私が見た"NAB SHOW 2010"における技術動向(その2、3D・立体映像編)

2010.5.6 UP

小型の一体型2眼式3Dカメラ(パナソニック)
3D中継車とLEDディスプレイ(ソニー)

3D中継車とLEDディスプレイ(ソニー)

2カメラ並行式3Dカメラ(池上通信機)

2カメラ並行式3Dカメラ(池上通信機)

ハーフミラー式3Dカメラ(グラスバレー)

ハーフミラー式3Dカメラ(グラスバレー)

ホームテレビによる3D映像例(パナソニック)

ホームテレビによる3D映像例(パナソニック)

前号では今回のNABの全体概要について紹介した。NABは80年以上の歴史を持つ全米放送機器展として、これまでVTR やカメラなど放送を支える様々な技術開発やその時々の放送メディアの変革に大きく貢献してきた。90年代にはHDTVの進展に寄与し、2000年代には急速なデジタル技術の進展にあわせ、放送と通信の融合、映画との提携を進め、今や放送の枠を大きく超えデジタルメディアのコンベンション・エキジビジョンの場となっている。今回のNABの主な技術動向としては、放送デジタル化が進む中でHDTVが基幹メディアとして定着していること、番組制作や送出のワークフローを大きく変えるファイルベース化(IT技術との一層の連携)が進んでいること、ますます進むデジタルシネマ、中でも3Dの隆盛などである。
 何といっても最大のトピックスは、今年は3D元年とも言われキャメロン監督の「アバター」効果に見られるように社会現象にもなっている「3D・立体映像」である。オープニングの場で大画面により3D映像が上映され、コンテンツシアターでは3Dコンテンツ制作で大勢の聴講者を集め、多くのブースでも3D関連技術が出展され多くの見学者を集めると言うように、まるで3D、立体映像オンパレードの感があった。と言うことで、本号では多様な技術動向の中からまず3D関連技術動向について見てみたい。

 パナソニックの3Dへの力の入れようは大きく、プレスコンファレンスでは「3Dをトータルソリューションとして提供する」と宣言し、展示会場でも随一の広いブースの6割近くに3D関連の機器、システムを展開した。数十人入る3Dシアターでは、正面に152"型と両脇に103"型PDPを配し、3D機器のプレゼンテーションに続き、人間と動物の情感あふれるカナダの自然紀行やオートバイレース、北京オリンピックなど多彩なコンテンツを上映し、迫力ある素晴らしい3D映像で来場者を堪能させていた。シアター周辺には、家庭向け(既に販売が始まっている)3D対応の54"PDPとコンテンツ再生用BDプレイヤーが並べられ、3D時代が身近に迫っているのを感じさせてくれた。制作系として、今秋発売予定の一体型2眼式カメラレコーダが展示されていたが、レンズ、カメラヘッド、記録部を一体化し、L/R 2CH映像の収録やコンバージェンス調整可能で、他の3Dカメラに比べ大幅に小型、低価格化を実現し、米、欧、日のプロダクションからかなり引き合いが来ているそうだ。さらにライブ映像制作システムとして、3DカメラのデュアルSDI信号を一体でスイッチングできる低価格のデジタルAVミキサー、Xpol偏光式で25.5"型のフルHD 3D LCDモニターなどを展示していた。3D作品が従来よりコンパクトにローコストで制作できるようになり、一層、3Dの普及が進んでいくことと期待される。
 一方、3Dをビジネス戦略の大きな柱とするソニーは、広いブースの背面側に巨大な3D対応中継車と280"型LED 3Dディスプレイを配し、その裏手にもSXRDによる150"位の大画面ディスプレイ2面を配し、来場者に強烈なインパクトを与えていた。この中継車はAll Mobile Video(米)社から受注したもので、見学者が長蛇の列だったため内部の見学はあきらめたが、3D制作に対応するカメラやマルチフォーマットスイッチャー、業務用3Dモニターなどを装備されていると聞いた。横に並んだ大きな3D LEDディスプレイは、昨年のInterBEEに出展されたものと同じモデルだが、発光素子の欠陥がなく輝度も高く画質はかなり改善されていた。巨大な中継車と大画面ディスプレイをバックに大の男達が記念写真を撮っている情景は微笑ましかった。その横手の円形のカメラコーナーにはデジタルシネマカメラやマルチフォーマットカメラと共に、3Dカメラが何式か並んでいた。前述のパナソニックのモデルは小型の一体型だったが、こちらは後述するハイエンド、ミドル、ローコスト型の3Dカメラ用リグに装填した2台カメラ式のものだった。3D作品を映す業務用3Dモニターについては、円偏光方式の42"型、24"型を展示した。また3D作品制作用システムとして、2台のカメラ映像の色調の違いや光軸のわずかなずれを補正するマルチイメージプロセッサー、L/R映像を一式で処理できるプロダクションスイッチャーやデジタルレコーダーも展示した。スポーツやコンサートなどライブ中継にも使用でき、映画やゲームなど以外にも3Dの応用分野がさらに広がって行ことが期待される。

 従来から超高精細映像システムに熱心に取り組んでいるアストロデザインは、今回、4Kワークフロー・ソリューションと共に同社ならではの独自技術による撮影、収録、配信から表示までトータル的な3D映像システムを展示していた。外観はちょっと違っていたが昨InterBEE でデビューした小型一体型の2眼式3Dカメラ、また8"型3D信号用波形モニターと24"型3D映像モニターなどに加え、L/R信号をH.264 コーデックによりエンコードし1本のケーブルで送りデコードする3D伝送システム、さらに今回は60GHz帯ミリ波による3G-SDI無線伝送システムの実演も公開していた。
 ハイビジョン開発初期の80年代半ば頃からNHK技研と共にハイビジョン3D作品の制作に取り組んできたNHK MT(Media Tehnology)とNCMA(NHK CosmoMedia America)は、長年蓄積してきた3D番組制作の技術力をベースに米国内でも3D制作サービスの展開をしている。今回、ハーフミラー式3Dカメラとレンズシフトアダプター付き2台平行式3Dカメラ、小型のL/Rコンポーザーなどを出展していたが、ブースを見学に行った際には、海外の制作関係者に機器操作の実演やビジネスの打ち合わせをしていた。ところでNHK-MTは今後の放送番組の3D化や3Dコンテンツの劇場等への配信の進展を視野に、NAB開催直前に3D中継車の完成を披露したが、今後の一層の展開を期待したい。
 実はこのブースの隣にはInter BEE協会のブースが開設され、今年秋開催予定のInter BEE2010のPRやNABとの連携強化に向けたプロモーション活動を積極的にやっていた。
 3D関連のユニークな技術として2D-3D変換があるが、JVCは特殊な信号処理により2D映像を奥行き感のある3D映像に擬似的に変換する技術を公開し評判になっていた。会場内情景を小型のHDカメラで撮影し、リアルタイムで立体像に変換し、50"位のXpol式フルHD液晶テレビで見せていた。既に製品化されており、3D制作現場からのレスポンスが大きく、3Dコンテンツ不足が懸念される中、注目すべき技術である。

 世界的な3Dの進展に応え、欧米企業の3D関連機器やシステムも数多く目立っていた。中でもバーバンク(カリフォルニア州)に拠点がある3ALITYは、3Dカメラリグ(2台のカメラを一体化するための架台)としてハーフミラー合成型、2台並行型、コンパクトな簡易型などのモデルを開発し世界的に販売している。今回のNABの場では、ソニー、パナソニック、池上通信機、グラスバレー、3Dパビリオンなど多くのブースで、それぞれの社のカメラと組み合わせた3Dカメラが数多く見られた。また同社は3Dコンテンツ制作用プロセッサーやソフトウエアも開発しており、今回も各社の3D作品の制作をサポートしていたようだ。
 映画音響最大の老舗であるドルビーは、近年、映像系にも積極的に参入しており、今回のNABにおいて高品質のLCDモニターの特別展示と共に、3Dシアターを開設し美術品や自然景観、映画のシーンなどから成る3Dコンテンツを独自方式による高画質の3Dディスプレイで上映し、新たなアプローチは評判になっていた。
 3D技術の規格化や商用化、一般への普及などを目的に、ソニー、サムスン、3Ality、AUO、ドルビーなど世界各国の30数社が加盟している"3D@Home Consortium"は、サウスホールの地の利の良い場所に昨年の陪以上の広さの3Dパビリオンを開設した。参加各社から多種多彩な3Dカメラ、3D映像処理系、2D→3D変換技術、眼鏡なし立体方式、各種3Dモニター、さらには各3D方式に対応する3D眼鏡などが展示されていた。それらを使って制作された多種多彩なコンテンツも公開され大勢の見学者で賑わっていた。

次回はコンテンツ制作系の技術動向として撮影カメラや映像モニターについて紹介してみたい。

(映像技術ジャーナリスト 石田武久) 

3D中継車とLEDディスプレイ(ソニー)

3D中継車とLEDディスプレイ(ソニー)

2カメラ並行式3Dカメラ(池上通信機)

2カメラ並行式3Dカメラ(池上通信機)

ハーフミラー式3Dカメラ(グラスバレー)

ハーフミラー式3Dカメラ(グラスバレー)

ホームテレビによる3D映像例(パナソニック)

ホームテレビによる3D映像例(パナソニック)

#interbee2019

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