【コラム】CESで見えてきたスマートTV活用型放送 番組とネットコンテンツが一体化する「拡張TV空間」が実現

2013.1.21 UP

PanasonicによるViera上でのHSN画面デモ
右はパナソニック・コンシューマー・エレクトロニクス・カンパニーの北島嗣郎(しろう)社長

右はパナソニック・コンシューマー・エレクトロニクス・カンパニーの北島嗣郎(しろう)社長

放送とストリームを巧みに組み合わせたNASCAR番組画面

放送とストリームを巧みに組み合わせたNASCAR番組画面

タブレット上でも動画を見ながら各種データにアクセスできる

タブレット上でも動画を見ながら各種データにアクセスできる

画面左は放送,画面右はサーバからの写真。タブレットを使って,サーバからの画像を操作している。

画面左は放送,画面右はサーバからの写真。タブレットを使って,サーバからの画像を操作している。

【コラム】CESで見えてきたスマートTV活用型放送 番組とネットコンテンツが一体化する「拡張TV空間」が実現

 1月上旬にラスベガスで開催されたインターナショナルCES(以下、CES:主催=米CEA)では、今年も「スマートTV」が各社から出展された。ネット接続可能なテレビを「スマート」と呼ぶ傾向は変わらない。しかし、今回はアプリを自由にダウンロードして実行できる「スマートさ」を最大限に利用したコンテンツが現われ始めた。真のスマートTVとは何であるか、また、そのためのコンテンツはどのような姿になるかが示されており、新たな放送コンテンツの構築に大いに参考になる展示となった。
(日本大学生産工学部 講師/映像新聞 論説委員:杉沼浩司)

■スマートの定義
 CESに「スマートTV」という言葉が現われ始めたのは、2011年のようだ。グーグルTVの出現とともに、各社よりスマートの語を冠したテレビが発売された。しかし、スマートという名称とは裏腹に、”賢く”なった訳ではなかった。たとえば、登場人物の顔認識を行い、特定の人物が出演していた番組のみを抽出する、といった認識機能などは当然のことながら持ち合わせていない。音声エージェント「Siri」のような機能を持ち、自然な会話で番組選択を行えるわけでもない。どこからかアプリケーションをダウンロードし、それをテレビ受像機上で実行できるものが当時のスマートTVだった。
 2012年のCESでは、状況はより軟化し、アプリの実行機能を持たなくても、インターネット接続機能を持てばスマートTVと呼ぶ企業も現れた。これなら、「アクトビラ」に対応した日本のテレビは、5年以上前からスマートだったことになる。
 標準化等で厳密な定義がなされない限り、物事が易きに流れるのは通例なれど、ここまで速く”なしくずし”が行なわれることも珍しい。ともかく、スマートTVには厳密な定義はなく、搭載された機能はどんどん基本的なものに下がっていた。
 そこに一石を投じたのが今年のCESでの展示である。タブレット等のコンパニオンデバイスを活用し、これぞ、スマートTVと言える「拡張テレビ空間」を実現した提案が相次いだ。

■スマートTV”真打ち” ビエラが先陣
 スマートTV真打ちの幕を開いたのはパナソニックだった。1月7日(現地時間、以下同)の記者会見でパナソニックは、米ホームショッピング・ネットワーク(以下、HSN)と新コンテンツを共同開発したことを明らかにした。HSNは、米国大手のショッピングチャンネルで、実演を交えつつ商品を紹介する。従来型の放送では、視聴者は番組中に画面下部に表示される番号に電話を掛け購入の意図を伝えてきた。
 記者会見時のデモでは、同社のテレビに映るHSN映像について、手元のタブレットを操作することで、より深い情報が得られることが示された。
 たとえば、HSNのある番組を視聴中に、番組中で紹介されたが、出演者がその時に話していない商品が気になったとする。すると利用者は、タブレットから「関連商品表示」のコマンドを送ると、局側から提示できる商品一覧がタブレットに現われる。ここに、目的の商品があれば、それをスワイプすると、ビエラに大写しになり、更に関連情報などが表示されるといった流れである。もちろん、タブレット操作で注文できる。
 記者会見で非常に離れた距離から画面を見る限り、どの部分が放送で、どの部分がストリーミングであるかを見分けるのは難しかった。このデモは、タブレットと大画面TV、放送とストリームが見事に一体化している様子を示しており、これぞ「放送と通信の融合」である。従来の「放送と通信の連携」とは違うステージに入ったことを感じさせた。

■クアルコムは基調講演でスマートTVを詳説
 同日行なわれた前夜基調講演で、米クアルコムの会長兼CEO(最高経営責任者)であるポール・ジェイコブス博士は、自社のスナップドラゴンSoC(システムLSI)を搭載したスマートTVを掲げて「P2P技術オールジョインにより容易にタブレットと通信できる」と述べ、デモを行った。米国で人気の自動車レースNASCARの中継時に、タブレットからの指示で特定ドライバーの運転席から撮影した画像を視聴したり、指定したチームの無線を流したりするものだ。また、画面内には中継の動画像の他、各車両の順位を示すグラフィックスや成績表なども示された。これらの画面構成は、タブレットとテレビの間で自由に替えられる。
 この講演により、タブレットをディスプレイ兼コントロール装置として使いながら、テレビの画面構成を変えたり、視聴するストリームを決定することが可能になることが満員の観衆に伝えられた。これぞ、スマートTVの威力だ。

■独自開発のP2P技術「オールジョイン」でテレビとタブレット間通信
 このデモは、クアルコムのブースでも行なわれていた。基調講演では明確に示されていなかったが、NASCAR番組をスマートに楽しむためには、テレビとタブレットの双方に、この番組用のアプリをインストールしておく必要がある。そして、ユーザーは、両者を起動しておく。
 通常の放送を受信している場合、全画面に放送内容が示される。しかし、NASCARアプリの制御下では、画面が縮小されるとともに、視聴者が指定した場所に配置され、周囲には各種の情報が示される。通常の放送には乗っていない「運転席視点の映像」などは、すべてNASCAR主催団体がストリームを用意する。視聴者の希望をタブレットが理解し、タブレットからテレビに「このストリームを、ここに配置せよ」といったコマンドが送られる。すると、テレビがストリーム受信態勢を整え、指定の場所に表示する。映像も音響も順位等のデータも同じだ。
 テレビとタブレットの情報交換のためには、同社が開発したP2P技術「オールジョイン」が使われる。近傍にある装置間で直接情報を交換するためのもので、スマートテレビとタブレットにオールジョインが搭載されている。コマンドの送受ばかりでなく、テレビで受信した情報をタブレットに送ったり、その逆も行える。
 オールジョインはオープンソース化されており、知財権の実施料は無料である。他社のCPU、アンドロイド以外のOSにも搭載されている。

■放送番組とネットコンテンツがスマートTVで一体化
 同社のブースでは、HSNのコンテンツを使ったデモも行なわれた。放送中の映像が、視聴者要求による特定商品のストリーム映像に切替るところも見られた。ここでも画質差は僅かで、視聴者には自然な切り替えである。なお、パナソニックとの関係は不明である。
 今回示されたものはあくまでもデモであり、サービスの適用は未定という。それでも、放送コンテンツとネットコンテンツがスマートTV上で一体化する様子が示されていた。いよいよ連携から融合へ進化し、スマートTVがその基盤となることが明らかになった。

右はパナソニック・コンシューマー・エレクトロニクス・カンパニーの北島嗣郎(しろう)社長

右はパナソニック・コンシューマー・エレクトロニクス・カンパニーの北島嗣郎(しろう)社長

放送とストリームを巧みに組み合わせたNASCAR番組画面

放送とストリームを巧みに組み合わせたNASCAR番組画面

タブレット上でも動画を見ながら各種データにアクセスできる

タブレット上でも動画を見ながら各種データにアクセスできる

画面左は放送,画面右はサーバからの写真。タブレットを使って,サーバからの画像を操作している。

画面左は放送,画面右はサーバからの写真。タブレットを使って,サーバからの画像を操作している。

#interbee2019

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