【インタビュー】映画『ジョン・カーター』VFXスーパーバイザー ペーター・チャン氏(1) 実写映画の新たな映像スタイルを確立

2012.4.5 UP

映画『ジョン・カーター』より (画像1)
映画『ジョン・カーター』のVFXスーパーバイザーを務めたダブル・ネガティブ社ペーター・チャン氏(画像2)

映画『ジョン・カーター』のVFXスーパーバイザーを務めたダブル・ネガティブ社ペーター・チャン氏(画像2)

バルスームに生息する生物たち(画像3)

バルスームに生息する生物たち(画像3)

監督の意向に基づき背景と主人公のジョン・カーター自身は極力実写で撮影している(画像4、5)

監督の意向に基づき背景と主人公のジョン・カーター自身は極力実写で撮影している(画像4、5)

サーク族の顔の表情のキャプチャー(画像6、7)

サーク族の顔の表情のキャプチャー(画像6、7)

■アンドリュー・スタントン監督による初の実写映画作品 全米公開で空前のヒットを記録

 『ファインディング・ニモ』や『ウォーリー』などのアカデミー受賞アニメーション作品で知られるアンドリュー・スタントン監督による初の実写映画作品『ジョン・カーター』が、いよいよ日本でも公開となる。3月の全米公開で空前のヒットを記録した本作品は、“実写映画”という範疇に入れられてはいるものの、スタントン監督ならではの極めてアニメーション映画に近いテイストを備えているともいえ、これまでの実写映画とは一味違った独自の世界観をつくりだしている。この世界観を際立たせているのが存在感のあるCG映像の数々で、存在感があるとはいえ実に見事に映画の世界観に溶け込んでおり、CGであることを全く感じさせない。この偉業を成し遂げたのが、ロンドンのダブル・ネガティブ社(Double Negative)だ。ここではVFXスーパーバイザーを務めたペーター・チャン(Peter Chiang)氏とのインタビューを通して、実写映画の新たな映像スタイルを確立するために貢献したVFXのメイキングを紹介する。(倉地紀子)

©2011 Disney. JOHN CARTER™ ERB, Inc.
映画「ジョン・カーター」4月13日(金)3D ・2Dロードショー!

 
■英ダブル・ネガティブ社 ペーター・チャン氏「リアルで表情豊かなCGキャラクターが最大のチャレンジ」

 今や、米国の大手CGプロダクションと並んでハリウッド映画VFXの旗手となったダブル・ネガティブ社。これまで、同社が得意としてきたのは、どちらかといえばフォトリアルな環境の復元や高度なシミュレーションを導入したエフェクトの作成であった。しかし、今回の『ジョン・カーター』のVFXは、これまでとは全く特徴を異にしたチャレンジの連続となった。

 VFXスーパーバイザーを務めたペーター・チャン氏は、アンドリュー・スタントン監督が今回の作品で最も重要視したVFXは「未知の惑星“バルスーム”に生息するキャラクターを、できるかぎり真実味のある姿で描き出すこと」だったという。
 ダブル・ネガティブはこれまでの映画プロジェクトでも、現実の世界の人間や動物に類似したフォトリアルなキャラクターを作成してきた経験が多々ある。そのための制作パイプラインも完備されていた。しかし、今回のプロジェクトで作成すべきキャラクターは、現実の世界に生息する生き物と比べ、姿形がまったく違っている。これらの生き物が、実写との合成で違和感ないほどフォトリアルであることを望みながら、同時に、アンドリュー・スタントン監督ならではの、表情豊かな演出がふんだんに盛り込まれることになった。
 そのため、ダブル・ネガティブ社では、『ジョン・カーター』のプロジェクト用に、急遽同社のキャラクター・パイプラインの全工程を再構築するという大作業が必要となったという。


■モーションキャプチャーデータから顔の表情を生成 2台のカメラで立体的な動きを取り込み

 ダブル・ネガティブは今回、顔の表情をモーションキャプチャー・データーから生成するためのシステムを新たに開発している。
 バルスームの生き物の中でも、映画の中のヒーロー・キャラクターともいえるサーク族のCG映像は、体系などが人間に近いこともあり、人間のモーションキャプチャーデータを用いて作成された。 中でも、サーク族の代表的なキャラクターについては、ウィレム・デフォーなどの名優の演技をCGキャラクターに割り振っている。このためのキャプチャー用デバイスや、キャプチャー・データーをサーク族の顔のメカニズムに変換するツールなどを新たに開発している。

 ダブル・ネガティブが新たに開発したこのシステムでは、俳優の顔の表情点に付けられたドットの動きをヘルメットに取り付けたカメラ(以下、ヘルメットカメラ)で撮影している。映画『アバター』で顔の表情のキャプチャーのために開発されたヘッド・マウンテッド・カメラ(HMD)では、俳優の口の前に一台のカメラが取り付けられていたが、これに対して、今回の『ジョン・カーター』の場合には、二台のカメラを俳優の顔の両サイドに取り付けている。
 ヘルメットカメラに装着された二台のカメラは、それぞれ顔のドットの動きをトラッキングする。一台のカメラでは二次元(x、y)の位置変化しか捉えられないが、二台のカメラを用いることで、三次元(x、y、z)の変位をとりこむことができる。これは、異なったカメラアングルで撮影された複数の(二次元)写真から、被写体の三次元形状を導き出す手法(フォトグラメトリーの手法)を用いている。この点で、『アバター』で一台のHMDで撮影した手法とは大きく異なる。

(続く)


【写真説明】
(画像1)
 映画「ジョン・カーター」( 4月13日(金)3D ・2Dロードショー)より
 
(画像2)
 ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン(Peter Chiang)氏。映画「ジョン・カーター」のVFXスーパーバイザーを担当した。

(画像3、4、5)
 『ジョン・カーター』のVFX最大のチャレンジは、未知の惑星“バルスーム”に生息する様々なキャラクターを、現実の世界の生き物さながらにリアルに描き出すことだった。とりわけアンドリュー・スタントン監督は、背景とジョン・カーターは極力実写で描くという方向性をとっていたため、これらの実写の要素と極めて隣接して登場するCGキャラクターに要請されるリアリズムの質は非常に高かったのだそうだ。

(画像6,7)
 サーク族の顔の表情のキャプチャーでは、メイクアップの工程で俳優の顔の表情点に黒のドットを描き、このドットをヘルメットに取り付けられた2台のカメラで撮影する。カメラは、サーク族の“牙”生えている場所に相当する位置に付けられていた。個々のカメラはドットの2Dの位置情報をトラックするわけだが、2台のカメラで撮影した2枚の画像にフォトグラメトリーの技法を適用することによって、各時間におけるドットの3Dの位置情報を復元することができ、結果的にはドットの3Dの位置情報の変化を知ることができる。

映画『ジョン・カーター』のVFXスーパーバイザーを務めたダブル・ネガティブ社ペーター・チャン氏(画像2)

映画『ジョン・カーター』のVFXスーパーバイザーを務めたダブル・ネガティブ社ペーター・チャン氏(画像2)

バルスームに生息する生物たち(画像3)

バルスームに生息する生物たち(画像3)

監督の意向に基づき背景と主人公のジョン・カーター自身は極力実写で撮影している(画像4、5)

監督の意向に基づき背景と主人公のジョン・カーター自身は極力実写で撮影している(画像4、5)

サーク族の顔の表情のキャプチャー(画像6、7)

サーク族の顔の表情のキャプチャー(画像6、7)

#interbee2019

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