『NAB SHOW 2008』に見る技術動向(その3):制作システム、符号化技術

2008.5.15 UP

前号まで、テープレスカメラ、高画質・高機能カメラ、映像モニターの動向について見てきた。本号ではテープレス化やネットワーク化が進む高品質の制作システム、IP時代を反映し一層性能向上、発展する符号化技術などについて紹介したい。                                   

 前述のように取材系のテープレス化が急速に進んでいる。一方、制作系についてはノンリニア編集や合成・加工処理に見るように、従来からディスクベースのプロセス・ワークが行なわれてきた。このような状況を反映し、今回のNABにおいても取材から制作系、さらには送出からアーカイブまでをリンクするトータルフロー化を見据えたシステム、プロセスの出展が多かった。例年、映像合成、加工などを見せてくれる制作系の出展ブースは人気が高いが、今回も高品質、高機能で華麗な実演を交えたプレゼンテーションにどこも大賑わいだった。

 トムソン・グラスバレーはサウスホールエントランス近くの地の利の良い会場随一の広大なブースで、様々な制作システムをコーナーに分かれ展示していた。放送と併行しIPネット向けにライブストリーミングとオンデマンド用素材を自動的に作成する"Media FUSE"、納入実績が高い"Kayak HD"を中心とするライブプロダクションシステム、MPEG/HDV/XDCAM対応フォーマットを強化し高速化した"EDIUS Pro"、HD NEWS 制作システム"Aurora Suite"、さらにデジタルシネマ用のFilm scanner"4K SPIRIT"など昨年以上に広範で多彩な出展物が実演を交えつつ公開されていた。              
クオンテルはトムソンの隣のブースで、従来のコンテンツ制作フローをアップグレードする"Quattro"を核にするシステムを展示、公開した。こちらのブースも例年通り大勢の見学者でいっぱいだった。Quattroとは従来の"eQ"(タイムライン編集、特殊効果、カラーコレクションを統合した制作ツール)、"iQ"(DI:Digital Intermediateの映画製作用ツール)、"Pablo Neo"(次世代カラーコレクション技術)それぞれをアップグレードしたシステムで、この春リリースした最新技術である。それらの中核となるサーバ"Gene Pool"を通して、SD、HDや4Kも含め複数の解像度を同時に並列処理することができ、プロジェクト間で素材のコピーは不要で、高度、高画質な制作が効率的に行える。また、放送分野で大きな実績を上げて来た編集制作システムNewsbox-HD版も出展されていた。       

 他にも多くのブースで様々な制作システムが公開されていた。オートデスクのビジュアルイフェクト"Flame"やカラーコレクター"Lustre"、アドビシステムの"Creative Suites Production Premium"などが注目を集めていた。例年なら大きなブースで他社を圧倒するようなプレゼンテーションをやっていたアビッドが、今年はNABに参加せず、別会場で新製品発表会をやっていたがちょっと寂しい感もあった。

 朋栄は昨年に続き高性能のスイッチャー"HANABI"シリーズを出したが、今年はバージョンアップした4M/E、3M/E、2M/Eの3モデルを出展した。入出力は3Gbps-SDI、1080/59.94p、50pに対応し、4M/Eは複数アクセスによる平行作業が可能で、大規模システムでの利用が期待できる。また正面ステージでは同社の主力製品であるバーチャルスタジオも公開していた。従来のブルーマットを黒バックに変え、"Brainstorm"社のソフトウエア"e Studio"を使い、「日本の美」をテーマに踊りの実写映像と浮世絵や水墨画などCG画像を合成する様子を見せてくれたが、日本の伝統芸能と最新技術のコラボレーションに大勢の見学者が魅入っていた。

 デジタル時代となった今、カメラ、レコーダ、制作から送出・配信まであらゆるプロセスにおいてデータ圧縮が使われている。符号化技術の開発、進歩、改善改良は急速で、多くの企業から様々な機器やシステムが出展されていた。それらの技術動向はあらゆる機器、プロセスに影響あるだけに、関係ブースはどこも大勢の見学者の関心、注目を呼んでいた。

 符号化技術分野で大きな実績を持つNTTエレクトロニクスは、今話題のAVC/H.264関連技術を中心に様々なシステムを展示していた。新製品のハイ4:2:2プロファイル対応のH.264 CODEC LSIを搭載したHD/SD用エンコーダ・デコーダは遅延量が小さく画質も高い。会場ではフルHDの50"モニターを多数並べ、オリジナル映像と素材伝送用の高ビットレート映像および配信用低レート映像を比較評価できるように見せていた。時代の要請に応え、IPTVやCATV、衛星向けHDTV映像配信に使うMPEG2からH.264へリアルタイムに高画質で変換できるトランスコーダも公開した。また制作向けシステムとして、VODなど高圧縮が必要なコンテンツ制作用にソフトウエアで柔軟にチューニング可能なエンコーダ、4Kと2Kの高精細映像を一緒にコーディングできるオフライン符号化技術なども展示した。
            
 KDDI研究所はNTTグループとはアプローチが違うが、符号化に関する様々の興味深い技術を出展した。次世代DVDが統一されたことで、今後業務が増えると思われるBDなどのオーサリングにも使えるH.264高画質・高速のエンコーダソフト"Quality Station"、PCベースで4Kデジタルシネマ映像をリアルタイムで超高圧縮するH.264エンコーダソフト、リアルタイムHDTVトランスコーダ、さらにちょっと変わったところで、HDTVコンテンツの知覚映像品質を独自アルゴリズムにより自動的に客観的に評価するソフトウエア、また違法動画像コンテンツを自動的に検出判定する技術、さらにMPEG-2,4用"Water Mark"(電子透かし)ソフトなど多彩な技術を公開していた。           

 K・WILL(旧KDDIメディアウイル)は、符号化、映像品質管理などの分野で実績があり、今回NAB7回目の出展だそうだ。同社のブースはオーディオやラジオ関係の展示が多いノースホールの一郭にあり、画像評価装置や映像・音声の品質や障害をリモートで自動監視する装置などを出展した。画像情報からデジタル特徴量を抽出し、映像フリーズ、音声ミュート、リップシンクなど障害や事故を検知し通報するシステムは、これまで分離していた機能を高度なGUIを搭載し1台に集約しポータブル化したそうだ。デジタル放送の品質評価や監視に有効で、米ネットワークで既に運用されていると聞いた。 

 その他、符号化やIPTV関連技術については、Omneonが高性能ファイル転送エンジンやトランスコーダを、IBMはコンテンツの制作から配信までのワークフローの提案を、TANDBERGが各種のIPソリューションの提案など多種多彩な出展があった。デジタル時代のトレンド技術だけにどのブースも高い注目を集めていた。

                               
映像技術ジャーナリスト 石田武久

写1:トムソン・グラスバレーの"Live Production System"
写2:クオンテルの新開発の"Quattro"システム
写3:朋栄のバーチャルスタジオシステムのプレゼンテーション
写4:NTTエレクトロニクスは多種多彩な符号化技術を公開
写5:KDDIも各種符号化技術を公開

#interbee2019

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