【Inter BEE Forum 2007】映像シンポジウムレポート ―その1

2008.3.21 UP

~“ハード・ソフト・ネットワーク技術革新”がもたらすデジタル映像コンテンツ制作の新展開~

□映像シンポジュームの概要と議論のテーマ

InterBEE2007では、放送業界を始めとしてコンテンツ制作に関わるプロフェショナルに向けた最新機器の展示会と共に、その技術を基盤とするコンテンツ制作に関するシンポジュームが国際会議場において開催された。
電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2007年から2010年の需要予測では、放送機器の今後の需要の中心は、放送用カメラやポストプロダクション・システムなどの制作系を中心としてHDTV化が進められ、通信システムとの融合による次の時代に向けての世代交代が進むと予測している。
毎年開催されるInterBEEフォーラムでは、今年も「放送ビジネス」「映像」「音響」の三つの分野に分かれて、国際シンポジュームが開催された。

「映像セッション」では、HDTVを基盤とするコンテンツ制作システムが、クロスメディアに展開されるなかでのハード、ソフト、およびネットワーク技術の進化がもたらしているデジタル映像制作の新しい状況を、ハリウッドを含め日米の制作現場の第一線のエキスパートから聞くことが出来た。コーディネーションを担当したNHKの国重静司氏は、技術の進化とそれを生かすコンテンツクリエイターとの連携が今後ますます重要であると、デジタル技術全体を俯瞰した視点で問題提起を行い、パネルに参加した各プレゼンターから、それぞれの現場からの取り組みについて報告が行われた。
ここでは、そのシンポジュームでのパネリストの講演を中心に、概要を紹介する。誌面の関係で講演内容を割愛、要約した部分もあります。(文責:為ヶ谷 秀一)

【プレゼンター】
●国重静司氏(NHK技術技術局総務部・部長)
「“ハード・ソフト・ネットワーク技術革新”がもたらすデジタル映像コンテンツ制作の新展開」
●坂口亮氏(米国Digital Domain社 テクニカルディレクター)
「映画制作のための流体シミュレーションによるCG映像制作」
●ワルター・ムントブルーム氏(米国NVIDIA社ワールドワイドセールス担当副社長)
「グラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)の進化」
●山崎年正氏(シスコシステムズ社マーケティング&エンジニアリングアライアンス&テクノロジープログラムマネージャー)
「ブロードバンドネットワークの活用によるコラボレーション制作」
【モデレーター】
●国重静司氏(NHK)
●為ヶ谷秀一氏(女子美術大学大学院・教授)


□シンポジューム

先頃、月を回る衛星からライブカメラのハイビジョンの映像が届いた。映像制作のシステムが技術革新の中でコンテンツ制作の範囲を拡げている。技術の進化をどのように新しいコンテンツを生み出す力にするかが、今最も大切な事である。技術は進化するが、その技術を活かした良質のコンテンツが生まれてこないと、その技術の進化が発揮されたことにならない。技術者の方々は、クリエーターの方達がどういうことを望んでコンテンツ制作を行っているのか、逆に、クリエーターの方々は技術の進化を自分のアイデアに取り込んでいるのか。このシンポジュームは、そういう両者の交流の場になることを目標にしている。
(為ヶ谷 秀一)

「国重静司氏の講演の要旨」

 機器展示会場で、テープレスカメラをご覧になったと思います。1983年からこの仕事に推進役として携わってきた感じから言いますと、ここに来てシステムや機材が出揃ったかなという感じです。
 今回は、タイトルを「“ハード・ソフト・ネットワーク技術革新”がもたらすデジタルハイビジョン映像コンテンツ制作の新展開」とし、デジタルの恩恵を得たハード、ソフト、さらにネットワークなどが本当にフル活用されているのか、またフル活用するにはどうしたら良いのかと言う点を中心テーマとして考えたいと思います。
デジタル映像コンテンツ制作が技術進化して行く中で、特に高品質化と高効率化と言った様な、一見相反する場面があります。また、テレビは、リアルタイムのメディアだと言われますが、ハイビジョンが主流になってきている中で、どうしたらリアルタイムの高精細画像生成技術が、現場の制作に十分に適用できる様になるかを考えたいと思います。
技術の進化、メディアの進化、視聴環境の変化によりメディアの市場も拡大している。コンテンツを高品質、高効率的に、多様なチャンネルに低価格で展開することが期待されており、そこには独自技術開発、ワークフローの改革、意識改革も必要です。独自開発だけでなく、既存の技術についても上手に使って行く必要があります。幅広くサービスしていくためには、著作権の管理も、人材の確保、育成も重要な課題になってくると思います。
全体を俯瞰して、コンテンツ制作の新展開に向けた現場の状況をお話しします。

(独自技術開発の重要性)
コンテンツを作る際にキーとなる独自技術開発に注目してみました。基本的には、先ず既存技術をフル活用します。見えるもの、見えないもの、非常に細かいもの、目でも見えないマクロの世界、またはドラマ、ドキュメンタリーにおいては豊かな表情を持つシーンを構成、実現して行くために、現場では独自の技術開発が行われてきました。私どもの経験から、特に画像処理、データ処理の技術開発は重要であり、ことさらアーティストやクリエーターの方々の表現力をしっかり支える独自技術の開発が重要になってきました。
 具体的な例として、キャラクターのアニメーションを作るにあたっても、ある意図をもってクリエーターが作ろうとすると、市販のツールによるアニメーションの制御がなかなか難しいことがあります。クリエイターに使いやすいメニューを用意して、簡単にかつクリエイティブな方たちのイメージを確実にアニメーションの中に取り入れていく手法を開発し、コンテンツのクォリティを高めています。
テレビスタジオ用モーションコントロールカメラに関する独自開発事例ですが、小型でスタジオの中で組み立てられるシステムを目指して、自動車組み立てのロボット技術開発を進めているメーカーとの共同開発を行いました。我々の映像プロダクションのノウハウをロボット開発に活かして、リアルタイムに画面上で撮影の状況がわかる様になっています。コントロールは、ジョイスティックで出来ると共に、キーフレームの間の自由な動きが設定でき、さらにCGのアプリケーション制作ソフトと連携が取れていて、事前の動きもコンピュータ上で再現できます。ドラマ制作などの狭いスタジオ内でも使えるので、かなり効率性とクォリティに威力を発揮することが出来ます。
 リアルタイム画像生成技術は、視聴者の方にとってわかり易い映像表現をするための、物理シミュレーション、サイエンティフィックビジュアライゼーションによるCG映像制作で使われます。市販のソフトを駆使しながら、独自の技術開発によりハイビジョンならではクォリティを追及しています。そこには、ハードウェアと開発ツールを含めて、新たな独自技術の開発力が必要です。
 リアルタイムの技術を上手く使うことによって、制作工程を短くできますが、その工程を短くした中で映像のクォリティ自身も上げることも重要です。リアルタイムの技術を活用したプレビジュアライゼイション(Pre-Viz)が主流になっていますが、これの中でロケイメージをチェックする時に、現場の状況をハイクオリティなイメージでリアルタイムに再現できれば、ロケ時の最終的なクォリティも上げることができます。

(まとめ)
放送コンテンツも、これからいろいろなメディアに展開して行くことになります。そこでポイントとなるのは、コンテンツのクォリティ向上への対応です。そこでは新規の技術開発であったり、既存技術の活用であったり、ネットワーク技術の活用などがあり、これらの組み合わせで目的を実現させるという、トータルシステムとしての企業の視点をしっかりと持つことが大切です。
 冒頭申しましたカメラがオールデジタルになり、テープレスになるといった進化がありますが、講演で紹介した恐竜のシーンの制作において、CG合成のためにいろいろなカメラの情報を取り込むシステムを独自に開発しました。一方、収集した情報をどうやって映像と関連づけて、一つのコンテンツとして管理していくかというところが、将来の活用に向けた重要な取り組です。そこには、ネットワークとテープレスカメラ、サーバーと言ったものが必要になって来ます。それぞれのメタデータを、きっちりとシーンと関連づけた統合システムがデジタルプロダクションだと考えます。もう一つは、ワンソース・マルチアウトプットを実現するためには、オリジナルの映像とか、それぞれに付属するメタ情報を活用して、どの様なサービスにして行くかを考えなければなりません。XMLの様な技術を使って、映像を撮影するロケの時点から、クロスメディア展開を考えておく事が重要だと思います。


「ワルター・ムントブルーム氏の講演要旨」

 リアルタイムコンピューティング、シェーダーモデルなどについての話が主なテーマとなります。NVIDIA社は創立15年になり、カリフォルニア州サンタクララに本社があります。4800人以上の従業員で去年の売り上げは30億ドル、2年間で20億ドルがR&D(研究開発)に投資されており、新しいテクノロジーにアグレッシブに投資している会社です。放送グラフィックス分野で、二つの製品を出しました。FX5600SDIとFX4600SDIです。二つのグラフィックスボードですが、これには二つの特徴があります。一つは7500MB、1.5GBの高速フレームバッファーを使っています。もう一つがビデオコンポジティングを直接行えることです。通常、映像を合成する時には、常にCPUのシステムバスに戻って処理をします。その処理には、システムCPU、メモリアーキテクチャー、I/Oポートなど、非常長い経路を通ることにより、SDI信号を出力するまでの処理に時間が掛かります。これに対して新しい製品は、まずビデオストリームを取り入れ、3Dのコンテンツを計算してGPU上でレンダリングします、これら二つを合成し、直接SDIへ出力することができ、いちいちシステムバスに行く必要は無く、システムメモリにも行く必要はないのです。もっとも大きなパフォーマンスが得られ、SDI信号も、HD出力画像のクォリティも得られます。リアルタイム・ビデオストリームにおいては、これが重要な要素です。例えば、天気予報などでは、このパフォーマンスが重要となってきます。実際のビデオ合成が直接ボードでできます。ビデオを取り入れると言うことは、ビデオを操作すると言うのではなく、ただ単に取り込むと言うことであり、その上に3Dのコンテンツをオンザスポットで取り出します。こちらには3つのプロセスがあります。クロマキーイング、Lumaキーイング、アルファコンポジティングと言うことです。ビデオをインポートし、3Dグラフィックスを生成し、それらを全て合成して、そして直接SDIから出力することが、最大のアドバンテージです。
 シェーダーテクノロジーの活用は、放送だけではありません。実際多くの業界が扱っています。どの業界でも迅速な処理が求められています。今日、皆さんが見ているほとんどのビデオは、オフラインでレンダリングしています。多くのCPU、GPUのパワーが必要で時間も必要です。これらの映像を作るためには、どのように迅速化し、リアルタイム化できるのかと共に、質の維持も必要です。HDTV、4Kデジタルシネマの質を満たすアンチエイリアスの処理も必要です。これはまさに業界を通じた共通の利害です。つまりシェーダーには、ビデオのスポットと3Dのコンテンツの間の継ぎ目が見えないリアリティの実現が求められています。この合成のテクノロジーが、リアルタイムに近い時間で処理ができ、制作コストを大幅に下げることが出来る様にすることが、共通の目的です。
 これを可能にするために新しいアーキテクチャーのハードウェアが必要となり、それが統合アーキテクチャーです。これがなければ複雑なプログラム、シェーダーによるリアルな表現などが煩雑になります。これを動かすためには、GPUが必要なのです。美しいイメージを作るだけではなく、データ処理がこのGPU上で出来ます。GPUは、巨大な並行処理のデバイスとなります。

コンピューティングと言うのは、我が社の中で扱っている一番大きな項目になりますし、GPUというのが大量の並列処理のためのコンピューティングデバイスになっています。GPUの構造だけ見てみますと、基本的にはピクセルを駆動させて、グラフィックを表示するために必要な項目になりますが、GPUをただ単なるグラフィック向けではなく、データ処理にも活用することが出来るようになります。新しいソフト面のプラットフォームCUDAというソフトを使うことにより、C言語とのプログラミングが可能になりました。C言語のソースコードとCUDAのソースコードは、大変似たソースコードになっており、プログラマーは数学的な共通データ処理をC言語で行うことができます。このデータ処理をGPUですると言うことは、大量の並列データ処理にかなり有効です。例えば力学であるとか、地震の経過計算、あるいは、スモーク、雲の様な流体計算、あるいはレイトレーシングといった高品質CG、こう言ったところでのパフォーマンスの改善は、CPUだけを使う時に比べて240倍もあがります。GPUだけでこれだけ高速にでき、そして並列処理の計算が複雑であればあるほど、その効果が増すということになります。

放送やコンテンツ制作の業界に対しての最終的なメッセージですが、インタラクティブなゲームや放送コンテンツは、もっともっとインタラクティブになると思います。リアルタイムのためのテクノロジーとしては、ビデオストリームと組み合わせたシミュレーション技術が使われ、クラスタといった仕組みは、もっと一般的になってくるでしょう。NVIDIAは、次世代の製品を2008年に発表します。

#interbee2019

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