【Inter BEE 2018】テクニカルセッション「国土交通省が進めるプロジェクションマッピングの規制緩和」 PMAJ 石多代表インタビュー「高精細映像は屋外広告から建築・空間デザインの一部へ」

2018.11.12 UP

今回の国交省の規制緩和の実現へ向け、積極的な働きかけをしてきたPMAJ代表 石多氏

今回の国交省の規制緩和の実現へ向け、積極的な働きかけをしてきたPMAJ代表 石多氏

海外で開催される国際コンペに審査員で参加する機会が多いという

海外で開催される国際コンペに審査員で参加する機会が多いという

イベントをきっかけに業務を拡大するクリエイターも多い

イベントをきっかけに業務を拡大するクリエイターも多い

二子玉川のライズにある109シネマズ二子玉川に常設しているプロジェクションマッピング

二子玉川のライズにある109シネマズ二子玉川に常設しているプロジェクションマッピング

■国交省が3月、プロジェクションマッピングの実施マニュアルを策定
 国土交通省は今年3月30日、プロジェクションマッピングを実施する際のガイドラインとして「投影広告物条例ガイドライン」を策定し、実施の際の手続きや窓口などを明記した「プロジェクションマッピング実施マニュアル」を事業者向けに策定した。2020年のオリンピック・パラリンピック、2019年のラグビーワールドカップなどへ向けた機運醸成策の一環として、また、これまで各自治体で異なっていたプロジェクションマッピングの対応等についての技術的助言としての位置付けでもある。

■地域振興等を視野に大幅な規制緩和
 基本的には、公益性があり期間限定で行われるものは、許可不要で実施することができる旨を明示しており、その例として、「まちの活性化に資する期間限定のイベント(オリパラ関連など)は、許可不要で実施可能」としている。また、禁止地域 を住宅系用途地域など配慮が必要な地域に限定し、許可地域についても、商業地域等においては面積要件等の制限を撤廃することができる旨を明示しているなど、プロジェクションマッピングの利活用のための一本進んだ環境整備となっている。
 セッションでは、ガイドラインを策定した国土交通省のねらいと、プロジェクションマッピングの実施時の留意点、従来との違いなどについて、パネルディスカッション形式で話を聞く。

■PMAJ 石多代表「大きな一歩」
 パネルディスカッションのパネラーとして登壇する、一般財団法人 プロジェクションマッピング協会(以下、PMAJ)の代表理事 石多未知行氏は、今回の国交省の規制緩和の実現へ向け、積極的な働きかけをしてきた一人だ。PMAJは、日本のプロジェクションマッピングの隆盛を支え、国内外のクリエイターを支援する活動を積極的に展開している。今回の規制緩和については、「大きな一歩」と評価する。
 石多氏に、今回の規制緩和実現の経緯と働きかけのねらい、そしてPMAJの今後の活動などについて聞いた。(聞き手:Inter BEEニュースセンター・小林直樹、インタビュー時期は9月)

■規制緩和で地域創生にも貢献
ーー国交省の今回の規制緩和では、2020年に向け、プロジェクションマッピングの役割に大きな期待がかけられていると感じますが、それ以前の状況はどのようなものだったのでしょうか。
 「日本のプロジェクションマッピングは、欧米と比べると10年位遅れているのはと感じています。その原因は、実は『東京が明るい場所であった』ということが大きな要因の一つですね。また、既存の条例や規制の中がプロジェクションマッピングにとっては、いろいろな制約になってしまうケースも少なくありませんでした。自治体は大変保守的な傾向で、ある区で厳しい規制が出ると、一律右へならえという面もあり、長い間、条例や規制の壁があったのは事実です」

ーー今回、国交省から規制緩和のガイドラインが出たことで、大きく変わると思われますか。
 「はい。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、例えば渋谷区に関しても、2020までエンターテインメント特区というものを作って、大型看板などの規制を緩和しています。助成金を出して促進しようという動きもあり、流れを感じますね」
 「今回の国交省のガイドラインには、47都道府県の窓口が全部明記されています。しかし、3月30日の発表以来どのぐらいの問合せがあったかをPMAJで調べたところ、まだほとんど効果が出ていない状況です。そこで、今回のパネルディスカッションなど、公の場所でもっと認知を広げていくことが必要だと感じています。それがPMAJの責務でもあると考えています。Inter BEEに集まった関係者に聞いてもらうことで、次のステップや、考え方を掘り下げていきたいと思っています。今回はあくまでガイドラインであり、これを活用してもらって初めて効果測定や必要な要件が見えてくるようになります」

■ガイドラインでオペレーションのノウハウも提供
ーーガイドラインの中には「公益性があり期間限定で行われるものは、許可不要で実施することができる」といった、かなり踏み込んだものがありますね。
 「実際、ここに掲げられた内容で、基本的なルールを守っていれば、こちらに言わないで勝手にやって下さい。みたいな部分も書いてあります。こういうガイドラインができると、プロジェクションマッピングを使ったデジタルサイネージとか、屋外での映像活用が広がり、業界が元気になればと思っています。ただし、その中には実施できる場所や環境の条件も多々あり、諸手を挙げて自由になっているわけではありません」

ーーマニュアルもありますが、この策定にはPMAJが協力をされているのですか。
 「はい。これまでの活動の経験から、どういった所が高いハードルだったか、もう少しこういう所が緩和されるといやりやすい、といった事例や考え方について、国交省とディスカッションして、ガイドラインを作ってきました。最初にご相談をいただいてから、3か月ぐらいかけています。具体的な事例についてもお渡しして参考にしてもらっています」

ーー契機としてはオリンピックがあると思いますが、ガイドラインには全国の窓口まで書いてあるわけですね。
 「確かにきっかけは東京オリンピックだと思いますが、プロジェクションマッピングで、少なからず経済効果が上がってきている事例もあり、地方経済の活性化というねらいもあると思います。機動性の高い高輝度のプロジェクターが出てきており、屋外で映像を使った催しを効果的に演出できるようになっていますので、今回のガイドラインがそれを後押しする形になればと期待しています」

ーー地域での催しで課題はありますか。
 「地域でプロジェクションマッピングを使った催しは確かに効果的なのですが、逆に人がたくさん集まることで、自治体や地域のコミュニティが、安全性の確保や交通規制などのオペレーションの負担増に耐えられないケースが出てくると、1度やってこりごりという感じで、継続的な実施につながらないこともありました。今後のガイドラインでは、そいういったことを回避するためのオペレーションのノウハウも紹介していく必要があると思っています。例えば行政との調整が進んでも最終的に警察が許可を出してくれないということも多々あり、そこもまだ大きな問題の1つです。プロジェクションマッピングをやる側も、やりっぱなしではなく、公共物を利用するという意識をもっと高める必要がありますし、そうした啓蒙活動をする必要も感じています。人が集まれば良いみたいな、取り敢えず広報に力を入れていく、という様なやり方でやっていくと、実際に出来上がった中身がどうでもよかったり、終わった後の処理も気にしない、という事になりかねません」

■継続性のあるプランニングが重要
ーー地域創生という意味でも、単年の催しではいけないということですね。
 「はい。地域創生にならないどころか、逆に空洞化を生んでしまうので、イベントを実施する側も行政側も、長いビジョンで物事を考えていくことが重要だと思います」
 「もともと、プロジェクションマッピング協会を作ったのも『これを流行りで終わらない様にしたい』という気持ちからでした。技術とか新しさだけを追い求めてしまって、中身がついてこなかったり。需要と供給、そして人を見ながら物を作っていくのが、凄く重要だと思っています。プロジェクションマッピングは、クリエーターの表現の手法としてもとても面白いですし、色々な可能性が有る考え方です。そこで、クリエーターを中心とした業界団体として、コンテンツ側から引っ張っていくことをミッションの一つとして、組織を立ち上げました」

 「最初は、プロジェクションマッピングを誰も知らない時期だったので、その技術自体を啓発していこう、というところから始めました。同時にクリエーターを中心に幅広い事例を作っていき、良い作品を生みだしていくために、率先して案件を作っていくという企業と変わらないような活動も展開しました。そうした活動の中で、国際大会も実施していき、国内外の素晴らしいクリエーター達とどんどん繋がっていっていきました」

 「我々はできるだけいろいろなクリエーターといっしょにやって、コンテンツの幅も広いものを作っていくということを大事にしています。クライアントごとに制作者を変え、アイディアの段階から、クリエイティブチームのアイディアを入れ込みながらやっています。常に新鮮なコンテンツを供給して行く、という事を大事にやっています」

■PMAJで広がる世界との繋がり
ーーそうやってお付き合いされているクリエーターは、どのぐらいいるんですか。
 「仕事を依頼するクリエイターは今、世界中にいて、全体の3割から4割ぐらいは海外に依頼しています。意外かもしれませんが、日本の映像製作プロダクションよりもかなり安い金額で、海外の良いクリエイティブチームに依頼ができるので、そういったところと沢山おつきあいしています。実際、海外で10チーム前後は、仕事を発注しています。国内でも、 個人も会社も含め20~30の外部の方達とネットワークしながら進めています。今では、プロジェクションマッピングの映像コンテンツだけではなくて、インタラクティブ・コンテンツや、もちろんAR/VR、デジタルサイネージ全般も手掛けていますし、それらはとても親和性が高いのです」

ーー海外というと、地域はどのあたりですか。
 「本当に世界中です。ベルギー、メキシコ、インドネシア、フランス、イギリス、ウクライナ、イタリア、中国などもいます」

ーー面白いですね。そういう方々と繋がるのは何がきっかけなのですか。
 「きっかけは、いくつかあります。一つは、僕が海外の色んな祭典とかアートイベントに行ったり、審査員として、9月にもモスクワ(ロシア)の国際大会に行ったんですけど、そういった所に世界中のクリエーターが集まってきて、そういう人達とコネクションを作っていきます」
 「また、我々も日本で国際大会を毎年開催していて、(今度7回目が宮崎県でやりますが)そういった所で世界中のクリエーターがエントリーをしていてくれ、去年は39の国と地域から123ものエントリーを頂き、今年はそれを超えています。毎年それぐらいの数がどんどんコネクションとしてできますので(もちろん、何度も参加される方も居るんですけど)大会をやると、アワードとか表彰式、審査会に日本までわざわざ来てくれる。そうすると人となりも分かりします。実はそこが分からないと、ネット等でいくら作品を見ていても、いきなり仕事を『お願いします』とは言えないので。お互いに顔が見えた関係を作りながらやっています」

ーー素晴らしいですね。通常は、表彰式までが目的で、表彰をしたら終わり、という感じだと思いますが、表彰式から、その人と繋がる、また仕事に繋がるという。参加する方もこんなうれしい事はないですよね。
 「本当、そうだと思います。今までのうちの大会に参加してきた人達は、日本も海外も含めて、そこから次のステージに皆上がっている感じはします」

ーー次のステージというと、より大きいイベントとか。
 「それも、そうですし、プロジェクションマッピングの実績と経験がどんどん増えていくので、そこから実際の仕事も増えていく。大企業や国の大きな事業に呼ばれたりもしているようです」

ーーそういう意味では、プロジェクションマッピングは世界的にもまだまだこれから成長の余地がありそうですね。
「そう思います。また学校などとも協力しながら、優れた作品を作れる人材を増やしていくことも、非常に重要ですね。中国でも、国をあげてプロジェクションマッピングをやるっていう気運になっていますが、学ぶ場所がない。日本から何とか指導してくれないかとか、アライアンス組めないかとか、そいういたった相談は、かなり来ます」
 「あとは、こういう活動をしているので、海外の人が日本に来るとき『まずはミチ(石多)を訪ねていけ』と、みんな言われるらしいんです。だから、しょっちゅう海外から『紹介されたんだけど、会ってくれないか。何か一緒に出来ないか』という問合わせが僕の所に、よく来る様になっています」

■映像を空間デザインのパーツに
ーーそういう意味では、協会を作り、行政にもアドバイスをしている現状は、国際的にも結構、先駆けているといえそうですね。
 「確かに他の国ではこういう協会はないですね。だから、そのうち色々な国毎/地域ごとで作っていって、連携できれば面白いかもしれませんね。先日、ロシアの国際大会の審査員で行ったですが、他にも、ルーマニアでの大きいな大会や、ウクライナにも審査員として呼ばれたり、世界中の大会ともかなり繋がってきているので、大会同士でネットワーク組むような、仕組みを拡げていければ面白いと思います」

ーー話は戻りますが、今回、マニュアルが作られた狙いは、公共の場所でより効果的にプロジェクションマッピングを使って、自治体が地域興しなどで活用できるようにするためのルール作りということですね。これによって、プロジェクションマッピング業界としては、どのように可能性が広がるでしょうか。
 「マニュアルは作られましたが、建物にプロジェクションマッピングをするのは、予算や周辺施設、警察との調整など、現状でもいろいろな意味でハードルが高いのは事実です。一方で、広告業界の関心事としては、映像を使った告知媒体の場所を増やしていこうという機運もあると思います」
 「さらには、建築デザインの中に、プロジェクションマッピングだけでなく、大型のLEDや液晶モニターなどを含め、建築や内装のデザインとしてもっと映像を取り込もうという考えが欧米や中国では積極的に取り入れられています。サイネージを、空間のデザインとして、または建築のファサードデザインとして取り込んでいくというのが、考え方として今重要になっており、そこにプロジェクションマッピングを活用する方法も検討されています。そうなってきた時にも、実はこういうガイドラインがとても重要になってくると思います」

■今後求められる空間デザイン×映像制作のクリエイター
ーー方向性としては、建築物の常設的なデザインとして映像を取り入れるということなんですね。
 「はい。最終的には、プロジェクションマッピングも含め、映像を使った空間デザインであり、今まで動かなかったデザインが、動く様になることで、空間デザインの幅が大きく広がることになります。そのとき、今度は、誰がそれを扱えるか、となって、映像だけ作っている専門家では、なかなかそこのイメージが湧かないですし、リアルな空間をデザインしてきたか、映像を考えてきたかどうか、というのが必要です。そこでプロジェクションマッピングや、空間デザインをしてきた人間が、これからどんどん入り込んでいく、という事になるのではと思います」

 「最近は、建築でも、太陽の動きで建築が変わったり、壁が回転しながら陰影が変わっていく、キネティックウォールといったものがありますが、動的に変化をしていくシェイプを、映像の人間も考えないといけない、という時代になってきていると感じます。地方創生、魅力有る地域のまちづくりという観点からも、そういう幅のある考え方が重要になると思っています。実際、我々も一過性のイベントではなくて、早い段階から長期的にどう考えていくか、という事を大事にして提案をさせて頂いています。建築物の中にプロジェクションマッピングを取り入れる場合も、マネージメントのモデルも含めて考え、単純に「コンテンツを入れ替えて行きましょう」というだけではなく、収益性を上げられるものにしましょう、という提案も僕等からしています。作って終わりではなく、その先の事も長いスパンで考えるという事が大事ですね」

ーー具体的な事例はありますか。
「事例の一つとしては、二子玉川のライズにある109シネマズ二子玉川に常設しているプロジェクションマッピングがあります。従来は、建物ができて後からプロジェクターを購入して、壁のデザインを変えて、周りを暗くして、ということをしてたんですけど、設計の段階から入らせてもらいました。それによって費用の考え方も変わってきて、高コストでなかなか入れられなかったのが施工費が、最初の段階から、コストも含めて設計に組み込めました。壁のデザインや壁紙を貼る代わりにプロジェクションマッピング用の美術を施工することで、費用を機材費に当てられるわけです。そうすると、もっとスムーズで、無理な提案をしなくて済む様になっていきました。

ーー収益を上げる提案というのは、広告でもつかいましょうとか、アートを紹介する事で集客にも繋がるというものですか。
「そうですね。他所でも、参加型の企画が出来る様にしたり、イベントに絡めたアレンジができたり。来場者が絵を描いたら、その絵が空間のデザインに反映される。それが有料で出来る様にしたりとか。ジュークボックスのように、お金を入れる事で空間が変わっていくとか。自分なりのカスタムメイドが出来る様にしたりも考えてます。絵だけではなくて、メッセージを書いて誰かに伝えたいとか、プロポーズとか、そういった参加性を高めるといった事も提案しています。地方を創生する位置付けのときは、要望をもらった対象のさらに外側をリサーチをして、提案の範疇を拡げて提案させてもらいます」

【概要】テクニカルセッション1「国土交通省が進めるプロジェクションマッピングの規制緩和」
■開催場所:国際会議場2階 201会議室A
■開催日時:11月14日(水) 13:00~14:30
■パネリスト
○渡瀬 友博 氏
 国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 景観・歴史文化環境 整備室長
○石多 未知行 氏
 一般財団法人 プロジェクションマッピング協会 代表
 クリエイティブディレクター
○長崎 英樹 氏
 株式会社タケナカ 専務取締役
 株式会社シムディレクト 代表取締役
 ジェネラルプロデューサー
■モデレーター
○町田 聡 氏
 一般財団法人 プロジェクションマッピング協会 アドバイザー
 アンビエントメディア 代表 コンテンツサービスプロデューサー

https://www.interbee-conference.com/technical_session/

今回の国交省の規制緩和の実現へ向け、積極的な働きかけをしてきたPMAJ代表 石多氏

今回の国交省の規制緩和の実現へ向け、積極的な働きかけをしてきたPMAJ代表 石多氏

海外で開催される国際コンペに審査員で参加する機会が多いという

海外で開催される国際コンペに審査員で参加する機会が多いという

イベントをきっかけに業務を拡大するクリエイターも多い

イベントをきっかけに業務を拡大するクリエイターも多い

二子玉川のライズにある109シネマズ二子玉川に常設しているプロジェクションマッピング

二子玉川のライズにある109シネマズ二子玉川に常設しているプロジェクションマッピング

#interbee2019

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