私が見た"Inter BEE 2015"動向(その4)符号化技術・配信系

2015.12.11 UP

写0:LSI化により小型化した高画質・低遅延のH.265コーデックHHC10000による実演(NTT)
写1:4K/HD対応、高圧縮で低遅延のH.265/HEVC対応小型コーデックシリーズ(NEC)

写1:4K/HD対応、高圧縮で低遅延のH.265/HEVC対応小型コーデックシリーズ(NEC)

写2:JPEG2000によるIP伝送装置Qool Tornado、左手で8K伝送系も公開(PFU)

写2:JPEG2000によるIP伝送装置Qool Tornado、左手で8K伝送系も公開(PFU)

写3:画質劣化が少なく遅延量も小さい軽便な圧縮技術”Tico”(intoPIX)

写3:画質劣化が少なく遅延量も小さい軽便な圧縮技術”Tico”(intoPIX)

写4:8K信号の波形監視、プロトコル解析、信号発生機能を持つ8Kアナライザー(日本コントロールシステム)

写4:8K信号の波形監視、プロトコル解析、信号発生機能を持つ8Kアナライザー(日本コントロールシステム)

 (その1)から(その3)まで多種多彩なカメラやディスプレイ、ファイル化、IP化する進む制作系についてみてきた。(その4)では、あらゆる分野の機器、システム、コンテンツのベースを支える符号化技術と関連する配信・送出系について紹介したい。

 映像はますます高精細度化、高画質化している。その要素は、4K、8Kと呼ばれる解像度、画素数であり、30pから60pへさらにフルスペックSHVの120pとHFRへのシフトであり、忠実な色再現性に向けてのRGB444のような色解像度の向上とBT.2020のような色域の拡張であり、最近大きなトレンドになっているHDRである。映像信号のデータ量は従来に比べ圧倒的に大きくなる。そのような映像信号を扱うには、品質を損なうことなく、効率的に、できるだけ遅延少なく、データ量を軽減、圧縮する必要がある。今大会ではそのための符号化技術やそれらを利用する配信関連の多種多様な出展が見られた。
 NTTグループは、従来機種”HV9100”の高画質・高機能・低遅延性を継承しつつASIC化により小型・低電力化、高安定化、低遅延を実現したH.265/HEVCエンコーダ/デコーダ“HHC10000”シリーズを出展した(タイトルバック写真)。冗長可能なプロテクション機能により、IPネットにパケットロスやジッタがあっても高品質伝送が可能であり、高画質のままビットレートを下げ帯域を節減し伝送コストを抑えることができ、DVB伝送だけでなくIP伝送にも対応する。リアルタイムにエンコード、デコードした映像を表示し画質と遅延時間を評価していた。また高性能エンジンを搭載したWindows上で動作する高画質・高圧縮可能なファイルトランスコードアプリケーション”RealFeel File Convert 4K”は、コンテンツフォルダや配信業者が安価で容易に利用できる製品で、利用方法の紹介と共に4K60P@HEVC12Mbpsの映像を公開していた。またコストパフォーマンスが良く、高品質で効率的にHD/4K/8K映像制作・配信が可能な”viaPlatz”によるワークフローソリューションの実演もやっていた。
 NECは新世代の放送を見据え、8K対応コンバーターと4K放送を支えるHEVCエンコーダを装備した4K/8K時代のマスターシステムを参考展示し、リアルタイムにエンコードした8K映像を上映していた。また4K/HD対応の高圧縮で低遅延のH.265/HEVC対応の小型のコーデックシリーズ”VC-8700”とそれらを使い再現した映像も表示していた(写1)。H.265はH.264に比べ高画質のままビットレートを下げることができ伝送コスト削減にも役立つし低遅延のため映像を見ながらカメラを遠隔制御することもできる。また番組やCMサーバーに使われているArmadiaシリーズで4K対応になった”Armadia ff 4K”を展示していたが、コンテンツのインジェストから再生・送出までXAVCやAVC Intraなどファイルで運用でき、次世代放送局のサブシステムとして期待される。その他、4Kクラウド配信システム、報道ファイルベースシステム、ビッグデータを活用した放送サービス支援システムも展示していた。
 富士通はやや変わったソリューションを提案していた。放送局と共創する新たな映像体験コーナーでは、センサーやSNSなどから収集したデータを分析・可視化し放送局へ有益なデータとして提供し、より多くの視聴者が放送を一層楽しめるように支援する仕組みである。またスポーツやイベント中継で多地点カメラ映像を収録し送出するソフトウェアを活用するスタジアムソリューション、トランスコードやレンダリングなど高機能コンピュータ環境が必要とする業務を支援するクラウド型映像プラットフォーム、さらにクラウド環境で大容量ストレージを安価に利用可能とする”Media Pool”などを提案していた。さらに次世代放送への対応として、動き適応技術も投入し一層効率と画質を高めたH.265/HEVCもH.264と比較し展示していた。同社系列のPFUはJPEG2000圧縮を採用し4K生放送でも使える低遅延、高画質のIP伝送装置“Qool Tornado”を出展した。同装置をスケーラブルに拡張すれば8K/60p非圧縮伝送にも使え、今回アストロデザインと共同で伝送実験をしていた(写)。さらにフジテレビ、営電と共同開発したHD回線1本で4Kを低遅延伝送できる超高速伝送装置”SDI-Hyper”も公開していた。
 三菱電機は符号化技術で高い実績を持ち、NHK技研と共同で既に8K対応H.265/HEVCコーデックを開発しているが、今回は実ビジネスにあわせ小型化したHD対応モデルを展示していた。その他、従来機種と互換性があり小型軽量化した衛星通信用HDTV高速モデム、ヘリコプター衛星通信システムやミリ波通信システム、さらに最新気象情報を的確に把握し空の変化状況をビジュアルに表現できる最新天気システム「空art(ソラート)システム」の展示をしていた。
 世界的に符号化技術で実績あり最近InterBEEの常連にもなっているintoPIX(ベルギー)はHD/4Kなどの多様な解像度、高フレームレートに対応し、圧縮伸長を繰り返しても画質劣化が少なく遅延量も小さい圧縮技術”Tico”(写3)と従来からの4K対応JPEG2000を出展していた。Ticoは最近その実績が認められ世界的なアライアンスが構築され、現在グラスバレーやテクトロニクス、Imagineなど30社近くが参加している。デジタル放送対応ソリューションを手がけているヴィレッジアイランドは、最近の放送メディア展開に応える多彩な製品を展示していた。DecTek(オランダ)のISDB-T/S、DVB-T/Sおよび4kを含む世界のデジタル放送方式に対応したペンライト型USB-3ユニバーサルマルチスタンダードモジュレーター、Thomson(仏)の4K HEVCエンコーダやIPマルチチャンネルエンコーダー、Dalet(仏)のマルチ入出力装置”Brio”とファイルトランスコーダや素材管理システムなどを、Barnfind(ノルウェー)の光伝送装置とルーティングスイッチャー、Quales(スペイン)のQCシステムやWitbe(仏)の自動ビデオ品質監視ロボットなど世界の多彩な最新機器を展示していた。
 圧縮技術関連ソフトやハード開発を主力業務にしNABのFuture Parkの常連にもなっているザクセルは、映画系と放送系でコンテンツを共用するソフトウエア・ツールとして、異なる解像度、フレームレートの映像を高品質に変換する”Superscaler”を展示した。最新モデルはHD<-4K、4K<-8K、6K<-8Kへの高画質変 換も可能である。単にフレーム間の補間するのではなく物体の動きを考慮したアルゴリズムにより変換し動きが滑らかで鮮明な映像が得られるそうだ。ネット系配信ツールとして、パケットロスによるノイズやフリーズの発生を抑える高信頼性あるIP配信システム”Zixi”ライブストリーミングはJVC、DPSJ、Harmonicや共信コミュにケーションなどのブースで公開されていた。
 測定器関係も超高精細度化、ファイル化、IP化する制作環境に対応する機器を展示していた。テクトロニクスは高画質、高度化する制作系をサポートする4K波形モニターおよびラスタライザー、MPEG Over IP/RFからHEVC-ES解析までの動作を検証できる測定器、さらにファイルベースのQCと欠陥を自動的に補正する機器を展示していた。リーダー電子は、3G/HD/SD-SDI に加え12G入力にも対応可能で、BT.709とBT.2020に対応する色度図表示が可能な上、トレンドのHDRにも対応する4K波形モニターと4入力マルチ波形モニターさらに4入力フルHDラスタライザーも展示していた。KDDIを出身母体とするK-Willは実績あるHDTV対応のQC技術をさらに性能・機能アップした4K対応の画像評価装置を初出展した。基準画像と評価画像の時間軸を調整し画素同士を合わせこみ差分値と共にITUの評価方式をベースにした方法で客観評価値を計算し可視化している。日本コントロールシステムは8K対応の非圧縮レコーダーに加え、8K機器開発向け解析装置を初出展した(写4)。15.6”型WXGAタッチパネルを装備し、U HDに対応、フルスペック8K(120p/444 、BT.2020)信号を非圧縮で記録再生でき、波形監視、プロトコル解析、信号発生器の機能を有しており、8K機器開発やコンテンツ制作・送出にとって有益な製品だ。
 放送をバックヤードで支える無線中継技術もデジタル化されている。池上通信機はH.265/HEVC対応エンコーダを内蔵し高い圧縮効率で伝送可能なデュアルバンド超小型FPU送信機や、HD-SDI 6ch 分を1 本の光ファイバーで長距離伝送できる映像パケット光多重伝送装置を出展していた。日立国際電気はSISO方式/MIMO方式で1.2/2.3GHz周波数帯にデュアル対応し、移動中継現場で最適の運用性と高い伝送品質を実現できるFPU装置を出展していた。
映像技術ジャーナリスト(Ph.D.)石田武久

写1:4K/HD対応、高圧縮で低遅延のH.265/HEVC対応小型コーデックシリーズ(NEC)

写1:4K/HD対応、高圧縮で低遅延のH.265/HEVC対応小型コーデックシリーズ(NEC)

写2:JPEG2000によるIP伝送装置Qool Tornado、左手で8K伝送系も公開(PFU)

写2:JPEG2000によるIP伝送装置Qool Tornado、左手で8K伝送系も公開(PFU)

写3:画質劣化が少なく遅延量も小さい軽便な圧縮技術”Tico”(intoPIX)

写3:画質劣化が少なく遅延量も小さい軽便な圧縮技術”Tico”(intoPIX)

写4:8K信号の波形監視、プロトコル解析、信号発生機能を持つ8Kアナライザー(日本コントロールシステム)

写4:8K信号の波形監視、プロトコル解析、信号発生機能を持つ8Kアナライザー(日本コントロールシステム)

#interbee2019

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