私が見た"NAB SHOW 2011"における技術動向(その4、制作系、伝送・配信系編)

2011.5.9 UP

メディアバックボーン(ソニー)
”Pablo”による3D制作実演(クオンテル)

”Pablo”による3D制作実演(クオンテル)

大画面による制作公演(オートデスク)

大画面による制作公演(オートデスク)

4K映像のリアルタイムコーデック(NTT AT)

4K映像のリアルタイムコーデック(NTT AT)

8K U-HDTV高圧縮符号化のデモ(KDDI)

8K U-HDTV高圧縮符号化のデモ(KDDI)

 ここまで3回にわたり、3Dやデジタルシネマと言った新たなメディアの展開、それらに応えるカメラやディスプレイなどの動向を見てきた。本号ではファイルベース化、ネットワーク化が進み、一層の高画質化と共に効率化も求められるようになっているコンテンツの制作系や配信系における技術動向や大きく変わりつつあるワークフローについて紹介して見たい。

 ソニーは、進展するファイルベース化に応えるトータル的ワークフローのソリューション「メディアバックボーン」を提案し、具体的な納入事例の実演を公開していた。その基本的コンセプトは、映像素材をシステム間でファイルとして共有することで制作作業を効率的にできるようにし、さらに経理や管理部門でも作業状況を把握できるようにすることにある。またHDTVから3D、4Kと多様化する映像メディアの展開に応える有効なツールとして、高画質の映像記録と高速のファイルベース運用を可能とするメモリーストレージシステム"SRMASTER"を出展した。記録メディアには携帯電話より一回り小さいが、転送速度が5Gbpsと高く、記録容量も256GB、512GBBと大きい"SRMemory"を搭載し、今年後半には発売するそうだ。それとは別に光ディスクを使うXDCAMシリーズの新しいラインナップとして、4層化とデュアルチャンネルヘッドで高速化と大容量化したディスクライブラリーシステムも展示していた。 
 NAB常連の朋栄は、今回も例年にも増してデジタル時代に相応しいクリエイティブな制作システムを出展した。映像、音声、静止画など各種メディアを統合管理するメディアマネジメントシステムでは、次世代記録メディアとして注目されるLTO(テープメディア)を搭載した大容量レコーダLTRを核にしたファイルベースの制作システムを展示した。毎年、人気スポットになるバーチャルスタジオでは、ステージは二つに分かれ、一方ではブルースクリーンをバックにしたセンサーレスで3次元対応のバーチャルスタジオシステム"VRCAM 2"の実演を、もう一方では高速度カメラ(700fps)2台をリグに装着した3Dカメラで撮ったスローモーションの3D映像を公開し、大勢の見学者を集め人気スポットになっていた。

 制作システム老舗で世界的に高い実績を持つクオンテルは、昨今のデジタルメディアの展開に対応する様々な制作システムやソフトウエアを出展した。興味ひかれたのはカラーグレーディングシステム"Pablo"に搭載した新たな3D制作機能"Geo Fix"で、LR 2CHの色ずれを自動調整し、幾何学的ずれやゆがみを修正し、左右の差や奥行き位置を測定し表示する機能が追加され、効率的に高品質な3Dコンテンツ制作ができるようになった。もうひとつの目玉は"Q Tube Global Workflow"で、地球上どこにあるサーバーの素材でもインターネット経由で扱えるシステムで、ラスベガスとニューヨークをネットでつなぎコラボレーションの実演をやっていた。
 一方コンテンツ制作系の雄であるオートデスクは、今年も大画面ディスプレイを使い、高度、高品質の映像・加工処理システムを機能アップした最新ソフトウエアによる実演公開をやっていた。大変細かく精密な映像加工制作が最新技術により、表現力高く、しかも効率的に短時間に行われる様子を見せていたが、広いメインブース内だけでなく、周囲から覗き込む見学者で溢れかえっていた。このプレゼンテーションの様子はインターネットでもライブ配信され、世界中でバーチャルNABをPC上で視ることができたようだがIT時代を実感させる試みである。

 今年、トムソン・カノープスから社名をグラスバレーに変え、サウスホールエントランス付近に広大なブースを設け、デジタル時代に相応しい多種多彩なシステムを実演を交え公開していた。ブース中央のステージでは見ているだけで楽しくなるような西部劇風のパフォーマンスが演じられ、その様子を周囲に設置された同社の各種カメラで撮影し、各コーナーの映像信号素材に使っていた。その中には、テープレスカメラ"infinity"2台を3alityのリグに装着した3Dカメラもあり、撮影した2CHの映像信号を3D対応のスイッチャーやサーバーを使い編集処理した3D映像を見せていた。また別コーナーでは、同社の主力機で今回機能アップしたノンリニア編集ソフト"EDIUS"や"DYNO"ポスプロアシストなどの実演公開もやっていた。
 アビッドは世界に広がっている同社のテープレス制作システムユーザーをサポートする各種ソリューションをデモしていた。メインステージでは、従来のポストプロダクションだけでなく、今や放送業界でも大きな関心事になっている3D制作に関して、Media Composer V5.5、Avid DS、Symphonyなどによる3D編集やフィニッシングなどを見せていた。

 ここまで見てきたように、コンテンツ制作系はファイルベース化により大きく変わりつつあるが、その鍵となるのが符号化技術、ネットワーク技術である。
 NTT ATは、デジタルシネマ作品の映画館への配信にも使える、4K映像をリアルタイムにJPEG 2000にエンコードし、IPネットワークで配信できるコーデック装置を展示した。またマルチプロセッサーで高速並行処理できる高画質H.264エンコード機能を提供するソフトウェアを公開していた。NTT ELは、昨年、ボクシングタイトルマッチをWOWOWが3Dで中継した時に使われたフルHD H.264の3D伝送システムを展示した。L/R 2CHの3D映像は新開発のエンコーダにより完全同期でエンコードしメガリンク経由で伝送され、受信側デコードされ3D映像として上映され、競技場に劣らぬ迫力だったそうだ。また新製品の高付加価値エンコーダを使い低ビットレートで高画質を実現する伝送実演もやっていた。3Mbpsの映像をオリジナルと並べて見せていたが、遅延も小さく原画に見劣りしない画質だった。さらに1台で4CHのプログラムを多重でき、回線容量が大きければ3台をカスケード接続し最大12CHまで多重化できるMPEG-2エンコーダも公開していた。

 KDDI研究所は、超高精細映像「U-HDTV(国内ではSHV:スーパーハイビジョン)」に関する展示を行っていた。SHVはNHKが2020年に試験放送を目標に研究開発を進めているもので、これまでもNABに出展されており2009年にはTechnology Innovation Awardを受賞し高い評価を受けている。サーバーに収録したSHV映像を、小型コンパクトなデコーダでリアルタイムにデコードし、2スタック構成の4K DILAプロジェクターにより大画面に上映していた。H.264の拡張符号化方式によりオリジナルの8K(7680×4320)映像を70Mbpsの超低ビットレートに圧縮、復元するもので、将来、衛星やネットで家庭向けに送ることも可能となる。また、ケーブルやIPTVで配信される大画面向けの映像コンテンツを、PCやモバイル端末でも見られる「3スクリーンサービス」に適したストリーミング技術や従来からの映像品質評価技術「MPファクトリー」も公開していた。
 従来から符号化技術、ネットワーク関連技術で高い実績を持つ富士通は、H.264、4:2:2、10bit、1080Pに対応する高性能コーデック装置をメインに出展し、同機を使ったエンコード/デコードの伝送実演、3D映像の伝送デモもやっていた。

 以上、4回にわたりNABにおける最近の技術動向を紹介してきた。11月には46回目を迎えるInter BEEが幕張メッセで開催される。その時までには国内の経済状況が好転していることを願い、今回NABで見られた多くの技術がさらに完成度を高め、さらに新たな技術が幕張で見られることを期待して本稿を閉めたい。。<right>映像技術ジャーナリスト 石田武久(学術博士)</right>

”Pablo”による3D制作実演(クオンテル)

”Pablo”による3D制作実演(クオンテル)

大画面による制作公演(オートデスク)

大画面による制作公演(オートデスク)

4K映像のリアルタイムコーデック(NTT AT)

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8K U-HDTV高圧縮符号化のデモ(KDDI)

8K U-HDTV高圧縮符号化のデモ(KDDI)

#interbee2019

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