私が見た"NAB SHOW 2011"における技術動向(その1、概要編)

2011.4.22 UP

2階建ての大きなサウスホールの情景
日本企業のブースが多いノースホール

日本企業のブースが多いノースホール

プレスコンファレンスでのプレゼンテーション(ソニー)

プレスコンファレンスでのプレゼンテーション(ソニー)

日本から世界に向けてメッセージを掲げるアストロデザインブース

日本から世界に向けてメッセージを掲げるアストロデザインブース

オープニング(キャメロン監督と3D制作者ピースのキーノート)

オープニング(キャメロン監督と3D制作者ピースのキーノート)

 3月11日、マグニチュード9.0の超巨大な東日本大地震が発生し、大津波が岩手、宮城、福島沿岸を襲い、3万人を超える犠牲者を出し、福島原子力発電所に致命的なダメージを与えた。それから1ヶ月、地震・津波の被害規模、被災者の全貌すら分からず、原発にいたっては未だに最悪状態を脱したとはいえず先行きはまったく不透明である。日本国内ばかりか世界経済にも大きな影響を与え、放射能汚染への恐怖は収まりきらない事態の中、恒例のNABが4月9日から14日にわたり、米国ラスベガスで開催された。この時期、わが国にとっては地震、津波による被害の大きさ、原発の惨状もさることながら、電力不足による計画停電や放射能汚染の恐怖に、日本中がシュリンプし経済活動が停滞し、例年日本企業が大きく寄与しているNABへの影響も懸念された。ここ数年以上にわたり継続してNABにおける最新動向・状況を見てきたが、このような多難な時だからこそ、これからのメディアの展開、最先端技術の動向・潮流を自身の目で見、肌で感じたいとラスベガスに足を運んできた。NAB2011における技術動向について数回にわたり紹介してみたい。

 NABは全米放送機器展として創設以来80年以上にわたって、カメラやVTRなど放送を支える様々な技術開発に寄与し、SDTV時代の白黒からカラー化、HDTV化そしてデジタル化へと放送メディアのイノベーションに大きく貢献してきた。昨今のデジタル技術の進展にあわせ、放送と通信の連携、融合が進み、映画とテレビ技術のフュージョン「デジタルシネマ」が定着し、最近急速に進展する3Dの隆盛など、今やNABは放送の枠を遥かに超え、世界最大のデジタルメディアのコンベンション・エキジビジョンへと成長、発展を遂げている。それらの進展に日本の技術力が大いに寄与、貢献してきたことは世界が認めるところである。

 今年のNABは、一昨年のリーマンショックによる世界経済不況の影響からようやく回復基調になり、世界の151ヶ国から1500社を上回る出展ブースが、ノース、セントラル、サウスホールから成る広大なコンベンションセンター(LVCC)いっぱいに展開されていた。参加者数は昨年を上回り93000人近く、メディア関係者は1300人を超える盛況さだった。最悪の状況下にあった日本からは、出展を予定していた幾つかの企業、研究所が取りやめたり規模を縮小したところもあったようだが、会場を廻った見た印象では、日本勢のブースの規模、出展内容、技術力の高さは例年と同じように盛況で、見学者の人気の高さも際立っていた。LVCCで最も面積の広いセントラルホールには、今や世界のリーディング・カンパニーとなっているソニーやパナソニック、キャノンが会場随一とも言える広いスペースを構え、その近辺にJVC、日立国際電気、池上通信機、朋栄、フジノン、ナック、リーダー電子、アストロデザイン、計測技研などがまるで日本船団のようにブースを連ね、いずれも最新のデジタル技術や高精細度カメラ・映像システムを公開し、どの日本企業のブースも多くの見学者で賑わっていた。上下2フロアから成るサウスホールには、Grass ValleyやAvid、マイクロソフトなど米国勢が多い中で、NTTグループ、KDDIやK-Will、富士通などがそれぞれ特徴ある出展をしていた。若干地の利の良くないノースホールはHARRIS、IBM、Snellなどほとんど欧米系企業のブースが占めていた。
 また、これらの個別企業ブースとは別に、3D関連技術の粋をまとめて公開する3Dパビリオンとか、現在大きな注目を集め様々なビジネスチャンスを生み出しているMobile DTV関連のパビリオンなど、最近の映像メディアのトレンドを反映するようなテーマ別ブースも開設され、いずれも大勢の見学者を集めていた。さらにまだ実用化されていないが明日のコンテンツ制作や配信などに有効な技術ツール発表の場としてのInternational Research Parkや韓国、ブラジル、ベルギー、スペイン、イタリアなど国別パビリオンなども開設され、それぞれ特徴あるプレゼンテーションや展示で人気を集めていた。

 NABでは機器展示だけでなく、多種多彩なコンファレンスやイベントも開催されている。機器展示に先立ち土日から開催されたデジタルシネマサミット(DCS)やメディア向けに自社の出展内容などを効果的にプレゼンテーションするニュースコンファレンス、さらに多くの研究発表会やテクニカルコンファレンス、さらに、長蛇の列を作っていた昨年に比べれば、地味になった感があるコンテンツシアターなども併催されていた。

 それらのイベントの中で、毎年、趣向を凝らし人気を集めているのがオープニングセレモニーで、11日午前9時からLVCCに隣接するヒルトンホテルのBarron Roomで開催された。今回の呼び物はキーノートスピーカーのキャメロン監督で、会場入り口には入場待ちの長い行列ができ、数百人が入る広い場内は立ち見も含め聴講者でいっぱいだった。最初に、会長就任2年目になるゴードン・スミス氏は「メディアの融合や新たな配信プラットフォームにより放送業界は難しい状況にあり、新たなビジネスモデルを考える必要がある。」と語った。続いてキーノートスピーチは、「アバター」で一躍3Dブームを引き起こしたキャメロン監督と3D撮影で著名なビンス・ペース氏の対談形式で行なわれた。3Dコンテンツのコストについて、ペース氏は「2D担当のチームが3D映像も撮れば制作費が軽減できる」と述べた。キャメロン監督は「テレビが白黒からカラー化したように映像はやがて全て3D化される、近い将来、フルHDでメガネ無しに視聴できるようになり、3Dは一気に普及するだろう」との期待と見通しを語った。その後で、両氏は3D映像制作のため新会社を創設すると発表し、本格的に3D制作活動を始めることになった。

 ここまで今回のNABの概要を紹介したが、ここでは今回の大会の動向を概観し、次回以降で具体的な技術動向について順次紹介することにする。
 今日の放送界最大の課題であるデジタル移行については、米国は既に1年を超え、わが国ではわずか3ヵ月後に迫っている(大地震の影響で東日本の被災地域では延期されるようだ)。米国や欧州、日本など先進国におけるデジタル化、HDTV化は概ね山を越えつつあるとは言え、南米やアジアなどの発展途上国ではこれからという国も多く、しかも世界的に経済状況の悪化が見込まれる。そのため、デジタルシネマや将来のスーパーハイビジョンなど、より高品質、高画質の映像展開が進み、高精細度のカメラや映像モニターさらに高度な制作系や伝送システムへの要求が高まる一方で、効率性が高くコストパフォーマンスの良い機器・システムの出展も数多く見られた。従来のビデオ信号からファイルベース化により効率性、経済性を向上したテープレスカメラや制作システム、それらに伴うワークフローの変革、LTO(テープ)などの登場による記録メディアの多様化、放送と通信の一層の連携強化やモバイルによる視聴態様の変化など、最近の技術潮流に応えるような出展物が目立っていた。さらに、最近のInter BEE、IBCなどで傾向と同じ様に、今回キャメロン監督が登場し3Dを高らかに語ったことにも象徴されるように、3Dコンテンツの制作、配信、上映に関する技術が今回の最大のテーマになっていた。<right>映像技術ジャーナリスト 石田武久</right>

日本企業のブースが多いノースホール

日本企業のブースが多いノースホール

プレスコンファレンスでのプレゼンテーション(ソニー)

プレスコンファレンスでのプレゼンテーション(ソニー)

日本から世界に向けてメッセージを掲げるアストロデザインブース

日本から世界に向けてメッセージを掲げるアストロデザインブース

オープニング(キャメロン監督と3D制作者ピースのキーノート)

オープニング(キャメロン監督と3D制作者ピースのキーノート)

#interbee2019

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