私が見たInter BEE 2008技術動向(その3、制作システム、映像モニター関連)

2008.12.25 UP

(その1、2)では例年以上に多彩だった併催行事のことや本格的普及が進んでいるテープレスカメラ動向などについて紹介した。本稿では、テープレス化が進む制作システム、映像システムにとってますます重要になっている映像モニターなどの動向を見てみよう。

 テープレスカメラの普及が進み、さらに多様な符号化技術が進歩し、ネットワーク化やIPTVが進展する状況に伴い、放送局やプロダクションの番組制作・送出システムも変わりつつある。今回、展示会場を回ってみて、取材から編集・制作系、さらには送出からアーカイブスまでをシームレスにリンクし、ファイルベースでのオペレーションワークフローを指向する機器、システムの展示が目立っていた。

 ソニーはXXDCAMシリーズを核に取材から伝送、編集、送出さらにアーカイブまでをファイルベースで一貫するトータルワークフローソリューション"SONAPS"を出展した。テープレスカムコーダで取材し、プロフェッショナルディスクXDCAMやSXSカードのパッケージメディア、あるいはネット経由でのMXFファイルにて制作系に素材を集め、ノンリニア編集系XPriで制作し、ファイルベースで送出・アーカイブス系とリンクするものだ。既に民放局への導入が進みつつある。
 東芝は昨年次世代放送局のワークフローを提案し、今回さらに拡充した"Workflow Innovation"を公開した。フラッシュメモリー搭載の"GF STATION"レコーダや"VIDEOS"サーバーを核に取材現場、回線センター、ニュースセンター、送出マスターからアーカイブまでをIP網、ネットワークでリンクするMXFワークフローシステムである。東芝と連携する池上通信機も"GF STATION"をベースにシームレスワークフローに沿うノンリニア編集系やファイルシステムに肝要なメディアアセット管理ソフト"GF Media Manager"などを展示した。
 NECは"New Generation Broadcast"を掲げ、様々な映像ソリューションを展示した。メインステージいっぱいにテーレス取材系、ノンリニア編集系、素材・送出サーバー、マスターからオンエアとトータルニュースシステムを展開していた。トムソンやパナソニックなど他社のプレイヤーとつなぎノンリニア編集"EDIUS"で編集する。核となるビデオサーバー"Armadia"は記録メディアにHDD、フラッシュメモリーを選択でき、RAID6構成の高信頼で、アーカイブ系ではVTRテープ素材を圧縮・ファイル化しLTO(テープメディア)にデータ保存することも可能となっている。

 朋栄は"Imagination to Creation"をテーマに、正面ステージでブルースクリーンをバックにお得意のバーチャルスタジオのデモンストレーションで来場者を集めていた。"Brainstorm"社のバーチャルシステム用ソフトウエア"VRCAM"を使い、カメラセンサーを使わずに人物像と背景、CGとの高品質の合成映像を見せてくれた。またブースの中では、HD/SDの混在入力、3Gbps-SDI、各M/Eの独立制御、3D DVE、動画ファイルサポートなどと高機能で2M/Eから4M/Eまでカバーするスイッチャーシリーズに加え、ファイルベースの制作環境に対応するメディアマネージメントやMXFファイルとHD/SD信号の相互変換コンバータ、ワークステーション、サーバーなどトレンディーなシステムを公開した。

 海外企業のブースのプレゼンテーションはいつもながら大型映像などを使い華やかだ。映像加工制作システム老舗のオートデスクは、高機能、高画質のビジュアルイフェクトマシン"Inferno"、"FLAME"、"Flint"、"Smoke"のニューバージョンのプレゼンテーションを行った。スペシャルゲストのハリウッドの"Sony Pictures"やオーストリアの"Digital Pictures"による映画制作への応用、国内ユーザーによるテレビドラマやCM、映画での映像表現や制作工程などを大画面を使いデモンストレーションし、多くの来場者を集めていた。クオンテルブースも大掛かりで華やかだったが、これについては次号の3D関連の項で紹介したい。
 トムソンは"Images & Beyond"を掲げ多種多彩な制作システムを展示した。世界で実績が高いライブプロダクション"Kayak HD"、ノンリニア編集ソフトウエア"EDIUS Pro 5"、複数のHD編集端末で素材を共用できるネットワーク編集系"EDIUS Workgroup Server"、撮って即出しできるライブイベント中継システム"K2 Dno"、デジタルニュースプロダクションシステム"Aurora"などが実演されていた。NAB2008に出ず気がかりだったアビッドだがInter BEEには参加した。メインステージの大画面スクリーンを使い、バージョンアップしたノンリニア編集制作系"Media Composer"、"DS"、"Symphony"やメディア共有サーバー"Unity"、アセットマネージメント"Interplay"などを使った制作フローの実演を見せてくれた。アドビも大きなメインステージで新製品の"Production Premium"など制作から送出までカバーするソリューションを公開していた。

 これまで見てきたように、取材・制作・送出系の高画質化に伴い、映像品質を管理、評価するモニターはますます重要になっている。これまで使われてきたCRTは既に製造中止になっており、それに代わる諧調再現性や色再現性に優れ、応答性の良い映像モニターが望まれており、今回もこの要望に応える様々なタイプのモニター、ディスプレイが各社から数多く出展されていた。

 CRTモニターで実績が高い池上通信機は広視野角、高コントラスト、高輝度、忠実な色再現、応答速度も優れている液晶モニターシリーズを並べた。ほとんどのモデルがフルHDからSDのマルチフォーマットに対応し、画面サイズは32"、17"、8.4"など多機種が並べられた。また最近注目されているFET社の19.2"型FED(Field Emission Display)をCRTと比較表示し、従来のマスターモニターに比べても遜色がないことを見せていた。ソニーは全ての映像モニターを液晶化し、マスターモニターBVMシリーズと高画質モニターLUMAシリーズを出展した。BVMは忠実な色再現、高解像度・高諧調性・ガンマ特性と高画質で、信頼性・安定性も高く、制作現場で使用実績を伸ばしている。サイズは23"と17"型で、1080p、2048/24p、720iのマルチフォーマットに対応する。またLUMAシリーズは制作現場から産業用など広い分野で使える液晶モニターで今回24"、17"、8.4"型を並べ、さらに参考出品ながらQFHD(画素数3840×2160)対応の56"サイズ液晶モニターも出展した。またカメラコーナーにはビューファインダー用として11"有機ELモニターも展示されていた。

 パナソニックは高輝度・コントラスト、広視野角・広色域パネルを搭載したフルHD(1920×1200)のLCDモニターを展示した。画面サイズは25.5"で、放送制作現場だけでなくデジタルシネマ、印刷、研究分野など広範囲に使える。カメラコーナーには可変速カメラ"P2HD VARICAM"の映像モニターとして可変周波数の42"型PDPも並んでいた。また特殊用途だが、エルグベンチャーズが出展した小型液晶モニターはフルHDで6.5"サイズ、画素ピッチ75μm、RGB LEDバックライト、360Hz駆動、広視野角でDCドライブといった特徴を有し、番組制作はもちろん医療・産業分野などで利用できそうだ。

【映像技術ジャーナリスト 石田武久】

◎写真1枚目
次世代放送"Workflow Innovation"の提案(東芝)

◎写真2枚目
評判のバーチャルスタジオ(FOR A)

◎写真3枚目
大画面シアターによるプレゼンテーション(オートデスク)

◎写真4枚目
多種多彩な高画質液晶モニター(ソニー)

◎写真5枚目
FEDとCRTの画質比較評価(池上通信機)

#interbee2019

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