な役者ですと凄く大変になります。しかし上手い役者さんですと、どこを切っても成立するので楽ですね。


—その視点から、これまでメジャーな作品の中でこの人は凄い! と思った役者さんはいますか?

 ジーン・ハックマンさんですね。国分さんと同じく、彼も何度同じ演技をしても全く変わらない演技が出来る役者です。面白いのは静止画で見ると明らかにジーン・ハックマンなのですが、動画で見るとそのキャラクターになりきって見えるのが凄いですね。


■映画制作は学校進展の一環

—こうした作品は今後も制作していく予定ですか?

 基本はISMPが主流で、学校を今後も続けていきたいですし、それのために映画制作を含めて色々なことをやっています。
 誤解がないように申し上げるならば、決して映画制作の人集めで学校をやっているわけではありません。学校進展の一環として、今後も映画制作はしていく予定ですが、こうした映画作品制作の一番の目的は、作品に刺激されてもっと多くの方にISMPに来て頂きたいことです。
 今は人数も限られていますが、人数が増えてくれば監督業も含めて様々な人に役割を振り分けていこうと考えています。編集は私が行うと思いますが(笑)。一番の理想としては、学校を卒業した方がTeam Jで映画を制作し、その作品が売れて行くというのが理想です。ISMPに来ている方はお金も時間も費やしてきている生徒ばかりで、内容も非常に厳しいですし、1年間LAに居ても全く観光などできないくらい時間もないので、中途半端な覚悟で来ている人はいないと思います。そうした懸命な努力をしてきた卒業生達がここで学んだことを基本にして、日本の映像制作をまた良い意味でステップアップしていってくれれば良いですね。


『SAKI —鮮血のアーティスト—』
DVD 2011年12月2日発売 価格:3,990円(税込み)
http://saki-movie.com/index.html

『SAKI —鮮血のアーティスト―』のDVDジャケット

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