私が見た”NAB SHOW 2013”における技術動向(その2、U HDTV(4K/8K編))

2013.4.24 UP

FOR A for a 4K Futureを掲げた朋栄ブース
初登場の小型コンパクトな8Kカメラ(アストロ)

初登場の小型コンパクトな8Kカメラ(アストロ)

世界市場で高い実績を上げている4KカメラF55(ソニー)

世界市場で高い実績を上げている4KカメラF55(ソニー)

4K、60pのワークフローの実演(クオンテル)

4K、60pのワークフローの実演(クオンテル)

4年ぶりのSHV展示(NHK)

4年ぶりのSHV展示(NHK)

 (その1)ではNABの全体概要について紹介した。ここでは今大会最大のトピックスだった超高精細映像U HDTV(4K/8K)に関する技術動向を見てみたい。
 4K、8Kとは水平方向画素数のことを意味している。ただし4Kの場合、フル4K(4096×2160)とQFHD(3840×2160)の2種類あり、しばしば混同して使われている。前者はデジタルシネマのDCI規格に基づくもので、既にカメラやディスプレイなどの機器開発が進み、映画製作や上映に使われている。後者は、昨年、ITU(国際電気通信連合)においてU HDTV(Ultra High Definition TV)の第一ステップとして標準化されたもので、2K HD (1920×1080)の縦横共2倍、アスペクト比が16:9で、2K HDをアップコンバートし4K素材として利用したりダウンコンバートして現行放送で使うと言うように、デジタル放送系と親和性が高い。昨年10月、スカパーJSATがJリーグ戦を衛星経由で4Kライブ中継も行なわれ、韓国ではKBS(韓国放送協会)が今秋から地上波での試験放送開始を目指している。
 国内外でU HDTVに対する機運が高まっている状況下、総務省は「放送サービスの高度化に関する検討会」を発足させ4K/8K放送を国の施策として推進することになり、2014年サッカーワールドカップブラジル大会を機に4K試験放送が、2016年リオデジャネイロオリンピックでは8K(7680×4320)SHV(スーパーハイビジョン)実用化試験放送計画が謳われている。欧米でも、BスカイB(英)、ディレクTV(米)が2015/16年に4K放送を始める計画が報じられている。このように、デジタルシネマの進展が目覚しく、まもなくU HDTV試験放送が始まる状況を受け、今回のNABにおいては4K/8K関連が最も大きなトピックスになっていた。

 朋栄は、最近の技術動向を反映し"FOR A for a 4K Future"を掲げ、様々な4K対応機器・システムを展示していた。それらの中で注目はNAB初出展のフル4Kの高速度カメラで、センサーにはスーパー35mm相当で画素数フル4K、高感度グローバルシャッター方式FTI-CMOSを搭載し、60fpsから最大900fpsまでの高速度撮影が可能で、内蔵メモリーに9.4秒、オプションのSSDカートリッジに最大84秒記録することもできる。同機により撮影された競馬やシャチの曲芸などの超スロー映像が4Kシアターで公開されていたが、大変ダイナミックで迫力一杯だった。
 以前から高精細度映像に精力的に取り組んでいるアストロデザインも多彩な4K・8K機器を出展していた。4Kカメラシステムとして、単板CMOSを搭載しマイクロフォーサーズマウントの小型コンパクトな4Kカメラと、新開発のフルHDの有機ELビューファインダーとポータブル型4K非圧縮SSD レコーダーを組み合わせたキヤノンのEOS-C500を展示した。またフル解像度3300万画素、PLマウントの小型単板8Kカメラも参考出品し、さらに据え置き型の4K非圧縮SSDレコーダーと8Kから4Kへのダウンコンバータ、4Kフレームメモリーボード、波形モニター、Jpeg 2000レコーダーも展示し、これらのシステムで撮影制作された高精細映像を56"型4KLCDモニターで見せていた。

 ソニーは会場随一と言える広大なブースに、これまでのあらゆる枠組みを越えての意味あいか”Beyond Definition”を掲げ多種多彩な出展をしていた。その中での注目された展示物は映画、放送界で急進展をしている4K関連機器で、従来からの総画素数2000万の8K CMOSを搭載したハイエンドの4KカメラF65に加え、今回はミドルクラスのF55をメインにしていた。同機は画素数1160万のCMOSを搭載しコンパクトに低価格化したモデルで、販売間もないながら世界市場で大きな実績を上げているそうだ。これらのカメラと新製品のプロセッサー、スイッチャー、SRMasterストレージ、高画質モニターなどで構成されるトータルの4Kライブ制作環境を展示していた。また4Kシアターではこれらの機器を使い制作された高品質の臨場感・迫力ある高精細映像が上映され見学者を魅了していた。
 ソニーと双璧の大きなブースを誇るキヤノンも多彩な4K機器を出展していたが、カメラ系としては最上位モデルのスーパー35mm相当の高感度CMOSセンサー(有効画素数885万)を搭載する”EOS C500”、ミドルクラスの” EOS C300”、35mmフルサイズの大型CMOS(有効約1810万画素)を搭載した一眼レフカメラモデルのムービーカメラ”EOS-1D”などを展示していた。これらのカメラで撮られた高画質映像は、近い将来想定の4K放送に向けたDeliverのデモや高画質の写真プリントへの応用の実演もやっていた。またプロトタイプの30”サイズの4Kリッファレンスモニターも展示されていた。
 JVCケンウッドは1/2”CMOS(830万画素)を採用、光学10倍ズームレンズ搭載のハンドヘルド型4K(QFHD)カメラを、パナソニックはプロトタイプのフル4K(QFHD)対応4Kカムコーダを展示した。

 デジタルシネマ分野で実績高いRED Digital Cinemaは、今回6Kセンサーを搭載したニューモデルのデジタルシネマカメラ"RED Dragon"を出展し、ガラス張りの仮設クリーンルームで、従来モデルの"RED Epic"や"Scarlet"からグレードアップする作業も公開し人目を引いていた。またRED Codeの転送速度を従来の5倍に上げ4K映像を直接リアルタイムで再生表示できる"RED Rocket-X"エンジンも実演公開していた。4Kシアターでは最新機器を使って制作されたコンテンツが大画面で上映され、例年通り大人気で入場待ちになっていた。
 ブラックマジックも大きなブースいっぱいに多種多彩な機器、システムを出展していたが、これまでの2.5Kセンサーを用いたデジタルシネマカメラに加え、新製品の4Kプロダクションカメラを出展し評判になっていた。スーパー35mmセンサー、グローバルシャッター式、EFマウントで高画質、SSDレコーダーを内蔵しているが、なんと販売価格は$3,995と超廉価と衝撃的だ。

 長年にわたり、コンテンツ制作をリードしてきたクオンテルだが、いよいよ超高精細時代に向けたチャレンジを始めたようだ。今回、標準的PC上で動作するハイエンドのカラーコレクション&フィニシングシステム” Pablo Rio Ver2”よる4K 60p映像の加工処理ワークフローを初公開し評判になっていた。その上、デモではアイマックス映像素材を使い、8K、24Pによる実演も行っていたが、次のステップとして本格的なSHVの映像編集、加工のための8K、60pも視野に入ってきた。
 リーダー電子は高精細度映像品質管理をサポートする4K対応波形モニターを参考出品していた。4Kインターフェースとして、SMPTEで規格化途上の3G-SDI Dual LinkとQUAD Linkの両方に対応し、フルHD 9”LCDで映像品質をモニターしながら輝度や色信号、音声レベルなどの監視もできる。

 4年振りにNABに登場したNHKは、近々開始される試験放送に向け、着々と開発が進んでいる各種8K用機器、システムを展示していた。8Kカメラとしては、従来モデルに比べ重量がわずか5kgで機動性が大きく向上した小型単板式カメラと、SHVの最終的スペックであるフレーム周波数120Hzのプロトタイプの8Kカメラを並べていた。また120Hzの映像と従来の60Hz映像が並べて比較表示していたが、静止部分は全く遜色なく動いている部分もぼけることなく鮮明に再現されていた。さらに地上波でもSHV放送を可能にする大容量放送システムや22,2CHマルチ音声を効率的に制作する音響システムの実演公開もやっていた。

映像技術ジャーナリスト(Ph.D) 石田武久

初登場の小型コンパクトな8Kカメラ(アストロ)

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世界市場で高い実績を上げている4KカメラF55(ソニー)

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4K、60pのワークフローの実演(クオンテル)

4K、60pのワークフローの実演(クオンテル)

4年ぶりのSHV展示(NHK)

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#interbee2019

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