私が見たInter BEE 2008技術動向(その1:併催行事・イベントなど)

2008.12.11 UP

 デジタル化完全移行まで2年半に迫った11月中旬、音と映像と通信のプロフェッショナル展“Inter BEE 2008”が幕張メッセで開催され、出展規模、来場者数とも過去最高を記録した。デジタル化、HD化が進む状況下、広大な展示場には最先端の放送関連技術が集積し、併催イベントも例年以上に多種多彩な企画でどの会場も大盛況だった。毎年、Inter BEEを見てきたものの視点で、今展示会の状況を何回かにわたって紹介していきたい。今回は各種イベントについて、次回から機器の技術動向について順次見ていきたい。

 展示会の定番企画として定着しているInter BEE Forumは、今年も国内外の第一線で活躍する専門家やクリエイターを招き、トレンディーなテーマによる講演や討論会が開かれた。基調講演のアンディー・デイビー氏(BBCフューチャーメディア局)は“Beyond Broadcasting”と題し放送と通信を融合する「新たなメディア」の可能性と課題について話した。BBCは放送サービスとして数々のイノベーションを提供してきたが、昨年からインターネットによるラジオ・テレビ番組のオンデマンド配信サービス“iPlayer”を行っている。インターネット経由でのPCのみならずモバイルやケーブルテレビでも利用でき、放送番組提供のありようを根本的に変えるものだそうだ。特別講演のイルポ・マルティカイネン氏(フィンランド・ジェネリックス社)は「フィンランドからの新しいビジネスアプローチ」と題し、同社の長年の技術開発の成果や企業価値観について熱く語った。我らにも沁みこんでいる米国式考えとは一味違う企業哲学と技術開発のアプローチに共感を感じた人も多かったのではなかろうか。

 放送人の会の放送ビジネスシンポジウムでは「ネット時代、放送はシーラカンスとなるのか?」といささか刺激的な標題だったが、映像作家、WEBデザイナー、漫画家や番組制作者などにより、今放送を巡る状況や課題、可能性などについて率直な討論が交わされた。映像シンポジウムでは「創造的な映像制作コンテンツにおける人材育成革命」をテーマに、国内外の制作現場で活躍するリーダーやクリエイターを講師陣に、現在大きな課題である「人材育成」について、作品映写もしつつ講師、聴講者も交え活発な議論がなされた。音響シンポジウムでは「CMサラウンド制作、国内の現状」と題し、CM制作の第一線のクリエイター達が活発な議論を交わした。これらのシンポジウムについては本“Online Magazine”ページにていずれ詳細な報告がなされると思われるので参照されたい。

 今回、上記シンポジウムと連動する新しい取組みとして、放送・映像・音響業界で働く若手やこれからの学生などを対象に、チュートリアルセッションも開かれた。放送局やプロダクション、機器メーカの第一線で活躍する中堅講師陣が「今さら聞けないデジタルオーディオの基礎」、「デジタル映像信号の基礎」、「デジタル映像合成のための撮影技法」、「映像品質およびカラーマネージメント」などについて実践的技術を分かりやすく講義してくれた。参加希望者は事前にWebsiteにて募集したそうだが当日参加希望者もあり、開講されたどの講座もほぼ満席状態という人気だったようだ。何度か会場を覗いてみたところ、若手だけでなく、急速に進む技術に追いつこうとするベテランクラスの聴講者も多かったように見受けられた。来年以降も本セッションの継続、定着を期待したい。

 こちらも新企画である「アジアコンテンツシアター」はオーディオ部門会場の奥のかなり広いオープンスペースに開設された。会期中の3日間にわたって、中央に設置された200インチ位の大画面ディスプレイを使い、「日中韓テレビ制作者フォーラム」の作品、TBS DigiCon6(中国、韓国、インド、タイなど)の優秀作品とさらにABU賞の受賞作品(韓国、オーストラリア、ブータンなど)の上映が行われた。また作品上映に合わせスクリーン前での作品制作者によるトークセッションも開かれた。国内で目にする機会はほとんどないが、アジア各国のユニークで優秀な作品に多くの来場者が熱心に見入っていた。

 “IPTV Summit”は特別企画として今回2回目、国際会議場での専門セミナーと展示会場でのシステム公開が行われた。専門セミナーはソフトバンク、KDDI、ソニー、フジテレビなどから「IPTVに対する期待」、「IPTV規格化の昨日・今日・明日」、「世界の放送コンテンツ保護の状況」など、さらにNTTプララ、アクトビラ、NHKなどから「オンデマンド放送の事業展開」についての講演や民放局、広告会社による「どうなる民放オンデマンド」のパネル討論などが行われ、多くの聴講者を集めていた。展示場内では協賛企業による「次世代放送インフラ」、「IP-STBプラットフォーム」などの配信技術、NTTプララのひかりTVやアクトビラによるNHKのオンデマンドの実演(12月1日からサービスが始まった)なども公開され豊富なコンテンツ配信サービスは大きな注目を呼んでいた。

 デジタル化完全移行が間近に迫ってきた状況下、JEITA主催による"DTV WORKSHOP"も開かれた。総務省から「地上デジタル放送への完全移行について」と「デジタル完了後の携帯向けマルチメディア放送の導入」について、NHKアイテックから「海外におけるISDB-T放送の展開」について講演がなされた。今後のビジネス展開に関連するトレンディなテーマだけに、業界の中堅どころと見られる多くの聴講者で盛況だった。

 今年で45回目になる「民放技術報告会」は、会期中3日間にわたり制作技術部門や情報・ネットワーク部門、データ放送・デジタルサービス部門、伝送部門などに分かれ、各局から約90件もの発表があった。「ファイル転送による制作技術」、「HD-IP伝送」、「4K映像伝送」、「ワンセグサービス」、「CG関連技術」など現在の技術動向、潮流を反映するようにテーマは多岐にわたっていた。また特別企画として、今放送局が直面する大きな課題であるマスターモニターに関し「ブラウン管がなくなる日~どうする?マスターモニター~」というパネル討論会も開かれた。メーカサイドから「次世代モニターの開発状況」を、ユーザーであるキー局やプロダクションから「マスモニの運用状況や要望・条件」などについて率直で活発な討論がなされた。
この報告会の詳細については予稿集やいずれ出される他紙の報告などを参照されたい。

 これまでまったく別の企画として別会場で開催されてきた「NAB東京セッション」だが、今回10回目を機に「大進化、放送メディア~激変する事業環境への対応~」を掲げ、Inter BEE併催行事として開催された。わが国のデジタル化完全移行まで1000日を切り放送産業の新時代が迫っている中、総務省から「2011年完全デジタル化に向けて」の基調講演に続き、NABのDTV移行担当のジョナサン・コレジオ副会長による「2009年、2.17アナログ停止へ、米国放送産業の挑戦」と題する講演が行われた。米国では期限まで90日となった地上デジタル放送移行に向けた展開、状況について詳細に語った。さらにNHK、各民放局、関連メーカの専門家により「地上デジタル放送時代のビジネス戦略」と「デジタル化時代の放送設備」の大きなテーマに関し、講演およびパネル討論が行われた。切迫しつつある時期に適宜なテーマだけに広い会場を埋めるほどの大盛況だった。

【石田武久(映像技術ジャーナリスト)】

◎写真1枚目
基調講演、アンディー・デイビー氏(BBC)

◎写真2枚目
映像シンポジウムでのパネル討論会

◎写真3枚目
IPTVサミット、展示会場のプレゼンテーション情景

◎写真4枚目
大盛況の民放技術報告会

◎写真5枚目
初めての企画「アジアコンテンツシアター」

#interbee2019

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