【INTER BEE IGNITION セッション報告(4)】VRコンテンツ制作を手掛けるテレビマンによる本音トーク ローカル局ならではの工夫が満載

2017.3.30 UP

放送局ならではの番組作りのノウハウがVRコンテンツに生かされている

放送局ならではの番組作りのノウハウがVRコンテンツに生かされている

 Inter BEE 2016において開催したINTER BEE IGNITIONの2日目、11月17日の13時から「テレビマンが創るハイクオリティVRとメディアの未来~本格始動したローカル局発VRビジネスの今~」と題したセッションが開催された。
 前半は、ジョリーグッド代表取締役・CEOの上路健介氏が、同社のVRプラットフォームである「GuruVR」を紹介し、後半で「ローカル局発のVRビジネスの今」と題して、上路氏がモデレータとなり、GuruVRを導入してVRコンテンツを開発した3つの地方局の担当者が登壇した。

■地域の放送局によるVRアプリ企画が続々登場
 Guru VRは、もとIBC岩手放送で番組制作や企画を担当してきた上路健介氏が 大手広告代理店で番組の企画開発を担当する中でVRと出会い、 自ら100本以上に及ぶVR映像を自ら制作する中で、「Guru VR」を開発した。大きな特徴は、カメラを特殊なアームで支えることで、アナウンサーなど話者の肩に設置して撮影ができるため、カメラマンなどが見切れることがなく、また、アナウンサーも両手が自由に使える点にある。また、画面中に表示されたメニューを、視線で操作できる独自のポインターで選ぶことができるため、VRビューアー以外のデバイスを用いないでEコマースなどを組み込んだり、中身の濃いコンテンツを構築できる点にある。
 ジョリーグッドではまた、配信サーバーやプログラミングせずにコンテンツのオーサリングができるツールも提供しており、放送局が番組制作のノウハウを用いて制作しやすい環境を整えている。上路氏自身、もともと放送局に所属していた関係で、地方局の営業体制などを熟知しており、コンテンツの営業展開等を意識したサポートを実施している。最近では、ブートキャンプとして、短期間でVRコンテンツ制作を習得する教育プログラムも提供しているという。
 Guru VRを発表した昨年以来、地方局からの問い合わせや営業が実を結び、7月に北海道放送(HBC)が、スマホ用の360度動画アプリ「HBC VR」を公開。北海道の観光スポットやイベントなどの360度動画の配信を開始した。
 また8月には、新たにテレビユー福島系の制作会社、MTS&プランニングが「アクアマリンふくしまVR」を、東海テレビがSKE48のライブステージやバーチャルデートを楽しめるコンテンツを、そして、テレビ西日本が「VR九州」プロジェクトを立ち上げ、九州の魅力をVRコンテンツで発信する展開を開始すると発表している。

■「VRを一番よく作れるのは地域のメディアと制作会社」
 上路氏は、VR を一番よく作れるのは、地域をよく知るメディア企業と地元の制作会社だと言う。
 「VRをブームで終わらせないためには、一般の人が親しめるものにならなければならない。そのためには、まず、安価で手に入るデバイスの普及と、親しみのあるコンテンツを提供していくことが重要。放送局や制作会社は、番組作りで培ってきたプロの技術と演出ノウハウがある。これを生かしてVRコンテンツを作ることで、VR映像コンテンツのフォーマットを増やしていけば、一般の人にも面白いVR映像コンテンツの作り方を知ってもらえる」(上路氏)
 「地方局の営業は、地域の企業・団体のネットワークを持ち、地域のイベントやさまざまな催しについても連携している例が多い。VRが継続的に提供されるためには、局の営業力を生かすことがポイントになる」(上路氏)
 上路氏は、北海道の物産展などで1コーナーとしてVRブースが評判となっている事例を紹介し、「地域の魅力を伝えるメディアとして今後、アンテナショップには常識になると確信している」と話す。

 後半のセッションに登壇したのは、東海テレビ放送 営業局営業戦略部 担当部長の木ノ原良太氏、テレビ西日本 技術局システム技術部長 兼 映像センターITコンテンツ部長の尾野上敦 氏、北海道放送 メディアビジネス局 デジタルメディア部長 小川哲司氏の3人。

■北海道放送「観光、ウィンタースポーツなど8ジャンル25本のVRコンテンツを配信」
 上路氏は、それぞれの取り組みと、実際にVRコンテンツを制作した感想を聞いた。
 北海道放送の小川氏は「なぜやるのか、ということについて社内外から質問があったが、360度動画がおもしろかったという、今までにないことができるのではないかという思いがあった」という。「新しいニーズがあるはずという思いもあった。また、ローカル性は武器になるのではないかと思った」(小川氏)
 現在、8ジャンル25本を配信しており、観光、ウィンタースポーツ、気球、アナウンサーなど多岐にわたる。
 小川氏は、感想として、「やばい」という言葉をキーワードに次のような点を挙げた。
 「ぐるり感がやばい!」(自由な視点が楽しい!)、「高さ感がやばい!」(四角いフレームの中に切り取ってきたが、そこでは感じられない高さ感がある)、「近づき感がやばい!」(円山動物園で動物が近づいてくる映像がとても迫力がある)、「遠すぎてやばい!」(360度カメラだと、遠く感じる。遠景の中では、遠い)、「演者がやばい!」(画像スティッチのためにやってはいけない動きなどを教えておかないと破綻が起きる)、「世界中で盛り上がりすぎてやばい!」(世界の盛り上がりが気になる。焦燥感を感じる)。

■放送局として2方向の営業展開 「思いも寄らないところから声がけが」
 また、営業的な面については、デジタルメディア部独自の営業と、ラジオ・テレビといっしょに営業するという2方向で展開し、360度の動画制作をしてアプリを掲載する形のほか、360度動画制作を単体で受託制作、独自アプリの開発コンサルティングなどまでスコープに入れながら展開しているという。北海道を中心にした観光、ウェディング、自治体を回っている中で、営業実績もできつつあると話す。
 事業を始めて見ての感想は「思いも寄らないところから声がけが来る。今は、とにかく実施のケース、営業系でないものも含めて経験値を上げることが第一。やってみて思うことは、やらないとわからなかったことがあまりにも多かった。今は経験値をとにかくあげたい。先に走り始めたつもりなので、ノウハウをしっかりしていきたい」と話した。

■テレビ西日本「VRで九州を盛り上げ、世界中からインバウンドを」
 テレビ西日本の尾野上氏は、送信を兼務している中で、データ放送、ホームページ、マル研にも参加するなどの中で、放送とネットの連携でなにか新しいことができないかと考え始めたのがきっかけと話す。
 「VRは、やってみないとわからない、自分たちでブームをつくっていく」という重いから、VR九州を発表した。現在もコンテンツ開発を進めるとともに、九州における協力者を募っている。「VR九州が目指すものは、VRで九州を盛り上げようということが一番。九州でいろいろな人と話ながら、積極的に組んでいきたい、仲間を増やしたいと思っている。九州を世界中の人に見てもらい、インバウンドの盛り上げをしていきたい」と抱負を語る。「当面の目標は、パートナー企業を10社、コンテンツ数を100にしたい。1年ぐらいには達成したい」(尾野上氏)。

■「夢はVRの放送、誰もが特等席で楽しめ、一体感もある」
 「VRの魅力は視聴者が世界中にいること。また、最近は、過度な演出が嫌われる。タイムシフトで編成も視聴者が選択する時代。VRはそうしたセルフサービス時代のコンテンツ。 最近の時代にあっている」
 尾野上氏は「私自身の夢」とことわりながら、「電波をやっているので、VRの放送がしたい。誰もが特等席でエンターテインメントを楽しめる。生中継なら、一体感もある。コンサート、相撲など、みんなでVRを見られる環境ができるのでは」と述べた。

■東海テレビ放送「SKE48の屋外コンサートをVRライブ配信」
 東海テレビ放送の木の原氏は、最初にGuruVRでVR映像を視聴して「単純におもしろいと思った。ローカル局にとって、充分とりくんでいける分野だと思った」と話す。8月に愛知県の御浜町でAKBグループのSKE48と屋外コンサートを開催。そのコンサートを番組化するときに、新しい取り組みとして、ライブをVRで配信した。地上波、VR配信は東海テレビが担当し、技術・撮影はジョリーグッドが担当した。
 番組で紹介後、番組終了後に配信の案内をしたほか、データ放送とホームページでも情報を提供。楽曲演奏中、ステージの中央に1台と、メンバーの松井珠理奈が手持ちのVRカメラを持ってパフォーマンスを撮影したコンテンツのほか、ライブ開始前に舞台裏で円陣を組んだときに円陣の中央にVRカメラを設置したコンテンツ、さらに、メンバーの熊崎晴香との仮想デートの映像コンテンツの3つを制作。
 9月5日に開始して、6日までに、9000ダウンロード。ストリームをあわせて1万以上の視聴があったという。基本的には3つのコンテンツで人気の差はなく、コアなファンが3つとも体験したものと推測している。1カ月の配信期間で、27時から翌日で56.7%が視聴。そのあと1週間でほぼ8割、2週間で9割という。

■「VRはテレビと補完関係、親和性が高い」

 最後に、「なぜ今、テレビ局がVRなのか」という上路氏の問いに対して、小川氏は「TV局がやっていることと360度動画は食い合わない。それぞれが補間する技術、メディアになってくれれば」と期待をかける。
 尾野上氏は「女子アナがいるから」とし「ハイクオリティなレポートは、テレビならではのもの。これがあって初めて優れたVRができる。早いうちに"VRアナ"を育てたい」と抱負を述べた。
 木ノ原氏は「VR映像はTVにとって親和性が高い。テレビ局が使える新たなツールの一つと捉えている。営業的な立場でいくと、今まではスポット枠や番組、イベントのセールをしていたが、スポンサーに対して新たな営業ツールとしてVRを作って東海テレビのアプリから配信するという提案ができる。配信をしている編成開発からすれば、新たな課金ビジネスがつくれる。いろいろな可能性があると期待している」と述べた。 

【INTER BEE IGNITION】
 VR、ARや360度映像、ホログラム映像、プロジェクションマッピングから、4K/8Kパブリックビューイング、ライブビューイングなどのライブエンターテインメントに至るまでの最新映像技術が集結したイベントINTER BEE IGNITION。展示会場内に特設エリアを設け、各分野で活躍するゲストを招いたセッションとともに、関連企業からの出展ブースを設けた。VRコンテンツの制作会社や機材などが出展されたほか、NHK放送技術研究所によるAR技術を用いた未来のテレビ番組の出展などもあり、多くの来場者が訪れた。
 今年、11月15日(水)から17日(金)までの3日間、幕張メッセで開催するInter BEE 2017でも開催する。

放送局ならではの番組作りのノウハウがVRコンテンツに生かされている

放送局ならではの番組作りのノウハウがVRコンテンツに生かされている

#interbee2019

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