【インタビュー】映画『アメイジング・スパイダーマン』VFXスーパーバイザー ジェローム・チェン氏 (1)これまでにないディテール表現でスパイダーマンのコスチュームをリアルに再現

2012.7.3 UP

映画『アメイジング・スパイダーマン』より
VFXスーパーバイザーのジェローム・チェン氏

VFXスーパーバイザーのジェローム・チェン氏

コスチュームの下の筋肉の動きが反映されているCGスパイダーマン

コスチュームの下の筋肉の動きが反映されているCGスパイダーマン

光とコスチュームの繊維の一本一本との干渉まで考慮した物理的に正確なシェーダーが作成された

光とコスチュームの繊維の一本一本との干渉まで考慮した物理的に正確なシェーダーが作成された

コスチュームを着用したアンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマンとしてのキー・ポーズの数々がデジタル・スキャンされた

コスチュームを着用したアンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマンとしてのキー・ポーズの数々がデジタル・スキャンされた

 全世界で25億ドルを超える大ヒットを記録し、映画VFXの新境地を切り開いてきた人気シリーズ「スパイダーマン」。新生「スパイダーマン」の第一弾にあたる作品『アメイジング・スパイダーマン』が遂に公開となった。新たなストーリー展開と3D上映を携えた本作品では、映像の迫力やリアリズムも大幅にグレードアップ。ここではVFXスーパーバイザーをつとめたソニー・ピクチャーズ・イメージワークス社(Sony Pictures Imageworks)のジェローム・チェン氏(Jerome Chen)とのインタビューを通して、本作品の映像的な見所とそれを支えた技術的チャレンジの数々を紹介したい。(6月30日(土)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国絶賛公開中) (倉地紀子)
 
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『アメイジング・スパイダーマン』
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
6月30日(土)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国公開
(c) 2012 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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■”新生スパイダーマン”の第一作 
 これまで以上にディテール描写に真摯に取り組んだプロジェクト 

 「スパイダーマン」シリーズが映画VFXの歴史の上に残してきた足跡は実に意義深いものばかりだ。たとえば『スパイダーマン2』におけるライトステージ(Light Stage)の導入は、その後数々のハリウッド映画プロジェクトでこのデバイスが活用してこれまでにないリアルなデジタル・ヒューマンを作成してゆくための口火を切ることになった。また『スパイダーマン3』における流体シミュレーションを用いたヒーロー・キャラクターのリアルでダイナミックな描写は、実写映画における流体シミュレーションの活躍の場を大きく広げることにつながっていった。
 そして、新生スパイダーマンの第一作にあたる『アメイジング・スパイダーマン』も、まぎれもなく映画VFXの歴史の上に大きな足跡を残すことになった。より具体的にいえば、映画VFXにおけるディテールの作成にこれほど真摯に取り組んだプロジェクとはこれが初めてだといえ、本作品における驚愕のビジュアル・インパクトはまさにその努力の結晶といえるのだ。



■激しい戦いを物語る”汚れた”スーツ
実写との頻繁な映像移行にも耐えるリアルなCG描写

 このような努力が実を結んだ代表例といえるのは、なんといっても新生CGスパイダーマンのできばえだった。マーク・ウェブ監督は新生スパイダーマンに対して、これまで以上に現実味のある、ナチュラルでオーガニックなリアリズムを望んでいた。
 その結果として、たとえば従来のスパイダーマンは比較的“小綺麗”であったのに対して、今回はさまざまな戦いのシーンでスーツが派手に破け、映画全体を通してスパイダーマンはおしなべて“汚れた”スーツを身にまとうことになった。また、一つのシーケンスの中で、実写のスパイダーマンからCGのスパイダーマンへ、CGのスパイダーマンから実写のスパイダーマンへと移行する場面も非常に多くなった。個性的な特徴をもったスパイダーマンを、高解像度でなおかつ立体3Dで“ごまかす”ことなく表現するためには、変形から質感にいたるまでそのディテールが非常に重要になったのだ。
 ディテール描写で特に重要視されたのはスパイダーマンのコスチュームだった。クローズアップになった実写のスパイダーマンのカットの間で、CGスパイダーマンにすり替わる場面が多く、なおかつ立体3Dゆえにそのデプスやスケールを非常に正確に表現する必要があったのだ。CGにおいても、単純にすっぽりと身体の周りを覆っているコスチュームという表現ではなく、身体に密着して筋肉と整合性の取れた動きをするコスチュームでなくてはならなかった。
 監督はスパイダーマンの身体が動くたびに、コスチュームの象徴である細かいライン(web line)の深みや太さが微妙に変化する様子を正確に表現することを望んだという。主演のピーター・パーカーと、実写のスパイダーマンを演じる俳優のアンドリュー・ガーフィールドには、あらかじめスパイダーマンらしい身体の動きを訓練されていた。そのため、CGのスパイダーマンも訓練を受けたガーフィールドらしい体つきや動きをする必要があった。
 まず、スパイダーマンのコスチュームを着けた特別な動きをしていない状態のガーフィールドがデジタル・スキャンされ、次にいくつかの特定のキー・ポーズをとったガーフィールドがデジタル・スキャンされた。さらに、最終的にはCGスパイダーマンを用いるシーケンスを、ガーフィールドが演じたビデオ・リファレンス映像も作成され、参考にされたという。
 スキャン・データは主に、CGスパイダーマンの筋肉の配置やつながり具合を決定するために用いられた。ビデオ・リファレンス映像は、スパイダーマンの身体の動きに伴う筋肉の変形の規則性を決定するために活用された。
 まず筋肉の変化の規則性をもとに、大雑把な筋肉の動きがつくりだされ、次に筋肉シミュレーションを実行することでさらに細やかな筋肉の動きが加えられた。こうした細やかな筋肉のシミュレーションをコントロールするために、 スキャン・データを活用したという。このようにして生成された筋肉の動きによって、体に密着したコスチュームのメッシュ形状を変形させる。さらに、光とコスチュームの繊維の一本一本との干渉まで考慮したシェーダーを導入して、レイ・トレーサー(Arnold)を用いて物理的に正確にレンダリングすることによって、そのディテールにいたるまでかぎりなく真実味のあるコスチュームの見え方を作り出すことが可能になったのだった。
(次に続く)

(写真説明)
写真1 メイン画像

写真2 Sony Pictures Imageworks のジェローム・チェン氏(Jerome Chen)。映画「アメイジング・スパイダーマン」のVFX Supervisorを務めた


写真3,4
画像:DF-07868-2_r2, DF-0763_rv2(Select_091)
 『アメイジング・スパイダーマン』では、クローズアップになった実写のスパイダーマンのショットの間にCGスパイダーマンのショットが挿入されるケースが多く、CGスパイダーマンのディテールのリアリズムが非常に重要視された。特にコスチュームのディテールが重要で、今回は立体3D上映を伴っているということもあり、コスチューム上の網の目のようなライン(web line)の太さや深さが身体の動きに伴って変化する様子まで正確に表現する必要があった。したがって、スパイダーマンの筋肉の配置やその動きのメカニズムが詳細にわたって検討され、それに基づいて筋肉シミュレーションを実行し、このシミュレーション結果を読み取ってコスチュームを変形させるということがおこなわれた。コスチュームの質感に関してもディテールが重視され、光とコスチュームの繊維の一本一本との干渉まで考慮した物理的に正確なシェーダーが作成され、レイトレーサー(Arnold)を用いてレンダリングがおこなわれた。

写真5
  画像: DF-09287(DF_3525_2_r1-sd_ba2)
 『アメイジング・スパイダーマン』では、主人公ピーター・パーカーおよびスパイダーマンを演じるアンドリュー・ガーフィールド自身が、非常にスパイダーマンらしい身体の動きをするように訓練されていたそうだ。それゆえにCGスパイダーマンも、そのようなアンドリュー・ガーフィールドの身体の動きの特徴を継承している必要があった。そこで、コスチュームを着用したアンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマンとしてのキー・ポーズの数々がデジタル・スキャンされ、このスキャン・データーをもとにして、CGスパイダーマンの筋肉に配置や筋肉の動きをつかさどるメカニズムが決定されていった。上記のスキャン・データーはCGスパイダーマンの筋肉シミュレーションのコントロール・データーとしても活用されたようで、これによってCGスパイダーマンをそのディテールいたるまで実写のスパイダーマンとぴったり一致させることができるようになったのだそうだ。

VFXスーパーバイザーのジェローム・チェン氏

VFXスーパーバイザーのジェローム・チェン氏

コスチュームの下の筋肉の動きが反映されているCGスパイダーマン

コスチュームの下の筋肉の動きが反映されているCGスパイダーマン

光とコスチュームの繊維の一本一本との干渉まで考慮した物理的に正確なシェーダーが作成された

光とコスチュームの繊維の一本一本との干渉まで考慮した物理的に正確なシェーダーが作成された

コスチュームを着用したアンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマンとしてのキー・ポーズの数々がデジタル・スキャンされた

コスチュームを着用したアンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマンとしてのキー・ポーズの数々がデジタル・スキャンされた

#interbee2019

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