【インタビュー】シリウスライティングオフィス 代表取締役 戸恒浩人氏 東京スカイツリーで世界初のLED大規模外観照明

2011.5.23 UP

江戸の風情を生かした東京スカイツリーの外観照明
シリウスライティングオフィス 代表取締役 戸恒浩人氏

シリウスライティングオフィス 代表取締役 戸恒浩人氏

パイプの構造を生かした照明演出も行われている

パイプの構造を生かした照明演出も行われている

「粋」を表現した外観照明デザイン

「粋」を表現した外観照明デザイン

「雅」を表現した外観照明デザイン

「雅」を表現した外観照明デザイン

■約2000個のLED照明を用いて江戸文化「雅」「粋」の演出を検討中
 シリウスライティングオフィスは、東京スカイツリーの照明を担当している照明デザイン会社。 634メートルという自立式電波塔として世界一の高さを誇る塔に、約2000個のLED照明器具を用いた外観照明のデザインを進めている。現時点では完成へ向けて検討を進めている段階だが、実現すれば高層建築物の外観照明すべてにLEDを用いるのは世界初の試みとなる。

 デザイナーのイメージを忠実に反映するため、PCを駆使した事前のシミュレーションを綿密に行っている。これにより、デザイナー、施工関係者、そしてLEDの開発者らとイメージを共有しながらプロジェクトを進めてきたという。今回、LEDを積極的に用いることになったのは、デザイン決定後のこと。

 その後、デザイナーとメーカー、設計・施工関係者が互いに協力しながら、LED照明器具の開発デザインが進められ、今回のプロジェクトが実現している。LED照明の決定当初から、オールLED照明を目指すまでに至った経緯や、CGシミュレーションによる照明デザイン、情報共有の作業工程について、代表取締役の戸恒浩人氏に聞いた。
 

■ CGシミュレーションで高精度なデザインを実現
 ーー東京スカイツリーの照明デザインを担当し、LED照明を採用するに至った経緯について。
 「07年に東京スカイツリーの照明デザインを提案し、同年8月にはライティングデザイナーに決定した。その後、器具の取り付け位置決めや照明器具の設計を進めた。実は、この時点では照明にLEDを用いる話はなく、一般に建築物の外観照明に用いる放電灯を用いる予定だった」
 「照明器具の取り付け位置や器具の重量は、 構造物の強度設計と関係があるため、早めに決める必要があり、一度決めた位置と重量は変更ができない。そのため、照明器具を放電灯からLEDに変更したときも、放電灯と同じ重量の器具を同じ位置に設置しなくてはならなかった」
 

■光のシミュレーションには、3ds MAX Designを採用
 ーー今回は、御社としては初めて外観照明のデザインをコンピューターで行っているが、その理由について。
 「今回は巨大な構造物であり、また、パイプを多用しているため建築物の内側にも立体的な照明演出が必要であったため、デザイン、シミュレーションをCGで行うことにした。これには、マシンの能力が飛躍的に向上していることも大きな理由だ」
 「高精細で高精度のイメージをつくるには、多大なマシンパワーが必要で、それでも処理時間がかかる。しかしここにきて、CPU_パワーが何倍も早くなっている。速度が5倍速くなれば、レンダリングスピードが5分の1で済む。また、作業工程での重量・位置決めなどの精度を高めなくてはならず、スケールも大きいこともあり、当初から専門部署を立ち上げ、デザイン・設計手法としてCGを導入した」

 ーーシミュレーションの作業環境について。
 「設計を担当した日建設計から、モデリングデータを受け取り、3ds MAX Designを用いて、 約2000個のLED照明を配置し、 ラジオシティ法でレンダリングをしている。MAX Designを用いることで、テクスチャーを生かした総合的な評価ができると考えた。CPUは20-30個程度を使用している。モデリングデータは、あらかじめデータを削減しており、さらに、キャットウォークなどの構造物を除いているが、照明に影響する部分は、結果が近似するように、後から手作業で再度加えている」


■LEDの開発状況をにらみながら採用へ
 ーー照明器具としてLEDを採用するようになった経緯について。
 「東京スカイツリーの照明デザイン・設計を進めていくうちに、LED照明が進化してきたことが大きな要因だ。外観照明で使えるほどに、みるみる明るくなってきていた」
 「イメージデザインでテーマ・カラーにしていた色は江戸紫。この色を出すためにはカラーフィルターで放電灯を覆う必要があったが、それでは相当な電力が必要となることがわかった」
 「LEDは当初、赤・青・緑の3色しか使えなかったが、その後の技術開発で、半導体から直接紫色を出せるようになり、期待が膨らんだ。急速に明るさも増していったことで、LEDの採用を積極的に取り組むことが決まった」
 「LEDを用いることにより、より多彩な演出が可能になる。従来の放電灯は、明るさや照明の色を、照明のオン・オフで調整していた。変更に時間もかかるため、連続的な色の変化といった演出はできなかった。LEDなら、色の変化、明るさの変化を直線的に変更できるなど、多くのメリットがあった」


■光のイメージにあわせてLED照明器具をデザイン
 ーー当初はまだ、LEDの外観照明器具はなかったのでは。
 「09年の2月に東京スカイツリーのカラーデザインが決定。10月には、照明デザインも発表。テーマは粋と雅となった。この時点では放電灯のシミュレーションの画像だったが、LEDがその色を実現できる方向へどんどん追いかけていた」
 「我々も、 LED素子メーカーのロードマップを見ながら、メーカーと共同で検討を進めていった。10年3月に、パナソニックの照明器具を使用することを発表してから作業が本格化していった」

ーーLED照明器具の開発はどのように進めたのか
 「通常は、既存の照明器具を使うことを前提にして、光の演出や位置を決めていくものだが、今回は光のイメージが先行し、それにあわせて器具のデザインが行われるという、逆の手順になっている。照明をあてる向きや光の色、強さ、面積などから照明器具の形状や光の強さなどの要求仕様に基づいた試作品を測定し、データを置き換えて効果を確認していった。こうしたやりとりを繰り返していき、照明器具の開発を進めてもらった。シミュレーションのイメージにかなり近いものができている。新しいLED照明器具は、現在全部で10種類以上になる」
 
 ーー最も苦労した点は。
 「巨大な建造物のため、ライトの設置角度が少し変わるだけで、照明の効果が大きく変化してしまう。 すべてのライトの角度を手作業で調整することは安全性や時間を考えると不可能だった。そのため、照明器具のジョイント部分を固定成形にして角度をほぼ固定化することで作業の効率化を図った」


■「今後は都市景観照明もLEDが主流に」
 ーーシミュレーションを用いたときの課題について。
 「光の伸び方やコントラストはかなり正確に再現できたと思うが、 空気中の湿度の変化といった微細な天候の変化や環境光による見え方の違いまではまだ反映できていない。壁面素材の見え方の変化を表現するにはもう少し時間がかかりそうだ」
 ーー現状と今後の展開について。
 「シミュレーションによる照明器具のデザインと取り付けの確認はだいたい終わっている。これからは、器具を製作していく作業で、最後のつめの段階だ。今は静止画によるシミュレーションだが、いずれ動画でリアルタイムに見ることができるようになる」
 「今回はLEDの開発と同時進行で進んできたが、これによってメーカーとのコミュニケーションを深めることができ、私自身、LEDの特性がわかってきて、新たな提案につなげていきたいと考えている。おそらく数年後には、都市景観照明もLEDが主流になるだろう」 

(映像新聞 小林直樹) 

 ※「東京スカイツリー」は、東武タワースカイツリー株式会社等の著作権・商標権により保護されております。
※LED照明を用いた演出については現在、検討中の段階です
 

シリウスライティングオフィス 代表取締役 戸恒浩人氏

シリウスライティングオフィス 代表取締役 戸恒浩人氏

パイプの構造を生かした照明演出も行われている

パイプの構造を生かした照明演出も行われている

「粋」を表現した外観照明デザイン

「粋」を表現した外観照明デザイン

「雅」を表現した外観照明デザイン

「雅」を表現した外観照明デザイン

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