私が見た"NAB SHOW 2016"における技術動向(その3、制作・配信編)

2016.5.13 UP

写0:IPライブシステム(タイトルバック、ソニー)
写1:IP & 4Kプロダクションシステム(パナソニック)

写1:IP & 4Kプロダクションシステム(パナソニック)

写2:End to End のIPソリューション(グラスバレー)

写2:End to End のIPソリューション(グラスバレー)

写3:Kipro Ultraを活用した8Kレコーダー(AJA 、計測技術研究所)

写3:Kipro Ultraを活用した8Kレコーダー(AJA 、計測技術研究所)

写4:8K放送用コーデック装置と8K映像(NEC)

写4:8K放送用コーデック装置と8K映像(NEC)

 (その1)では全体概要を、(その2)のカメラ編に続き、(その3)では高精細度、高度化するコンテンツ制作・配信系を紹介してみたい。この分野はファイルベース化、IP化が進みつつある。

 ソニーはこれからの制作系として、ベースバンドからファイル化、SDI系インフラからシステムが簡素で柔軟性があり経済性も見込まれるIP化への移行を目標に、NMI(前述)インターフェースを装備したライブプロダクションシステムを公開していた(写タイトルバック)。中核となるスイッチャーはマルチフォーマット対応の3M/Eスイッチャー”MVS 6000”で、操作卓はフラット型とカーブマウントタイプがあり、スイッチャー本体をラックに実装した様子を見たが、配線ケーブル類が少なく大変すっきりしていた。なおブラジル最大の民間放送局”TV Globo”の4K IP対応中継車には、NMI対応のスイッチャー、カメラ、サーバーなどによるシステムが導入されたそうだ。これからの制作系のもうひとつの大きなテーマは4K HDRへの対応である。前述の4Kカメラ”HDC-4300”で撮影した2方式のHDR映像を、4Kマスターモニター”BVM-X300“とQuad View機能を搭載した55”型4K有機ELモニターを使い、SDR映像と比較して表示していた。さらに映画やドキュメンタリーなどポスプロで時間をかけて処理する場合だけでなく、スポーツやイベントなどのライブ中継でもリアルタイムに対応できるHDRワークフローを公開していた。
 パナソニックの制作系は、遅延や圧縮を考慮しSDIベースが主流だが4Kや8Kと大容量、高速化にあわせ12G-SDI対応機器開発を進めている。今後の映像信号の伝送・配信にとって大きな鍵となるのがVoIPであり、4K/60pのIPによる伝送を目標に当然IP化も視野に入れている。互換性相互補完性を重視し、IP化に向けたAIMS(Aliance for IP Media Solutions)アライアンスに参加している。NAB会期中に、IP化に積極的なキヤノンと連携し、VoIPの共同実験を行い公開した。隣接する両社のブース間を10Gイーサネットケーブルで繋ぎ、4Kカメラで撮影した映像を、新開発のVoIP対応ゲートウエイ”AV-UIP1”TXで送信し、受信側でデコードし映像を表示していた。4K映像の圧縮には低遅延で劣化が少なく、最近アライアンスも設立された“TICO”コーデックが使われている。また、クラウド& IPコーナーでは、取材先と放送局がクラウドサービスを介し撮影素材やメタデータを伝送し、ハイライト編集やニュース制作業務を効率化する"P2 Cast"を公開していた。4K、IPプロダクションコーナーでは(写1)、ソフトウェアのバージョンアップで4K対応になる2MEモデルスイッチャー”AV-HS6000”を展示していた。
 朋栄は、ベースバンド用の多種多彩な機器とIP化を見据えた機器を組み合わせたハイブリッドシステムを公開していた。スポーツプロダクションエリアでは、4K対応のスイッチャー”HVS-2000”を中核にマルチビュア、別エリアとIP接続するFujitsu ”IP-9610”、ファイルベースエリアと接続するIP伝送装置”MXR-200IP”、全体を統合制御するソフトウェア”GearLink”などで構成される。先端技術エリアでは、12G-SDI対応のルーティングスイッチャー”MFR-4000”やマルチビューワ、広色域やHDRに対応しフレーム変換機能を持つマルチチャンネルプロセッサー”FA-505”、さらに色域変換(BT.709⇔BT.2020)とダイナミックレンジ変換 (SDR⇔HDR)機能を持ち8KDGにも対応する変換装置、HD⇔4Kおよび色域変換機能をあわせ持つクロスコンバーターなど高画質、IP化時代を見据え開発を進めている様々な展示をしていた。

 グラスバレーは放送インフラのIP化を進めており、IPへの移行を確実かつスムースに行うため、オープンスタンダードを広く取り入れ、メーカ間のインターオペラビリティーを保つため”AIMS”の立ち上げメンバーとして活発な動きを進めている。これまでのメインテーマ”Glass-to-Glass IP solution”をさらに一歩進め、”Complete IP Integration”と言うことで、制作や送出系で使われる様々な製品をIPで接続するEnd to Endのトータルソリューションを目指し多彩な展示をしていた。その核として”Broadcast Data Center”構想を掲げ、リアルタイムIPプロセッシングノード”GV Node”とコントロール系”GV Convergent”を中心とするシステムを提案していた(写2)。またモジュラー式ビデオプロセスエンジンを採用し3G対応(10G IP I/Oオプション)で4Kにも対応するスイッチャー”Kayenne / Karrera K-Frame”とカメラ系を繋ぎ、符号化技術”Tico”を採用し10Gイーサネットによる4Kワンワイヤー伝送の実演をしていた。
 AJA Video Systemsは性能・機能をアップした各種製品を出展していたが、注目は4K/2K/HD 対応の次世代ファイルベースビデオレコーダー/プレイヤー”Ki Pro Ultra”である。Apple ProRes ファイルのキャプチャーに対応し、4K 60p まで広範囲のビデオフォーマットとフレームレートをサポートしている。計測技術研究所は同機を使った8Kレコーダーシステム”KRS-8K”を出展していた(写3)。自主開発の記録再生制御装置を使い、KiPro Ultra4台を同期運転し1台のVDRとしてProRes 8K/60pの記録、再生を行う。8K映像の表示には85”LCDモニター”LV-85001” (シャープ製)が使われ、NHK-MT制作の8K作品とキューテックの8K評価画像を公開していた。8Kデジタルサイネージ用として有望そうだ。
 Quantelから企業名が変わったSAM(Snell Advanced Media)は、高品質カラー&フィニッシングシステム”Quantel Rio”を出展した。8Kモデルは既に開発済みだが、今回は4K対応ながらトレンドのHDRおよび広色域に対応し、GUIを刷新し、さらにAvidインテグレーション機能を強化した。4K Live Production コーナーでは、実績ある大規模な環境でも使える4K対応スイッチャー”Kahuna”および初出展となる廉価モデルの”Kula”を並べ、実績高く4K対応となったスポーツハイライトソリューション”LiveTouch”による4K制作の実演をしていた。大きな流れになっているIP化については、現在相互互換性のない各社製品との接続モジュールの開発を進め、さらにAIMSアライアンスにも参加し、最先端の4K対応IP製品群”IQ Edge”によるシステムを公開していた。

 NTTグループは最新の多種多彩な伝送・配信技術、符号化関連技術を公開していた。新開発のLSIを4個並列に協調動作させることでリアルタイムに8K信号を符号化できるH.265/HEVC エンコーダを出展し、実際に8K/60p映像を伝送、配信できる動態展示をしていた。また既に標準化されているメディアトランスポートMMTによる4K映像の同期伝送など次世代配信システムを公開していた。さらに自社開発のASICを 搭載し、クロマ4:2:2 10bitの4K映像をリアルタイムに符号化できるH.265/HEVCエンコーダ”HC-10000”シリーズを出展し、実機にて高画質、低遅延のデモをしていた。ワールドカップなどメージャースポーツイベントで使われているHV9100シリーズの後継機で、SD/HD/4K60pに対応し低ビットレート、低遅延、低電力で伝送可能なため、高品質を保ちながら使用帯域の削減と運用コスト縮減ができる。また映像制作を効率化するコミュニケーション機能”viaPlatz”を活用し、4K/8K高精細映像の伝送、記録、配信をIPネットワーク上で実現し制作行程を短縮しコスト削減につなげるワークフローソリューションを公開していた。
 NECは今後の放送メディアにとって重要な4K、8K放送用HEVCコーデック装置を出展していた。8K用エンコーダ、デコーダは、映像符号化方式にH.265を採用しMain10プロファイルまで対応する。約500分の1までリアルタイムで圧縮しBT.2020およびHDRに対応している。デコーダは入出力信号の制御や伝送方式に合わせた信号処理をする部分と、映像信号の伸張のみをするサーバユニットから成る。処理を分けることで高速かつ効率的に動作させ高品質映像を再現する。さらに伝送規格はMMTにも対応し放送と通信を連携するハイブリッドサービスも受けられる。4K対応装置の大変小型のVC-9700シリーズも展示していた。8K、4Kともエンコード、デコードした映像を表示していた(写4)。なお同社も今後のIP 化の流れに対応すべくAIMSアライアンスへの参加を表明していた。その他の展示物としては、最新のSoftwear Defined Network(SDN)ソリューション、大容量のアーカイブ用ストレージ”HYDRAstor”を出展していた。
映像技術ジャーナリスト Ph.D.石田武久

写1:IP & 4Kプロダクションシステム(パナソニック)

写1:IP & 4Kプロダクションシステム(パナソニック)

写2:End to End のIPソリューション(グラスバレー)

写2:End to End のIPソリューション(グラスバレー)

写3:Kipro Ultraを活用した8Kレコーダー(AJA 、計測技術研究所)

写3:Kipro Ultraを活用した8Kレコーダー(AJA 、計測技術研究所)

写4:8K放送用コーデック装置と8K映像(NEC)

写4:8K放送用コーデック装置と8K映像(NEC)

#interbee2019

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