スペシャル対談 映像編 木村太郎 VS 為ケ谷秀一 その3

2007.9.14 UP

その3
「Inter BEEの今後のありかたは?」の問いに、「国際世界に情報を発信する役割を担わねばならない」と答える為ケ谷氏。コンファレンスやフォーラムも情報発信につながるテーマで展開したいと言う。





【木村】
マイクロソフトが以前、ウェブTVを作った。アイデアは面白かったが、回線の速度が遅くて普及しなかった。ああいったものが将来の形としてあり得るとお考えですか。

【為ケ谷】
そうですね、すべてデジタル化するなかで、いろんなメディアがクロスオーバーする。ネットを含めてそれをどう使うかを、それぞれのメディアがオーバーラップしながら進んでいく。メディアの形もマルチアウトプットになっていき、ひとつのことだけを考えず、いろんなモノに展開することを意識し、コンテンツを作り、メディアの使い方を考えるのが大事。Inter BEEでは、このメディア分野全体にわたるシステムが様々に展示されるので、自分の専門分野にこだわらずいろいろ見ると、こんなことができるんだということがわかると思います。

【木村】
最終的にはストリーミングという形で、今までの電波として流れたモノと違うコンテンツが、大きな比率を占めるとお考えですか?

【為ケ谷】
その辺ははっきりまだ分かりませんが、ストリーミングかダウンロードかは、家庭のメモリーの使い方、著作権の問題などがクリアになっていくことで決まってくると思う。リアルタイムで必要なことはストリーミングで流れ、クオリティの高いものはダウンロードしてファイルしてコンピュータで再生する。それぞれのメディアの使い方だと思います、技術的には回線やネットワークのスピードがキーになりますね。

【木村】
今や1ギガを使ってストリーミングで流せますが、そういうものを消費者が求めているのかどうか。技術とニーズのアンバランスをどう埋めていくかがすごく大切。今はやりのYou Tubeですが、こんな映像で何がと思うのですが、それが何千万ビュアーもいる。

【為ケ谷】
技術的に言うとそれぞれのメディアのクオリティをどう使うかということですが、解像度の高い映像をネットで流そうとするとブツブツと途切れ途切れになってしまう事がある。しかし高品質の映像を流したいという発想があれば、そのための技術開発が進むと思います。今は、データ圧縮技術が進化しており、ハイビジョンレベルでもビットレイトの少ない状態で送れるようになっている。つまり、使い勝手は、ユーザーがどういう目的で必要とするかを考えながら、開発者と一緒になって考えることだと思います。

【木村】
北朝鮮の列車爆発事故があったとき 中朝国境に日本のテレビの取材陣がどっと集まり取材をしたのですが、映像を送る手段がなかった。そんな中で、一社だけガクガクの映像を送ってきた。それはまさしく、10フレームくらいエンコーディングして状態のよくない中国の回線を使ってインターネットを通じて送ってきた。これからは、こういうことが起こるだろうと思っていましたが、今ではカメラマンが現場でエンコーディングしながら送るということがずいぶんある。これからはカメラをかついだまま、携帯電話の電波を飛ばし、しゃべりながら中継放送もできるのではないか、放送する方も大変だなぁ(笑)という時代になってきました。

【為ケ谷】
まさにそれが、可能になっています。インターネットにつなぐインターフェースを装備したカメラがありますし、コンセントにつなぐような感じで放送が実現できる状況になっています。しかし、何をどう伝えるかがより重要で、画質はさることながら、番組の中身の話になってくるとは思います。

【木村】
スチールカメラのことを思い出すのですが、昔は新聞社はスピグラという大きなカメラを使っていて、朝鮮戦争のころにキャノンやニコンの民生品カメラをプロが使い出し、それはカメラマンという職業をも変えてしまったと思う。今ではデジタルカメラが出現し、さらには携帯カメラの登場。それで撮ったものがテレビに登場する時代。機器がプロ化から民生化に移ることにより、仕事の仕方も変わってきているように思います。

【為ケ谷】
誰でも写真やビデオが撮れるような時代になって普及してくると、そのカメラ自身の性能が高くなり、プロが使えるレベルになる。ある意味ではいい循環をしていると思いますが、それぞれの機器の性能を、目的に応じて最大限に使いこなせるようになっています。

【木村】
ハイエンド商品というのは、次から次へ高品位のモノを追求していかねばならない宿命ですが、これの未来は、どの辺に見えているのでしょうか。

【為ケ谷】
NHKが開発している、スパーハイビジョンという4000本超の解像度を持つ新しい映像技術がありますが、これをなぜ研究しているのかと言うと、そのために必要な要素技術、カメラの感度、高い解像度の素子、高機能な半導体回路技術開発など、研究者のモチベーションをエキサイティングに刺激しているからです。これが実現するとHDVハイビジョンカメラのようにコンシューマーが使うカメラの品質まで上がってくるという波及効果をもたらす。ターゲットがないと、まぁこの辺でいいじゃないとなってしまう。エンジニアや開発者にとっては高いターゲットが必要で、その技術が何のために必要かは、みんなで考えようじゃないかと。これが、ひとつの夢になっていますね。

【木村】
1125本のハイビジョンカメラが民生品として登場するとは考えられなかった。そして、4000本のカメラがもしかして民生品として登場するかもしれない(笑)。そのときは何をすればいいのでしょうか(笑)。あるいはテレビそのものが、今は外を見る窓のようなものですが、それだけ高品位のものが出ると、家庭内へバーチャルリアリティを作る道具になってくるかもしれませんね

【為ケ谷】
いい例としてテレビ会議がありますね。テレビ会議だからと言って小さなモニターを見るだけの会議は普及しなかった。アメリカでは、ハイビジョンのモニターで実物大で人間が表示できるようにしようとしています。そうするとコンファレンスのリアリティが増してくる。テレコンファレンスの形も高品質のメディアができることにより変わってくる。

【木村】
シネマスコープの元祖を調べたことがあるんですが、コダックの技術者がマルチの映写機を使って立体的に映像を投射する方法を考え、1931年のニューヨーク万博で使った。その次に何に使ったかというと戦争になる。その技術でバーチャルリアリティを作り、射撃手の訓練に使い、精度を格段に上げたというんです。戦争に使うという意味ではないんですが、新しい技術と言うのはエンターテイメントだけではなくほかの用途もあるのではないかという気もします。

【為ケ谷】
スペースシャトルにハイビジョンカメラを載せる計画に関与したのですが、これはある意味、技術屋のロマンチックな単純な発想で、宇宙に行ってハイビジョンで世界を見たいということだったのですが、持ち込んだカメラは普通の放送用HDカメラだった。民生品であったが、宇宙での使用に摘要できる、それほどに安全性も高く、信頼性も高いということです。そして、宇宙から見た映像は新しい発見をもたらすことがある。同じようにNASAの火星探査で観測した写真映像をHDTVに変換して、更にそれを立体で見るということをやっている。それを科学者が見て新しい発見につなげています。これまで見えてなかったものが見えてくる。これも解像度の高さが有効に使われている例です。一方では、医療分野でのハイビジョンの活用も行われている。スーパーHARPハイビジョン技術を使ってより高感度のカメラを開発し、レントゲン診断などへの応用などが行われている。感度や解像度をどう使うかは放送だけではなくて、産業界全体に関係するし、それが大切だと思います。

【木村】
さてInter BEEはいろんな可能性を持つ拠点になっていると思いますが、今後のあり方はどうなるでしょうか。

【為ケ谷】
国際放送器機展なので、国際世界に情報を発信していく役割があると思います。とくにアジアの人たちには、これからも積極的に情報提供を進めねばなりません。なぜなら、アメリカのNABでも他の国の放送関係エキシビションでも、日本のメーカーが展示の中心なのですね。しかし、日本から情報を発信することが、十分にできていないと思います。一方、Inter BEEに海外から人が集まってもらうためにも、展示会だけではなくコンファレンスやフォーラムもそういった情報発信につながるテーマでやっていきたい。海外からも大勢の人に来てもらうために、日本から情報を発信し、日本への理解を深めてもらう取り組みが、今こそが大事な時ではないかと思っています。(了)

#interbee2019

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