【InterBEE 2010】映像新時代へ 〜ハイフレームレートなど、先の映像を睨んだ技術、製品が登場〜
2010.11.26 UP
ナックイメージテクノロジは高速度カメラ「ハイモーション」
計測技術研究所の最新型非圧縮記録再生機UDR-40S-DV
11月17日より19日まで幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されたInterBEE2010(主催=(社)電子情報技術産業協会(JEITA))は、直近の技術である3Dがおおいに注目されている。その蔭に隠れて目立たないが、より先の映像を睨んだ技術、製品も登場した。現行の放送にすぐに使うものではないが、次世代放送技術を探るのに有効なツールとなりそうだ。(映像新聞社 杉沼浩司)
■花咲く3D
NABやIBCといった海外の放送関係展示会では、意外に3D関連製品が少なかった。決して、業界が冷めているとか、時機を逸しているというわけではなく、単に出そろっていないのだ。それゆえ、撮像と表示に重きが置かれることになり、3D映像を構成する多くの要素技術に照明が当てられていなかった感がある。
InterBEEでは、大きく状況が異なり、3Dは上方、下方の両方向に展開し、また機材も各社から続々と提案が続いている。また、これまでに無かった領域への3D展開も見られている。たとえば、IMAGICAデジックスは、現行のカメラが混在する中で3D化を実現したバーチャルスタジオを提案していた。クレーンカメラに3Dが未導入の場合でも、2D3D変換で作り出した背景を置くことで奥行き感のある映像を作り出せる。すべての機材を3D化しなくても、3Dを届けることが出来る例と言える。
ソニーのブースには、2D3D変換を行うソフトウェアが出展されていた。ピントのずれ(ボケ)を用いて距離を判別し3D化を行っている。同社の民生用テレビ「ブラビア」に搭載された技術を高度化したもので、すでにFIFAワールドカップでの使用実績を持つという。このソフトウェアはマルチイメージプロセッサー「MPE-200」上で動作する。セルを使用したMPE-200用にソフトウェアをロードすることで新たな機能を与えている。ソフトによる機能更新の好例と言える。
このように、今年のInterBEEには巧みな処理で3Dを実現する方法がいくつも登場した。すべてのハードウェアを3D化しなくてもコンテンツが制作を可能とすることは意義深い。このような装置、ソフトの登場が見られたことは、今回のInterBEEの大きな成果と言える。
■帰ってきたFED
今年のInterBEEに、FED(電界放出ディスプレイ)が帰ってきた。エフ・イー・ティー・ジャパンのブースに展示されていた。
FEDは、ナノサイズの円錐から電子を放出し、蛍光体を光らせる方式である。CRTが1個(方式によっては3個)の電子銃から電子ビームを発射し管面の蛍光体を走査して発光させるのに対し、FEDは1画素内に1万個にも及ぶ多数のサブピクセルがある。多数の超小型CRTが並んだものとイメージしてよい。
FEDでは、蛍光体を使っているため、発光特性がCRTに近い。LCDでは、1フレームの間、画素は光り続けている。これが蓄積効果を生み動き部分にボケを生じさせる原因となっている。FEDでは、電子放出時に蛍光体は最大の輝度となり、その後明るさがさがってゆく。このため、蓄積効果はほとんど生じず、動画のボケは生じにくい。
また、FEDは走査が存在しないため、CRTのように電子ビームを振る作業が必要ない。電子ビームを振るには時間も必要であり、CRTで高い走査周波数を実現することは難しかった。
FEDを使えば、走査を気にすることなく60fpsを越える高いフレームレートを実現できる。過去に、FEDを用いて240fpsの動画表示がデモされたこともある。
今回出展したエフ・イー・ティー・ジャパンは、ソニーからカーブアウトしたエフ・イー・テクノロジーズが技術資産を台湾のAUO(友達光電)に売却した後、FEDの製造、マーケティングを支援するために設立された企業である。同社には、旧エフ・イー・テクノロジーズの社員が多く在籍している。同社は、2011年には放送・医療用モニターを製品化するとしている。来年のInterBEEで試作品が登場することを期待したい。
■120Hz対応UDR
計測技術研究所のブースには、4k×2k@120P(12ビット)出力を実現した最新型の非圧縮ビデオレコーダー/プレーヤー「UDR-40S-DV」が置かれていた。11月4日に発表されたばかりの新製品である。
4k×2kのDシネマ解像度で120fpsを必要とするアプリケーションは、高速度撮影を除けば、現段階では3Dだけであろう。Dシネマの世界では、3Dの場合は24fpsでは足りないとされており、フレームレートを高める動きが続いている。Dシネマで上映時に各眼毎に同一フレームを3回ずつ投射するが、これは同一フレームの投射であるので高フレームレート化とは解釈されない。フレームレートを高めるとは、データレートを高めることに他ならず、従来以上のデータ供給性能を持つサーバ、プレイヤーが必要とされる。今回の新型機は、このような要請に応えたものと言えよう。
新型UDRは、UDRの伝統に則り複数台の連携運転に対応している。連携運転時は、4k×2k@240Pも可能となる。このフレームレートは、ハイフレームレートとして提案されているものの一つであり、今後の研究、装置開発で多く使われると見込まれるレートである。
また、画素の深さ方向のビット数を8ビット程度に落とせば、より高いフレームレートを達成できるという。英BBCは、高フレームレート化の一案として300fpsを提示している。しかし、BBCの研究は多くがフィルムや高速度カメラを用いて行われており、主張の検証が難しい面があった。新しいUDRの導入で、どのフレームレートが良いか、実際に画像を見ながら検討するのが容易になる。
HD解像度の高フレームレート化は一部で研究がなされているが、4k×2kやスーパーハイビジョン解像度(8k×4k)での研究は緒についたばかりである。高速度撮影の記録再生といった現在の要求と、高フレームレート映像の研究という将来への要求の両方に応えられる画期的な記録再生装置が誕生した。
■立体視高速度撮影
ハイスピードカメラで知られるナックイメージテクノロジーは3D分野でも活発な活動を行っている。今回、同社のブースにはハイスピードカメラ「HiMotion」を用いた3D撮影装置が展示されていた。
今回の展示では、2台のHiMotionがリグに載せられていた。3D撮影は盛んに行われるようになっており、これがハイスピードに進むのは極めて自然な流れだろう。科学映画ではハイスピード撮影は多く用いられている。3Dの表現力を加えることで、より高い臨場感をもたらすことが期待できる。
ただし、3Dとハイスピードの視感上の関係はまだ実施例が少ないこともあって、制作上の経験が蓄積されていない。不快感の回避や安全性のためにも、業界での情報の共有と蓄積が必要となるだろう。
■ハイフレームレートへ
カメラ、記録再生機、そしてディスプレイのいずれも60fps以上を指向したものが揃ってきた。これまで、映像は60fpsと、半ば固定的に考えられてきた。しかし、最近の研究では、映像を見込む角度と視距離によって適切なフレームレートが違うのではないか、との疑問が出されている。SDTVでは約5度、HDTV(フルハイビジョン)では約30度、そしてスーパーハイビジョンでは約100度が想定されている。これに伴い、視距離も6H(Hは画面高)、3H、0.75Hと近づく設計となっている。このような環境変化により、これまで60ヘルツで固定と考えられていたフレームレートを見直す動きがある。しかし、これまでは研究用の機材すら研究者自ら開発する有様で、とても簡単に実験できる状態にはなかった。
今回のInterBEEに現れた高フレームレート対応の機材により、最適なフレームレートを求める研究は大きく進むと期待される。これは、更に、次の時代の映像がより快適なものになることに他ならない。
(写真説明)
写真1:FETJのFEDディスプレイは、240fps表示の実績がある。来冬には放送・業務用として製品化が予定されている。
写真2:ナックイメージテクノロジは高速度カメラ「ハイモーション」でエミー賞を受賞する。3Dリグに乗ったものが展示されていた。
写真3:計測技術研究所の最新型非圧縮記録再生機UDR-40S-DVは、4kx2k時で120fpsに対応する。パネルのカラフルなインジケータは社長の発案とか。
ナックイメージテクノロジは高速度カメラ「ハイモーション」
計測技術研究所の最新型非圧縮記録再生機UDR-40S-DV