【コラム】マルチウィンドウ時代におけるゲームと各種メディアの新たな関係 ゲーム・ジャーナリスト 新清士

2012.2.2 UP

昨年のGDC会場の様子
講演中のジェイン・マクゴニカル氏(昨年のGDC)

講演中のジェイン・マクゴニカル氏(昨年のGDC)

ExpoフロアのUnityブース(昨年のGDC)

ExpoフロアのUnityブース(昨年のGDC)

 毎年3月に米サンフランシスコで行われるGame Developers Conference(GDC)は、昨年は1万7500人を越える世界最大のゲームの情報が集積する場所に変わってきている。1987年にゲームデザイナーのリビングから始まったこのカンファレンスは、今では5日間の会期のうちに行われる講演の数は、400を越えており、また、3日目以降に開催されるExpoブースには最新テクノロジーが登場しアピールに努める。商談の機会として隣接した場所で行われるGame Connectionは、年々世界中からの参加企業を増加させている。世界の情報発信基地として、変化の節目を把握するために高い注目度を集める。(ゲームジャーナリスト・新清士)


■ゲームがゲーム機以外に広がる時代に

 それがこの2年あまり大きな変化に直面している。ゲームと言えば、プレイステーション3や、ニンテンドーDSといったゲーム専用機で遊ぶことが一般的であり、関連する講演もそういうものが多かった。ところが、大きな変化が出ているのだ。
 ゲームが家庭用ゲーム機から、ネットワーク流通や、HTML5といった技術に置き換えられることで、デバイスを問わない形でのゲーム展開が当たり前に変わりつつある変化の兆しを見せている。これまで、ゲーム機ごとに同じコンテンツを展開することを「マルチプラットフォーム戦略」と呼んでいたが、今では、同じコンテンツを様々なデバイスに展開する「クロスプラットフォーム戦略」と呼ばれるように変化しつつある。これはウェブ、スマートフォン、タブレットPC、そして、今後登場するスマートTVにも搭載されていくことになる。ゲーム機という閉じた環境から、ゲーム機以外のマルチウィンドウに展開されるゲームの意味が広がるパラダイムシフトが起きているのだ。

 ゲーム分野は、新しいテクノロジーが登場するたびに、人気サービスとなることが多い。一般のユーザーにとってはわかりやすく、ゲームの持つインタラクションは魅力的に写るからだ。BtoCのビジネスを立ち上げていくきっかけとなるケースが多い。サービス開始当初は、ゲームを想定していなかったサービスでも、中核へと変化することは少なくない。

 ソーシャルネットワーク(SNS)で、世界8億人ものユーザーを集めるFacebookは2007年末に、オープンプラットフォーム戦略を取った。これはSNSをアプリケーションのプラットフォームへと転換する劇的な変化を起こした。  ただ、創設者のマーク・ザッカーバーグ氏は、ゲームが急速に人気を得ていったことに、不満を漏らしていた。ところが、現在では、トップ企業の米ジンガは、2億3000万人ものユーザーを抱える世界最大のゲームサービスへと変わり、ザッカーバーグ氏も「Facebookが既存のゲーム機を凌駕している」と言うまでに変わってきている。
 同様に、ゲームはあまり関係ないと思われていた日本の携帯電話サービスでも、ディー・エヌ・エーやGREEいったウェブサービスを展開していた企業がゲームサービスへと転換することで、急激に業績を上げるようになっている。


■クロスプラットフォームを目指す戦い

 一方で、もう一つの主戦場が、スマートフォン周辺の動きである。
 サンフランシスコからシリコンバレー地域には、Facebook、グーグル、アップルなど、この10年で、現在のアメリカのソーシャル系技術を牽引する、新しい時代の産業クラスター形成が進んでいる。そして、どの企業もゲームを取り入れることを、重要な戦略に位置づけている。もちろん、各社ともスマートフォンの先を見越している。
 グーグルは昨年始めてExpoフロアに出展し、アンドロイド端末のゲーム分野の役割が大きくなることをアピールした。GDC関連セッションの参加者にはアンドロイド搭載のタブレットを無料配布するまでの力の入れようだった。一方で、昨年は、アップルが、GDC会場の隣の美術館で、iPad2の発表を意図的に会期中にぶつけきた。それは、任天堂の岩田聡社長がニンテンドー3DSについて、基調講演を行っている時間でもあり、この分野の衝突の激しさを物語っている。
 また、日本のソーシャルゲーム企業にとっても、今年、この分野で、スマートフォンを中心に海外進出を果たせるかどうか勝負の年になろうとしている。

 一方で、Expoフロアでは、昨年、元々はデンマークのベンチャー企業だったUnityという新しい世代のゲームのオーサリング環境が高い注目を集めていた。非常に簡単に学習でき、無料版も存在する上に、有料版もフルセットを購入しても1500ドルですむという、これまで数千万円から億単位で販売されていた環境と比較して、常識を打ち破る極端な安さだ。しかし、それにも関わらず、ウェブ、各種のスマートフォン、ゲーム機まで、一つの同じリソースから、ボタン一発で実行ファイルを作り出すことができるもので、その洗練さは度肝を抜いた。ここでも、クロスプラットフォーム戦略を前提とした次世代の動きを感じ取ることができる。
 この開発環境は、今後、3Dを使ったさまざまな環境で、利用されることが期待されており、実際に、ゲームだけでなく、日本でも自動車メーカーのプロモーションで試され始めている。


■ゲームが広がる象徴ゲーミフィケーション

 また、GDCをきっかけにして、普及していった単語もある。
 2011年に、ゲームの分野で大きく流行ったワードに「ゲーミフィケーション」という言葉だ。これは様々なゲーム以外の日常の生活活動をゲーム化する(ゲームファイ)という考え方から来たものだ。ゲームのポイントを取得したり、経験値を蓄積したり、他のユーザーと競い合う仕組みを現実の生活に組み入れていくことで、動機付けや、目標設定、適切な学習プロセスを構築するという考え方だ。この方法論を利用したウェブの構築方法など、新しいノウハウ蓄積の成果が近年のGDCでは争点になっている。

 この分野で注目を受けている一人のゲームデザイナー、ジェイン・マクゴニカル氏は、昨年の講演で「ゲーマーはもっとゲームをするべきだ」という目標を掲げ聴衆を驚かせた。これは、膨大な時間を費やしているゲーマーのエネルギーを、現実世界と組み合わせたゲームに応用することで、世界を良い方に変えられるという考え方だ。彼女は、世界銀行と提携して、ゲームを通じて議論を行い、また、その実現のために活動するゲームを成功させ高い注目を浴びた。今年も進捗が注目されている。

 この分野でのベンチャー投資も活発になりつつある。個人の日々の生活情報を抽出し、パラメーター化することができれば、何でもゲームになってしまうためだ。スマートフォンとウェブサービスを組み合わせた、健康管理サービス、より厳密に管理された脳トレのサービスなど、ソーシャルゲームの次の生活の中に浸透していくサービスへの展開が始まっており、まだまだ、多様な可能性があると見られている。
 ソーシャルゲーム関連のセッションでは、多くのウェブサービスが利用開始直後は無料で提供される「フリーミニアム」モデルへとシフトする中で、どのようにして適切に選んで行くのが良いのかという論点は「マネタイズ」と呼ぶが、今年のGDCで重要なポイントになりつつある。

 これらのようにゲームをめぐる環境は大きく変化を引き起しつつあり、日々の生活に間近な環境にも変わろうとしている。今年も、現地では大きな変化を実感することになると予想している。

講演中のジェイン・マクゴニカル氏(昨年のGDC)

講演中のジェイン・マクゴニカル氏(昨年のGDC)

ExpoフロアのUnityブース(昨年のGDC)

ExpoフロアのUnityブース(昨年のGDC)

#interbee2019

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