【コラム】今こそ「4Kブルーレイ」の開発を! 映画をオリジナル解像度で楽しめる4K 総合力が求められる光ディスク装置開発に日本躍進の鍵! 放送規格策定後では市場立ち上がりも危うい状況に

2013.12.16 UP

TDKは、16層の光ディスク技術を開発した(CEATEC2011にて)

TDKは、16層の光ディスク技術を開発した(CEATEC2011にて)

ウルトラバイオレットにより、パッケージとストリーミングの両方が楽しめる

ウルトラバイオレットにより、パッケージとストリーミングの両方が楽しめる

太陽誘電は8層光ディスク技術をCEATEC2013で公開した

太陽誘電は8層光ディスク技術をCEATEC2013で公開した

 家電を中心としたテクノロジーの展示会として知られるインターナショナルCES(以下、CES:主催=米CEA)が開催まで1ヶ月に迫った。今年も4K映像機器の躍進が見られるだろう。ただし、多くはディスプレイに関わるものとみられ、映像のストレージに関して大きな発表は期待できそうにない。パッケージメディアの4K対応はどうなるのか、大変に気になるところだ。70年代以来、映像を記録することについては業界を主導してきた日本の家電業界が力を弱めた時期と4Kの立ち上がりが重なっていることは不幸だ。半導体メモリへの記録ならば、ITベンチャーにも方式設計は可能だが、光ディスク方式を考えるには総合力が必要だ。日本の家電業界は、フォーマットを世に問うことで再び存在感を発揮できるはずである。
(映像新聞 論説委員/日本大学生産工学部講師 杉沼浩司)

■4Kはもう現行Blu-rayには収まらない 複層ブルーレイで試作品を
 2013年10月に開催されたCEATECは、総合家電メーカーを中心に4K旋風が吹き荒れた。しかし、ここにあるべき素材が見当たらなかった。それは、パッケージメディア用の機材だ。かつては、ベータマックス・VHSといったビデオテープ、そしてLD、DVD、ブルーレイといった光ディスクが映像コンテンツを販売するメディアとして活躍したし、現在も活躍している。しかし、そのいずれも4Kには対応していない。
 最も新しいフォーマットであるブルーレイはHDTVまでである。符号化(圧縮)方式は、MPEG-2、VC-1、MPEG-4AVC/H.264(以下、AVC/H.264)の3つが規格に収められているが、いずれも4Kには対応していない。また、容量的にもブルーレイでは4Kを収めるのに無理がある。4K映像をHEVC30Mbps、オーディオを128Kbpsで8チャンネル収めたとすれば、もう単層のブルーレイには収まらない。映画などを収め、放送よりも高い画質が求められるコンテンツは、より緩やかな圧縮が求められると見込まれるからだ。
 このような検討が、メーカーなどから明かされ、その上で「複層ブルーレイにHEVCで符号化すれば4K向けパッケージメディアは可能」といった見解が試作品といった形で明かされればよい。しかし、CEATECでは全くこのような事が示されなかった。これでは、ユーザーは4Kで放送以外を楽しめるのか、全く見当がつかない。

■年度内の放送開始のためには一刻も早い規格、規定の決定が必要
 4K放送は、国策的に2014年度から開始される方向で準備が始まっている。しかし、規格・規定はまだ固まっていない。特に、放送の規格と運用規定が決まっていないのは、メーカーにとって難しい状況を作り出している。規格には絶対に満たさないとならない事項、運用規定には実際の放送時に使われる信号種別や、各ビットの意味が記されることになっている。この両者が固まらないと、受信機が作れない。もちろん、大枠は決まっているから、作る装置のパーツ選択はできよう。しかし、ビットの意味が決まっていないと製品は作れない。装置開発には、早くて1年はかかるから、年度内の放送開始のためには一刻も早い規格、規定の決定が必要となる。規格等が決まらぬ段階でメーカーが受信機を出展できないのは当然だ。

■「放送」と比べて制約の少ないパッケージを急ぐべき 
 しかし、パッケージメディアは、このような制約は少ない。パッケージメディア用の規格は業界で作ることができる。4Kテレビとのインターフェースさえ固まっていれば、放送規格からはかなり自由である。もちろん、書き換え可能なメディアに放送を録画することを考えれば放送に合わせた方がよい面も多いが、それでも切り分けて独自に企画を決めることはできる。もしも、家電メーカーが「パッケージメディアは、4K放送規格が固まった後に業界で規格化を開始」などと考えていたら、4K自体が魅力不足で立ち上がらなくなるだろう。

■ネットで4Kを楽しめる環境はまだ先 安価に大量に安定して提供できる光ディスクを今こそ! 西海岸のスタートアップにできない戦略を 
 世はインターネット時代。パッケージメディアなどは時代遅れであり、4Kはネット配信という考え方もある。
 確かに、魅力的な考え方である。米国で実施が始まった著作権管理方式「ウルトラバイオレット(UV)」のように、ストリーミングやダウンロードといったネットを活用した方法でコンテンツを送り、同時に視聴を管理することは一種の理想的形態だろう。
 しかし、もし4Kコンテンツが常時30Mbpsのデータレートを求めるとしたら、日本のネットワーク環境であってもこのレートを満たせる利用者は限られるだろう。コンテンツ・デリバリ・ネットワーク(CDN)事業者の米アカマイ・テクノロジーズが発表した最新の調査結果では、日本の平均接続速度は12.0Mbpsである。日本は世界2位(1位は韓国の13.3Mbps)であるが、それでも4Kのネット伝送には接続速度は不足する。ネットでの配信にはまだ無理がある。
 また、パッケージメディア化するにしても、光ディスクではなくフラッシュメモリでよいのではないか、との考えもあろう。しかし、いかにメモリが廉価になったとは言え32Gバイトのメモリはそこそこの値段がする。加えて、最新の高密度フラッシュメモリは、電荷が抜けることによる「記憶喪失」も報告されており、長期間安定して記憶を保持できない。
 結局、価格と安定性で光ディスクになるとして「シリコンバレーのベンチャー」が開発できるかというと、これも疑問だ。光ディスクは、ピックアップや駆動部分に非常に多くの技術が詰まっている。既に開発済のものを廉価に製造するのと、新たな課題に挑むのでは難易度が異なる。また、メディアを製造する企業、ディスク製造装置企業との連携も欠かせない。この点、CD以来光ディスク技術を磨いてきた日本企業が圧倒的に有利となる。1枚のディスクで飛び抜けた性能のものを試作することはできるかも知れない。しかし、量産までも考えた方法を考案し、製造装置メーカーを巻き込むことは、スタートアップ企業ではまず無理だろう。

■8Kでも勝負できる光メディア 今こそ「4Kブルーレイ」を! ブームに終わらせず4K/8Kで利益を獲得し 日本の家電産業を再起動させよう!
 4K放送は、放送面での注目が高いが、パッケージメディアにも恩恵をもたらすはずだ。特に、4K撮影の映画を原解像度で鑑賞できることは、愛好家にとって重要なポイントとなる。市場は存在するはずだ。
 ここに向けて、ブルーレイを今一歩進めたフォーマットを日本の家電メーカーが力を合わせて開発すべきだ。ブルーレイよりも記録密度を高めたものとするのか、単純に積層度合いを増やすかは、綿密なコスト分析を行って決定する必要がある。筆者自身は、1層最大25Gバイトの現行ブルーレイには不足を感じており、最低32Gバイトが一般化して欲しいと思っている。もちろん、その先には8Kを記録できる光メディアへの期待がある。
 「ブルーレイ/4K」とも呼ぶべき拡張方式が提案できれば、4Kを立ち上げる推進力となろう。同時に、今度こそ適正な利益を確保できる生産体制を設計段階から織り込むことを願いたい。これぞ、日本の家電産業を再起動させる一歩になるからだ。

TDKは、16層の光ディスク技術を開発した(CEATEC2011にて)

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ウルトラバイオレットにより、パッケージとストリーミングの両方が楽しめる

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太陽誘電は8層光ディスク技術をCEATEC2013で公開した

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#interbee2019

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